転生するにしても、これは無いだろ! ~死ぬ間際に読んでいた小説の悪役に転生しましたが、自分を殺すはずの最強主人公が逃がしてくれません~

槿 資紀

文字の大きさ
上 下
9 / 62
第一章 死ぬにしたって、これは無いだろ!

第九話

しおりを挟む
 ジルラッド氏に連れ戻され、ベッドに寝かされた俺は、ジルラッド氏が去ったあとも、抱えきれないほどの虚脱感と罪悪感に冒され、まるで眠ることが出来なかった。

 違う、俺のせいじゃない、俺が望んだことじゃない……そう思って、現実から逃げようと何度も目をつむったが、もう、自分の中でそれを正当化できないくらいには、ジルラッド氏に好感を抱きすぎていたのだ。

 うわあ、どうしよう。やっぱり逃げたい。最低なのは分かってるが、こんなん無理だ。

 だって、これじゃ、ただの寄生虫じゃないか。

 ジルラッド氏のベルラッドへの好意にあやかって、いい生活をさせてもらって、ただ生きていてくれるだけで良い、なんて言われて。

 俺は、俺が受け取るべきでないものにしがみ付いて生きている。うわ、最低……。

「でもなーーーーーー!! 俺軽率にももう逃げないとか約束しちゃってんのよな!! あーもう馬鹿!! 逃げたら逃げたで、約束したことをすぐに破ったとかいう不名誉を彼の大事な人ベルラッドにおっ被せることになっちまうしな……どうしたらいいんだってばよ……」

 ジルラッド氏を傷つけないように彼を欺き続けるのか、ジルラッド氏を傷つけてでも、筋を通すべきか。

 どちらにしろ、俺の気分は最悪だ。

「NTR地雷です……こんな悪趣味なこと考えたの誰だよ……俺が苦しむ姿を見るのは楽しいか……したくも無いNTRをさせられるこっちの立場にもなってみろよ……」

 やば、口に出したらより事の重大さがはっきりとのしかかってくる。悍ましい。

 某ソシャゲでこちら側を全く攻撃してこないエネミーの正体を知ってしまった時みたいな気分だ。

 結局、一睡もできないまま、最悪と最悪の天秤がシーソーみたいにあっちやこっち傾き続ける心を抱え、シクシクと悩み続けていたら、シュン、と部屋の扉が開く音が聞こえた。

 俺はその瞬間、ベッドから飛び出して渾身のスライディング土下座をかましたのだった。

「ごめんなさいごめんなさい生きててごめんなさい何もかもごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」

「いやあああああああああああぁぁぁぁぁあぁあぁ!!!!!!!!!」

 そう、俺の身の回りの世話部屋の清掃ベッドメイクその他もろもろすべてを一身に担うインテリ系ドジっ子メイドことオリヴィアさんの訪れである。

「べ、ベベベベベベルラッド様……!?!?!? ああああわあわわ、おやめください、何をなさっておいででいやがりますか!?!? 私如きに貴方ともあろうお方がそんなまるで敗戦国の捕虜みたいな真似をなさるなんて!!!! おやめください!!!!」

「花も恥じらう淑女を、あろうことか隙を突いて眠らせて脱走した忌まわしい大罪人である俺にいま最も相応しい姿勢です……本当にすみませんでした……」

「何を仰いますか!! こんなこと、もう慣れっこすぎていちいち取り合うようなことじゃございません!! オリヴィアめは寧ろ安心したのです!! 記憶を失われたとは言え、ベルラッド様はお変わりないのだな、と……!!」

「は?」

「あ」

 ちょっとマテ茶。それはその、俺の考えることが正しければ、こんな優しくて懐が広くて、ちょっとばかし抜けたところがあるのか玉に瑕だけど、しごできウーマンのオリヴィアさんを、ベルラッドはよく魔術で眠らせてあんなことやこんなこと……?

 最低じゃねーか!!!! (おまいう)(クソデカブーメラン)

「その……その節は、大変ご迷惑を……許してほしいとは言いませんので何卒命だけはご勘弁を……」

「え、いや、ちょっと待ってください。そりゃあ、ベルラッド様に眠らされるのなんて数えきれないくらい何度もありましたけど……あの時は、寧ろ有難かったと申しますか……」

「……あの、オリヴィアさん。俺が言うのもなんですが、もうちょっと危機感持ってください……いやあ……そりゃ、こんな危険人物、幽閉が妥当ですわ……なのに、たまたまそんなのがこんな身分に生まれてしまったばっかりに……本当すみません……」

「ええ……? もう、どこからどう訂正してよいやら……助けて……ジルラッド殿下助けてください……」

 ジルラッド氏? ああ、処刑人ってことね。俺と言う存在自体の間違いを命でもって訂正するってわけね、はいはい。神妙に首を差し出せと。

 俺は伸びた襟足を片手で寄せ集め、片側に押さえつけることで、項に天を仰がせた。

「せめて、一思いに殺ってくれると、ありがたい……」

「ジルラッド殿下――――!!!! ベルラッド様がご乱心ですぅ――――!!!!」

 パニックになったらしいオリヴィアさんの悲痛な叫びが部屋に木霊し。

 俺を地獄へといざなう沙汰人が、煌びやかしい美貌を携え、やってきたのであった。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?

下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。 そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。 アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。 公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。 アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。 一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。 これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。 小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

処理中です...