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第一章 死ぬにしたって、これは無いだろ!
第三話
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さっきのインテリ(仮)メイドさんは、白衣を着たおじいちゃんを連れてまた戻ってきた。ものすごくフットワークが軽い。さっき部屋を出て行ってから殆ど時間経ってないけど。
俺が床に座ったままだったからか、白衣のおじいちゃんは面食らったように目を見開いて、ベッドに腰掛けるよう促してきた。
日本人だから床に座るのに抵抗ないけど、確かにこの世界西洋っぽいし、尋常じゃない状況に見えたのかもしれない。
俺がベッドに腰掛けたのを見ると、おじいちゃんは俺と対面になるようにメイドさんが持って来た椅子に座って、フウと一息ついた。ご足労頂いて申し訳ない。普通に俺から出向いた方が良かったかもな。
「まずは、おはようございます。お目覚めになられて、ご気分はいかがですか?」
「いやぁ、もう、何が何だか……」
「フム……少し、シクルを診させていただきます」
シクルって何? 疑問符を浮かべてきょとんとする俺に構わず、おじいちゃん先生は俺の両手首をとって、それぞれ親指の腹で手首を抑えるようにキュッと握り、目を閉じた。
脈を測るみたいなもんかな、と思いつつ、ボケッとおじいちゃんの様子を眺めていると、不意にお風呂に入っている時のような安心感が全身を満たし始める。
滅茶苦茶血行が良くなっている感じがする。ナニコレ、魔法? このおじいちゃん、こんな温厚そうな顔をして気功を極めた仙人とかだったりする? スゲー体が軽くなっていくんだが。
「ええ、随分と長く臥せっていられましたが、その割には良好ですな」
「その、すみません……俺、目が覚めてから、自分の名前も、今自分が置かれている状況のことも、何も分からなくて……今までの記憶も、多分、全部無いと思うんです」
「ええ、そうでしょうとも。ご心配召されなくとも、大丈夫ですよ。ゆっくり療養してまいりましょう」
このおじいちゃん、脈(?)測るだけでそんなことまで分かんの!? 凄すぎ。やっぱり気功の達人説濃厚だな。
「俺の名前は、ベルラッド、ってことでいいんですか?」
「ええ、左様で。ベルラッド様でございます」
「俺は、どれくらい、その、寝てたんですか?」
「そうですね……しっかりとした意識をお持ちでお目覚めになるのは、5年ぶりほどでございます」
「5年!?」
「ええ。ですから、何も覚えておいででないというのも、お目覚めくださったことに比べれば、些事でございますな。呵々」
インテリメイドさんもウンウンと頷く。
そりゃあ、5年間も昏睡してて、意識を取り戻す見込みは殆ど無いだろう人間が突然起き上がってラジオ体操してたら卒倒したくもなるわ。なんかすみません本当に。
「俺は今いくつですか?」
「19になられて、4カ月ほど経つでしょうか」
「5年前、昏睡するまでの俺は何をしていたんですか?」
「3回生として、我が国の最高学府である王立学園にて、勉学に励んでおいででした」
「我が国……この国の名前は?」
「ガラリア王国にございます」
待って欲しい。ガラリア王国? 少なくともここが前世の世界ではないことが確定してしまったが、それ以上に……。
例のネット小説の舞台である国の名前と全く同じ名前なのだが……?
え、えー、待って。いや、まだそうと決まったわけじゃない。偶然が重なることもある。
ここが異世界で、電車にはねられて死んだ俺が前世の記憶を持ったまま別人として異世界に転生してしまったことはもう認めざるを得ないが。
「王国ってことは、王様がいるってことですよね……?」
「ええ、勿論です。当代は第26代となるウルラッド陛下が我が国を治めていらっしゃいます」
「ウルラッド……陛下……」
うん……これも、小説の登場人物にいた。いたし、ガラリア王国の王様って情報も一致してる……。嫌だ、信じたくねぇ……!
「あの、俺の家族って……」
「現在、貴方様は大変難しいお立場にいらっしゃいます。もう少し回復なさってから、お教えいたしましょう。ですが、ひとつだけお伝えできることがあるとすれば、弟君がおひとり」
「弟……その、名前を聞いてもいいですか?」
「ええ。……ジルラッド・アルケミニス・ガラリア様にございます」
嘘だと言ってくれ。
そう、ジルラッド。俺ことベルラッドの弟にして、俺が死ぬ直前に読んでいたネット小説「捨てられた第二王子の栄光」の、作中最強の主人公。それが、ジルラッドだ。
そして、肝心のベルラッドはと言うと。
幼少期から主人公を虐めまくった主人公の兄にして、作中最大の悪として描かれる毒婦の傀儡として国王になり、復讐に燃える主人公に首を刎ねられて死ぬ、どうしようもないクズ。
母親の傀儡として、生涯ロクに物を考えず放蕩に耽った挙句、主人公にあっけなく殺される、救いようのない悪役、それが、俺、ベルラッドだ。
電車にはねられて死んだのもまだ納得していない。その上、異世界に転生なんて、俺は望んでないのに、あろうことか。
転生するにしても、悪役は無いだろ……!
俺が床に座ったままだったからか、白衣のおじいちゃんは面食らったように目を見開いて、ベッドに腰掛けるよう促してきた。
日本人だから床に座るのに抵抗ないけど、確かにこの世界西洋っぽいし、尋常じゃない状況に見えたのかもしれない。
俺がベッドに腰掛けたのを見ると、おじいちゃんは俺と対面になるようにメイドさんが持って来た椅子に座って、フウと一息ついた。ご足労頂いて申し訳ない。普通に俺から出向いた方が良かったかもな。
「まずは、おはようございます。お目覚めになられて、ご気分はいかがですか?」
「いやぁ、もう、何が何だか……」
「フム……少し、シクルを診させていただきます」
シクルって何? 疑問符を浮かべてきょとんとする俺に構わず、おじいちゃん先生は俺の両手首をとって、それぞれ親指の腹で手首を抑えるようにキュッと握り、目を閉じた。
脈を測るみたいなもんかな、と思いつつ、ボケッとおじいちゃんの様子を眺めていると、不意にお風呂に入っている時のような安心感が全身を満たし始める。
滅茶苦茶血行が良くなっている感じがする。ナニコレ、魔法? このおじいちゃん、こんな温厚そうな顔をして気功を極めた仙人とかだったりする? スゲー体が軽くなっていくんだが。
「ええ、随分と長く臥せっていられましたが、その割には良好ですな」
「その、すみません……俺、目が覚めてから、自分の名前も、今自分が置かれている状況のことも、何も分からなくて……今までの記憶も、多分、全部無いと思うんです」
「ええ、そうでしょうとも。ご心配召されなくとも、大丈夫ですよ。ゆっくり療養してまいりましょう」
このおじいちゃん、脈(?)測るだけでそんなことまで分かんの!? 凄すぎ。やっぱり気功の達人説濃厚だな。
「俺の名前は、ベルラッド、ってことでいいんですか?」
「ええ、左様で。ベルラッド様でございます」
「俺は、どれくらい、その、寝てたんですか?」
「そうですね……しっかりとした意識をお持ちでお目覚めになるのは、5年ぶりほどでございます」
「5年!?」
「ええ。ですから、何も覚えておいででないというのも、お目覚めくださったことに比べれば、些事でございますな。呵々」
インテリメイドさんもウンウンと頷く。
そりゃあ、5年間も昏睡してて、意識を取り戻す見込みは殆ど無いだろう人間が突然起き上がってラジオ体操してたら卒倒したくもなるわ。なんかすみません本当に。
「俺は今いくつですか?」
「19になられて、4カ月ほど経つでしょうか」
「5年前、昏睡するまでの俺は何をしていたんですか?」
「3回生として、我が国の最高学府である王立学園にて、勉学に励んでおいででした」
「我が国……この国の名前は?」
「ガラリア王国にございます」
待って欲しい。ガラリア王国? 少なくともここが前世の世界ではないことが確定してしまったが、それ以上に……。
例のネット小説の舞台である国の名前と全く同じ名前なのだが……?
え、えー、待って。いや、まだそうと決まったわけじゃない。偶然が重なることもある。
ここが異世界で、電車にはねられて死んだ俺が前世の記憶を持ったまま別人として異世界に転生してしまったことはもう認めざるを得ないが。
「王国ってことは、王様がいるってことですよね……?」
「ええ、勿論です。当代は第26代となるウルラッド陛下が我が国を治めていらっしゃいます」
「ウルラッド……陛下……」
うん……これも、小説の登場人物にいた。いたし、ガラリア王国の王様って情報も一致してる……。嫌だ、信じたくねぇ……!
「あの、俺の家族って……」
「現在、貴方様は大変難しいお立場にいらっしゃいます。もう少し回復なさってから、お教えいたしましょう。ですが、ひとつだけお伝えできることがあるとすれば、弟君がおひとり」
「弟……その、名前を聞いてもいいですか?」
「ええ。……ジルラッド・アルケミニス・ガラリア様にございます」
嘘だと言ってくれ。
そう、ジルラッド。俺ことベルラッドの弟にして、俺が死ぬ直前に読んでいたネット小説「捨てられた第二王子の栄光」の、作中最強の主人公。それが、ジルラッドだ。
そして、肝心のベルラッドはと言うと。
幼少期から主人公を虐めまくった主人公の兄にして、作中最大の悪として描かれる毒婦の傀儡として国王になり、復讐に燃える主人公に首を刎ねられて死ぬ、どうしようもないクズ。
母親の傀儡として、生涯ロクに物を考えず放蕩に耽った挙句、主人公にあっけなく殺される、救いようのない悪役、それが、俺、ベルラッドだ。
電車にはねられて死んだのもまだ納得していない。その上、異世界に転生なんて、俺は望んでないのに、あろうことか。
転生するにしても、悪役は無いだろ……!
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