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223 再会
しおりを挟むドワーフのヴァル爺さんのお店で、電子レンジに近い商品をご好意で手に入れることが出来た。
因みにヴァル爺さんと呼んでくれと本人からの要望もあり、遠慮なくそう呼ばせてもらう事にした。
店内にはまだまだ欲しい物がたくさんあり、今回は予算内で買えるクッキーの型抜き数種類と、ミキサーを購入。
型抜きはレティちゃんが気に入ってくれそうな可愛い物ばかり。
今日もクッキーを作ってたし、使ってくれるといいな。
ミキサーは以前、青果店のおばさんの所にあったものと同じ物を発見。ミキサーにもジューサーにもなる、お買い得商品だ。
これがあれば、メフィストの離乳食作りももっと早く出来るな~!
あと、氷もバリバリ砕くから、取り扱いには十分気を付けなさいとの事。
ハルトたちに触らない様に言っておかなきゃ……!
時間があるので世間話をしていると、どうやらヴァル爺さんは西側にある隣のエルタル村に住んでいるそうで、お店を開けるのは二週間か三週間に一度らしい。
じゃあ今日は、アイザックさんが教えてくれなかったら、この電子レンジの存在を知らなかったって事になるのか……。
アイザックさんには感謝しかないな……。
今日は僕の働くお店が定休日で、この後も村の散策に行くという話をすると、僕が帰るまで商品をお店で預かっていてくれると言う。
さっき出会ったばかりなのに、ヴァル爺さんがお人好し過ぎて心配になってしまう。
「あ、そうだ! ヴァル爺さんの好物とかありますか?」
「儂の好物?」
「はい! 折角使わせてもらうので、お礼に料理を作ろうかなと思って!」
「ほほ~! 嬉しいの~! そんな事言ってくれるのは孫娘くらいじゃ!」
その喜び様に僕も嬉しくなってしまう。これは美味しいもの作らなきゃ! 何が食べたいか、考えておいてくださいね! と言って、ヴァル爺さんのお店を後にした。
*****
「ん~、この辺りはお店ってあんまりないのかな……?」
ポカポカとお日様に照らされて、今日は散歩日和だ。
だけど、歩けども歩けども、周りは民家ばかり……。
良い物が手に入ったし、まぁいっか、とのんびり歩いていると、三時課の鐘が聞こえて来た。
「あ! 教会!」
そうだ、教会に行こう……!
この村に来てから、まだ一度も女神様にお礼を伝えていないし、そこで孤児院もやっていると聞いた。それに、ステラさんの実家だから安心だし……。
急に行っても大丈夫かな? けど、村の人も礼拝に行ったりするよね……? まぁ、ダメだったら帰ればいっか!
よし! 教会に行ってみよう! 僕は早速、次の目的地に向かって足を進めた。
*****
「あ、ここかぁ……」
緩やかな坂道を上り、丘の上までやって来ると、漸く目的地が見えて来た。
意気揚々と向かったはいいが、教会が何処にあるのか分からず……。
結局、通り掛かりの人に道を尋ね、やっと教会に到着したのだった。
そして僕は、周りに誰も居ないことを確認し、自分の肩に向かって話し掛ける。
「ノア……? 絶っっっ対に、姿を見せちゃダメだからね……?」
そう小さく呟くと、頬にノアが引っ付く感触が。これは、分かったって事でいいのかな? まさか、姿を消して家から付いて来てるなんて誰も思わないもんなぁ……。
僕が教会を探している途中で、視線の先にキラキラと光るものを見つけた。
見覚えのある光り方に、まさかな、と思いつつ……。
誰にも聞こえない程度の大きさで声を掛けてみたら、何と見事に正解。
嬉しそうに僕の頬に引っ付いてくるノアを見て、結局は姿を見せないことを約束させて一緒にお出掛けだ。
人差し指で、そこにいるであろうノアをそっと撫でると、ぎゅっと頬に引っ付く力が強くなった。可愛いから、あんまり強く怒れないんだよなぁ……。反省……。
周りには民家はなく、丘の上には教会と、その裏に孤児院らしき建物が建っていた。
どこからお祈り出来るんだろうとそっと教会に近付いてみると、丁度中から牧師らしき男性が出てきた。
「あっ! おはようございます……!」
「おはようございます。礼拝でしょうか?」
優し気に微笑む男性の顔を見ると、何でも相談したくなっちゃうような不思議な雰囲気が……。
「あ、はい……! 初めて来たんですけど、入っても大丈夫でしょうか……?」
「えぇ、大丈夫ですよ。こちらへどうぞ」
「はい……! ありがとうございます!」
男性の後ろをついて教会の中に入ると、中には数人の人が礼拝をしていた。
「お好きな席にどうぞ。ゆっくりしていってください」
「あ、ありがとうございます……」
お祈りの邪魔にならない様に、小さな声で礼を伝える。
そして空いている席に座り、ホッと一息。
( 綺麗だなぁ…… )
太陽に照らされて、天窓からは優しくて柔らかい光が教会の中を照らしている。
ポカポカとした穏やかな空間に、不思議な心地良さを感じた。
( 女神様にお礼……。お祈りしたら届くかな……? )
助けてもらってから二ヶ月が経とうとしている。
ここに来てから、色々あったな……。
何から伝えればいいか分からないけど、僕たち兄弟を助けて頂いた事。本当に、心から感謝しています。
どうか、女神様に伝わります様に……。
目を瞑り胸の前で両手を重ね、女神様に祈りを捧げる。
暫くすると、どこからかふわりと心地よい風が吹いて来た。
あったかくて、気持ちいい……。
そんな事を頭の隅で思いながらも、僕はお礼を伝える為に祈りを捧げた。
『──お久し振りですね』
「え?」
声が聞こえたと思った瞬間、僕の目の前には、あの時助けてくれた女神様が優しく微笑んでいた。
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