上 下
11 / 62
第一章 死ぬにしたって、これは無いだろ!

第十一話

しおりを挟む
 駄目だ、完全にフリーズしてやがる。

 おかしいなぁ、もしかして俺転生した拍子に氷魔法でも修得しちゃった? 

 魔法科高校で優等生始めろっていう神様からのミッションですか? 事あるごとに「流石です、ジルラッド氏……!」とか言いつつ組み分け帽子被ってアズ〇バン収監RTAしろってことですかね。

「おーい、あのー、もしもーし……? ジルラッド、くん?」

 へんじがない。ただのしかばねのようだ。

 ……いや俺そんなおかしなこと言ってねえべや!! 

 記憶喪失者が自分の記憶取り戻したいって思うことの何がそんなに衝撃だったというんだ。

 何もラ⚪︎ュタ探すとかツチノコ探すとかそんな大それた話したわけじゃねぇだろ、まあ俺にとっちゃ同じようなもんだけども!!

「兄上、その、無理は、しなくても……」

「はい?」

「あ、いや、その……すみません、おかしなことを言っているのは自分でも分かっているのです……やはり、何でもありません。弟は兄上のことを応援しています」

「A〇ジャパン?」

「はい?」

「イヤアノナンデモナイッススマセン」

 危ない危ない、この場に逆ハー狙い夢女転生者ヒロインがいたら同じ転生者だとバレて殺されるところだったぜ……!

 と言うか、やっぱり、なんだ。ジルラッド氏、そんなに嬉しくなさそう。

 昏睡状態の兄のこと養ったり壁ドンしたりキスしたりするくらい好きなのに、記憶を取り戻して元の兄上に戻ってほしいとか思わないもんなのかな。

 より一層ベルラッドという存在が分からなくなってきた。ワンチャン、ラピュ⚪︎を探す旅より厳しそうだぞ、この自分探し。

「俺が記憶を取り戻すことによって、君に困ることがあるなら考え直すけど……」

「いえ!! 僕が困ることなど何もないのです。ですが……もし、もしですよ、兄上が現状に満足でいらっしゃるのなら、敢えて、昔のことを思い出す必要はないのでは、と」

 いやー、まあ、少なくとも現状には満足してないかな。寄生虫は嫌だ、寄生虫は嫌だ、寄生虫は嫌だ……! 

 このままじゃあ俺は自分が生き続けることを許容できなくなる。

「君は元の兄貴に戻ってほしいとか思わないの?」

「兄上がしたいようになさるなら、僕から言うことは何もありません。兄上が記憶を取り戻したいと仰るなら、勿論、僕にできることは何でもいたします」

 きっと、その言葉もジルラッド氏の本心なんだろう。でも、なんだかぎこちない。

 やっぱり、出来れば、記憶を取り戻してほしくないってことなんだろうか。

 ベルラッドに戻ってもらっては困るのか? 

 ジルラッド氏は、こんなにベルラッドのことが好きなのに。

 とにかく、ベルラッドという人物について分からないことが多すぎる。

 今の俺を取り巻く状況を鑑みるに、小説で描かれた悪役ベルラッド像は何も参考にならないらしいし。

 何せ、主人公には憎悪されるどころか、余りある好意を向けられてる。

 少なくとも、小説と同じような人物像ならば、恨まれこそすれ好かれることなんて絶対にありえない。

「じゃあさ、教えてほしい。こんなことになる前、君から見て、ベルラッドおれってどんなやつだった? ……一体何があって、こんなことになったんだ?」

 スゥ、と息を吸う音だけが返って来る。

 いろんな感情がせめぎ合った結果、一周回ってまっさらになっちゃった、みたいな顔色のジルラッド氏が、俺の目をジ、と見つめてくる。

 沢山の葛藤が渦巻いて、まるで迷子の少年みたいにあどけない瞳だ。

 その精悍な顔からその表情が出てくるのは反則だと思う。俺の内なるオカンが心象世界に大勢ログインして暴れまわってるんだが。

 ああ、俺の中にも“在った”んだな、母性。

 なんの話だよ。

「……ごめん、なんというか……無神経? だったかな。そもそも、今の今まで、それらしいこと一つも俺の耳に入ってないんだから、言いづらい事なんだよな。勢いで聞いちゃって申し訳ない」

 まあ、俺自身のことのはずなのに、俺には何も伝わってないってのも問題な気がするけど。

 一応、昏睡から目覚めたばかりの病み上がりってことで、変に刺激を与えない方が良いっていう配慮なのかもしれないしな。

 俺にとっちゃベルラッドの事情なんて他人事なんだし、ショックを受けるも何もないわけで、教えてもらった方が有難いんだけども。

「兄上が、そんなことをおっしゃる必要はないです。兄上に何も教えてこなかったのは、いわば僕のエゴですから、兄上が知りたいという気持ちを邪魔する理由にはなりません」

「じゃあ、君のエゴが邪魔をしない程度に当たり障りのない事だけでいいからさ」

「……はい。でも、くれぐれも、お願いします。昔の自分と今の自分を御比べになどなさらないでください。どちらが良いか、なんてこと、僕は思わない。考えたくもないのです。わがままを言って申し訳ありませんが、約束していただけませんか」

「君ってやつはさぁ、どこまで優しければ気が済むんだか……まあ、努力するよ」

 約束はできないけどね。

 でも、大丈夫だよ、ジルラッド氏。

 比べるまでもなく、俺が君の兄の身体に居座ってる今の状態は間違いだから、心配には及ばないんだぜ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

音楽の神と呼ばれた俺。なんか殺されて気づいたら転生してたんだけど⁉(完)

柿の妖精
BL
俺、牧原甲はもうすぐ二年生になる予定の大学一年生。牧原家は代々超音楽家系で、小さいころからずっと音楽をさせられ、今まで音楽の道を進んできた。そのおかげで楽器でも歌でも音楽に関することは何でもできるようになり、まわりからは、音楽の神と呼ばれていた。そんなある日、大学の友達からバンドのスケットを頼まれてライブハウスへとつながる階段を下りていたら後ろから背中を思いっきり押されて死んでしまった。そして気づいたら代々超芸術家系のメローディア公爵家のリトモに転生していた!?まぁ音楽が出来るなら別にいっか! そんな音楽の神リトモと呪いにかけられた第二王子クオレの恋のお話。 完全処女作です。温かく見守っていただけると嬉しいです。<(_ _)>

風紀委員長様は王道転校生がお嫌い

八(八月八)
BL
※11/12 10話後半を加筆しました。  11/21 登場人物まとめを追加しました。 【第7回BL小説大賞エントリー中】 山奥にある全寮制の名門男子校鶯実学園。 この学園では、各委員会の委員長副委員長と、生徒会執行部が『役付』と呼ばれる特権を持っていた。 東海林幹春は、そんな鶯実学園の風紀委員長。 風紀委員長の名に恥じぬ様、真面目実直に、髪は七三、黒縁メガネも掛けて職務に当たっていた。 しかしある日、突如として彼の生活を脅かす転入生が現われる。 ボサボサ頭に大きなメガネ、ブカブカの制服に身を包んだ転校生は、元はシングルマザーの田舎育ち。母の再婚により理事長の親戚となり、この学園に編入してきたものの、学園の特殊な環境に慣れず、あくまでも庶民感覚で突き進もうとする。 おまけにその転校生に、生徒会執行部の面々はメロメロに!? そんな転校生がとにかく気に入らない幹春。 何を隠そう、彼こそが、中学まで、転校生を凌ぐ超極貧ド田舎生活をしてきていたから! ※11/12に10話加筆しています。

やめて抱っこしないで!過保護なメンズに囲まれる!?〜異世界転生した俺は死にそうな最弱プリンスだけど最強冒険者〜

ゆきぶた
BL
異世界転生したからハーレムだ!と、思ったら男のハーレムが出来上がるBLです。主人公総受ですがエロなしのギャグ寄りです。 短編用に登場人物紹介を追加します。 ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎ あらすじ 前世を思い出した第5王子のイルレイン(通称イル)はある日、謎の呪いで倒れてしまう。 20歳までに死ぬと言われたイルは禁呪に手を出し、呪いを解く素材を集めるため、セイと名乗り冒険者になる。 そして気がつけば、最強の冒険者の一人になっていた。 普段は病弱ながらも執事(スライム)に甘やかされ、冒険者として仲間達に甘やかされ、たまに兄達にも甘やかされる。 そして思ったハーレムとは違うハーレムを作りつつも、最強冒険者なのにいつも抱っこされてしまうイルは、自分の呪いを解くことが出来るのか?? ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎ お相手は人外(人型スライム)、冒険者(鍛冶屋)、錬金術師、兄王子達など。なにより皆、過保護です。 前半はギャグ多め、後半は恋愛思考が始まりラストはシリアスになります。 文章能力が低いので読みにくかったらすみません。 ※一瞬でもhotランキング10位まで行けたのは皆様のおかげでございます。お気に入り1000嬉しいです。ありがとうございました! 本編は完結しましたが、暫く不定期ですがオマケを更新します!

【第1部完結】悪役令息ですが、家族のため精一杯生きているので邪魔しないでください~僕の執事は僕にだけイケすぎたオジイです~

ちくわぱん
BL
【11/28第1部完結・12/8幕間完結】(第2部開始は年明け後の予定です)ハルトライアは前世を思い出した。自分が物語の当て馬兼悪役で、王子と婚約するがのちに魔王になって結局王子と物語の主役に殺される未来を。死にたくないから婚約を回避しようと王子から逃げようとするが、なぜか好かれてしまう。とにかく悪役にならぬように魔法も武術も頑張って、自分のそばにいてくれる執事とメイドを守るんだ!と奮闘する日々。そんな毎日の中、困難は色々振ってくる。やはり当て馬として死ぬしかないのかと苦しみながらも少しずつ味方を増やし成長していくハルトライア。そして執事のカシルもまた、ハルトライアを守ろうと陰ながら行動する。そんな二人の努力と愛の記録。両片思い。じれじれ展開ですが、ハピエン。

嫌われ公式愛妾役ですが夫だけはただの僕のガチ勢でした

ナイトウ
BL
BL小説大賞にご協力ありがとうございました!! CP:不器用受ガチ勢伯爵夫攻め、女形役者受け 相手役は第11話から出てきます。  ロストリア帝国の首都セレンで女形の売れっ子役者をしていたルネは、皇帝エルドヴァルの為に公式愛妾を装い王宮に出仕し、王妃マリーズの代わりに貴族の反感を一手に受ける役割を引き受けた。  役目は無事終わり追放されたルネ。所属していた劇団に戻りまた役者業を再開しようとするも公式愛妾になるために偽装結婚したリリック伯爵に阻まれる。  そこで仕方なく、顔もろくに知らない夫と離婚し役者に戻るために彼の屋敷に向かうのだった。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

弟、異世界転移する。

ツキコ
BL
兄依存の弟が突然異世界転移して可愛がられるお話。たぶん。 のんびり進行なゆるBL

王道学園のモブ

四季織
BL
王道学園に転生した俺が出会ったのは、寡黙書記の先輩だった。 私立白鳳学園。山の上のこの学園は、政財界、文化界を担う子息達が通う超名門校で、特に、有名なのは生徒会だった。 そう、俺、小坂威(おさかたける)は王道学園BLゲームの世界に転生してしまったんだ。もちろんゲームに登場しない、名前も見た目も平凡なモブとして。

処理中です...