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303 試食会③

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「らいあんくん、どぅじょ!」

 食堂に戻り、ユウマはライアンくんにチョコチップクッキーの入った袋を手渡している。

「わぁ! 美味しそうですね! ありがとうございます!」

 中を覗き込み、満面の笑みでユウマの頭を撫でているライアンくん。サイラスさんとフレッドさんにも手渡し、ワシワシと頭を撫でられユウマは嬉しそうだ。
 その間に僕はライアンくんとサイラスさん、フレッドさん用のケーキをお皿に取り分けていく。フレッドさんは少しだけ先に食べたけど、自分用にもあると知って自然と笑顔になっていた。

「じぃじ、もいっこ!」
「あぁ、ほら」

 トーマスさんは籠の中からもう一つクッキーを取り出し、それを受け取ったユウマは大事そうに両手に抱え、とことこと駆けて行く。
 その後ろ姿を眺めているだけで、つい笑顔になってしまう。

「ばーじりゅしゃん」
「……ん? ユウマくん、どうしたんだい?」

 ユウマの駆けて行った先は、ネヴィルさんと談笑中のバージルさんの所。周囲にはイーサンさんとアーノルドさんも。

「どぅじょ!」
「……これは?」
「あのね、えてぃちゃんとにこちゃんがつくったくっきー! おぃちくってねぇ、じぃじもだいちゅきなの!」
「ホォ、トーマスも?」
「ん!」

 両手を握り締めながら大きく頷き、トーマスさんにお願いしてもう二袋、クッキーを貰うユウマ。

「いーしゃんしゃんと、あーのりゅどしゃんも、どぅじょ!」
「……私達にも、ですか?」
「貰ってもいいのかい?」
「ん! おいちぃからね、みんなでたべよ!」

 んふふ、と両手で口を押さえ笑うユウマを見て、イーサンさんとアーノルドさんの眉がふにゃりと下がる。

「あ、こちらのケーキも良ければ召し上がってください」
「これも?」
「はい。本当はお城にお邪魔した時に出そうかなと思ってたんですけど、ユウマに皆さんと一緒に食べたいってお願いされちゃって……」

 ね? と足下にいるユウマを見ると、ん! とにっこりしながら頷いた。

「あ、お腹いっぱいだったら無理にとは……」
「いや、ここで頂こう」
「そうですね。まだ時間もありますし」
「こんなに美味そうなもの、お預けはツラいな」

 同時に話し出すバージルさん達に少し笑ってしまったけど、三人ともとっても嬉しそうにユウマを見つめている。
 こうやって接していると、国の偉い人達だって事を忘れてしまうんだけど……。

「ユイトくん、このクッキーはレティちゃんとにこ……、ちゃん? の二人が作ってくれたのか?」
「はい。二人とも頑張ってお礼のクッキーを作ってくれたんです。手際もいいんですよ!」
「ホォ~! そうか、これは我々もお礼をしないとな?」
「え? お礼、ですか……?」

 お礼のお礼? バージルさんはにっこり笑うと、イーサンさんにひそりと何かを告げ、イーサンさんはそのまま奥に控えていたネヴィルさんへと何かを伝えている。すると、そのままカビーアさん、ゲンナイさんと職員さん達を連れ出て行ってしまった。
 そのままライアンくんたちと一緒にいるレティちゃんの元へとツカツカと歩いて行くバージルさん。その後を追う様に、イーサンさんとアーノルドさんもついて行く。

「父上? どうしたのですか?」
「あぁ、レティちゃんにクッキーのお礼をしようと思ってね」
「わたしに……、ですか?」

 きょとんと首を傾げるレティちゃんに、バージルさんは目を細めて視線を合わせる様に跪く。

「君には酷な事を言ってしまったのに、私達にもこの菓子を作ってくれたんだろう? ありがとう。あと、にこちゃん? という子にも礼を伝えてくれるかい?」
「にこちゃん……」
「ん? 違ったかな? ユウマくんが言っていたんだが……」

 レティちゃんはチラリと、バージルさんの後ろにいたトーマスさんを見やる。そして同様に、オリビアさんにも視線を向けた。

「ふふ、言ってもいいんじゃないかしら?」
「ウェンディもいるしな」

 その言葉に、今度はバージルさん達が首を傾げている。

「にこら、でてきていいよ」

《 は~い! 》

 その掛け声と共に、レティちゃんの肩からポンッとニコラちゃんが姿を現す。突然現れた妖精に、バージルさん達は三人とも目を見開いて固まってしまった。

《 ぼくも~! 》
《 え? いいの~? 》
《 あれ~? おじさん、びっくりしてる! 》
《 わたしもでる~! 》
《 このひと、まえにあったよ~! 》

 ニコラちゃんに続いて、テオにリュカ、リリアーナちゃんにノアも次々と姿を見せる。その様子を見ていたらしいウェンディちゃんも、職員さん達がいなくなったからかライアンくんの肩からポンッと姿を現した。

《 そのくっきー、わたしもたべた~い! 》

《 《 《 《 《 たべた~い! 》》 》 》 》

 バージルさん達にその声は聞こえていないけど、目の前の妖精たちにあんぐりと口を開けたままだ。

「ばーじるへいか、だいじょうぶですか?」
「……え? あ、あぁ! 大丈夫だよ。この子は知っているが、他にもこんなにいたんだな……」
「このくっきー、このこといっしょに、つくりました!」
《 わたしもてつだったの! 》

 ふふん! と胸を張り、イーサンさんとアーノルドさんの前にもふわふわと飛んでいく。

「よ、妖精が……、作ったクッキー……?」
「何と……」
「そんな貴重なもの……」

 クッキーの袋を抱え、固まったままの三人にニコラちゃんは首を傾げている。

《 たべないの~? 》

「にこらが、たべないの? って、きいてます」
「……ハッ! 食べる! 食べるとも!」
「こんな貴重なものを頂けるなんて……!」
「本当に良いのか……?」

 それにニコラちゃんが満面の笑みでこくりと頷くと、バージルさん達は小さな声で凄い……! と感動していた。

「あ、あの……」

 すると、それを見守っていたフレッドさんが声を掛けてくる。

「もしかして……。私が先程、何枚も試食したクッキーも……?」
「あ、そうです! レティちゃん、ニコラちゃん、フレッドさんも美味しそうに食べてくれたんだよ」
「そうなの? ありがとうございます! うれしい!」
《 ありがと! 》

 レティちゃんとニコラちゃんにぺこりと頭を下げられて、フレッドさんは今にも倒れそう。隣にいたサイラスさんが、支えながら苦笑いしている。
 そんな様子を見ていたハルトとユウマが、バージルさんの下に近付きその裾をくんと引っ張った。

「みんな、おやつ、たべないですか……?」
「ゆぅくんね? みんなでいっちょ、たべちゃぃの……」


「「……だめぇ?」」


「「「グゥッ……」」」


 二人同時は反則だなと思いつつ、バージルさん達は顔を片手で覆っている。
 ふと後ろを見ると、トーマスさんも眉間に皺を寄せ、向かいにいたオリビアさんも胸を押さえていた。

「……父上、早くおやつにしましょう……!」
「え? あ、あぁ……! そうだな……!」

 ライアンくんの声にハッとし、皆で漸くおやつを食べる事に。ウェンディちゃんもワクワクしながらライアンくんの持つクッキーを眺めている。

「さ! 皆で早速、頂こうじゃないか!」
「「「はい!」」」

 ライアンくん達のいい返事を聞き、ハルトもユウマもとっても嬉しそうに笑っている。
 だけど、こんなに距離感が近くて大丈夫なのか心配になってしまう……。ライアンくんのお母さんとお兄さん達も、こんな感じなのかな……?
 ちょっと粗相がないか緊張するな……。

 そんな事を考えていると、ユランくんが僕に近付き、こそこそと耳打ちしてくる。

「ユイトくん、いっつもこんな感じなの……?」
「え? 大体そう、かも……」
「なんか、王族の印象ガラッと変わっちゃったんだけど……」
「あ、あはは……」

 ユランくんが抱いていた印象は、どうやら今日一日で大分塗り替えられてしまった様だ。僕は初対面の時からこのまんまなんだけど……。

「ハルトくんとユウマくん、ある意味凄いね……」
「それは僕も思う……」

 本当なら不敬と言われても仕方ないくらい、ハルトとユウマはライアンくんに懐いているし、バージルさんにも可愛がってもらっている。

「らいあんくん、くっきー、おいしいですか?」
「とっても美味しいです! レティちゃんとニコラちゃんは、お菓子作りが上手ですね!」
「ほんとう? うれしい……!」
《 ほめられちゃった! 》

「ばーじりゅしゃん、おいちぃでちょ?」
「あぁ! このクッキーもケーキも、全部美味い!」
「いーしゃんしゃんと、あーにょ……、あーのりゅどしゃんも?」
「ふふ、とても美味しいですね」
「最高だな!」
「んふふ! ゆぅくん、うれち!」
「「「グゥッ……」」」


 まさか食堂でこんな会話が繰り広げられているなんて、誰も思わないだろうなぁ……。

「なんか、平和だね……」
「うん。それが一番だよ……」

 今日の試食会を見て、僕は本当に人に恵まれているなぁとつくづく実感した。本当なら、知り合う事も無かった人達なんだもんなぁ……。


( ……お城に行く時は、お礼にもっと大きめの手土産持って行こ…… )


 ハルトとユウマを可愛がってくれるライアンくん達を見て、僕は密かにそう誓ったのだった。

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