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305 おねぇちゃんの、嬉しい悲鳴?

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「では、皆様。本日は御足労頂き、ありがとうございました。今後ともよろしくお願い致します」
「こちらこそ、ありがとうございました……!」
「「ありがとうございました!」」

 契約が無事に終わり、ネヴィルさんとシャノンさん、職員の皆さんに別れの挨拶。
 ライアンくん達は僕の契約が終わった後に帰ってしまった為、それを見送って僕たちもここで別れる事に。
 職員さんがサンプソン達を厩舎から連れて来てくれ、ハルトたちはトーマスさんとユランくんに手伝ってもらいながら馬車へと乗り込んだ。
 中にはセバスチャンとドラゴンも一緒。
 それを見て、ドラゴンを知らなかったカビーアさんとゲンナイさんは驚いていた。


「ユイトさん、ゲンナイさん。オリビアさんも、今日はありがとうございました」
「こちらこそ。一人だと緊張したからな、二人がいてくれて心強かったよ!」
「僕も、お二人に会えて嬉しかったです!」

 まさか同じ日に呼ばれているとは思わなかったけど、お二人がいた事で僕もすごく勉強になった。

「お二人はこの後どうするんですか?」

 バージルさん達がいた為か少しだけバタバタしていたけど、まだ九時課15時にもなっていない。僕たちはこのまま市場に行って買い物して帰るんだけど……。

「私は持って来た分のスパイスは全て商会とユイトさんに買い取って頂けたので、明日の早朝には王都を出ようと思います。またスパイスを仕入れないといけませんからね。だからこのまま宿に帰ろうかと」
「私も同じだな。王都ここからだと早朝から乗合馬車が出てるんでね。それに乗って帰るよ。だからここでお別れだな?」
「そうなんですね。じゃあ、今度会えるのは行商市……?」
「だな!」
「そうなりますね」
「その時はまた買いに行くので、よろしくお願いします!」
「ハハ! 待ってるよ!」
「いつでもいらして下さい」

 そう言って、三人で改めて握手を交わす。

「かびーあしゃん!」
「ん? ユウマくん、どうしましたか?」

 すると、馬車の中からユウマが顔を出し、こちらを覗いている。
 その後ろからはハルトとレティちゃん、ドラゴンも一緒にこちらを見ていた。

「「「せぇ~の、」」」


『『『இன்று உங்கள் நேரத்திற்கு நன்றி!』』』


「え?」
「……な、何て言ったんだ?」

 ユウマたちの発した言葉に、カビーアさんもゲンナイさんも口を開けてポカンとしている。

「んーとね、きょうは、ありぁと! ってゆったの!」
「おどろかせようとして、れんしゅうしました!」
「ちょっと、むずかしかった……」

 カビーアさんが何も言わないから心配になったのだろう。三人は、あってた? と不安そうにカビーアさんを見つめ首を傾げている。

「す、凄いですね……! 私の国の言葉です! 合ってますよ! 凄い……!」
「ほんと? ゆぅくん、うれち!」
「だいせいこう、です!」
「よかった~!」

 三人に駆け寄り、興奮気味のカビーアさん。こんなに小さな子供たちが……、と感動しきり。
 馬車の中でも勉強してたもんなぁと僕も嬉しくなる。

『நான்……、மிகவும் மகிழ்ச்சியாக இருக்கிறேன்……』
「ほんと~?」
「えぇ、本当です」
「ゆぅくんも~!」

 カビーアさんの言葉は僕には全く分からないけど、ユウマはにこっと笑顔を浮かべ嬉しそうだ。
 ハルトとレティちゃんも分からなかった様で、ユウマになんていったの? と訊ねている。

「かびーあしゃんね、とってもうれちぃって!」
「ぼくも、うれしいです!」
「わたしも! またかびーあさんのかりー、たべたいです!」
「えぇ、今度はもっと美味しいのを作りますからね!」 
「「「やったぁ~!」」」

 和やかな四人の会話を見守りながら、ゲンナイさんは感心した様に溜息を吐く。

「これはたまげたなぁ……。ユウマくんは勉強が好きなのか?」
「あ、えっと……。友達をたくさん作るって張り切ってて……。いろんな国の言語を話せたら、その人達とも仲良くなれるって頑張ってますね……」

 うん、何も嘘はついてないもんね。

「凄いなぁ……。これは将来楽しみだな……!」
「はい……!」

 本当に、これからユウマたちがどう成長していくか、僕も楽しみだ。





*****

 サンプソンの牽く馬車が向かったのは、王都の市場。
 朝限定の屋台は片付けられており、広々とした道路を何台もの馬車が通り過ぎていく。

「ユイト、もうすぐだぞ」
「はい!」

 僕はトーマスさんにお願いして、へと向かっている途中。ハルトたちも見たら楽しくなると思うんだよなぁ。

「クルルル!」

 僕が立ち並ぶお店を眺めていると、ドラゴンが後ろから覗き込んでくる。

「ん? どうしたの? お腹空いた?」
「いや、たくさん店があって楽しんでるんじゃないかな?」
「そうなの?」
「クルルル~!」

 どうやらドラゴンも、見た事のないたくさんのお店にソワソワしていたみたい。確かに、美味しそうな匂いもここまで漂ってくるし……。

「市場で美味しいモノ、たくさん買ってくるからね!」
「クルルル!」

 僕の言葉に、ドラゴンは嬉しそうに声を上げた。

「さ、着いたぞ!」
「は~い! ハルト、ユウマ、レティちゃんもこっち来て!」
「なぁに~?」
「なんですか?」
「おみせ?」

 僕の呼ぶ声にハルトたちは立ち上がり、馬車から降りようとする。それを手伝いながらこっち、と手招き。

「あれ、見て」

「「「すっごぉ~いっ!」」」

 その示した方を見て、三人は楽しそうに歓声を上げた。
 僕が見せたかったのは、一日目に見たあの大きな大きな“おばけアトランティック南瓜・ジャイアント”!
 三人は駆け寄り、手を伸ばしてはしゃいでいる。

「おっきいです! みて! とどかない!」
「しゅごぃねぇ!」
「うわぁ、なんにんぶんつくれるんだろう……?」
「ん~、おっきすぎて、わかんないです……。でも、いっぱい、つくれます!」
「ころっけ、いっぱぃちゅくれりゅねぇ」
「ふふ! たべきれないかも!」

 三人のほわほわした会話を聞きながら、トーマスさんもオリビアさんも笑みを浮かべて眺めている。僕たちの横を通り過ぎていく人達も、可愛いわね、と言いながらくすくすと笑っていた。

「……ん?」
「えてぃちゃん、どぅちたの?」
「なんですか?」
「ん~とね、もうすぐくるとおもう」

 レティちゃんの気にしている方を見ると、暫くして通りの向こう側から何やら大きなモノが運ばれてくるのが見えた。

( 何だろう? アレ…… )

 周囲の人達も気付いたのか、ガヤガヤと騒がしい。
 目を凝らして眺めていると、何頭もの馬がソレを牽いているのが見えてくる。

「「「……あ!」」」

「あれくさんだぁ~!」
「ぶえんだちゃんも~!」

 その馬たちの隣に、アレクさんのパーティとブレンダさんの姿が見えた。
 そしてその運んでいたモノは、今まで見た事も無い様な巨大な熊と牛……。サンプソンよりも大きいかもしれない……。

「おにぃちゃん、だいじょうぶ?」
「え? あ、うん。あんなに大きい牛っているんだね……!」
「ね! びっくりしちゃった!」

 レティちゃんと一緒に近付いてくるそれを眺めていると、後ろからユランくんの爺様の飯によさそうだな、と言う呟きと、ドラゴンの興奮した鳴き声が聞こえてきた。
 爺様ってアレかな? 一千年は生きてるっていうおじいちゃんのドラゴンの事だよね? 村のお爺さん達の事じゃないよね?
 僕も、あの大きさから何人分くらい取れるのか気になる……。

「ふふ。ユイトくん、あれは“シュティーアカンプ”っていう牛の魔物よ! お肉がとっても美味しいの!」
「そうなんですか?」
「えぇ! お肉もそうなんだけど、角も毛皮も内臓以外はぜ~んぶ、武器や薬に使われるの。高ランクの魔物だから薬の効果も凄いのよ!」
「へぇ……! あの大きさだと、量も多そう……」

 確か、魔物の内臓はすぐに腐敗するから廃棄するって言ってたな……。
 あれが食べれるんだったら、焼き肉も鍋も出来そうなのに。残念だ……。

「あれは凄いな。“コディアック・グリズリー”まで……」

 すると、トーマスさんも感心した様に呟いた。

「おじぃちゃん、あのくま、おいしいの?」
「あぁ、あの魔物の肉は高級品なんだよ。それに、今の時期は毛皮だな。かなり暖かいから野外でも重宝するんだ」
「そうなんだ……! じゃあ、みんなさむくなくていいね!」
「あれくしゃん、しゅごぃねぇ……」
「とっても、つよいです!」
「そうだな。前を通り掛かったら皆で手を振ってやろう」
「あれくしゃん、きぢゅくかなぁ?」
「ゆぅくん、おっきいこえで、よんでみよ!」
「ん!」

 ハルトとユウマは大きい声で名前を呼ぼうと張り切っているけど、何やら周りの人達も魔物を近くで見ようとどんどんと道に出てきた。

「危ないから馬車に乗っとこうか?」
「「「は~い」」」

 ハルトたちを馬車の中へ移動し、アレクさんのパーティとブレンダさんが近くまで来るのを皆で待つ。
 ドラゴンも楽しそうに馬車の中で通りを見つめている。

「あれくさ~ん!」
「あれくしゃ~ん!」
「ぶれんだちゃ~ん!」
「あぅ~!」

 四人が馬車の中から手を振り叫んでいる。
 すると、幌の上に留まっているセバスチャンと、サンプソンの声が聞こえてきた。

《 気付いたみたいだな 》
《 こっちを見ているな 》
「ほんとう、ですか?」
「あれくしゃん、くりゅかなぁ?」
《 あぁ。何か仲間に相談してるみたいだよ 》

 残念ながら街の人達が前に居る為、馬車から降りている僕の目線からはアレクさん達の様子は見えない。皆、体格の良い人ばかりだ……。僕も馬車に乗っておけば良かったな……。
 見えませんね、とトーマスさんに声を掛けると、トーマスさんは何やら笑うのを堪えている。まぁ、トーマスさんの身長位あれば見えるだろうけど、何をそんなに笑ってるんだろう?
 馬車に移動していたオリビアさんもメフィストを抱えながら楽しそうだ。
 すると周囲の人達がザワザワと騒ぎ出した。
 

「ユイト!」


 僕の前にいた人達が道を開けると、そこには笑顔を浮かべるアレクさんの姿が。ツカツカと僕とトーマスさんの前まで来ると、嬉しそうに僕の両手を握り締める。

「アレクさん、依頼帰りですか?」
「あぁ! まさか会えると思わなかった!」

 アレクさんは僕の手を握りながら満面の笑み。

「アレク、あの魔物はダンジョンからか?」
「はい! ステラが氷漬けにしてるんで、今は仮死状態ですね。後はギルドに行って解体する時に絞めるだけです」
「ホォ……、考えたな」
「え? 仮死状態って……。あれ、まだ生きてるんですか……?」

 遠目からでもあんなに大きかった魔物が、まだ動くって事?

「あぁ、ダンジョンの魔物だから始末するとドロップ品を残して消えるんだけどな? いっつも何が出てくるか分からないんだよ。だから最近はあの状態にして渡す時に絞めてる」
「それだとドロップ品は出ないだろう?」
「勿体ないですけどね! その分、肉が結構取れるんで!」
「あぁ、成程! それは重要だな」

 アレクさんの言葉に、トーマスさんはうんうんと頷いている。

「ハルトたちの声、聞こえたぞ~! もうすぐリーダー達も通ると思うから、ステラにも声掛けてやってくれるか?」
「「は~い!」」
「ステラちゃんも凄いわねぇ……。ダンジョンから凍らしてるって事でしょう? 疲れてないのかしら……」
「何か最近、調子いいみたいですよ! まぁ、理由は分かってるんですけど」
「あら、そうなの?」
「はい。オリビアさんはすぐに分かると思いますよ」
「まぁ! 楽しみ!」

 うふふ、と笑いながらステラさん達の方を眺めているオリビアさん。その顔はとっても楽しそう。

「トーマスさん! オリビアさん! 奇遇ですね!」
「ブレンダも一緒に潜ってたのか?」
「はい! あ、私は依頼とは関係なく後ろをついて行ってただけなんですが」
「ふふ、でも嬉しそうね?」
「はい……! アレとは別なんですが、自分でも思いがけずいい肉が手に入ったので……!」

 そのダンジョンという場所で、ブレンダさんの好きなお肉がドロップ? されたらしい。柔らかくてすっごく美味しいらしい。

「皆もまさかここで会えるとは思わなかった! あ、クッキーとケーキをありがとう! とても美味しかったよ」
「あのくっきー、れてぃちゃんと、にこらちゃん。ふたりでつくりました!」
「そうなのか?」
「うん! おいしいっていってもらえて、とってもうれしい!」
「そうか。また食べたいから、今度お願いしようかな?」
「ほんとう? まかせて!」

 自分たちで作ったクッキーを褒められて、レティちゃんはふにゃりと眉を下げ嬉しそうだ。

「お、来たな」

 ガヤガヤと騒がしい周囲の声と、ほら、と僕の手を握っているアレクさんの楽しそうな声。上を見上げると、目の前にはドンと横たわる大きな大きな魔物の姿。
 思わず後ろに後退ってしまう。

「あ! すてらおねぇちゃんです!」
「ねぇね~!」

 ハルトとユウマが一生懸命手を振ると、人垣をかき分けて現れたのは満面の笑みを浮かべるステラさん。ちょっと大きめの帽子がズレているけど、こちらに足早に駆けて来る。

「いま、おねぇちゃんとねぇねって、呼びましたかぁ~?」
「うん! おねぇちゃんって、よびました!」
「ねぇね、おちゅかれしゃま!」
「やぁ~ん! 疲れがふっとんじゃいましたぁ~っ!」

 目をキラキラと輝かせて、ステラさんは感激しているみたい。馬車に近付き、ハルトとユウマの手を背伸びしながら握っている。
 そこでふと、ハルトとユウマの隣にいるレティちゃんに気付き、目をパッと見開く。

「あ! レティちゃん……? でしたよね~? 元気になって良かったですぅ~!」

 お洋服も似合ってますねぇ~! とニコニコするステラさんに、レティちゃんは目をパチクリ。

「おねぇさん、わたしのこと、しってるの……?」
「はい~! あの時は皆で心配してたんですよ~? 師匠が付きっきりで看てくれてましたから~!」
「ししょう……?」
「はい~! オリビアさんは、私の魔法の“師匠”ですぅ~!」
「おばぁちゃん……! ししょうなの……!?」
「ふふ。そうなの!」
「すごい……!」

 きらきらと自分を見つめるレティちゃんの目に、オリビアさんは満更でもない様子。

「おねぇさん、こんど、おばぁちゃんのおはなし、きかせてください……!」
「ふふ! いいですよ~? でも~……、それには、条件がありますぅ~……!」
「じょうけん……?」

 首を傾げるレティちゃんに、ステラさんは満面の笑みで口を開いた。

「私の事は、“おねぇちゃん”と、呼んでください~!」

 僕は何となく予想は付いていたんだけど、ステラさんはワクワクと期待に満ちた目をレティちゃんに向けている。
 トーマスさんもオリビアさんも笑っているし、僕を抱き寄せてるアレクさんも、ごめんな? と何故か僕に謝っていた。

「ん~……、じゃあ……」


「すてら、おねぇちゃん……?」


 こてんと小首を傾げ、ステラさんの手を握るレティちゃん。
 銀色の髪が光に反射して、キラキラと光っている。まるで妖精の様……。

「ハァ~~~……! 師匠の事、いっぱい教えてあげますねぇ~!」
「ほんとう? わたし、うれしい! おねぇちゃん、ありがと!」
「おねぇちゃん、ぼくも、しりたいです!」
「ねぇね~! ゆぅくんも~!」

「ヒィ~~~……! 可愛いぃ~~~~……!」

 両手で顔を覆い、その場に蹲るステラさん。
 レティちゃん達は心配そうに馬車から下を覗き込んでいる。

「なんか……、ごめんな……?」

 仲間のステラさんの事だろう。
 アレクさんはまた、申し訳なさそうに謝っている。

「おねぇちゃん、どうしたの……? だいじょうぶ……?」
「おねぇちゃん、おなか、いたぃですか……?」
「ねぇね、だぃじょぶ~? ゆぅくん、ちんぱぃ……」


「うぅ……! 今日は依頼、頑張って良かったですぅ~~~……!」


 ステラさんの嬉しそうな悲鳴は、この後リーダーのエイダンさんが来るまで続いていた。

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