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第一章 死ぬにしたって、これは無いだろ!
第九話
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ジルラッド氏に連れ戻され、ベッドに寝かされた俺は、ジルラッド氏が去ったあとも、抱えきれないほどの虚脱感と罪悪感に冒され、まるで眠ることが出来なかった。
違う、俺のせいじゃない、俺が望んだことじゃない……そう思って、現実から逃げようと何度も目をつむったが、もう、自分の中でそれを正当化できないくらいには、ジルラッド氏に好感を抱きすぎていたのだ。
うわあ、どうしよう。やっぱり逃げたい。最低なのは分かってるが、こんなん無理だ。
だって、これじゃ、ただの寄生虫じゃないか。
ジルラッド氏のベルラッドへの好意にあやかって、いい生活をさせてもらって、ただ生きていてくれるだけで良い、なんて言われて。
俺は、俺が受け取るべきでないものにしがみ付いて生きている。うわ、最低……。
「でもなーーーーーー!! 俺軽率にももう逃げないとか約束しちゃってんのよな!! あーもう馬鹿!! 逃げたら逃げたで、約束したことをすぐに破ったとかいう不名誉を彼の大事な人におっ被せることになっちまうしな……どうしたらいいんだってばよ……」
ジルラッド氏を傷つけないように彼を欺き続けるのか、ジルラッド氏を傷つけてでも、筋を通すべきか。
どちらにしろ、俺の気分は最悪だ。
「NTR地雷です……こんな悪趣味なこと考えたの誰だよ……俺が苦しむ姿を見るのは楽しいか……したくも無いNTRをさせられるこっちの立場にもなってみろよ……」
やば、口に出したらより事の重大さがはっきりとのしかかってくる。悍ましい。
某ソシャゲでこちら側を全く攻撃してこないエネミーの正体を知ってしまった時みたいな気分だ。
結局、一睡もできないまま、最悪と最悪の天秤がシーソーみたいにあっちやこっち傾き続ける心を抱え、シクシクと悩み続けていたら、シュン、と部屋の扉が開く音が聞こえた。
俺はその瞬間、ベッドから飛び出して渾身のスライディング土下座をかましたのだった。
「ごめんなさいごめんなさい生きててごめんなさい何もかもごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」
「いやあああああああああああぁぁぁぁぁあぁあぁ!!!!!!!!!」
そう、俺の身の回りの世話部屋の清掃ベッドメイクその他もろもろすべてを一身に担うインテリ系ドジっ子メイドことオリヴィアさんの訪れである。
「べ、ベベベベベベルラッド様……!?!?!? ああああわあわわ、おやめください、何をなさっておいででいやがりますか!?!? 私如きに貴方ともあろうお方がそんなまるで敗戦国の捕虜みたいな真似をなさるなんて!!!! おやめください!!!!」
「花も恥じらう淑女を、あろうことか隙を突いて眠らせて脱走した忌まわしい大罪人である俺にいま最も相応しい姿勢です……本当にすみませんでした……」
「何を仰いますか!! こんなこと、もう慣れっこすぎていちいち取り合うようなことじゃございません!! オリヴィアめは寧ろ安心したのです!! 記憶を失われたとは言え、ベルラッド様はお変わりないのだな、と……!!」
「は?」
「あ」
ちょっとマテ茶。それはその、俺の考えることが正しければ、こんな優しくて懐が広くて、ちょっとばかし抜けたところがあるのか玉に瑕だけど、しごできウーマンのオリヴィアさんを、ベルラッドはよく魔術で眠らせてあんなことやこんなこと……?
最低じゃねーか!!!! (おまいう)(クソデカブーメラン)
「その……その節は、大変ご迷惑を……許してほしいとは言いませんので何卒命だけはご勘弁を……」
「え、いや、ちょっと待ってください。そりゃあ、ベルラッド様に眠らされるのなんて数えきれないくらい何度もありましたけど……あの時は、寧ろ有難かったと申しますか……」
「……あの、オリヴィアさん。俺が言うのもなんですが、もうちょっと危機感持ってください……いやあ……そりゃ、こんな危険人物、幽閉が妥当ですわ……なのに、たまたまそんなのがこんな身分に生まれてしまったばっかりに……本当すみません……」
「ええ……? もう、どこからどう訂正してよいやら……助けて……ジルラッド殿下助けてください……」
ジルラッド氏? ああ、処刑人ってことね。俺と言う存在自体の間違いを命でもって訂正するってわけね、はいはい。神妙に首を差し出せと。
俺は伸びた襟足を片手で寄せ集め、片側に押さえつけることで、項に天を仰がせた。
「せめて、一思いに殺ってくれると、ありがたい……」
「ジルラッド殿下――――!!!! ベルラッド様がご乱心ですぅ――――!!!!」
パニックになったらしいオリヴィアさんの悲痛な叫びが部屋に木霊し。
俺を地獄へといざなう沙汰人が、煌びやかしい美貌を携え、やってきたのであった。
違う、俺のせいじゃない、俺が望んだことじゃない……そう思って、現実から逃げようと何度も目をつむったが、もう、自分の中でそれを正当化できないくらいには、ジルラッド氏に好感を抱きすぎていたのだ。
うわあ、どうしよう。やっぱり逃げたい。最低なのは分かってるが、こんなん無理だ。
だって、これじゃ、ただの寄生虫じゃないか。
ジルラッド氏のベルラッドへの好意にあやかって、いい生活をさせてもらって、ただ生きていてくれるだけで良い、なんて言われて。
俺は、俺が受け取るべきでないものにしがみ付いて生きている。うわ、最低……。
「でもなーーーーーー!! 俺軽率にももう逃げないとか約束しちゃってんのよな!! あーもう馬鹿!! 逃げたら逃げたで、約束したことをすぐに破ったとかいう不名誉を彼の大事な人におっ被せることになっちまうしな……どうしたらいいんだってばよ……」
ジルラッド氏を傷つけないように彼を欺き続けるのか、ジルラッド氏を傷つけてでも、筋を通すべきか。
どちらにしろ、俺の気分は最悪だ。
「NTR地雷です……こんな悪趣味なこと考えたの誰だよ……俺が苦しむ姿を見るのは楽しいか……したくも無いNTRをさせられるこっちの立場にもなってみろよ……」
やば、口に出したらより事の重大さがはっきりとのしかかってくる。悍ましい。
某ソシャゲでこちら側を全く攻撃してこないエネミーの正体を知ってしまった時みたいな気分だ。
結局、一睡もできないまま、最悪と最悪の天秤がシーソーみたいにあっちやこっち傾き続ける心を抱え、シクシクと悩み続けていたら、シュン、と部屋の扉が開く音が聞こえた。
俺はその瞬間、ベッドから飛び出して渾身のスライディング土下座をかましたのだった。
「ごめんなさいごめんなさい生きててごめんなさい何もかもごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」
「いやあああああああああああぁぁぁぁぁあぁあぁ!!!!!!!!!」
そう、俺の身の回りの世話部屋の清掃ベッドメイクその他もろもろすべてを一身に担うインテリ系ドジっ子メイドことオリヴィアさんの訪れである。
「べ、ベベベベベベルラッド様……!?!?!? ああああわあわわ、おやめください、何をなさっておいででいやがりますか!?!? 私如きに貴方ともあろうお方がそんなまるで敗戦国の捕虜みたいな真似をなさるなんて!!!! おやめください!!!!」
「花も恥じらう淑女を、あろうことか隙を突いて眠らせて脱走した忌まわしい大罪人である俺にいま最も相応しい姿勢です……本当にすみませんでした……」
「何を仰いますか!! こんなこと、もう慣れっこすぎていちいち取り合うようなことじゃございません!! オリヴィアめは寧ろ安心したのです!! 記憶を失われたとは言え、ベルラッド様はお変わりないのだな、と……!!」
「は?」
「あ」
ちょっとマテ茶。それはその、俺の考えることが正しければ、こんな優しくて懐が広くて、ちょっとばかし抜けたところがあるのか玉に瑕だけど、しごできウーマンのオリヴィアさんを、ベルラッドはよく魔術で眠らせてあんなことやこんなこと……?
最低じゃねーか!!!! (おまいう)(クソデカブーメラン)
「その……その節は、大変ご迷惑を……許してほしいとは言いませんので何卒命だけはご勘弁を……」
「え、いや、ちょっと待ってください。そりゃあ、ベルラッド様に眠らされるのなんて数えきれないくらい何度もありましたけど……あの時は、寧ろ有難かったと申しますか……」
「……あの、オリヴィアさん。俺が言うのもなんですが、もうちょっと危機感持ってください……いやあ……そりゃ、こんな危険人物、幽閉が妥当ですわ……なのに、たまたまそんなのがこんな身分に生まれてしまったばっかりに……本当すみません……」
「ええ……? もう、どこからどう訂正してよいやら……助けて……ジルラッド殿下助けてください……」
ジルラッド氏? ああ、処刑人ってことね。俺と言う存在自体の間違いを命でもって訂正するってわけね、はいはい。神妙に首を差し出せと。
俺は伸びた襟足を片手で寄せ集め、片側に押さえつけることで、項に天を仰がせた。
「せめて、一思いに殺ってくれると、ありがたい……」
「ジルラッド殿下――――!!!! ベルラッド様がご乱心ですぅ――――!!!!」
パニックになったらしいオリヴィアさんの悲痛な叫びが部屋に木霊し。
俺を地獄へといざなう沙汰人が、煌びやかしい美貌を携え、やってきたのであった。
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