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322 王都でデート ~展望台からの眺め~

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 ギルバートさんのお店を後にし、僕たちは歩いてすぐという馬車乗り場まで移動中だ。すると、その途中でアレクさんが急に立ち止まった。

「どうしたんですか?」

 周りを見渡しても、あるのは住居のみで特に変わったものはない。もしかしたらギルバートさんのお店みたいに隠れ家的なお店があるのかも?
 そう思いながら僕が顔を上げると、アレクさんは笑いながら両腕を広げた。

「……ここ。オレがトーマスさんに、おじさんみたいになるって宣言した場所!」
「あ! 例の!?」

 以前にアレクさんが話してくれた、冒険者になると決意した場所。
 まさかこんな住宅地だったとは……。

「そうそう! さっき思い出してさ。どうせならと思って。ちょっと恥ずかしいけど」

 そう言いながら、アレクさんは照れ臭そうに教えてくれる。

「……じゃあここも、アレクさんの大事な場所ですね」
「周りは家ばっかだけどな」

 もうちょっと洒落た場所が良かったな、と笑っているけど、僕は何だか胸がいっぱいになる。ここが、幼いアレクさんが冒険者になると決意した場所。
 誰にも言っていない、アレクさんが教えてくれた大事な思い出。

「……僕、ここに来れて嬉しいです……」

 本当に、心からそう思う。
 アレクさんが冒険者を目指していなかったら、こうして会う事もなかったかもしれない。

「……いつかさ」

 そう呟き、アレクさんが僕の右手をそっと握る。

「ユイトの故郷の事も、教えてくれる?」

 そう言って、僕の返事を待たずにアレクさんは馬車乗り場へと歩みを進めた。
 話したくなったらでいいからさ、と言う優しい声と手の温もりを感じながら、僕はハイ、と小さな声で呟いた。





*****

 僕たちはまた、乗合馬車に揺られて王都の中を移動中。街は歩道も整備されていて、揺れも少なく快適だ。
 目を閉じると、頬を掠める風が少しひんやりとしていて気持ちいい……。アイラさんが作ってくれたこのコートを着て丁度いいかも知れない。

 ……何だか、徐々に城壁に近くなってる気がするんだけど……?

「この辺りは人が多いですね?」

 僕たちが馬車から降りたのは、王都の南門のすぐ近く。昼はとっくに過ぎているが、それでも人の出入りが活発だ。

「もう少し先に南地区の大通りがあるからな。リーダーに連れられてよく行くけど、この辺は酒屋もいっぱいあるし夜も結構賑わってるぞ」
「へぇ~! お酒に合う料理もいっぱいありそうですね!」

 村に帰ったらオリビアさんと一緒に夜の営業をどうするか話し合おうかなと考えてる。その為には僕もお酒に合うメニューを考えなければ……!
 あの人達が一緒に来てくれるなら、もう少し違う料理も作れそうだし。今からどれに挑戦しようかワクワクしてしまう。

「ユイトが成人したら一緒に行こうな」
「ホントですか? 約束ですよ!」
「あぁ、約束な。でも遅くまではダメだからな」
「えぇ~? どうしてですか?」
「……オレがトーマスさんに怒られるから」

 それを聞いて、確かに……、と僕も相槌を打つ。

「オリビアさんはあら、いいわよ~なんて、笑って許してくれそうですけどね?」
「それは言えてる!」

 アレクさんと目を合わせ、ついつい笑ってしまう。
 渋るトーマスさんと、楽しそうに笑うオリビアさん。何だか目に浮かぶなぁ。
 だけど最近、トーマスさんもアレクさんに対して寛容になってきてるもんね? 王都にいる間はいつでも来ていいって言ってたし、僕としては嬉しいんだけど。
 どんな心境の変化があったんだろう?


 そこからアレクさんに手を引かれ、歩く事数分。
 目の前には王都の外へ向かう為、検問所へと続く長~い馬車の列が……。入る時も並んでいたけど、出る時も荷物を確認されるらしい。門番さん達が忙しなく動いている。

「……アレクさん、ここって検問所ですよね……? 外に行くんですか?」

 どうして検問所に? と首を傾げていると、アレクさんはきょとんとした顔で上を指す。

「いや? 今からに上ろうと思って」
「えっ!? 上るんですか!?」

 僕たちの目の前には、ドンと聳え立つ王都を守るそれは立派な城壁が……。あまりに高すぎて、見上げると首が痛くなる。

( ……と言うか、この壁って僕たちでも中に入れるの? )

 そんな疑問を浮かべる僕の顔を見て、アレクさんはユイトが喜ぶかなと思って……、と自信無さげに呟いた。
 そんな事言われたら、上るしかないよね!?
 僕は少し肩を落としたままのアレクさんの手を引きながら、すぐさま門番さんの元へと向かった。





*****

「ユイト~、もう少しだぞ~」
「……ほ、ほんとですかぁ……?」

 意気揚々と上り始めたはいいものの、僕は完全にこの壁を舐めていた。一部、展望台として開放されているものの、上っている人はほとんどいない。
 まるでゴールが見えず、この階段は延々と続いているんではないかと錯覚してしまう程だ。

「やっぱ、背負っていこうか?」
「それは……、いいです……っ!」

 僕がくたくたなのに対し、アレクさんは息の一つも切らさず僕の手を引いてくれている。さすが冒険者……。少し申し訳なさそうに背負って行こうかと提案されたけど、それはさすがにと断った。

 休憩を挟みながらひたすら階段を上り、漸く薄っすらと見えてきた外の光。
 そして最後の一段を上り切った時、僕の視界が一気に開かれた。

「うわぁ~! 凄~い……!」

 目の前に広がる王都の街並み。どれだけ上ったのか分からないけど、まるでジオラマの様に小さな家々が立ち並んでいる。レンガの壁に、赤に緑に黄色にと、カラフルな屋根も可愛らしい。さっき見た馬車の列も、ここからだとまるで玩具おもちゃみたいだ。

「あっ! お城!」

 そして僕たちの真正面には、バージルさんとライアンくんのいる白い壁に青い屋根が美しい王宮が。周りには木々が生い茂り、まるでそこだけ別世界の様。

「これは王都でしか見れない眺めだろ?」
「確かに……! 天気も良いから遠くまで見渡せますね!」

 あそこは朝に行った孤児院の屋根かな? あ、あの大きな建物はローレンス商会かも? そんな事を話しながら眺めていると、ふと視界の端に映ったモノ。

「アレクさん、あそこにあるの、何ですか……?」

 歩いている時は気付かなかったけど、今いる城壁の近くに銅像が建っている。剣を掲げ、大きな盾を持った鎧の騎士……? だけど足が馬みたい……。

「あれ? “聖騎士パラディン”の像だよ」
「パラディン……?」

 アレクさんに訊くと、王都の四つの地区に一体ずつ、そして真正面にあるお城にも一体、この“パラディン”と呼ばれる聖騎士の銅像が建てられているという。
 そして下半身は馬と同じ四本脚。これは是非とも近くで眺めたい……!

「初代国王が王都の守り神として建てたって聞いたけど、……噂では動くらしいぞ?」
「あの銅像が……?」
「ま、噂だけどな。……でもさ、ちょっと動くとこ見たくねぇ?」
「それ、すっごく分かります……!」

 鎧を被ったカッコいい聖騎士パラディンの銅像。これが動くとか、想像するだけで楽しそう……! ハルトとユウマが見たら、絶対興奮しちゃうな……。

「でも、ロマンはあるよな~」
「アレクさんもそういうの、考えたりします?」
「……たまに」
「ふふ、可愛いですね!」
「まぁ、あんなのが動き回ったら、あちこち壊れそうだけどな」
「あ~……。それは困りますね……」

 確かに、あの手に掲げた剣を一振りしただけでも建物が壊れてしまいそうだ。
 動かすのは頭の中だけにしておこう。

 そんな現実には有りえない事を考えながら、僕は暫くの間、この素晴らしい景色をアレクさんと共に満喫した。






◇◆◇◆◇
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