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200 容赦ない歓迎
しおりを挟む「……え?」
青白い光に包まれたと思った瞬間、一瞬の浮遊感。
ぎゅっと閉じた瞼の向こうで、光が収まる気配がする。
恐る恐る目を開けると、そこは木々が生い茂る森の中……。
僕の周りでは、トーマスさんやオリビアさんたちも呆けた様に立ち尽くしている。
フレッドさんとサイラスさんは、ライアンくんを守る様に辺りを見渡し、ホッと胸を撫で下ろしていた。
「めふぃくん……! まりょく、ながしちゃだめ……!」
「ぷぅ~!」
「ぷぅじゃ、ないの……!」
魔法陣を発動したレティちゃんは、トーマスさんに抱っこされるメフィストを見上げ、もう! と頬を膨らませてお説教している様なんだけど……。
「レティ……? メフィストが魔力を流したって……?」
「本当なの……?」
レティちゃんの会話の内容に信じられないという表情を浮かべる周囲を知ってか知らずか、頬を膨らませたままレティちゃんはこくんと頷く。
「めふぃくん、かってにながしたの……!」
「やぁ~!」
「あぶないでしょ……!」
あの時魔法陣が広がったのは、どうやらメフィストが勝手に魔力を流したという事なんだけど……。
トーマスさんに隠れる様にメフィストが愚図る様子を見ると、どうやら本当らしい……。
こんな赤ちゃんなのに、魔法が使えるって事……?
「めふぃくん、きゅうにおおきくしたら、びっくりするでしょ……!」
「うぅ~……」
「もう……! めふぃくんも、ひとよりおおいんだから……!」
「あぶぅ~……」
メフィストの反省した様子を見て、レティちゃんはしょうがないなぁと肩を竦める。
僕たちには何が何だか分からないんだけど……。
オリビアさんもトーマスさんも、ポカンとしたまま顔を見合わせていた。
「レティちゃん……。ここに来ればあの子たち、村には行かない……?」
「あっ……!」
キースさんが申し訳なさそうに眉を下げてレティちゃんに問いかけると、レティちゃんは忘れていたという顔をして焦りだした。
「そのこに、ここにいるって、ないてもらって……!」
「ここで……?」
「うん……!」
キースさんの腕を掴み、はやく! と急かしている。
「アドルフ……、皆に知らせてくれる……?」
「ワフッ!」
アドルフは体をブルルと震わせた後、スッと上を向き……、
アオォオオ──────ン……
一際大きな声で、遠くにいる仲間に知らせる様に声を上げた。
さっきも聞いたけど、やっぱり森の中だと余計に響くのかもしれない。
一際大きな声が、まるで波紋を描く様に僕たちの身体にビリビリと振動していく。
レティちゃんは静かに目を瞑り、まるで周囲を検索している様だ。
僕たちが固唾を飲んで見守る中、やっと笑みを浮かべ口を開いた。
「……うん、さいしょのこたち、こっちにむかってる……。もう、だいじょうぶ……!」
「ほ、本当……!?」
レティちゃんの言葉を聞いた途端、キースさんはへなへなと地面に座り込んだ。
こっちに向かっていると聞いて、力が抜けたみたいだ。
アドルフが駆け寄り、心配そうにキースさんの顔を舐めている。
「れてぃちゃん、いっぱい、きますか?」
「あどりゅふのおともらち、たべてくれりゅかなぁ?」
ハルトとユウマは両手で持つ大きなお皿を見ながら、不安そうに質問している。
頑張って作ったお礼のお菓子、喜んでほしいもんね。
「きっと、大丈夫……。あの子たち、食べたいってずっとごねてたから……」
キースさんにもやっと笑みが戻り、僕もオリビアさんもホッと一安心。
さっきまで本当に真っ青だったから、心配だったんだ。
「アドルフ……、もう嬉しくても、叫んじゃだめだよ……?」
「クゥ~ン……」
「皆に迷惑、掛けるんだからね……?」
アドルフはキースさんに叱られしょんぼりとしながらも、僕たちの方にとぼとぼと近寄ってくる。
そして、僕とハルト、ユウマ、レティちゃんの頬をぺろぺろと舐めていく。
ライアンくんに近付くと、さすがにフレッドさんたちに警戒されていたけど、ハルトとユウマが傍に立つとぺろりとライアンくんの頬を舐めた。
ライアンくんは凄いです……! と興奮中。
それを見たメフィストが自分も、と言う様に手足をパタパタさせると、アドルフは後ろ足で立ち、トーマスさんの腕に抱えられたメフィストを大きな舌でぺろりと舐めた。
メフィストぐらいなら一飲み出来そうなくらいに大きな口。
きゃぁ~と手を叩いてはしゃぐメフィストに、トーマスさんの顔はこれでもかとデレデレだ。
「おにぃちゃん、もうすぐ、つくみたい……」
「えっ? もう!?」
その言葉に、子供たちはそわそわとし始めた。
レティちゃんが言うには、ここは村から一番近くにある森の中。
という事は、ハワードさんの牧場のすぐ近く……?
本当にギリギリだったんだな……!
慌ててお菓子や料理を盛ったお皿を下に置き、アーロさんとディーンさんにも手伝ってもらってアドルフの仲間のわんちゃんたちを迎える準備。
アーロさんたちの両手でも溢れるくらいに料理を盛ってきたんだけど、これだけだと足りない気がしてきた……。
ふと隣を見ると、トーマスさんたちが真剣な表情で森の奥を見つめているのに気付く。
同じ様に耳を澄ませると、森の奥から何かが草を踏みしめ駆けてくる音が。
「あっ……! きた……!」
レティちゃんの指差す方を僕とハルト、ユウマが一斉に振り返ると、
「バウッ!」
「ガウッ!」
「ワフッ!」
大きな灰色の塊が三つ、アドルフに向かって凄い速さで飛び込んできた。
そのままアドルフに突っ込み、一緒にもみくちゃになりながらごろごろと土埃を上げ転がっていく。
「あ、アドルフの弟と妹たちだね……」
「弟と、妹……?」
群れと言うから番かなと思っていたんだけど、どうやらアドルフの弟妹たちらしい。
皆でアドルフに噛み付きながらじゃれ合っている……? のか……?
迫力がありすぎて判断が……。
だけど、キースさんが何て事ない様に言っているから大丈夫なんだろう。
「みんな、かわいいです……!」
「ふわふわ……!」
「あぃ~!」
ごろごろと転がりじゃれつく? 四頭を見てみると、アドルフよりも少しだけ小さいけど、どの子も灰色で尻尾をブンブンと振り回している。
ハルトがキースさんのローブを少しだけ引っ張り、おれいがいいたい、とお願いしている。
それに優しく微笑み、キースさんはピュイッと口笛を吹いた。
「みんな……! こっちにおいで……!」
耳をピンと立て、アドルフたちはすぐに駆け寄ってくる。
ハッハッと舌を出しながら尻尾を振る姿は、どこからどう見てもかわいい大型犬だ。
……ちょっと僕の知る大型犬よりは大きいけど。
「ハルトくん、ユウマくん、こわくないからね……」
「はい! ありがとう、ございます!」
「ありぁと、ごじゃぃましゅ!」
キースさんにアドルフたちを集めてもらうと、ハルトとユウマ、メフィストにライアンくんも、目がキラキラとして興奮しているのが伝わってくる。
いつの間にか姿を見せたウェンディちゃんも、ライアンくんの髪にしがみ付きながらグレートウルフの迫力に興奮している様だ。
突然現れた妖精に、キースさんは声を失って僕の腕を凄い力で握り締めている。
そんなに力強かったんですね、キースさん……。
ハルトとユウマの何倍もの体格を持つグレートウルフ。
だけど目は皆、とっても穏やかで優しそう。
「みんな、あのとき、たすけてくれて、ありがとう、ございます!」
「ありぁと、ごじゃぃましゅ!」
ハルトとユウマの言葉を、どうやらちゃんと聞いてくれているらしい。
四頭はじっと二人の事を見つめている。
「おれいに、たくさん、おかしを、つくりました!」
「とっても、おぃちぃの!」
「みんなで、たべて、ください!」
「たべて、くだしゃぃ!」
二人がぺこりと頭を下げると、アドルフ以外の三頭はソワソワとしながらにじり寄ってくる。
先程とは違い、まるで獲物を見つけたみたいに目がギラギラとしている。
「あ、おかわりも、あります!」
「いっぱぃ、ありゅの!」
二人がどうぞ、とお皿を近付けた途端、我先にと奪い合う様にガツガツと食べ始めるアドルフの弟と妹たち。
その迫力はさながら戦闘中の様……。
アドルフはそんな三頭の姿を尻尾をゆらゆらしながら優しい眼差しで見守っている様だ。
そういう所はお兄ちゃんなんだなぁ……。
「もう……、仲良く食べなよ……」
ドキドキしている僕たちとは裏腹に、キースさんはハァ……、と呆れた様に溜息を吐いた。
「おいしい、ですか?」
「まだありゅよ!」
にこにことグレートウルフたちの迫力満点の食事姿を眺めている二人に、三頭のうちの一頭がトットッと近付いてくる。
他の二頭よりも少し小さく、目元もどこかおっとりしていそう……。
その子がハルトとユウマの匂いをひとしきり嗅ぐと、大きな舌でべろりと二人の頬を舐め始めた。
その様子を見て、食事に夢中になっていた二頭も足早に近付き匂いを嗅ぐと、べろりべろりと舐めだした。
「あぁ~……、二人とも……」
「顔が涎まみれね……」
きゃあきゃあとはしゃぐ二人を余所に、トーマスさんとオリビアさんは涎でぐっちょりの二人を見て苦笑い。
メフィストとライアンくんは涎まみれの二人を見ながら、どこか羨ましそうにしている。
だけどハルトとユウマの姿を見ているせいか、フレッドさんはライアンくんをしっかりと掴まえている様だ。
レティちゃんはオリビアさんに貰ったワンピースを汚したくないのか、オリビアさんの後ろにそっと隠れている。
「ふふ! くすぐったいです!」
「にぃに~! たちゅけてぇ~!」
ユウマのたすけての声に慌てて駆け寄ると、余程舐められるのがくすぐったいのか、笑いながら僕に手を伸ばした。
「「「ワフッ!!!」」」
すると、近付いた僕にも三頭の容赦ないぺろぺろの刑が……!
「うわぁ~~! 擽ったい! でも……、かわいぃ~~!!」
ちょっとだけ獣臭いけど、ふわふわした毛並みと可愛い目にやられてしまい、僕たちは三頭の歓迎をキースさんが止めに入るまでたっぷり受けたのだった。
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