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347 皆でお揃い・再

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「まぁまぁまぁ~……! 皆さん、とても可愛らしいわ……!」
「ありがとう、ございます!」
「ありぁと、ごじゃぃましゅ!」
「あ~ぃ!」

 緊張の挨拶を終えホッと一息……、とはいかず……。
 僕たちは何故か今、謁見の間を移動し、レイチェル妃殿下とバージル陛下に至近距離で見つめられている真っ最中だ……。
 それもその筈。ライアンくんも加わり、以前アイラさんが作ってくれた耳付きのポンチョを着て、皆で絶賛お披露目中なのだから。
 それにこの部屋には陛下たちと僕たちのみ。言葉遣いも気にしなくていいと言ってくれたけど……。

「ほ~! そんな服があるのか! 面白いな!」
「皆さんお似合いですよ」
「垂れた耳も可愛いものだな!」
「そうなのよ~! メフィストちゃん、良かったわね~!」
「きゃ~ぃ!」

 メフィストはふわふわの黒い生地に垂れた兎の耳をデザインしたフード付きのロンパース。丸い尻尾部分は寝るときに邪魔だろうと、アイラさんが泣く泣く断念したと聞いている。

「ぼくのは、くまさんです!」

 ハルトはふわふわの薄茶色の生地に、フード部分に熊の耳が付いたポンチョ。とっても、つよいです! と陛下たちに説明している。

「ゆぅくんはねぇ、くろねこしゃん!」

 ユウマはふわふわの黒い生地に黒い猫耳が付いている。いいでちょ! とお尻をフリフリしながら嬉しそうに見せていた。

「わたしのは、しろい、ねこびとのみみです!」

 レティちゃんはふわふわの白い生地に白い猫耳。銀色の髪と赤い瞳にとっても合っている。

 繁々と観察され、僕は委縮しっぱなし。だけどハルトたちは気にせず、おそろいです! と嬉しそう。
 それに気心知れた仲間内(?)とあってか、バージル陛下も言葉がくだけている気がする。……いや、それはいつも通りかな?
 それに僕たちの着ている服に興味津々で、ハルトとユウマのフード部分を見せてもらい良く出来ているなと感心していた。
 イーサンさんも普段見せている顔よりも目尻が下がっているし、アーノルドさんもメフィストを抱えさせてもらい楽しそうだ。髭を掴まれても怒りもせずニコニコしている。

「ライアンも私たちに黙っていたなんて……」
「そうだぞ! こんな楽しい事を!」
「皆でお披露目しようと思って、内緒にしていたのです! 私の耳はフレッドとお揃いなんですよ!」

 ね! と言いながらフレッドさんに語り掛けるライアンくん。
 ふわふわのミルクティベージュの生地に、フードにはフレッドさんと同じ狐の耳。フレッドさんも自慢のミルクティベージュの耳と尻尾を出して満足そうに頷いている。隣にいるサイラスさんはそれを見てバレない様に笑いを堪えているみたいだけど。
 ゆらゆらと揺れるふわふわの尻尾に、アーノルドさんに抱っこされているメフィストの視線は釘付けだ。

「とっても可愛らしいわ……! ユイトさんのコートは猫人族の耳なのですね?」
「……ぁ、はい!」

 急にレイチェル妃殿下に話し掛けられ、グッと一瞬詰まってしまう。きらきらと眩しい金色の髪に青い瞳。テレビで見た海外の女優さんみたいで、至近距離で見るには眩しいくらい……。
 ライアンくんに似て、とても優しそうな雰囲気だ。もう少しで成人なのに、この人の前で猫耳フードを被っているのが恥ずかしくなってしまう。

「ゆぅくんとにぃに、おしょろぃなの! いぃでちょ!」
「ゆ、ユウマ……!」
「ふふ、本当ですね!」

 レイチェル妃殿下の前で僕とお揃いの黒猫の耳を見せながら可愛らしくポーズを決めるユウマに、オリビアさんもトーマスさんも注意するどころか破顔している……。
 焦っているのは僕とユランくんだけみたいだ。

「れいちぇるひでんかも、にあうと、おもいます!」
「じぇったぃ、かわいぃの!」
「まぁ! 本当ですか? 皆さんとっても可愛らしくて、私も着てみたくなりました」

 ハルトとユウマの言葉に嬉しそうに微笑む妃殿下。二人に話を合わせてくれているんだと思うと頭が上がらない……。一気に変な汗をかいてしまう。

「母上もですか? ならばお揃いがいいです!」
「レイチェルも……? うむ、それはいいな……」
「あ、あら……? 二人とも? 冗談ですよ……?」

 ライアンくんとバージル陛下はレイチェル妃殿下の言葉に反応し、イーサンさんと一緒に何かを考えている様子。だけど言った本人はまさか陛下と殿下が本気になるとは思わず、少し焦っている様だ。

「トーマス、オリビア、この服を作った者は知人か?」
「あぁ、陛下も何度か会った事があるだろう。隣に住んでいるカーターの奥方だよ」
「あぁ~! あの気の良い青年の! 成程……」
「レティちゃんの服もほとんどアイラちゃんが作った物なのよ」
「どれも、とってもかわいいんです!」

 レティちゃんがこれも! とスカートの裾を持ち上げ、見やすい様に広げている。瞳と同じ赤色の長袖ワンピースに、首元にはレースの付いた白い丸襟。腰には黒いリボンが結んである。バージル陛下もイーサンさんもその細部のきめ細やかな刺繍に感心していた。

「よし! イーサン、早速依頼してレイチェルの分も見繕ってもらおう! ポンチョもいいが、ユイトくんが着ているコートの方が合いそうだな」
「まぁ! 陛下ったら……!」
「では至急、商業ギルドに指名依頼書を手配致します」
「イーサンまで……!」

 トントン拍子に進んで行くレイチェル妃殿下の耳付きコート。オロオロと狼狽えているのは妃殿下だけだ。

「……どうせなら、家族で揃いというのもいいな!」
「ならば陛下と殿下たちの分も合わせて依頼という事で手配しておきましょう」
「あぁ、頼む!」

 楽しみだ! と言いながらガハハと笑うバージル陛下。もし国王一家全員分の指名依頼が来たと分かったら、アイラさん驚いて倒れちゃうんじゃないかな……。
 僕は今頃村で店番をしているであろうアイラさんに、心の中でエールを送った。





*****

「ユイトさん、来て早々疲れたのではないですか?」
「ハハ……。いや、そんな事は……」

 イーサンさんに案内され、僕は一人王宮の調理場へと案内される。
 二人きりで話すのは初めてで少し緊張してしまう。
 トーマスさんとバージル陛下、アーノルドさんは別室へと移動し、少し話す事があるみたい。何故かユランくんも連れて行かれたけど……。
 オリビアさんとレティちゃん、メフィストは魔族のヴィルヘルムさんたちが待つ部屋へと向かい、今後の事を話し合うって。あの三人が来てくれたらレティちゃんも喜ぶんだけどな……、なんて。そんな事を思ってしまう。
 そしてハルトとユウマは、ライアンくんと一緒に騎士団が使う訓練場へと楽しそうに向かって行った。はしゃぎすぎて迷惑を掛けないか心配だったけど、フレッドさんとサイラスさんも傍にいるし大丈夫だろう。

「ユイトさん、今回はありがとうございます」
「え?」

 すると突然立ち止まり、真剣な表情で僕に礼を言うイーサンさんの姿に面食らってしまう。

「フフ、分からないという顔をしていますね?」
「……あ、いや……」
「陛下たちの危険を回避出来たのは、間違いなくユイトさんとハルトくん、ユウマくんのおかげです」

 そう言って、再度礼を言いながら深々と頭を下げるイーサンさんに僕は慌てて頭を上げてくださいと狼狽えてしまった。幸い周囲に人の気配はない。
 どうしても個人的に伝えておきたかったのです、と笑顔を浮かべるイーサンさんに、僕は何となくバージル陛下が羨ましいなと思ってしまった。

「……あ! 僕もイーサンさんにお礼を言いたくて!」
「私にですか?」
「はい! 今僕たちが住んでる家、すっごく豪華で……。お風呂も広くて気持ち良かったです! コールソンさんも使用人の皆さんもいい人だし! あ、だけど……、庭が……」
「庭がどうかしたのですか?」
「……オリビアさんとレティちゃんが魔法の練習に使って、土人形ゴーレムを……」
「ゴーレムですか……! ハハ! 私も是非拝見したいですね!」

 怒られるかと思ったけど、コールソンが気に入っていたでしょうと笑っている。どうやらコールソンさんの好きな物は把握済みらしい。
 こうしてイーサンさん一人と話をするのは初めてだけど、一人の時の方が話しやすいかも知れない……。
 そうやって調理場への道すがら、二人で他愛もない話をした。



「ユイトさん、こちらです」
「は、はい!」

 イーサンさんに案内され到着した調理場の前。
 今からここでプロの料理人さんたちに料理を教えると思うと変な汗が……。

「そんなに緊張しなくても大丈夫です」
「う……、はい……!」
「皆、バージル陛下が選んだ者達ですから」

 変わり者が多いんですよ、と笑いながら僕の背中を押し、そっと扉を開けるイーサンさん。

 そして開かれた扉の前には、ズラリと調理場に並ぶ白いコックコートを着た料理人さんたちの姿が。丁度昼食の仕込みをしているのかもしれない。その人たちの前には、皮を剥いた野菜がこんもりと盛られていた。
 皆さん体躯が良くて、圧迫感がスゴイ……。
 すると、一人の調理人さんがこちらに気付いた。

「オイ、お前等ッ! 全員集合ッ!」

「「「ハイッ!」」」

 そしてあっという間にイーサンさんと僕の前に集まる料理人さんたち。ざっと見るだけで十数人はいる……。皆、僕を見る目が真剣だ。その気迫に、思わず後退りしてしまう。
 すると、僕の背中を支えてくれるイーサンさんの手が。小さな声で、大丈夫ですと僕だけに聞こえる様に声を掛けてくれる。

「こちらの方が今回我々にレシピをご教授してくださるユイトさんです。以前も話しましたが、陛下直々に依頼を出しています。皆、くれぐれも粗相のない様に」

「あ、今回皆さんにレシピを教える事になりました、ユイトです。よろしくお願いします……!」

「「「ハイッ! よろしくお願いしますッ!」」」

 そうギラギラとした目で僕を見つめる調理人さんたちに、僕は圧倒されるしかなかった……。

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