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246 大人のお菓子

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「「おいし~!」」
「ほんとう……? うれしい!」
《 やったぁ~! 》

 ハルトたちがお昼寝から起きて来て、ダイニングで少し遅めのおやつの時間。皆で先程作ったクッキーとホワイトチョコレートを頬張る。メフィストはまだ眠たいのか、僕の腕の中でくしくしと瞼を擦っている。

「この、ちょこちっぷ? あんなに苦かったのに、クッキーと混ぜると美味しいわね!」
「これくらいの甘さならオレもたくさん食べれるな」
《 おとなのおかし…… 》

 オリビアさんとトーマスさんは、チョコチップクッキーを大絶賛。ノアはチョコレートのほろ苦い部分を大人のお菓子だと呟きながらちょびちょびと食べている。う~ん、ノアには少し苦かったかも……。もう少し甘くなるように試作した方がいいかな?
 トーマスさんの言葉にはレティちゃんと二人で一瞬首を傾げたけど、美味しそうに食べてくれているからいっか!

「ほわいとちょこ、とっても、おいしいです!」
「あまくっておぃちぃ!」
《 おいしい~! 》
《 あま~い! 》

 カカオバターで作ったホワイトチョコレートも、甘くて口どけも良くなかなか好評の様だ。皆嬉しそうにゆっくりと味わっている。これならワイアットさんたちも喜んでくれるかも!

「あ、そう言えばトーマス。私とユイトくんに話があるんじゃなかった?」
「あ、そうですよ。言ってましたよね」
「あぁ~……。それがだな……」
「「?」」

 何となく歯切れの悪いトーマスさんに、僕とオリビアさんは首を傾げる。もしかして牧場で何かあったのかな?

「……あのね、さんぷそんとおはなしできたの……」
「え?」
「おはなし……?」
「うん……」

 しばらくの沈黙の後、声を発したのはレティちゃんだった。
 トーマスさんの困った表情を見て、代わりに教えてくれた様だ。その言葉に耳を疑うけど、そんな冗談言う子じゃないし……。

「あのねぇ、ゆぅくんもいっちょにおしゃべりちたの! あえてうれちぃって!」
「さんぷそん! とっても、やさしいです! ほかのおうまさんのこと、おしえてくれました!」
「「ねぇ~!」」

 ハルトとユウマも興奮気味に教えてくれる。オリビアさんと二人でトーマスさんを見ると、黙ったままコクリと頷いた。

「まさかサンプソンとも話せる様になるなんて……」
「オレも驚いたよ……」
「でも梟さんとも話せますし……。不思議ではないのかも……」
「「は?」」
「え?」

 トーマスさんとオリビアさんが呆気に取られたように僕を見る。え? もしかして知らなかった……?

「"森の案内人"とも話せるのか?」
「あ、はい……。教会に行った日の夜に、少しだけ……」

 お休みと言って、すぐに寝てしまったんだけど……。

「そうなの……? だとしたら全ての生き物と会話出来るって事?」
「いや、オレたちが話せたのはサンプソンだけだった。他の馬や牛たちはサンプソンを通じて色々教えてくれたんだ」
「サンプソンを通じて?」
「あぁ。子供たちが会話してるのをハワードとマイヤーに見られてしまってなぁ……。誤魔化すのも変だし、あの家族には子供たちは言葉が分かるって事を言っておいた」
「まぁ、ハワードさんの家族なら大丈夫でしょうけど……」
「そうですね。知っておいてくれた方がいいかも知れないですし」
「それでな、日頃あそこの馬たちが思ってることを代弁させられてな」
「代弁?」
「ハワードたちは馬たちが感謝してる事を知って感激していたよ。こんなに嬉しい事はないってな」
「あぁ~……! だから帰る時にまたよろしくって言ってたんですね?」
「そうなんだ……」

 聞いてみると、次男のローガンさんは仔馬にいつもありがとう、だいすき、と言われて号泣したそうだ。仔馬ってきっと、ズボンを引っ張ってた子だよね……? 僕もちょっと見てみたかった……。

「あぁ、そうだ! ユイト、ソフィアさんから礼を伝えてくれと頼まれたんだ」
「礼? 何のですか?」
「タレの事でローレンス商会からレシピを訊かれたそうだ。ユイトのレシピと一緒に会議に掛けられるらしいぞ?」
「あぁ~! それでかぁ~! 元々タレや醤油ソーヤソースの事を教えてくれたのもソフィアさんですし、礼を言われるほどの事ではないですよ?」

 あのソーヤソースが無かったら他の料理も作れていないし、教えてくれたソフィアさんには感謝感謝だ。

「いやいやいや……」
ローレンス商会よ? この国中の食材を扱ってる商会に、こちらから商品を卸してもらう事はあっても、向こうの会議に掛けられるなんて凄い事なんだから……!」

 オリビアさんに半ば呆れ気味に教えられ、僕もなるほどと納得。だとしたら、王都に行ったときにローレンス商会に行くのは凄い事なのでは……? そんな事言われたら、ちょっと緊張してきたな……。
 その事を伝えると、トーマスさんもオリビアさんもまた深い溜息。

「おにぃちゃん、おいしいしょくざい、あるかなぁ……?」

 レティちゃんには王都に行ったら、僕の食材探しを手伝ってもらう。それを思い出してソワソワしているみたい。お菓子作りも楽しそうだったし、お菓子に使う良い食材が見つかればいいなぁ~!

「ぼく、つなおにぎり、たべたいです!」
「ゆぅくんも~! ちゅなたべた~ぃ!」

 ハルトとユウマはツナのおにぎりが食べたいみたい。海の食材はなかなか手に入らないって聞いたけど、せっかくだしネヴィルさんの商会で相談してみよう!

「ふふ、うん。皆で一緒にネヴィルさんに訊いてみようね」
「「「うん!」」」
「あぅ~?」
「メフィストも美味しく食べれる食材が無いか、探してみようね?」
「あ~ぃ!」

 これからメフィストの離乳食も食べれるものが増えるし、栄養が採れて美味しい食材を見つけなきゃ! 頑張るぞ~!


「ユイト……、また違うこと考えてるな……」
「しょうがないわよ……。ユイトくんだもの……」
「それもそうか……」

「トーマスさんもオリビアさんも、王都に行くの楽しみですね!」
「そうだな」
「ふふ、いっぱい楽しみましょうね?」
「はい!」

 王都に行ったら、やる事もいっぱいあるし、アレクさんにも会えるかもしれない……! そんな事を考えていると、オリビアさんに顔がにやけてるわよ、と笑われてしまった。

「あぁ、そうだ! 王都への護衛は、ブレンダとドリューたちに指名依頼を出しておいたから」
「え~! ホントですか!?」
「ぶれんだちゃん! どりゅーさんも! いっしょに、おでかけですか?」
「ゆぅくん、たのちみ!」
「わたしも!」
「あ~ぃ!」
「何だ何だ、人気だな……?」

 王都への道中、トーマスさんの魔法鞄マジックバッグの事を知っているパーティに依頼しようとしていたんだけど、残念ながらダンジョン攻略? という物に挑戦中らしい。
 そこでブレンダさんとドリューさんたちのパーティに白羽の矢が立った様だ。あのパーティの人たち、皆さん優しそうだったから、一緒ならハルトもユウマも楽しいだろうな~! あ、でもそれだと……。

「トーマスさん、料理は予めたくさん作っておいた方が良さそうですね?」
「あぁ……! そうだった……!」
「ふふ、ブレンダちゃんもドリューさんたちのパーティもたくさん食べるものね? 途中で買い足さなきゃ足りないかも」
「ブレンダのマジックバッグに半分入れてもらおう……」
「あはは! それもありかも知れないですね」

 レティちゃんとメフィストの事で不安になっていた王都も、今は楽しむ事だけ考えよう。

「あ……!」
「ん? ユイト、どうした?」
「何かあった?」
「王都に行く時、ノアたちも一緒に行くんですよね?」
「あぁ、そうだったな」
「姿を消してって約束したものね」
「それなんですけど……。梟さん、置いて行ったら拗ねないですかね……?」
「「あ……」」

 庭の木が森に繋がった時も、扉が小さすぎてこっちに来れないと寂しそうだったし……。一人(一羽?)になったら寂しがるんじゃないかな……。

《 え~? いっしょにいくんじゃないの~? 》
《 ついていくっていってた~! 》
《 ゆいとがしんぱいだって~! 》

 ノアたちの話を聞くと、どうやら梟さんは元から付いてくる気満々だった様で……。しかも僕が心配って……。

「あら、梟さんも分かってるじゃない」
「案内人にも心配されてるのか……」

 梟さんの言葉に頷くオリビアさんたちに少し傷付いたけど、家族皆で出掛けるんだし……! どうせならたくさんいた方が楽しいもんね?
 明日もイドリスさんの家に泊まりに行くし、予定を楽しまなきゃ!
 僕は気を取り直し、チョコチップクッキーを頬張った。
 うん! すっごく美味しい!




「おにぃちゃん、みんなにしんぱいされてる……」
「ぼくも、しんぱいです……」
「ゆぅくんもねぇ、ちょっとちんぱぃ……」
「みんなできをつけよ……?」
「「うん……!」」
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