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197 余った魔力の使い方

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「てんい……、する?」

 ソワソワとした様子で僕とキースさんを見上げるレティちゃん。
 どうやら自分も役に立ちたいらしい……。
 確かに許可なく勝手に魔法陣は使ってないけど……! だけど……!

「レティちゃん……、またオリビアさんたちが心配するよ?」

 転移の魔法陣は、魔力をかなり消耗するって聞いた。
 初めて会った時みたいに、弱っている姿はもう見たくない……。
 僕の言葉にレティちゃんはワンピースの裾を握り締め肩をシュンとさせるが、その顔は何か言いたげだ。

「ん……。でもね、まりょくつかわないと、からだにたまって、きもちわるくなっちゃうの……」
「体に溜まる……?」
「うん……」

 魔力が溜まる……。魔力酔い……、って事?
 思わずキースさんの方を向くと、困った様に眉を下げてコクンと頷いた。

「この子……、なんて言うか……、普通の人よりも、多いから……」
「え……?」

 キースさんはレティちゃんを見つめ、呟く様に口を開いた。
 多いって、魔力の事……?
 どうしてそんな事が分かるんだろう……?

 そんな僕の考えが顔に出ていたのか、疑問に答える様にキースさんは静かに笑った。

「ごめんね……? ぼくも、魔力が見えるんだ……」
「そうなんですか……?」
「ぼくは、ある程度近付かないと、分からないんだけど……」

 レティちゃんもそうだけど、魔族の人たちって皆、魔力が見えるのかな……?
 その割にはキースさんは申し訳なさそうに僕を見つめている。
 その様子にハルトとユウマも、アドルフを撫でながら首を傾げている。
 僕たちは魔力とか分からないからなぁ……。
 オーラとかそんな感じ……?

「あら、どうしたの? 皆そんな深刻な顔して~?」

 僕たちがお肉も食べずに話し合ってるのを不思議に感じたのだろう。
 にこにこと笑みを浮かべたオリビアさんが近付いてきた。
 その両手には、お皿いっぱいに焼いたお肉や野菜がこんもりと……。

「はい! これはキースくんの分ね! 早く食べないと皆スゴイ勢いで食べてるわよ?」

 そう言って後ろを振り向くと、バーベキューコンロの前にはダリウスさんやオーウェンさんたちがバクバクと焼いてくれたお肉を片っ端から食べて……、いや、群がっている……、と言った方が正しいのかもしれない……。
 汗だくでお肉を焼いてくれているイドリスさんとギデオンさんが、まるで屋台の店主さんの様に見えてきてしまう……。
 だけど、すっごくいい笑顔で焼いてくれてるな……。
 屋台が似合うギルドマスター……、いいんじゃないかな?

「わ、わざわざ……、すみません……」
「いいえ~! 久々に来たんだからお腹いっぱい食べて行ってね! もちろんアドルフもよ~?」
「はい……! ありがとうございます……!」
「ワフッ!」

 どうやらオリビアさんは、遅れてきたキースさんの為に美味しそうなお肉を選んできたらしい。
 他にもアドルフにも食べられそうなお肉や料理を持って来てくれた様で、アドルフの尻尾が凄い速さで揺れている。
 お皿を受け取ったキースさんは、嬉しそうにオリビアさんにぺこりと頭を下げる。

「オリビアさん……、ちょっと聞いてほしい事があるんですけど……」
「あら、なぁに?」

 僕の傍にいたレティちゃんの頭を撫でながら、オリビアさんは優しい笑みを向けてくれる。
 レティちゃんは撫でられるのが気持ちいいのか目を細めながらも、オリビアさんが許してくれるか様子を窺っている様で、チラチラと僕とオリビアさんを見上げていた。

「それが……。アドルフが仲間の子たちに、ここに来るって自慢しちゃったみたいで……」
「自慢? まぁ~! そんな事したの~? アドルフ~?」
「ワフッ!」

 オリビアさんは自慢したと聞いて、笑いながらアドルフを撫でている。
 やっぱり、信じられないよなぁ……。
 当の本人? アドルフはと言うと、オリビアさんに撫でられうっとりしているけど……。

「自慢するくらい気に入ってもらえて嬉しいわ! だけど……、それが何か問題なの?」
「はい……」

 僕はチラリとキースさんを見つめると、実は……、と申し訳なさそうにキースさんが口を開いた。

「仲間の子たちも……、ここの料理を食べたいって、言い出しちゃって……」
「あらぁ~……!」

 さすがにそれは予想外だったのか、オリビアさんは目を丸くして驚いている。
 だけど、ここに来たときのシュンとしたアドルフの様子を思い出したのか、なるほどねと納得した様だった。

「それなら今朝、ハルトちゃんとユウマちゃんたちがお礼用にって頑張って作ってたじゃない! あれは?」

 ウェンディちゃん用のお菓子や蒸しパンの他にも、アドルフたちでも食べれる様に、前にも作った野菜入りのパンケーキ、鶏肉で作ったジャーキーにと色々作ってみた。

「はい、丁度タイミングが良かったんですけど、持って行くのにどうしようかっていう話になって……」
「あぁ、確かにねぇ。荷馬車を借りて近くまで行っても、森の中を歩いて持って行くのも大変よねぇ……」

 トーマスの魔法鞄マジックバッグは? とオリビアさんにそっと耳打ちされたけど、魔法鞄はなるべく人目に付かない様にしたいし……。

「それで……、レティちゃんが手伝うって言ってくれてるんですけど……」
「レティちゃんが?」

 オリビアさんは意外だと言う様にレティちゃんを振り返る。

「また魔法使おうとしてるの~?」

 そう言ってオリビアさんは、レティちゃんの頬をうりうりと触りだした。
 まるで、困った子ねぇとでも言う様に。
 レティちゃんは擽ったそうにしているけど、怒られなくてホッとしている様だ。

「あのね、まりょくたまると、きもちわるくなっちゃうの……」
「魔力が溜まると……? そうなの……?」

 レティちゃんはこくんと頷き、縋る様な目でオリビアさんを見つめている。
 その眼差しにオリビアさんはクッ……、と胸を押さえているけど何とか持ち堪えている……。

「おばぁちゃん、まほう……、つかってもい……?」

 レティちゃんは首をこてんと傾げ、ユウマと同じおねだりをしている。
 ユウマのおねだりも可愛いけど、レティちゃんの場合は陽の光に銀色の髪がキラキラと照らされて、まるで妖精みたいに儚げで……。
 その可憐さに、オリビアさんは早くも折れそうだ……。

「う~ん……。でも、レティちゃんの場合はまだ体力も万全ってわけじゃないでしょう? それが心配なのよ~……」
「……でも、まえよりうごけるよ……?」
「そうねぇ……。でも、どうやってお手伝いするの?」
「ん、てんい、とくいなの……! じゅうにんくらいなら、はこべる……!」
「じゅっ……!?」

 その言葉にオリビアさんは目を見開いて黙ってしまう。

「ハァ……、何か衝撃的な事を聞いちゃったけど……。転移魔法は使っても、レティちゃんの体は平気なの?」
「うん……! だってね、まりょくからだじゅうにいっぱいなの……! あまってるのをつかうから、へいきなの……!」
「ん~~~……」

 するとオリビアさんは、レティちゃんの言葉を聞いて何かを考えている様子。

「じゃあ……、心配だから私も一緒について行くわ!」
「え?」
「それが魔法を使う条件よ? 何があるか分からないし、気が気じゃないもの~!」

 そう言うと、オリビアさんはレティちゃんをぎゅうっと抱き寄せる。 
 もっと渋られるかと思っていたけど、思いの外すんなりいってしまった。

「じゃあ、てんい、つかってもいいの……?」
「えぇ! でもムリはしちゃダメよ? 先ずはなるべく近い場所でね?」
「うん……! おばぁちゃん、ありがとう……!」

 レティちゃんは喜びを抑えきれない様に、オリビアさんに抱き着いた。
 オリビアさんの顔がとっても満足そう……。

「でも……、誰と誰が行くの?」
「えっと、まずはキースさんとアドルフ。レティちゃんとオリビアさんですね。後はお礼を伝えるのにハルトとユウマ……」
「それだけでアドルフを入れて六人? それにユイトくんもでしょう? 料理も大量だからこれが限界じゃない?」
「でも、メフィストがまた拗ねたりしないでしょうか……?」 
「あぁ~、そうね……! またご機嫌斜めになっちゃうわねぇ……」

 お店の前で男の人が暴れたときも、皆が外に行ってしまってフレッドさんと冒険者さんたちに愚図ってたみたいだし……。

「めふぃくんと、らいあんくんも、いっしょがいいです!」
「うぇんでぃちゃんも! いっちょ!」
「ライアンくんが行くとなると、必然的にフレッドさんとサイラスさんは一緒に行かないといけないですよね?」
「子供たちが全員行くとなると、トーマスも行くって言いだしそうで怖いわぁ~……。それだと、オーバーしちゃうものねぇ……」

 そうなると、トーマスさんは絶対来そうだなぁ……。

「「どうしよう……」」

 僕とオリビアさんが頭を痛めていると、キースさんが僕の肩をポンと叩いた。

「ぼくとアドルフ、歩いて行くよ……?」
「えぇ~? ダメですよ~! キースさんとアドルフがいないと僕たち行っても何も出来ないですよ?」

 遠慮してくれたんだろうけど、あの子たちを呼ぶのにアドルフがいないと集まらないし、キースさんがいないとアドルフたちの気持ちも分からない。
 すると、レティちゃんが首を傾げてオリビアさんの服を引っ張った。

「じゅんばんに、はこぶ……?」
「「え?」」
「にかいはこべば、いっしょにいけるよ?」

 ね? とレティちゃんは何の気無しに言っているけど、オリビアさんとキースさんが頭を抱えている。
 そんなに続けて使える物なの……?

「と、とりあえず……。先にご飯、食べましょうか……?」
「そ、そうですね……! せっかく準備したんだし! いっぱい食べてから決めましょう! レティちゃんもお腹いっぱいになった方がいいもんね!」
「うん!」

 転移の事は一旦置いといて、まずはバーベキューを楽しまないと!
 せっかくの料理が勿体ないもんね!

 チラリと視線を移すと、トーマスさんはメフィストを抱えて、手作りのブランコに座っている。
 あぁ~……、なんて説明したらいいんだろう……?

 バーベキュー当日、まさかこんな問題が起きるなんて……。
 他にも起こりそうで怖いなぁ……。

 そんな事を考えながら、僕たちは汗をかきながらお肉を焼くイドリスさんとギデオンさんたちの下へと向かった。
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