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290 あたたかい食卓
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「あ、二人ともおかえりなさい。先に頂いてるわよ~」
トーマスさんと脱衣所の床と壁を軽く拭いてからリビングに戻ると、皆は美味しそうに昼食を食べている真っ最中。
「メフィストちゃん、美味しいわね~?」
「まぅまぅ!」
「そうね、まぅまぅね~!」
《 これ、だいすき! 》
「リリアーナちゃんもお替りね? はい、どうぞ」
《 ありがと! 》
オリビアさんはメフィストを膝に乗せ、にこにこしながら離乳食用の茶碗蒸しを食べさせている。メフィストが食べている間に、テーブルの上にいるリリアーナちゃんにも食べさせ満面の笑み。
オリビアさんが食べさせる時は、メフィストの服もほとんど汚れないんだよなぁ。何かコツがあるのかも……。
「ゆらんくん、これも、おいしいです!」
「ありがとう。冷めちゃうから、ハルトくんも一緒に食べよう」
「ゆらんくん、これも! おいしいの!」
「ありがとう。これ大きいから、レティちゃんも半分こにして食べよう」
ユランくんもレティちゃんとハルトの間に座り、あれも、これも、と二人にお世話を焼かれていた。レティちゃんはニコラちゃんにも茶碗蒸しを食べさせている。なかなかお姉さん姿が板について来たみたいだ。
お皿にこんもりと盛られた料理を、楽しそうに笑いながら皆と一緒に食べている。
そこに泣いたせいで瞼の腫れたままのリュカも加わり、ハルトは時折、だいじょうぶ? と心配そうに頭を撫でていた。
《 ゆうま~! おかわりちょうだい! 》
「ておくん、どうじょ!」
《 ん~! おいし! 》
「ほら、ユウマも」
「ん! ありぁと!」
ユウマはテオに茶碗蒸しを食べさせ、自分はアレクさんに食べさせてもらっている。
「アレク、すまないな」
トーマスさんが座ったのはアレクさんの右隣の席。
本当はユウマが座っていたんだけど、背が届かなくてアレクさんの膝に座ってご飯を食べていた。
「いえ、大丈夫です。ほら、ユウマ。トーマスさん来たぞ~」
「じぃじ、おひざのせてぇ~!」
「あぁ、おいで」
ユウマはトーマスさんの膝に座ると、安定する場所を探してもぞもぞ動いている。漸く納得出来る座り心地になったのか、自分のお皿に手を伸ばした。
「じぃじ、あ~んちて!」
すると、トーマスさんにフォークに刺した玉子焼きを差し出す。出汁巻きだからすぐに落としそうでハラハラするなぁ……。
「ん? 食べさせてくれるのか?」
「こえねぇ、おぃちかったの!」
「そうか。じゃあ貰おうかな」
「ん! あ~ん」
「あ~、……うん! ユウマの言った通り美味しいな!」
「でちょ?」
んふふ~! と満足そうに笑みを浮かべ、またもっくもっくと食べ始める。
ユウマ用に小さくカットしてあるから、トーマスさんにはちょっと物足りないだろうけど。……まぁ、トーマスさんはそんな事、微塵も思ってなさそう。
「ユイト、こっち」
「あ、ありがとうございます」
アレクさんに左隣の席をポンポンと叩かれ、ここに座れと促される。
今日の昼食は、昆布の出汁で作った出汁巻き卵。少しだけ残っていた干し椎茸の出汁も入れてある。
蒸し野菜の胡麻ドレッシングがけに、レタスとトマトのコンソメスープ。
離乳食には、出し巻きと同じ出汁で作ったメフィストもお気に入りの茶碗蒸し。
「どうですか? お米の味」
「うん、初めて食ったけど美味いな! 腹に溜まるのもいい」
「ふふ、そこ重要ですよね」
そう言うと、アレクさんはパクパクとおかずと一緒にお米を頬張っている。オリビアさんが言うには、これで二杯目らしい。ドリューさん達も気に入ってたし、やっぱりお米は需要あるかも。
一応大きな鍋で炊いたけど、足りないだろうなぁ……。
もう一つ炊いておこうかな?
「あと、これもすっげぇ美味い!」
アレクさんがさっきからお替りしているのは、レティスの上にこんもりと盛り付けた鶏の唐揚げ。それにさっきの手作りのタレを絡ませて、上から細かく刻んだ赤いパプリカをトッピングしてある。
「このタレも肉に合うな」
「気に入ってくれました?」
「あぁ! 好きな味!」
よかった……! 口に合うか心配だったけど、すっごく嬉しい!
「ソレ、アレクさんがくれた粒入りのマスタード使ってるんです! ……本当は使わずにとっておこうかと思ったんですけど。今度、マスタードの作り方教えてくださいね!」
そう言って僕も、いただきますと目の前にある大皿からフライドチキンを一つ取りパクリと頬張る。
一口齧ると、練乳の甘味とほのかにくるマスタードの辛み。でもこれくらいならハルトたちも食べれるみたいで、さっきから皆で美味しそうに食べている。
お肉も余熱でじっくり火が通っているから、中は柔らかくて、ジュワッと肉汁が口の中に広がっていく。このタレも美味しいし、なかなか上手く出来たかもしれない!
「……あ、出汁巻きも前より上手に出来たかも!」
違う所と言えば、少しだけ残ってた干し椎茸の出汁も入れたからかな?
「おにぃちゃんのおりょうり、いっつもおいしいよ?」
「嬉しいよ、ありがと!」
「おにぃちゃん、たまご、もいっこ、たべたいです!」
「あ、食べちゃった? 僕のあげるね」
レティちゃんとハルトに自分の出汁巻きを一切れずつ分けていく。
二人には三切ずつ用意したんだけど足りなかったみたいだ。次はもう少し大きめに巻こうかな。
「ん? アレク、食べないのか?」
トーマスさんの声に右を向くと、アレクさんのご飯がさっきから全く減ってない。
「え? あ、いや……」
「ほら、野菜も食べなさい。美味しいから」
「あら、このスープも美味しいわよ。遠慮しないで食べなさいね」
「あ、ありがとうございます……」
トーマスさんとオリビアさんは、アレクさんのお皿にサラダとフライドチキンを盛り、お替りのスープを持ってくる。
「あれくしゃん、だちまきいりゅ?」
「……ハハ! いいよ、ユウマが食べな」
笑いながらユウマの頭を撫でているけど、さっきより元気が無い様な……。そんなアレクさんを見て、トーマスさんとオリビアさんは顔を見合わせる。
「どうした? 腹がいっぱいだったか?」
「あら……、どこか調子悪い?」
「あ、違います! すみません、心配掛けちゃって……」
お二人の心配そうな顔に、アレクさんは困った様に頭を下げた。
「……いや、なんか……。オレ、家族とか縁無かったから……。こういうの、いいなぁと、思って……」
すみません……。
そう言って、美味しいです、とまたご飯を食べ始めた。
「あれくしゃん、きょうはおとまりちなぃの?」
「とまっていけばいいのに」
「おとまり、たのしいです!」
少しだけしんみりとした空気になっちゃったけど、ユウマたちの言葉で少しだけ元気になったみたいだ。
「あ~、朝も言ったけど明日は朝から依頼があるんだ。また今度誘って?」
「しょうなの~? じゃあ、あちたおとまりしゅる?」
ユウマは諦めていないのか、トーマスさんの膝に座りながらアレクさんを見上げている。
「何だよ、ユウマ。そんなにオレに泊まってほしいの?」
「ん! だってねぇ、にぃに、あれくしゃんいるとにこにこちてるの! ねりゅときね、おはなとおてがみ、じゅっとみてるの」
「おにぃちゃん、ねないから、ゆぅくんにしかられてました」
「ハハハ! ユウマに? ホント?」
「~~~……っ! 何で言っちゃうんだよぉ~……!」
まさか本人に言うとは思わなかった……。僕の顔を見て、アレクさんはすっごく楽しそうに笑っている。
「レティちゃん。ユイトの顔、まっ赤だね?」
「うん。でも、うれしそうだから、だいじょうぶ!」
「ハルトくん。いっつもあんな感じ?」
「おにぃちゃん、あれくさんのことかんがえてると、いっつも、うれしそうです!」
ユランくんも僕の事を見て笑ってるし、レティちゃんもハルトも当然とばかりに答えている。
トーマスさんとオリビアさんに助けてもらおうと顔を向けると、なぜか二人とも顔を手で覆っていた。
メフィストは口を開けて、茶碗蒸しが口に運ばれてくるのを待っている。
「……アレク」
「え? はい」
トーマスさんの真剣な声色に、アレクさんだけじゃなく僕たちも思わず背筋を正す。
「……時間がある時は、ここに食べに来なさい……」
「へ?」
「……そうね。私たちも、王都には暫くいるから……。いつでも、いらっしゃい……」
「え、ありがとうございます……!」
アレクさんはやった、と小さな声で僕に笑顔を向けてくる。
う~……! その顔、可愛いですね……!
僕がアレクさんの笑顔にニヤケない様に唇を噛んで我慢していると、レティちゃんが顔を上げて口を開いた。
「おじぃちゃん、だれかくるよ」
「ん? 来客か?」
「そんな予定あったかしら……?」
皆で首を傾げていると、玄関の方からトントンとドアノッカーの音が響いてきた。
「ちょっと出てくるよ」
「ユウマ、こっち」
「ん!」
ユウマをアレクさんに預け、トーマスさんが玄関に様子を見に行く。
暫くすると、話し声と共に僕を呼ぶトーマスさんの声が。
「あら、ユイトくんのお客様みたいね?」
「誰だろう? ちょっと行ってきます」
慌てて玄関に向かうと、そこにはトーマスさんの隣で僕にお辞儀する……、
( ……誰? )
僕も慌てて挨拶をする。
「突然御伺いして申し訳ございません。私、ローレンス商会のシャノンと申します。ネヴィル会長からの使いで参りました」
「ネヴィルさんの? あ、お会い出来る日の確認……、ですか?」
「はい」
そう言うと、その女性はふわりと柔らかな笑みを浮かべた。
*****
「では、二日後の三時課の鐘が鳴る頃に。受付には名前を伝えて頂ければ私が迎えに参りますので」
「はい、ありがとうございます!」
「……本当に迎えは要らないのですか?」
シャノンさんは家の前まで迎えに来ると言ってくれたけど……。
「折角だから、帰りに色々見て回りたいなと思って! お気遣いありがとうございます!」
「そうですね。商会の周辺にも色々な店が並んでいますので、楽しまれるのには丁度いいかと。ネヴィルも私共も、当日楽しみにしております。あちらには商会から連絡致しますのでご心配なく。それでは、失礼致します」
そう柔らかく微笑むと、シャノンさんは商会の馬車に乗って帰っていった。
二日後かぁ……。渡したい物もあるし、レティちゃんとニコラちゃんに手伝ってもらえるか相談だな。
「本当にオレたちも行くんだな……」
「え? ダメでした……?」
「いや、まさかドラゴンも是非なんて言われるとは思わなかったからな」
「よかったですよね! ユランくんも一緒だし、安心しました!」
馬車を断った時に、ふと馬車を牽いたサンプソンが休める場所はあるのかと心配になった。そこでシャノンさんに相談して、実際に見てもらおうと厩舎の方に来てもらったんだけど……。
そこには木陰で休むサンプソンとセバスチャン、他の馬たちと元気に遊ぶドラゴンの姿が。使用人のお兄さん達が大変そうだったけど、どうやら懐いてじゃれているみたい。
シャノンさんもドラゴンを見るのは初めてらしく、会長を説得するので是非! と目を輝かせていた。
「どんな食材見せてくれるんだろ~?」
「明後日が楽しみだな?」
「はい!」
トーマスさんに頭を撫でられながら、ネヴィルさんの集めている食材を勝手に想像してワクワクしてしまう。
( ……そう言えば、ハルトとユウマも、ライアンくんも一緒にって言ってた様な…… )
でも、ライアンくん忙しそうだし、急に二日後なんて言ってもなぁ……。
「……トーマスさん」
「ん? どうした?」
さっきシャノンさんが言っていた言葉を、ふと思い出す。
「シャノンさん、あちらにはって、どこの事言ってるんでしょう……?」
「……そう言えば」
ライアンくんはバージルさんにお願いするって、すごく張り切ってたけど……。
「……お城、とか……?」
「……ハハ、まさか……」
「「有り得るな……」」
トーマスさんと顔を見合わせ、ライアンくんのあの時の様子から、有り得ない事ではないなと妙に納得してしまう。
「……オレから連絡してみるよ」
「……お願いします」
これはまだハルトたちには言わない方がいいなと二人で相談し、リビングへと戻る事に。
……う~ん、何となくあの人が付いてくるんじゃないかと胸騒ぎがする……。
( まぁ、毎日忙しいだろうし、大丈夫だよね! )
「ユイト、行こう」
「あ、はい!」
───そんな僕の予感は、後日、現実のものとなる……。
トーマスさんと脱衣所の床と壁を軽く拭いてからリビングに戻ると、皆は美味しそうに昼食を食べている真っ最中。
「メフィストちゃん、美味しいわね~?」
「まぅまぅ!」
「そうね、まぅまぅね~!」
《 これ、だいすき! 》
「リリアーナちゃんもお替りね? はい、どうぞ」
《 ありがと! 》
オリビアさんはメフィストを膝に乗せ、にこにこしながら離乳食用の茶碗蒸しを食べさせている。メフィストが食べている間に、テーブルの上にいるリリアーナちゃんにも食べさせ満面の笑み。
オリビアさんが食べさせる時は、メフィストの服もほとんど汚れないんだよなぁ。何かコツがあるのかも……。
「ゆらんくん、これも、おいしいです!」
「ありがとう。冷めちゃうから、ハルトくんも一緒に食べよう」
「ゆらんくん、これも! おいしいの!」
「ありがとう。これ大きいから、レティちゃんも半分こにして食べよう」
ユランくんもレティちゃんとハルトの間に座り、あれも、これも、と二人にお世話を焼かれていた。レティちゃんはニコラちゃんにも茶碗蒸しを食べさせている。なかなかお姉さん姿が板について来たみたいだ。
お皿にこんもりと盛られた料理を、楽しそうに笑いながら皆と一緒に食べている。
そこに泣いたせいで瞼の腫れたままのリュカも加わり、ハルトは時折、だいじょうぶ? と心配そうに頭を撫でていた。
《 ゆうま~! おかわりちょうだい! 》
「ておくん、どうじょ!」
《 ん~! おいし! 》
「ほら、ユウマも」
「ん! ありぁと!」
ユウマはテオに茶碗蒸しを食べさせ、自分はアレクさんに食べさせてもらっている。
「アレク、すまないな」
トーマスさんが座ったのはアレクさんの右隣の席。
本当はユウマが座っていたんだけど、背が届かなくてアレクさんの膝に座ってご飯を食べていた。
「いえ、大丈夫です。ほら、ユウマ。トーマスさん来たぞ~」
「じぃじ、おひざのせてぇ~!」
「あぁ、おいで」
ユウマはトーマスさんの膝に座ると、安定する場所を探してもぞもぞ動いている。漸く納得出来る座り心地になったのか、自分のお皿に手を伸ばした。
「じぃじ、あ~んちて!」
すると、トーマスさんにフォークに刺した玉子焼きを差し出す。出汁巻きだからすぐに落としそうでハラハラするなぁ……。
「ん? 食べさせてくれるのか?」
「こえねぇ、おぃちかったの!」
「そうか。じゃあ貰おうかな」
「ん! あ~ん」
「あ~、……うん! ユウマの言った通り美味しいな!」
「でちょ?」
んふふ~! と満足そうに笑みを浮かべ、またもっくもっくと食べ始める。
ユウマ用に小さくカットしてあるから、トーマスさんにはちょっと物足りないだろうけど。……まぁ、トーマスさんはそんな事、微塵も思ってなさそう。
「ユイト、こっち」
「あ、ありがとうございます」
アレクさんに左隣の席をポンポンと叩かれ、ここに座れと促される。
今日の昼食は、昆布の出汁で作った出汁巻き卵。少しだけ残っていた干し椎茸の出汁も入れてある。
蒸し野菜の胡麻ドレッシングがけに、レタスとトマトのコンソメスープ。
離乳食には、出し巻きと同じ出汁で作ったメフィストもお気に入りの茶碗蒸し。
「どうですか? お米の味」
「うん、初めて食ったけど美味いな! 腹に溜まるのもいい」
「ふふ、そこ重要ですよね」
そう言うと、アレクさんはパクパクとおかずと一緒にお米を頬張っている。オリビアさんが言うには、これで二杯目らしい。ドリューさん達も気に入ってたし、やっぱりお米は需要あるかも。
一応大きな鍋で炊いたけど、足りないだろうなぁ……。
もう一つ炊いておこうかな?
「あと、これもすっげぇ美味い!」
アレクさんがさっきからお替りしているのは、レティスの上にこんもりと盛り付けた鶏の唐揚げ。それにさっきの手作りのタレを絡ませて、上から細かく刻んだ赤いパプリカをトッピングしてある。
「このタレも肉に合うな」
「気に入ってくれました?」
「あぁ! 好きな味!」
よかった……! 口に合うか心配だったけど、すっごく嬉しい!
「ソレ、アレクさんがくれた粒入りのマスタード使ってるんです! ……本当は使わずにとっておこうかと思ったんですけど。今度、マスタードの作り方教えてくださいね!」
そう言って僕も、いただきますと目の前にある大皿からフライドチキンを一つ取りパクリと頬張る。
一口齧ると、練乳の甘味とほのかにくるマスタードの辛み。でもこれくらいならハルトたちも食べれるみたいで、さっきから皆で美味しそうに食べている。
お肉も余熱でじっくり火が通っているから、中は柔らかくて、ジュワッと肉汁が口の中に広がっていく。このタレも美味しいし、なかなか上手く出来たかもしれない!
「……あ、出汁巻きも前より上手に出来たかも!」
違う所と言えば、少しだけ残ってた干し椎茸の出汁も入れたからかな?
「おにぃちゃんのおりょうり、いっつもおいしいよ?」
「嬉しいよ、ありがと!」
「おにぃちゃん、たまご、もいっこ、たべたいです!」
「あ、食べちゃった? 僕のあげるね」
レティちゃんとハルトに自分の出汁巻きを一切れずつ分けていく。
二人には三切ずつ用意したんだけど足りなかったみたいだ。次はもう少し大きめに巻こうかな。
「ん? アレク、食べないのか?」
トーマスさんの声に右を向くと、アレクさんのご飯がさっきから全く減ってない。
「え? あ、いや……」
「ほら、野菜も食べなさい。美味しいから」
「あら、このスープも美味しいわよ。遠慮しないで食べなさいね」
「あ、ありがとうございます……」
トーマスさんとオリビアさんは、アレクさんのお皿にサラダとフライドチキンを盛り、お替りのスープを持ってくる。
「あれくしゃん、だちまきいりゅ?」
「……ハハ! いいよ、ユウマが食べな」
笑いながらユウマの頭を撫でているけど、さっきより元気が無い様な……。そんなアレクさんを見て、トーマスさんとオリビアさんは顔を見合わせる。
「どうした? 腹がいっぱいだったか?」
「あら……、どこか調子悪い?」
「あ、違います! すみません、心配掛けちゃって……」
お二人の心配そうな顔に、アレクさんは困った様に頭を下げた。
「……いや、なんか……。オレ、家族とか縁無かったから……。こういうの、いいなぁと、思って……」
すみません……。
そう言って、美味しいです、とまたご飯を食べ始めた。
「あれくしゃん、きょうはおとまりちなぃの?」
「とまっていけばいいのに」
「おとまり、たのしいです!」
少しだけしんみりとした空気になっちゃったけど、ユウマたちの言葉で少しだけ元気になったみたいだ。
「あ~、朝も言ったけど明日は朝から依頼があるんだ。また今度誘って?」
「しょうなの~? じゃあ、あちたおとまりしゅる?」
ユウマは諦めていないのか、トーマスさんの膝に座りながらアレクさんを見上げている。
「何だよ、ユウマ。そんなにオレに泊まってほしいの?」
「ん! だってねぇ、にぃに、あれくしゃんいるとにこにこちてるの! ねりゅときね、おはなとおてがみ、じゅっとみてるの」
「おにぃちゃん、ねないから、ゆぅくんにしかられてました」
「ハハハ! ユウマに? ホント?」
「~~~……っ! 何で言っちゃうんだよぉ~……!」
まさか本人に言うとは思わなかった……。僕の顔を見て、アレクさんはすっごく楽しそうに笑っている。
「レティちゃん。ユイトの顔、まっ赤だね?」
「うん。でも、うれしそうだから、だいじょうぶ!」
「ハルトくん。いっつもあんな感じ?」
「おにぃちゃん、あれくさんのことかんがえてると、いっつも、うれしそうです!」
ユランくんも僕の事を見て笑ってるし、レティちゃんもハルトも当然とばかりに答えている。
トーマスさんとオリビアさんに助けてもらおうと顔を向けると、なぜか二人とも顔を手で覆っていた。
メフィストは口を開けて、茶碗蒸しが口に運ばれてくるのを待っている。
「……アレク」
「え? はい」
トーマスさんの真剣な声色に、アレクさんだけじゃなく僕たちも思わず背筋を正す。
「……時間がある時は、ここに食べに来なさい……」
「へ?」
「……そうね。私たちも、王都には暫くいるから……。いつでも、いらっしゃい……」
「え、ありがとうございます……!」
アレクさんはやった、と小さな声で僕に笑顔を向けてくる。
う~……! その顔、可愛いですね……!
僕がアレクさんの笑顔にニヤケない様に唇を噛んで我慢していると、レティちゃんが顔を上げて口を開いた。
「おじぃちゃん、だれかくるよ」
「ん? 来客か?」
「そんな予定あったかしら……?」
皆で首を傾げていると、玄関の方からトントンとドアノッカーの音が響いてきた。
「ちょっと出てくるよ」
「ユウマ、こっち」
「ん!」
ユウマをアレクさんに預け、トーマスさんが玄関に様子を見に行く。
暫くすると、話し声と共に僕を呼ぶトーマスさんの声が。
「あら、ユイトくんのお客様みたいね?」
「誰だろう? ちょっと行ってきます」
慌てて玄関に向かうと、そこにはトーマスさんの隣で僕にお辞儀する……、
( ……誰? )
僕も慌てて挨拶をする。
「突然御伺いして申し訳ございません。私、ローレンス商会のシャノンと申します。ネヴィル会長からの使いで参りました」
「ネヴィルさんの? あ、お会い出来る日の確認……、ですか?」
「はい」
そう言うと、その女性はふわりと柔らかな笑みを浮かべた。
*****
「では、二日後の三時課の鐘が鳴る頃に。受付には名前を伝えて頂ければ私が迎えに参りますので」
「はい、ありがとうございます!」
「……本当に迎えは要らないのですか?」
シャノンさんは家の前まで迎えに来ると言ってくれたけど……。
「折角だから、帰りに色々見て回りたいなと思って! お気遣いありがとうございます!」
「そうですね。商会の周辺にも色々な店が並んでいますので、楽しまれるのには丁度いいかと。ネヴィルも私共も、当日楽しみにしております。あちらには商会から連絡致しますのでご心配なく。それでは、失礼致します」
そう柔らかく微笑むと、シャノンさんは商会の馬車に乗って帰っていった。
二日後かぁ……。渡したい物もあるし、レティちゃんとニコラちゃんに手伝ってもらえるか相談だな。
「本当にオレたちも行くんだな……」
「え? ダメでした……?」
「いや、まさかドラゴンも是非なんて言われるとは思わなかったからな」
「よかったですよね! ユランくんも一緒だし、安心しました!」
馬車を断った時に、ふと馬車を牽いたサンプソンが休める場所はあるのかと心配になった。そこでシャノンさんに相談して、実際に見てもらおうと厩舎の方に来てもらったんだけど……。
そこには木陰で休むサンプソンとセバスチャン、他の馬たちと元気に遊ぶドラゴンの姿が。使用人のお兄さん達が大変そうだったけど、どうやら懐いてじゃれているみたい。
シャノンさんもドラゴンを見るのは初めてらしく、会長を説得するので是非! と目を輝かせていた。
「どんな食材見せてくれるんだろ~?」
「明後日が楽しみだな?」
「はい!」
トーマスさんに頭を撫でられながら、ネヴィルさんの集めている食材を勝手に想像してワクワクしてしまう。
( ……そう言えば、ハルトとユウマも、ライアンくんも一緒にって言ってた様な…… )
でも、ライアンくん忙しそうだし、急に二日後なんて言ってもなぁ……。
「……トーマスさん」
「ん? どうした?」
さっきシャノンさんが言っていた言葉を、ふと思い出す。
「シャノンさん、あちらにはって、どこの事言ってるんでしょう……?」
「……そう言えば」
ライアンくんはバージルさんにお願いするって、すごく張り切ってたけど……。
「……お城、とか……?」
「……ハハ、まさか……」
「「有り得るな……」」
トーマスさんと顔を見合わせ、ライアンくんのあの時の様子から、有り得ない事ではないなと妙に納得してしまう。
「……オレから連絡してみるよ」
「……お願いします」
これはまだハルトたちには言わない方がいいなと二人で相談し、リビングへと戻る事に。
……う~ん、何となくあの人が付いてくるんじゃないかと胸騒ぎがする……。
( まぁ、毎日忙しいだろうし、大丈夫だよね! )
「ユイト、行こう」
「あ、はい!」
───そんな僕の予感は、後日、現実のものとなる……。
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