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186 何はともあれ。

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「じゃあ、迎えに行ってくるよ」
「はい! 気を付けて行ってきてください!」
「先生たちによろしくね!」

 今日は、待ちに待ったレティちゃんとライアンくんの退院日。
 本当はお迎えにはオリビアさんが行く予定だったんだけど、店が忙しいから急遽トーマスさんが行ってくれる事になった。

 レティちゃんの部屋の準備も終わったし、オリビアさんが用意した着替えも持って行ったし、後はこの家に帰ってくるのを待つだけだ。
 ライアンくんたちも、王都に帰るまではこの家で一緒に過ごす予定。
 また人数が増えて賑やかになるなぁ~!

「今日のお昼はフレッドさんたちもいるし、少し多めに作っておかないとですね」
「そうね、皆食べ盛りだしお替りもね!」

 店の一角にラグを敷き、ハルトとユウマにはそこでメフィストと遊んでもらっている。
 ハルトはしっかりしてるけど、やっぱり子供たちだけだと心配だからとオリビアさんが準備していた。

 まだレコードもかけていないから、店内には鍋でコトコトと煮込む音とトントンと食材を刻む音、メフィストのご機嫌な声が響いている。
 その声を聞きながら、僕とオリビアさんは仕込みの続きを進めていく。

「この鶏もつ煮込みも結構人気よねぇ~! 中身を知った時はビックリしたけど!」

 僕が鍋をかき混ぜながら大量に仕込んでいる鶏もつ煮込みは、お店のメニューにすると決めてから毎朝肉屋のネッドさんが捌いてくれる新鮮なもの。
 エリザさんは毎朝毎朝、僕が買い出しに来るからそんなに売れてるの? と少し興味を持ってくれたみたい。
 食べた人たちの感想も聞いてるみたいだけど、やっぱり躊躇しているらしい。

「オリビアさん、こういう煮込み料理とかってお酒に合うんですか?」
「お酒? そうね、一緒に食べると美味しいと思うわ! 前に作ってくれたカクニ……? だったかしら? あれもとってもトロトロで美味しかったわぁ……」

 オリビアさんはその味を思い出したのか、頬に手を添えうっとりとした表情を浮かべている。
 角煮は確か、バージルさんたちが食べに来た日に作ったな~。
 イーサンさんが食べながら何かメモをしてた気がする……。
 どうせだから、フレッドさんに作り方のメモを渡しておこうかな。

「あ、定休日にイドリスさんたちが食べに来るじゃないですか。その日って結局何人になったんでしょうか……?」
「そう言えば決まってなかったわよねぇ……? フレッドくんやアーロくんたちもいるでしょう?」
「またお店の食材、全部無くなりそうですね……」
「ホントね……」

 人数が多い分、準備するのも多いしなぁ~。
 バーベキューだし、誰かにお肉とか焼いてもらおうかな?
 あ、イドリスさんとかギデオンさんが焼いてたら美味しそうかも。
 二人が焼いてるところを想像して、ちょっと笑ってしまう。

「にぃに~! あどりゅふも、くりゅかなぁ~?」

 すると、メフィストと遊んでいたユウマがとことことやって来る。
 カウンター席からひょこっと覗く姿は可愛らしい。

「アドルフ? そうだねぇ、キースさんたちも来るって言ってたから来ると思うよ?」
「ほんちょ~?」

 来ると聞いて、ユウマはにこにこと嬉しそうだ。
 ハルトもメフィストを抱っこしながら、こちらにやって来る。

「ん? ハルト、どうしたの?」
「あどるふたちに、おれい、したいです!」
「お礼?」

 ハルトとユウマが魔物に襲われそうになったのを、アドルフたちが助けてくれたって言ってたなぁ……。
 アドルフの他に何頭いたっけ?
 もふもふばっかり目に入ってたから数えてないや……。

「でも、来るとしたらアドルフだけじゃないかなぁ? 他のわんちゃんたちは来ないと思うよ?」
「しょうなの~?」
「ざんねんです……」

 従魔だって紹介されたときはアドルフだけだったから、キースさんの従魔はたぶんアドルフだけだと思うんだけどなぁ……。
 他の子たちは森の中に住んでるのかな?

「キースさんが来たら、他の子たちにも会えるか訊いてみようか?」
「「うん!」」
「あ~ぃ!」

 なぜかハルトとユウマと一緒に、メフィストも返事をしている。
 メフィストもわんちゃんたちに会いたいのかな?
 僕も今度はもふもふしたいし……!
 わんちゃんも食べられるものを準備しとかないとなぁ~!

「あら、ユイトくん嬉しそうね?」
「いやぁ、またわんちゃんを触れると思ったら待ちきれなくて……」

 アドルフは本当に人懐っこくて可愛いからなぁ~!
 野菜のパンケーキも残さず食べてくれたし、また美味しいもの作らないと!

「ふふ、確かに可愛かったものねぇ! それに、グレートウルフってとっても賢いのよ? 群れのリーダーには絶対服従だし、どんなに離れていても声が聞こえたら集まってくるしね!」
「へぇ~! 群れのリーダーかぁ……。もしかしてアドルフとか……?」
「たぶんあの群れのリーダーはアドルフじゃない? あの子だけ一際大きかったもの!」
「あ、そう言えば」
「アドルフが呼んだら集まるかもしれないわね?」

 なるほどなぁ……。それもキースさんに聞いてみようかな。
 そんな事を考えながら仕込みをしていると、お店の扉に付いている鐘がチリンと鳴った。
 ふと顔を上げると、トーマスさんが満面の笑みで立っていた。

「あら、おかえりなさい!」
「トーマスさん、おかえりなさい!」
「ただいま!」

 あれ? トーマスさんしか見当たらない……?
 不思議に思っていると、トーマスさんが外に向かって声を掛けている。

「ほら、レティ。恥ずかしがらずにこっちへおいで」

 あ、レティちゃん外にいたのか!
 出迎えようと、オリビアさんたちと一緒に扉の方へ向かう。
 すると、トーマスさんの後ろからそろりと顔を覗かせるレティちゃんが。

「……た、ただいま……」

 そこには照れた様に頬を赤らめ、オリビアさんが選んだ可愛いワンピースを着たレティちゃんの姿が。
 瞳と同じ赤色の長袖ワンピースに、首元にはレースの付いた白い丸襟。腰には黒いリボンが結んである。
 もじもじしながらトーマスさんの後ろから出ようとしない。
 ちょっと照れてるのかもしれない。

「レティちゃん、おかえりなさい! そのワンピース、とっても似合ってるわ!」
「おかえり、レティちゃん! とっても可愛いよ!」
「ほ、ほんと……?」
「「もちろん!!」」

 嬉しそうにはにかむ顔は、初めて出会った頃と別人の様だ。
 汚れていた髪も、肩にかかる程に綺麗に切り揃えられ、銀色の髪が光に反射してキラキラと光っている。
 こんなにキレイな髪色だったんだ……!

「れてぃちゃん、とっても、にあってます!」
「えてぃちゃん、かわいぃねぇ!」
「あぃ~!!」

 三人にも褒められ、ますますまっ赤になるレティちゃん。
 トーマスさんもオリビアさんも、その様子を微笑ましそうに眺めている。

「ほら、レティ。オリビアに言いたい事があったんだろう?」

 トーマスさんに背中を優しく押され、レティちゃんはオリビアさんの前に。
 口を開き、何度も何かを言いかけるがなかなか言葉が出てこないみたいだ。

「ふふ、どうしたの? レティちゃん」

 オリビアさんはレティちゃんの目線に合わせて膝をつき、優しく声を掛ける。
 その言葉に決心した様に一歩前に出て、もじもじと手を弄りながらオリビアさんを見つめた。

「あ、あのね……」
「うん」
「かわいい、おようふく……。ありがとう……、おばぁちゃん……」

 レティちゃんの言葉に、オリビアさんはヒュッと息を呑み、目を見開いてふるふると震えている。

「お、オリビア……?」
「大丈夫ですか? オリビアさん……?」

 そのまま微動だにしないオリビアさんに、僕たちは心配で声を掛けるが反応がない……。
 レティちゃんも何かしてしまったのかとオロオロし、不安そうにオリビアさんとトーマスさん、そして僕の顔を交互に見ている。

「お、おばぁちゃん……?」

 そしてオリビアさんの顔を見つめ、不安そうに首をこてんと傾げた。

「……か、」
「「「か……?」」」

「か、可愛いわぁ~~~っ!!!」

 オリビアさんは勢い良くレティちゃんを抱き締める。
 あ! ダメだ! オリビアさんのこれは息が出来なくなるやつ!

 ……と焦っていたら、一足早くトーマスさんが緩めなさいとオリビアさんに注意してくれていた。




「ごめんなさいね、レティちゃん……。あまりに可愛くて……」

 反省した様に肩を落とし、レティちゃんの頭を撫でているオリビアさん。
 ハルトとユウマもおばぁちゃんはしょうがないなぁ、と言う顔で見つめている。
 メフィストはトーマスさんに抱っこされ、キャッキャと一人ご機嫌だ。
 ……いや、トーマスさんもご機嫌だな……。

 だけどレティちゃんは、そんなオリビアさんを見てはにかんでいる。

「あら、どうしたの?」
「ふふ……、わたし、うれしい……」

 ふわりと嬉しそうに微笑みを浮かべ、その表情はまるで妖精みたいだ。

「「「……か」」」
「か?」

「「「かわいい……!」」」

 オリビアさんと重なる様に、トーマスさんと僕の呟きが被ってしまった……。




「……おや?」
「フレッド? 急に立ち止まってどうしたんだ?」
「いえ、何やらお取込み中の様です」
「え?」

 にこにこと笑っているレティちゃんとメフィスト、手で顔を覆う僕たちと、呆れているハルトとユウマ。
 後から入ってきたライアンくんたちは、暫く状況が呑み込めず、扉を開けたままその場に立ち尽くしていた……。


 何はともあれ、本日、僕たちの家族が揃いました。

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