29 / 62
第二章 転生するにしても、これは無いだろ!
第二十九話
しおりを挟む
「え、マジじゃん……青タンも擦過傷も切り傷も全部綺麗になってる」
「これ……ベルラッド兄上の魔法ですよね……? すごい……」
「エっ!? 俺!?」
「兄上、光魔法の使い手だったんですね……!」
「待って待って、知らん知らん。初めて知った」
「え? でも、生まれた時に分かるはずですよね」
「誰からも聞いてませんが……てか光に適性があるなら俺今頃教会に居なくちゃいけなくないか?」
「あっ、確かに……」
そう、生まれた時の洗礼で光属性の適性があるとわかった子は、7歳時点で一度教会に預けられ、10歳までは司教の下で特別な洗礼を受ける必要があるのだ。
10歳以降は当人の素質や意思によって、そのままエリート聖職者としての道に進むか、治癒術師として王立学園で勉強するか、どちらも選ばず市井に戻るか選ぶことになる。
光魔法の適性を持つ者は神の愛し子とされており、貴重なのである。しかし、当人の性格や性根によって簡単に失われやすいものでもあり、それが決定するのが10歳までの間になる。
ゆえに、教会で俗世間から隔離され、清らかな精神を培う必要があるとされているのだ。
「うーん……ごめん、なんか面倒なことになりそうだし、さっきのことは忘れてくれないかな……いやまあ俺が君に頼めた義理じゃないか……えー、どうしよ」
「はい、忘れません。でも、黙っておきます。兄上に怪我を直していただいたんですから、兄上がそう望まれるなら、僕は絶対に誰にも言いません」
「――あの、えっとね? きみ、もうちょっと根に持つとかさ、疑うとかした方がいいよ……? 俺は助かるけどさ……」
いやそんなキレーな顔で首を傾げられても困る……こんなに歪んだ環境に居て、ここまで真っ直ぐ純真に育つってことあるか?
これはまごうことなき主人公だわ……。光魔法が使えるなら圧倒的こっち感が否めない。どうしてこうなった。
ジルラッドは暫く思案顔で俯いていたが、なにか思い当たった様にハッと目を見開き、俺にひれ伏すように蹲った。待って待ってやめてそんなことしないで!!
「あの、ごめんなさいっ!! 僕のせいで、兄上のお持ち物が壊れてしまいました。なんとお詫びしたらいいか……」
「ああいや!! いいんだって、そんなこと! 君は何も悪くないんだし。むしろ痛い思いさせてごめん。あと、この際、これまでのこと全部謝る。本当にごめんなさい。許してほしいとは言わないけど、金輪際君には近づかないから……」
殺さないでください。どうかどうか俺が王国の隅っこでつつましく暮らすくらいは見逃してください。お願いしますジルラッド様……。
気付けば、王子二人向かい合って互いに土下座しあうとか言う意味わからん状況になった。
重い沈黙があたりを満たす。そりゃあ、そうだよな。こんなことで今までのこと水に流せって言う方が烏滸がましい。
今日ジルラッドが怪我したのも、元をただせば原因は俺だ。ベルラッド(覚醒前)が取り巻きを伴って寄ってたかってこの子を虐めたから、アイツらは調子に乗ってこの子をバルコニーから突き落とした。
「顔を上げてください、兄上」
ジルラッドの声は恐ろしいほどに静かだった。俺は恐る恐る顔を上げて、彼の顔を伺う。
なんというか、すごく理知的な顔だった。滅茶苦茶顔がいい。流石あのウルラッド父さんの息子。
「僕は、分かりません。どうして、王妃殿下も、兄上も、僕に沢山の嫌なことをしてくるのか。そして、今まであの人たちと一緒に僕を蹴ったり殴ったりしてきた兄上が、急に、人が変わった様に、僕を助けて、今までのことを謝ってくるのか。僕は、分からないことをそのままにしておくのは怖いです。だから、何も分からないまま、これから兄上とこんな風に話せなくなるのは嫌です。謝罪を受け取るのは、僕がもっと兄上をちゃんと知ってからにしたい」
「……ん? なんで? 普通嫌いな奴のことなんて知りたくなくない? 嫌いな奴のことだよ? 知りたくも無いし顔も見たくないんじゃないの?」
「怖い、とは思ってましたけど、嫌いと思ったことは無い……と、思います。今日で兄上のことはあまり怖くなくなったので、もっと兄上とお話ししたいし、出来れば、仲良くしたいです」
家族ですから。そう言って、ジルラッドはニコッと笑った。流石主人公としか言いようのない強靭すぎるメンタリティ。もはや強靭というより狂人じゃないか?
どうして今まで自分のことを虐めてきた相手に対して、そんなにも気安く出来るのだろうか。お人好しすぎないか?
それとも、これが生まれながらに強者と定められた者の余裕ってやつなのか? ちょっとパンピー選手権日本代表の俺からしちゃ理解できないぞ……。
「俺が、君のこと嫌ってるとは思わないのか? 少なくとも、今まで俺が君にしてきた仕打ちは、君のことがどうしようもなく嫌いだったから出来たことだと思うし……普通自分のこと嫌っているかもしれない相手のことって怖いし嫌いになるだろ」
「嫌いなら、何で、僕のこと何も言わず治療してくれたんですか?」
「それは……気まぐれかもしれないじゃん……」
「兄上は、僕のことが嫌いですか?」
待ってくれ。コレ何て返すのが正解?? 俺は君のことが嫌いだから近寄ってくんな? そんなド外道なことこんな幼気な7歳の少年に言えるか?
無理、俺はチキンなのでそんなこと言えない。だってこのままいけば将来的に俺を殺すかもしれない相手なんだぞ!?
「あ、え……えっっとぉ……べ、別に……?」
「じゃあ、大丈夫です!」
「なんで大丈夫だと思ったのか、おじさんに分かるように教えてもらっていいかい、坊や?」
「おじさん? 誰がですか?」
「アッイヤ……ナンデモナイデススンマセン……」
無理だーー!! この澄み切った瞳が俺の穢れた心を蹂躙する!! 何もかも俺が悪いし俺が間違ってました生きててすみません本当にすみません!! 帰ります!!
この後俺は「アッス、ア、ッス……スマセン……」が鳴き声の怪物になり果て、7歳の美少年にペコペコお辞儀をしながら退散する羽目になった。
背後から「また明日!!」なんて不穏な文言が聞こえた気がしたが、きっと気のせいだ。気のせいったら気のせいなんだ!!
「これ……ベルラッド兄上の魔法ですよね……? すごい……」
「エっ!? 俺!?」
「兄上、光魔法の使い手だったんですね……!」
「待って待って、知らん知らん。初めて知った」
「え? でも、生まれた時に分かるはずですよね」
「誰からも聞いてませんが……てか光に適性があるなら俺今頃教会に居なくちゃいけなくないか?」
「あっ、確かに……」
そう、生まれた時の洗礼で光属性の適性があるとわかった子は、7歳時点で一度教会に預けられ、10歳までは司教の下で特別な洗礼を受ける必要があるのだ。
10歳以降は当人の素質や意思によって、そのままエリート聖職者としての道に進むか、治癒術師として王立学園で勉強するか、どちらも選ばず市井に戻るか選ぶことになる。
光魔法の適性を持つ者は神の愛し子とされており、貴重なのである。しかし、当人の性格や性根によって簡単に失われやすいものでもあり、それが決定するのが10歳までの間になる。
ゆえに、教会で俗世間から隔離され、清らかな精神を培う必要があるとされているのだ。
「うーん……ごめん、なんか面倒なことになりそうだし、さっきのことは忘れてくれないかな……いやまあ俺が君に頼めた義理じゃないか……えー、どうしよ」
「はい、忘れません。でも、黙っておきます。兄上に怪我を直していただいたんですから、兄上がそう望まれるなら、僕は絶対に誰にも言いません」
「――あの、えっとね? きみ、もうちょっと根に持つとかさ、疑うとかした方がいいよ……? 俺は助かるけどさ……」
いやそんなキレーな顔で首を傾げられても困る……こんなに歪んだ環境に居て、ここまで真っ直ぐ純真に育つってことあるか?
これはまごうことなき主人公だわ……。光魔法が使えるなら圧倒的こっち感が否めない。どうしてこうなった。
ジルラッドは暫く思案顔で俯いていたが、なにか思い当たった様にハッと目を見開き、俺にひれ伏すように蹲った。待って待ってやめてそんなことしないで!!
「あの、ごめんなさいっ!! 僕のせいで、兄上のお持ち物が壊れてしまいました。なんとお詫びしたらいいか……」
「ああいや!! いいんだって、そんなこと! 君は何も悪くないんだし。むしろ痛い思いさせてごめん。あと、この際、これまでのこと全部謝る。本当にごめんなさい。許してほしいとは言わないけど、金輪際君には近づかないから……」
殺さないでください。どうかどうか俺が王国の隅っこでつつましく暮らすくらいは見逃してください。お願いしますジルラッド様……。
気付けば、王子二人向かい合って互いに土下座しあうとか言う意味わからん状況になった。
重い沈黙があたりを満たす。そりゃあ、そうだよな。こんなことで今までのこと水に流せって言う方が烏滸がましい。
今日ジルラッドが怪我したのも、元をただせば原因は俺だ。ベルラッド(覚醒前)が取り巻きを伴って寄ってたかってこの子を虐めたから、アイツらは調子に乗ってこの子をバルコニーから突き落とした。
「顔を上げてください、兄上」
ジルラッドの声は恐ろしいほどに静かだった。俺は恐る恐る顔を上げて、彼の顔を伺う。
なんというか、すごく理知的な顔だった。滅茶苦茶顔がいい。流石あのウルラッド父さんの息子。
「僕は、分かりません。どうして、王妃殿下も、兄上も、僕に沢山の嫌なことをしてくるのか。そして、今まであの人たちと一緒に僕を蹴ったり殴ったりしてきた兄上が、急に、人が変わった様に、僕を助けて、今までのことを謝ってくるのか。僕は、分からないことをそのままにしておくのは怖いです。だから、何も分からないまま、これから兄上とこんな風に話せなくなるのは嫌です。謝罪を受け取るのは、僕がもっと兄上をちゃんと知ってからにしたい」
「……ん? なんで? 普通嫌いな奴のことなんて知りたくなくない? 嫌いな奴のことだよ? 知りたくも無いし顔も見たくないんじゃないの?」
「怖い、とは思ってましたけど、嫌いと思ったことは無い……と、思います。今日で兄上のことはあまり怖くなくなったので、もっと兄上とお話ししたいし、出来れば、仲良くしたいです」
家族ですから。そう言って、ジルラッドはニコッと笑った。流石主人公としか言いようのない強靭すぎるメンタリティ。もはや強靭というより狂人じゃないか?
どうして今まで自分のことを虐めてきた相手に対して、そんなにも気安く出来るのだろうか。お人好しすぎないか?
それとも、これが生まれながらに強者と定められた者の余裕ってやつなのか? ちょっとパンピー選手権日本代表の俺からしちゃ理解できないぞ……。
「俺が、君のこと嫌ってるとは思わないのか? 少なくとも、今まで俺が君にしてきた仕打ちは、君のことがどうしようもなく嫌いだったから出来たことだと思うし……普通自分のこと嫌っているかもしれない相手のことって怖いし嫌いになるだろ」
「嫌いなら、何で、僕のこと何も言わず治療してくれたんですか?」
「それは……気まぐれかもしれないじゃん……」
「兄上は、僕のことが嫌いですか?」
待ってくれ。コレ何て返すのが正解?? 俺は君のことが嫌いだから近寄ってくんな? そんなド外道なことこんな幼気な7歳の少年に言えるか?
無理、俺はチキンなのでそんなこと言えない。だってこのままいけば将来的に俺を殺すかもしれない相手なんだぞ!?
「あ、え……えっっとぉ……べ、別に……?」
「じゃあ、大丈夫です!」
「なんで大丈夫だと思ったのか、おじさんに分かるように教えてもらっていいかい、坊や?」
「おじさん? 誰がですか?」
「アッイヤ……ナンデモナイデススンマセン……」
無理だーー!! この澄み切った瞳が俺の穢れた心を蹂躙する!! 何もかも俺が悪いし俺が間違ってました生きててすみません本当にすみません!! 帰ります!!
この後俺は「アッス、ア、ッス……スマセン……」が鳴き声の怪物になり果て、7歳の美少年にペコペコお辞儀をしながら退散する羽目になった。
背後から「また明日!!」なんて不穏な文言が聞こえた気がしたが、きっと気のせいだ。気のせいったら気のせいなんだ!!
175
お気に入りに追加
1,951
あなたにおすすめの小説
【本編完結】まさか、クズ恋人に捨てられた不憫主人公(後からヒーローに溺愛される)の小説に出てくる当て馬悪役王妃になってました。
花かつお
BL
気づけば男しかいない国の高位貴族に転生した僕は、成長すると、その国の王妃となり、この世界では人間の体に魔力が存在しており、その魔力により男でも子供が授かるのだが、僕と夫となる王とは物凄く魔力相性が良くなく中々、子供が出来ない。それでも諦めず努力したら、ついに妊娠したその時に何と!?まさか前世で読んだBl小説『シークレット・ガーデン~カッコウの庭~』の恋人に捨てられた儚げ不憫受け主人公を助けるヒーローが自分の夫であると気づいた。そして主人公の元クズ恋人の前で主人公が自分の子供を身ごもったと宣言してる所に遭遇。あの小説の通りなら、自分は当て馬悪役王妃として断罪されてしまう話だったと思い出した僕は、小説の話から逃げる為に地方貴族に下賜される事を望み王宮から脱出をするのだった。
婚約者の恋
うりぼう
BL
親が決めた婚約者に突然婚約を破棄したいと言われた。
そんな時、俺は「前世」の記憶を取り戻した!
婚約破棄?
どうぞどうぞ
それよりも魔法と剣の世界を楽しみたい!
……のになんで王子はしつこく追いかけてくるんですかね?
そんな主人公のお話。
※異世界転生
※エセファンタジー
※なんちゃって王室
※なんちゃって魔法
※婚約破棄
※婚約解消を解消
※みんなちょろい
※普通に日本食出てきます
※とんでも展開
※細かいツッコミはなしでお願いします
※勇者の料理番とほんの少しだけリンクしてます
【完結】薄幸文官志望は嘘をつく
七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。
忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。
学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。
しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー…
認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。
全17話
2/28 番外編を更新しました
帝国皇子のお婿さんになりました
クリム
BL
帝国の皇太子エリファス・ロータスとの婚姻を神殿で誓った瞬間、ハルシオン・アスターは自分の前世を思い出す。普通の日本人主婦だったことを。
そして『白い結婚』だったはずの婚姻後、皇太子の寝室に呼ばれることになり、ハルシオンはひた隠しにして来た事実に直面する。王族の姫が19歳まで独身を貫いたこと、その真実が暴かれると、出自の小王国は滅ぼされかねない。
「それなら皇太子殿下に一服盛りますかね、主様」
「そうだね、クーちゃん。ついでに血袋で寝台を汚してなんちゃって既成事実を」
「では、盛って服を乱して、血を……主様、これ……いや、まさかやる気ですか?」
「うん、クーちゃん」
「クーちゃんではありません、クー・チャンです。あ、主様、やめてください!」
これは隣国の帝国皇太子に嫁いだ小王国の『姫君』のお話。
魔法学園の悪役令息ー替え玉を務めさせていただきます
オカメ颯記
BL
田舎の王国出身のランドルフ・コンラートは、小さいころに自分を養子に出した実家に呼び戻される。行方不明になった兄弟の身代わりとなって、魔道学園に通ってほしいというのだ。
魔法なんて全く使えない抗議したものの、丸め込まれたランドルフはデリン大公家の公子ローレンスとして学園に復学することになる。無口でおとなしいという触れ込みの兄弟は、学園では悪役令息としてわがままにふるまっていた。顔も名前も知らない知人たちに囲まれて、因縁をつけられたり、王族を殴り倒したり。同室の相棒には偽物であることをすぐに看破されてしまうし、どうやって学園生活をおくればいいのか。混乱の中で、何の情報もないまま、王子たちの勢力争いに巻き込まれていく。
謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません
柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。
父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。
あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない?
前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。
そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。
「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」
今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。
「おはようミーシャ、今日も元気だね」
あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない?
義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け
9/2以降不定期更新
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる