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229 世間は狭い

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「これで何作ろうかなぁ~?」

 ジェフリーさんにお土産で貰った大量のさつまいもスイートパタータ
 
《 あまいの~? おやつ? 》
「おやつもいいけど、ご飯にも合うんだよ」
《 そうなの? あまいのに~? 》

 教会からの帰り道、ノアを肩に乗せのんびり喋りながらヴァル爺さんのお店まで歩いて行く。誰か来たら姿を消すという約束もしていたんだけど、ほとんど誰ともすれ違わなかった。
 あまいのにごはん~、と不思議がるノアに笑いながら、レシピを頭の中で巡らせる。

「あ、そろそろお店だね。ノア、家に着くまで姿を見せちゃダメだよ?」
《 うん! わかった! 》

 一瞬のうちに姿が消えるけど、僕の肩にはノアが座っている。振動を与えない様に、なるべくゆっくり歩かないと。

「ヴァル爺さん、戻りました~!」
「お、来たか!」
「あれ?」
「お?」

 お店の扉を開けると、そこには見知った顔が。

「メイソンさん? 何でいるんですか……?」

 鍛冶屋のメイソンさん。ちなみに、ユウマの未来の師匠になる人だ。
 お互いに顔を見合わせビックリ。

「オレはお義父さんの顔を見に……。ユイトくんこそ、珍しいな……?」

 お、お義父さん……!? 大柄なメイソンさんと、小柄なヴァル爺さん。とってもチグハグに見えるけど家族なの……?
 聞くと、どうやらヴァル爺さんの娘さんの旦那さんがメイソンさんらしい。まさかこんな所で繋がっているなんて、世間は狭いなぁ~。

「ユイトくんは休みだったのか?」
「はい! たまにはこっち側も散策してみたらと言われて。そしたらアイザックさんが、このお店をオススメしてくれました!」
「そうか。何か気に入ったものはあったか?」
「はい! すっごく気になる物が!」
「気になる物?」

 メイソンさんも興味があったのか、僕の買った物を眺めている。ヴァル爺さんが作ったというレンジと、ミキサー、それにレティちゃんが好きそうなクッキーの型!
 レンジを見ると、メイソンさんもこれは? と首を傾げている。

「冷めた料理を温めたり、簡単な料理だったら出来ちゃうんですよ」
「ほぅ……! 凄いな……!」

 何て、まだ使ってもいないんだけどね。あ、そうだ。

「ヴァル爺さん、食べたい料理は決まりましたか?」
「ん~~~、それがまだなんじゃ~~~! 悩んでての? メイソン、儂が好きそうな料理、何かあるか?」
「お義父さんの気に入る様な料理ですか? そうですね……。ユイトくんの料理は全部旨いからな……」
「なんじゃ! 食べた事あるのか!」

 ズルい! と何故かメイソンさんに言い寄るヴァル爺さん。仲がいいなぁ……。

「お義父さんが好きな物は……。酒に、肉……。あとは?」
「いや、自分でもそれしか思い浮かばん……」
「お酒好きなんですか? ならお酒のあてになりそうな料理作りましょうか?」
「ホントか? 嬉しいのぅ~!」

 どうやらお酒が好きみたい。酒屋のジェームズさんと気が合いそうだ。
 ジェームズさんも好きな鶏もつ煮込み、あとは角煮とかすじ煮込み……。出し巻きもいいかも。唐揚げと焼き鳥は絶対だよね。トーマスさんの好きなアヒージョ? ご飯物だったらガーリックライスに、釜飯みたいなのもいいかな。魚介類があれば色々出来るんだけどな。あ、餃子もいいかも! 皮は手作りしなきゃ。でも野菜もちゃんと食べてほしいし……。

「おい、ユイトくんはどうしたんじゃ……?」
「いや、たまにこうなると聞いた事はあるんですが……」

 お二人のヒソヒソと話す声も聞こえずに、僕はお酒に合うような料理を考える。
 だけど僕、まだ飲めないからなぁ~。想像するしかないんだけど。

「ユイトくん、そろそろ帰らなくていいのか?」
「ハッ……! そうだった!」
「帰るにしても、凄い荷物になりそうじゃが……」

 メイソンさんとヴァル爺さんに言われてはた、と確認すると、自分の左手には大量に貰ったスイートパタータ。クッキーの型は袋に入るとしても、預かってもらっていたレンジにミキサーは結構な大きさと重さだ。
 しまったな……。浮かれて考えてなかった……。
 すると、そんな僕を見てメイソンさんが笑いながら頭をワシワシと撫でてくる。

「オレも帰るからな。一緒に運んで行こう」
「え、いいんですか……?」
「あぁ、遠慮するな」
「あ、ありがとうございます! すっごく助かります!」

 思わぬ助け船に、僕は全力でお礼を言う。ヴァル爺さんはもう少ししたら家に帰るそうなので、今日はここでお別れ。レンジのお礼を伝え、次にお店を開ける時はメイソンさんに伝えてくれるらしい。これで僕もまた買い物が出来る! まだ他にも気になる物があるんだよね!

「今度来る時に、お礼の料理を持ってきますね!」
「あぁ! 楽しみにしとるよ!」

 店の外まで見送ってくれるヴァル爺さんに改めてお礼を伝え、メイソンさんと二人でお喋りしながら帰路に就く。
 メイソンさんは元々、ヴァル爺さんの工房で働いていたらしい。そこで今は亡くなってしまった奥さんと恋人になって、結婚を機に独立したんだって。だからあんな風に仲が良かったのか。
 どうやらもうすぐお孫さんが産まれると。出産予定日が近付いてきたから、メイソンさんは落ち着かないみたいだ。

「産まれたら、うちの孫とも仲良くしてやってくれるかい?」
「はい! もちろんです!」

 メイソンさんのお孫さん。どんな子に育つかな? メイソンさんがいい人だからな~! あ、ヴァル爺さんも初めて会った僕が心配するくらいのお人好しだし、二人の性格って似てるかも……? もしかしたらメイソンさんの奥さんも、そういう所も含めて好きだったのかも……。
 そんな事を考えつつ、僕はメイソンさんと一緒に家へと向かった。





*****

「あぁ~っ! めぃしょんしゃん! どぅちてぇ~?」

 メイソンさんに荷物を家まで運んでもらうと、会えたのが余程嬉しかったのか、ユウマが勢いよく飛びついた。
 オリビアさんとレティちゃんはおかえりと言いながらも、僕の方をチラチラと気にしていたけど……。いない間に何かあったのかな?

「おぉ! ユウマは今日も元気だなぁ~! ユイトくんの荷物がいっぱいだったから一緒に運んだんだよ」
「しょうなの~? ありぁと、ごじゃぃましゅ!」

 ぺこりと頭を下げてお礼を伝えるユウマに、メイソンさんは優しい表情を浮かべている。
 すると、丁度そこにトーマスさんとハルトも帰って来た。

「あぁ~っ! めいそんさん! どうして~?」

 ユウマと同じ事を言うハルトに、メイソンさんも僕も思わず笑ってしまう。

「メイソン、丁度良かった! 明日ハルト用に弓を買いに行きたいんだが」
「弓? 剣じゃなくてか?」
「あぁ。どうやら弓が得意な様でな……。家で練習したいと言うもんだから……」
「ハハ! そうか! ならハルトにピッタリの弓を用意しないとな」
「わぁ! ぼく、たのしみです!」

 嬉しそうに飛び跳ねるハルトとは別に、トーマスさんも僕の方をチラチラと……。
 どうしたんだろう?

 メイソンさんが帰宅すると、オリビアさんとトーマスさんが僕にずずいっと迫ってくる。

「え? え? ど、どうしたんですか……?」

 戸惑っている僕を見て、お二人は口を合わせてこう言った。

「「ユイト(くん)、一体何したんだ(の)!?」

 
 お二人のあまりの慌て振りに、僕も呆気に取られてしまう……。

 え? 僕、何かしたっけ……?

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