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130 夢の大人買い?

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「お久し振りねぇ~、ゲンナイさん! 今日も買いに来たわぁ~!」

 ソフィアさんは僕を連れてお店に近付き、甚平を着た商人さんに何の躊躇ためらいもなく声を掛ける。
 男性の名前はゲンナイさん。暑いからか、その白髪を後ろで結っている。ゲンナイさんはソフィアさんの姿を見ると、その表情を明るくさせた。

「お久し振りですねぇ! 前に買ってくれた醤油ソーヤソース! お口に合いましたか?」
「あのおソース! とっても美味しくてビックリしちゃったわ! それでね、今日は新しいお客様も連れてきたのよ~!」
「新しい……? それはそれは……!」

 ゲンナイさんは、ソフィアさんの腕に引かれてやって来た僕を見ると、おや、という顔をして繁々と僕の姿を見つめた。

「あの、ソーヤソース……。今日もありますか……?」

 僕は不安と期待で胸がドキドキしている……。
 あぁ~! どうか今日もあります様に……!

「ソーヤソースを買いに来てくれたのかい!? 有難いねぇ……! 今日ももちろん、持ってきてるよ!」
「えっ!? ホントですか!? やったぁ~~~!!」

 その言葉に、嬉しすぎて僕は大声を上げてしまう。
 ゲンナイさんとソフィアさんは目をパチクリとさせて驚いていたけど、次の瞬間には笑顔でソーヤソースの入った壺を僕の目の前に取り出してくれた。

「わぁ……! これ全部そうなんですか……!?」

 僕の目の前には、大中小の大きさに分かれた壺が出され、前回ソフィアさんが購入したのは小サイズの壺だそうだ。
 僕が悩んでいると、商人さんは僕とソーヤソースを交互に見つめ、感慨深げに口を開いた。

「なかなか売れないんだが……。君みたいな子がこのソースに興味を持つとはねぇ……」
「このソーヤソース、美味しいですよね! だからソフィアさんにここを教えてもらってからどうしても来たくて!」

 今日来れてよかったです! と、僕が興奮気味に話すと、商人さんは嬉しそうに目を細めた。

「このおソースのレシピも、ユイトくんが色々教えてくれてね? それがとっても美味しいのよ」
「ホォ~? それはスゴイな……!」

 感心した様に僕を見つめるけど、僕には“鑑定メモ”があるからな……。
 ちょっとズルしてる気分になっちゃうんだよな……。

「妻の弟が作ってるんだけど、なかなか受け入れてもらえなくてねぇ……。前回来た時も、ソフィアさんともう一人のお客さんしか買い手がつかなかったんだよ」

 何とか売ってあげたいんだけどねぇ、と商人さんは困った様に眉を下げる。

「勿体ないですよね! 料理に使えば美味しいのに!」
「ハハ! 義弟も喜ぶよ! 今日は嬉しいから、ちょっと割引してあげよう!」
「え? ホントですか!?」 

 思わず大きい声が出てハッと口を手で押さえると、商人さんはまた嬉しそうに笑ってくれた。

「ユイトくん、どう? あった?」
「いらっしゃい! ユイトくんのお連れ様かい?」
「はい! オリビアさん、これなんですけど……」

 オリビアさんが少し遅れて到着し、僕の隣でソーヤソースの壺を覗くと、僕が量で悩んでるのかと思ったらしく……。

「店主さん、ソーヤソースはここにあるだけ?」
「え? いや、まだありますよ?」
「そうなの? じゃあこの大きいサイズの、ある分だけ買っちゃうわ」
「「えっ!?」」

 オリビアさんの発言に、僕もゲンナイさんもビックリ。

「なぁに? 家でもお店でも使うんなら、大きい方がいいでしょう?」

 オリビアさんは何をそんなに驚いてるのか分かってないみたい。

「これを店でも使ってくれるんですか……?」
「あ、そのつもりなんですけど、今日このお店があるか分からなかったから、まだメニューには使ってないんです……」
「そうですか……! ハァ~……、こりゃ嬉しいねぇ……」

 ゲンナイさんは脱力した様に肩の力を抜き、とても嬉しそうに笑みを溢した。

「店主さんは次の行商市も出られる予定かしら?」
「そうですね。定期的に持って来てくれと言ってくれたお客さんもいらっしゃるんで……」
「じゃあ、私たちもお願いしようかしら……? その方がユイトくんも安心よね?」
「えぇ~!? いいんですか!?」

 そんなの嬉しすぎて、僕の方がお願いしたいくらいだ!

「ユイトくんの美味しいお料理のためだもの~! 店主さん、私たちも次から取り置きお願い出来るかしら?」
「えぇ……、えぇ! 大丈夫ですよ! 喜んで承ります!!」
「やったぁ~~~!!」
「ふふ、よかったわねぇ~!」

 僕とゲンナイさんは二人して喜び、オリビアさんとソフィアさんはそれを楽しそうに眺めていた。





*****

「ハァ~……! 手に入れてしまいました……!」
「ハハ! よかったな!」

 夢の大人買い……! と言っても、買ったのは僕じゃないんだけど……。
 僕が欲しかったソーヤソースはオリビアさんが購入し、重いからとアレクさんが路地裏に運んで、誰にも見られない様に魔法鞄マジックバッグに入れてくれた。

 僕とソフィアさんの他にも買い手があるらしいけど、その人はどんな使い方をしてるんだろうなぁ~。
 ちょっと教えてほしいかも……。

「おにぃちゃん、うれしそうです!」
「にぃに、よかったねぇ!」
「うん! すっごく嬉しい~!」

 僕の顔に釣られたのか、にっこりと満面の笑みを浮かべるハルトとユウマ。
 それを見たオリビアさんたちも、皆にこにこしている。


 しばらくいろんなお店を覗きながら歩いているけど、僕の思っている掘り出し物はなかなか見つからない。

「ソフィアさんとフローラさんは何か見つかりましたか?」
「私たちはよく来るからねぇ」
「そうね、今回はユイトくんのソーヤソースを買うのが目的みたいな感じだったから。買えて安心しちゃったわねぇ」
「えぇ~? 何だか申し訳ないです……」
「あら、お店のメニューにも使うんでしょう?」
「それを楽しみにしてるから大丈夫よ?」
「ありがとうございます……! 頑張って美味しいメニュー考えますね!」

 そんな事を話していると、何処からともなくいい匂いが漂ってくる……。

「……ん? 美味そうな匂い……」
「これは腹にきますね……」
「嗅いだ事はないが、美味そうなのは分かる……」

 アレクさんとアーロさん、ディーンさんの三人は、鼻をスンスンと匂いの元を辿っている様子。
 そうやってると三人とも可愛く見えるのか、オリビアさんたちと周りの女性たちはクスクスと笑いながら笑みを浮かべている。

 この匂い……。この近くでやってるのかな?
 やっぱり試食してもらうには、この匂いも強みだよね!

「オリビアさん、もうすぐお昼ですよね? 皆でカビーアさんのお店の様子を見に行きませんか?」
「あら、いいわねぇ! この暑いのにピッタリじゃない?」
「カビーアさん? お知り合い?」
「はい! この前知り合って、この匂いのする料理を作ってる商人さんです!」
「まぁ、私も行ってみたいわぁ~! ソフィア、行きましょうよ」
「そうねぇ、アーロさんとディーンさんもお腹空いてるでしょうし……。行きましょうか!」
「え? いえ、我々の事はお気になさらず……!」
「そうです! 皆様のお荷物を運ぶだけなので食事は……」


 グゥ~~~…、


 その時、僕たちの耳に可愛いお腹の鳴る音が聞こえてきた……。
 見ると、アーロさんが顔をまっ赤にして目を瞑っている。

「あーろさん、おなか、ぺこぺこです!」
「ゆぅくんもねぇ、おにゃかちゅぃた!」
「やっぱり、皆で行きましょうよ! バージル様たちもそろそろ合流するだろうし! ね? アーロさん?」
「う……、面目ありません……!」
「若い人は遠慮しちゃいけないわ~」
「そうよぅ、食べれるときに食べないとねぇ」

 アーロさん以外は皆、穏やかな顔をしてアーロさんを見つめている。
 それが僕には居た堪れない……。
 アーロさん、頑張って……!

「アーロ、よくやった……!」
「うるさい……!」

 そして、同僚のディーンさんだけが、アーロさんに感謝の言葉を掛けていた。





*****

「ユイト、あの中入るのか……?」

 アレクさんの言う方には、屋台の前に行列になっている人、人、人……。

「凄い事になってますね……」
「カビーアさん、大丈夫かしら……? 誰かお手伝いの人はいる?」
「いえ、男性が一人で接客しているようですが……。かなり焦った様子ですね……」

 長身のアーロさんよりも、更に頭一つ分背の高いディーンさんが屋台の様子を教えてくれる。
 あの人数を一人で……?
 それに並んでいる人は、この暑さにかなりイライラしているみたい……。
 どうしよう……。

「オリビアさん……、僕、お手伝いして来ます……!」

 居ても立ってもいられなくて、僕は思わずお店に向かって走り出した。


「おにぃちゃん、いっちゃいました……!」
「にぃに、はやぃねぇ~!」
「まぁ、ホントに速いわねぇ……。もうあんな所に……」
「あらあら……、面白そうね~! 私もユイトくんと一緒に手伝おうかしら……?」
「何故だろう……? 大事になりそうな予感しかないんですが……」

 そんな会話は露知らず。
 僕はお客さんの波を掻い潜り、カビーアさんの屋台に辿り着く。
 カビーアさんは僕が来た事に驚きの表情を浮かべた。


「カビーアさん! 僕、お手伝いします!!」

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