転生するにしても、これは無いだろ! ~死ぬ間際に読んでいた小説の悪役に転生しましたが、自分を殺すはずの最強主人公が逃がしてくれません~

槿 資紀

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第一章 死ぬにしたって、これは無いだろ!

第十四話

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 ベルラッドのことについて、グルグルと考えながら、細かい仕上げに入る。

 夢に見たあの子には到底及ばない完成度だが、一先ず備忘録としては十分だろう出来までは持っていけそうだ。

「ベルラッド様が描かれた絵の殆どは、ジルラッド殿下がそれはもう後生大切に保管されていらっしゃいます。きっと、快く見せてくださるかと存じます」

「分かりました。ありがとうございます」

 ベルラッドがどんな絵を描く人だったのか、興味はあるからな。今度、お願いしてみよう。

「うーん、まあ、こんなもんかな……」

 正直、出来としては、アタリのところから全部やり直したい感じだけど、そうすると、夢で見たあの子と今度こそ何もかも違ったものになりそうだしキリがないから、やめておいた方がいいだろう。

 にしても、この身体、昏睡する前から絵を嗜んでいただけあって、まるで自分の手指みたいに鉛筆を動かせたなぁ。

 5年間昏睡してて、その分ブランクだってあるだろうに、不思議なこともあるもんだ。

 片目を閉じてバランスを確認、やっぱりここの輪郭はもうちょっとまろやかに云々、などとあれこれ考えていれば、視界の端に、何やらソワソワとこちらの動向を伺っているらしいオリヴィアさんが入り込む。

 胸のあたりから首元までジワリと広がる熱。よくよく慣れ親しんだ、面映ゆい照れくささだ。

「あ……見たい、ですか?」

「へっ……!!? あ、その、もし、よろしければ……」

 遠慮がちな表情をしつつも、期待の隠しきれていないキラキラとした瞳が見開かれる。

「忘れてしまう前に突貫で描いた夢日記みたいなものですから、人様に見せられるような出来じゃありませんけど……」

 愛着こそあれど、会心の出来とは程遠いので、あれこれと予防線を張りつつ、おずおずスケブを差し出す。

 ベルラッドの絵がどんなものか知らないけど、他人に「救われた」なんて思わせられるくらいの絵を描くんだから、きっと優れた絵描きなんだろう。

 そんな腕利きの絵に慣れ親しんでいるだろうオリヴィアさんも、ある程度目が肥えているんじゃなかろうか。

 昔を懐かしむような、慈しむような、穏やかな期待を乗せたオリヴィアさんの瞳。

 それが、俺のスケッチを見た瞬間、パチリと見開かれ、グラグラと不安定に揺れ始める。

「これ、は……」

 え、なになになに……!?!? そんな反応が返って来るなんて思いもしなかったが!?

「すみません、やっぱり、ご期待に添えない絵でしたかね……」

「いいえ、断じて、そのようなことはありません……! とても、素晴らしい……素人ですから、月並みなことしか言えませんが、今にも動き出しそうなほど、生き生きとしていて……ええ。感動、しているのです」

 いや、明らか、それだけじゃないみたいなニュアンスを感じますけど!? 

 感動と言うには目つきが剣呑すぎやしませんかね……!?

「ベルラッド様は、どちらで、この御方をご覧になったのですか?」

「え……あ、いや、夢で……俺も全然知らない子なんですけど、何故か昨日の夢に出てきて、それなのに、やけに鮮明だったというか、何となく、忘れちゃいけないって思って、絵に描き起こしたんです、けど……」

「さようでございますか……」

 嬉しそうな、それなのにどこか悲しそうで、こちらを心配するような微かなため息を漏らし、オリヴィアさんはふたたび、俺の描いたあの子の絵をジッと見つめる。

「オリヴィアさんには、その子が誰か、分かるんですか」

「……ええ」

「教えてもらうことって、できますか?」

 オリヴィアさんは沈痛そうに瞼を閉じ、フルフルと首を横に振った。そうだろうな、と思った。

「私からお伝えできることは、ひとつだけ。ベルラッド様がかつて描かれた絵を、ご覧になってくださいませ。自ずと、その御方がどなたであるかがお分かりになるでしょうから」

 朝食をご用意いたします、と一言、スケッチブックを丁重にこちらへ差し出し、一礼して、オリヴィアさんは部屋を辞していった。
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