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309 賑やかな夕食②

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「このパスタ、ガーリクが効いて美味しいですね!」
「こっちのパスタも美味い!」
「あら、嬉しい! 二人とも、たくさんお替りしてね!」
「「はい!」」

 皆で料理を囲み、各々食べたい料理を取っていく。
 エレノアさんが夢中になっているのはキャベツキャベジと蒸し鶏のペペロンチーノ。あの細いスパゲッティで作ったものだ。
 スライスしたにんにくガーリクと輪切りの唐辛子チィリの風味が効いて、ピリッとした刺激がクセになる。キャベジは噛むほどに甘く、蒸し鶏もふんわりと柔らかい。あの青果店で買ったカリフラワーブルンメンコールの仲間のロマネスコも一緒に入れてもらったけど、これは歯応えもあって結構美味しい! 入れて正解だった!
 トーマスさんも気に入った様で、大皿に盛られたペペロンチーノをトングで掴み、お替りの真っ最中。

 ブレンダさんが目を輝かせているのは、これも細いスパゲッティで作ったナポリタン。オニオンにピーマンペペローネ、ソーセージと至ってシンプルな具材だけど、このトマトソースが美味しいからね!
 お店から持ってきたトマトソースにほんの少しガーリクとチィリを足し、鍋で煮詰める。そうすれば、お店のトマトソースよりも少しだけピリッとした仕上がりに。
 ハルトたち用には元のトマトソースを使ってもらったから、安心して食べてもらえる。

「このサラダ、今まで食べた中でいっちばん美味しいですぅ~!」
「本当ですか? 嬉しいなぁ! ユイトくんに教えてもらいながら作ったんです!」
「そうなんですか!? 私も知りたいですぅ~!」

 ステラさんがパクパクと美味しそうに食べているのはシーザーサラダ。
 千切ったレタスレティスとトマトの上にフライパンで炒めたベーコンを散らす。パンの耳をサイコロ状にカットして、オリーブオイルとバター、塩と胡椒、ローズマリーで味を付けオーブンでカリッとするまで焼いたクルトンを散りばめ、ユランくんが一生懸命作ってくれた手作りのシーザードレッシングをかけた自信の一品。
 ドレッシングはマヨネーズに牛乳、レモンリモーネの果汁。すり下ろしたガーリクに砂糖と塩、胡椒。そして細かくしたチーズをひたすら混ぜ合わせたもの。
 温泉卵もトッピングしたかったけど、仕込んでなかったからまた今度。

「この鶏肉美味い……。最高だな……」
「エイダンくんも気に入ってくれたの? それはね、軟らかくなる様に薄力粉と卵と牛乳に漬け込んだ鶏肉を揚げてるの。衣もスパイスが入ってるから香りが良いでしょ?」
「外の衣もサクサクしてて美味いです! 鼻に抜ける香りが堪らないですね!」
「これもユイトくんに教えてもらったのよ~! いっぱいあるからどんどん食べてね!」
「はい!」

 エイダンさんが食べているのは、バージルさんも夢中になっていた骨付きの鶏の唐揚げフライドチキン
 手作りのコンソメパウダーと、生姜ジンジャーとガーリクのパウダー。カビーアさんから買ったカリー粉にパプリカパウダーとガラムマサラ、胡椒に山椒、ナツメグにターメリック、オールスパイスの計11種類のスパイスと、衣にも薄力粉と米粉、塩を使ってる。

「ぼく、これだいすきです!」
「ねっ! おいちぃねぇ!」
「そうだね! これならいくらでも食べれそうだ!」

 ハルトとユウマも美味しそうにかぶりつき、テカテカになった口元をトーマスさんに拭いてもらっている。エイダンさんもその様子をニコニコしながら眺めていた。

「この揚げ出しドーフ? やっぱり美味しいね」
「ほんとう? おいしい?」
「うん。レティちゃんの作ったこのだし? すっごく美味しい!」
「よかった~!」

 ユランくんは揚げ出し豆腐を食べながら、隣に座るレティちゃんと談笑中。真剣に昆布ケルプボニートでお出汁を取っていたレティちゃんは、頬をほんのり染めて満足気だ。

「メフィストちゃんもこのおだし、お気に入りね~? 見て。残らずキレイに食べ切っちゃったわ!」
「わ! 本当ですねぇ~! 美味しかったですかぁ~?」
「あ~ぃ!」
「かわいぃですぅ~!」

 今夜のメフィストの離乳食は、ケルプとボニートの出汁を使った雑炊だ。豆腐と米、細かく刻んだ野菜入りの雑炊は、どうやらメフィストに気に入ってもらえた様で、残った汁まで飲んでいる。
 やっぱり出汁の旨味は大事だな!

《 このしろいのふしぎ~! 》
《 ぷるぷるしてる! 》
「皆も気に入ったみたいね~?」
《 《 《 《 《 うん! おいし~! 》 》 》 》 》

 ノアたちはプルプルと揺れるしろい豆腐を気に入った様で、自分のスプーンでパクパクと頬張っている。どうやらボニートの出汁は食べれなかったみたいで残念だ。
 今は醤油をちょんと浸けて食べている。

「…………」
「……マイルズさん、お味はどうですか?」

 皆が美味しいと食べる中、マイルズさんは黙々と食事を進めている。
 目の前のマイルズさん用のお皿には、フライドチキンに揚げ出し豆腐、サラダにパスタと一通りの料理は揃っているんだけど……。

「……とても、美味しいです」
「……あ、苦手なものとか、なかったですか?」
「……どれも美味しくて驚いています」
「あ、本当ですか? 良かった……!」

 マイルズさんはそう言うとまた黙々と食事に集中している。もしかしたら、食事中だから喋らないのかも……。
 だとしたら、邪魔しちゃったかな……? 横目でチラリと様子を窺っていると、黙々とお替りをしている事に気付く。あ、なんだ! いっぱい食べてくれてる! その姿を見て、ちょっと安心してしまった。

「ユイト、これ何?」
「ん? どれですか?」

 アレクさんが言っているのはどうやら焼き肉のタレの事らしい。どれにかけるんだ? ときょろきょろしてる。
 パスタもいい具合に減ってるし、そろそろお肉、焼いてこようかな……。

「これは焼いたお肉を浸けて食べるんです。持って来てくれたお肉も今から焼いちゃいますね」

 アレクさん達が来る前に漬け込んでたお肉も、そろそろいい頃かな?

「あ、オレも手伝う」
「え? 切って焼くだけなんで食べてて大丈夫ですよ?」

 キッチンへ向かうと、アレクさんも後ろから付いてきた。料理もまだ残ってるし、アレクさんの食べた量じゃお腹もいっぱいになってない筈だ。
 
「でもな、ユイト……。一人で、動かせるか?」
「アレ……?」

 アレクさんの言うとは、エイダンさん達が持って来てくれたお肉の塊。
 ドンと置かれた米俵の様な大きさのお肉が二つ、仲良くキッチンの隅に置かれている。

「…………」
「な? だから手伝うって」
「……お願いします」

 手を洗い、包丁とまな板を用意する。アレクさんが切ってくれるというのでお肉を任せ、僕は仕込んでいたお肉を冷蔵庫から取り出す。
 
「あ、それ? トーマスさんが美味いって言ってたやつ」
「そうですよ。トーマスさん、この白いのが特に好きなんです」

 僕が取り出したのは、小麦粉でよく揉み込み臭みを取ったプルプルのコプチャン。ガーリクとジンジャーを入れたタレに漬け込んでいるから後は焼くだけ。
 あとはハラミにレバーに、ハルトたちも大好きな豚トロと牛タン。他にも肉屋のデニスさんがこれでもかと言う程たくさん詰めてくれた。
 鶏の内臓はもつ煮込みにして、バージルさん達に持って行こう。また食べたいって前に言ってたし。あ、それか料理教室の時にこれも覚えてもらった方がいいかも……? それならデニスさんのお店にお願いして、当日に受け取りに行こうかな?

「あ、そうだ! そう言えば、朝市の屋台でソーセージ買ったじゃないですか?」
「あぁ。あそこの美味いよな」

 大きな肉塊をスイスイと手慣れた様子で切っていくアレクさん。もしかしたら野営で慣れてる……? でも料理はしないって言ってたし……。あ、解体するからかな? 服の袖を捲り、そこから覗く腕の筋肉も、僕とは違って逞しい。
 躊躇もせずにあっという間に捌いていく姿、カッコいい……!

「ユイト?」
「……あっ! それでですね!」

 アレクさんの包丁捌きに思わず見入ってしまっていた……。僕は見ていた事を気付かれない様にフライパンに火をかけ、牛脂をくるくると馴染ませる。

「今日、あのお兄さんがやってるお店に行ったんですけど」
「あ、知ってたんだ?」
「たまたま入ったお店がそうだったんですよ! すっごい偶然ですよね? 顔を見た瞬間にあっ! て驚いちゃいました」

 おっと、お肉が焦げない様に気を付けなきゃ……!
 タレの香ばしい匂いも漂って、トーマスさんが向こうでソワソワしているのが見えた。

「それで、お店にいたベルクさんって方が僕の名前を知ってたんですよ。僕、初対面だったのに」
「へぇ~……? そうなんだ……?」
「何でだろう? 不思議ですよね?」
「ん~……。そうだな?」

 アレクさんの歯切れの悪い返事に僕は首をひねる。何となくアレクさんが切っていたお肉の断面も、さっきのより曲がっている気が……。
 僕が首を傾げていると、アレクさんがニコッと笑顔を浮かべる。

「もしかしたらさ、外でユイトの名前呼んでたの、どっかで聞こえてたとか?」
「あ、そっか! それもありますね」
「だろ? トーマスさんとか有名だしさ」
「そうかも!」

 なるほどな。それに元冒険者だって言ってたし、トーマスさんとも知り合いみたいだったからな~。

「あのさ、ユイトが今焼いてるその肉って、壁の外でバーベキューしてたって言ってたやつ?」
「そうですよ~! 並んでた商人さん達も美味しいって食べてくれました!」
「他にもあるんだろ? 早く食いたいな!」
「あ、もうすぐ焼き上がるんで、アレクさん先に味見しますか?」

 美味しそうな焼き色になってきたし、もうそろそろかな。
 コプチャンなら、タレに漬けてたからそのまま食べれるし。

「いいのか?」
「はい! 熱いから気を付けてくださいね?」

 焼けたコプチャンを小皿に取り、フゥフゥと息を吹きかけて冷ます。

「はい、アレクさん」
「あ~……。……ん! 美味っ!」

 アレクさんはこんなにプルプルしたの初めて食べたと驚いている。他のも楽しみだと言って、もう一つコプチャンをおねだりされた。

「これ、美味いな~! トーマスさんが言ってたの分かる!」
「よかった~! 気に入ってもらえて嬉しいです!」

 うん、その顔も可愛いです!
 あの顔を見たら、早く他のも食べさせてあげたくなるな……。
 よ~し! ジャンジャン焼いていくぞ~……!





「……あれは完全に、こっちの事を忘れてるな……」 
「にぃに、あ~んちてた!」
「ユウマちゃん、それはユイトくんに言っちゃダメよ~?」
「おにぃちゃん、てれちゃうもん」

「アレクのああいう姿を見るのは、結構恥ずかしいな……」
「幸せそうですぅ~……!」
「……仲睦まじいのは、良い事だ……」

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