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第一章 死ぬにしたって、これは無いだろ!

第五話

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「あの、オリヴィアさん。俺がこの部屋から出たい時って、どうすればいいですか?」

 オリヴィアさんとは、件のインテリ系メイドさんの名前だ。

 俺が昏睡していた五年間、俺の身辺の世話を請け負ってくれていたらしい。

 俺の意識が戻った今も引き続き、食事や衣服の用意、清掃などを請け負ってくれている。

 自分で出来るからと言っても、仕事を取ってくれるなと一蹴されるので、最近は任せてばかりだ。申し訳ない。

 あの日、とにかく決定的な事件が起きる前に、この国から逃げようと決意した俺だったが、最初も最初、本来ならものすごく簡単なところで早速躓いてしまった。

 そう、この部屋から出られないのだ。

 オリヴィアさんやおじいちゃん先生のように、外からは入ってこれるし、入ってきた人間は外に出れる。

 しかし、俺が彼らと同様に外に出ようとしても、扉が見つからないのだ。

 ここは剣と魔法の世界だから、なにか魔法か魔力かゴンフーか知らんがいずれかを使わないと扉が現れないのだろうか、そう思って色々試してみても、どう頑張っても脱出の糸口が見つからず、今に至るというわけで。

「その、どうしてでしょうか? 何かここでの生活にご不満がございますか?」

 オリヴィアさんは何故か酷く狼狽えて、やや挙動不審気味に目を泳がせる。

 いつも俺が彼女を呼んだ時の「敬称いらん」「そんなわけには」な押し問答をする余裕もなさそうに。

 え、外に出るだけよ!? そりゃこのままじゃ死ぬっていう特大の不満があるけども。

 確かに、ここでの生活に不満はない。それどころか、快適すぎるし、俺には勿体ないほどの待遇を受けていると思う。

 だからといって、外に出られないのはちょっと……。意識が戻ってからそろそろ3日経つんだし、俺も朝晩のラジオ体操のお陰かピンシャンしてるから、いい加減部屋で安静っていうのも無理があると思うけどな。

「不満は、特に……でも、結構元気になってきたし、そろそろ外の空気を吸いたいな~って思いまして」

 これくらい思うのが普通だと思うけどな……まあ俺には外に出る方法が知りたいっていう別の目的があるわけだけどさ。それにしても……!

 そんな、そんな警戒することある!? なんか俺が外に出たいって言った途端に滅茶苦茶動きぎこちないし、なんか俺に向かって身構えながら、檻から脱走しようと試みる珍獣でも見るような目で見てくるし! 

 声も強張るどころの話じゃないよ、ロボットみたいだったよ!? 外に出たいだけだよ、俺!? (なお、外に出たいだけではないものとする)

「私の一存では何とも申し難い、と言いますか……その、大目玉を食らうので、お許しいただけないでしょうか……」

「え、どうしてですか? 部屋から出るだけですよ? やっぱり5年前の俺って部屋から出ちゃいけないようなことやらかしちゃったんですか!?」

「やっぱり……?? い、いえ! とにかく、私から上長の方に判断を仰ぎますので、しばしお待ちくださいませ。もし何か必要なものがあれば、直ぐに用意いたしますから……!」

 そう言って、オリヴィアさんは慌ただしく清掃道具をかき集めて部屋から退出していった。

 インテリ風な見た目と振る舞いに反して、ものすごい混乱ぶりだったな……。もしかしてだけど、部屋から出るのも一苦労?

 いくら我儘放題性悪クズ王子だったからって、いったい5年前の俺は何をしたらこんな幽閉じみた目に遭うんだよ……マジで謎。

 そう、謎と言えば。前にも言ったと思うけど、小説で描写されるベルラッドと、今の俺の外見、全然違うんだよな。

 小説のベルラッドは、無駄に美食家で、飽食放蕩趣味のメタボ体型だった。

 幼少期からそんな感じで、なおかつ運動嫌い、剣術などもっての外って感じで、筋金入りのぽっちゃり(控えめに形容)として描かれていた。

 剣術の才に優れたスタイリッシュな主人公の対比として、そう設定されていたのだろう。

 まあ、5年間も昏睡していて、その間はカロリーなんてまともに摂取できていなかったのだから、瘦せるのは当然だ。しかし、だからこそ。

 小説のベルラッドには、5年間も昏睡していた期間が無かった証左に他ならない。

 だって、いつも、いつの日も、ベルラッドが小説に出てくるたび、でっぷりと肥えている描写が欠かさず挟まれていた。

 この小説の作者は肥満体型にただならぬ恨みがあったのだろうか。

 まあ、どうせ俺はベルラッドの身分を捨てて、国からも出て、(運が良ければ)ただの村人何某になるわけだし、そこらへんを深く考えても仕方ない、か。
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