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110 次の約束

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「……今日は、ありがとうございました……」

 初めて心のモヤモヤを吐き出してスッキリしたのと同時に、アレクさんの顔を見るのがなんだか少し照れくさい……。
 僕がお店の前まで見送りに出ると、アレクさんは僕の頭をくしゃりと撫でた。

「いや、こっちこそ。ユイトのメシ、美味かった! また食いに来てもいいか?」

 ニカッと笑うアレクさんは、広場で会った時とは別人の様に上機嫌だ。

「……アレクさん」
「ん?」
「もしかして、そっちが素ですか……?」
「……え?」
「言葉遣い……。途中から変わってましたよ?」

 僕がしれっと指摘すると、アレクさんは口を開けてきまりが悪そうに頬を掻いた。

「あぁ~……、うん。……こっちが普通、なんだけど……。ガッカリした……?」

 恐る恐る僕に確認する姿は、まるで悪戯がバレた子供の様。

「いえ、どちらかと言うとそっちの方がしっくりきます」

 前の方が大人っぽかったですけど、と揶揄い半分で言うと、地味に落ち込んでいる様で笑えてしまう。

「まぁ、ユイトに嫌われなければ何でもいいか……。今度はちゃんと財布持ってくるから!」
「ふふ、もう忘れちゃダメですよ?」
「あぁ、今度はオレに奢らせてくれ!」

 アレクさんはそう言いながら、真剣な顔で僕の両手を掴む。

「え? あ、気を使わなくても大丈夫ですよ? 僕が一緒に食べたかっただけなので……」

 どうしよう、変に気を使わせてしまったかな……?
 僕が戸惑っていると、アレクさんは僕の手を握る力を少し強めた。

「……オレが、ユイトとまた会いたいんだよ」

 ……迷惑か? なんて、そんな縋る様に見つめられると……。

「そんな! 迷惑だなんて、とんでもない……!」
「なら今度、誘ってもいいか?」
「え……、はい……」

 そんな必死な様子を見て、思わず返事をしてしまった。
 するとアレクさんの表情がパァッと明るくなり、やった! と、子供の様に喜んでいる。

「次はいつが休み?」
「えっと、次の休みは行商市に行く予定なので……。次は十三日後? ですね……」
「そんなに後か……。なら休みの前夜は?」
「夜……。トーマスさんとオリビアさんに聞かないと、分からないです……」
「そっか……。じゃあやっぱり、オレが店に食べに来るしかないか……」

 服も返さないといけないしな、と少し悲しそうに笑みを浮かべるアレクさんを見て、なぜか行かなくちゃという気分になった。

「……あの! 僕、聞いてみます! 夜に出掛けてもいいか……!」
「ホントに?」

 僕がそんな事を言うとは思わなかったのか、アレクさんは目をパチクリとさせて驚いている。

「はい! ハルトとユウマが……。えっと、弟たちがいるんですけど……。だから、あまり遅くまではダメかもしれないんですけど……」

 前までは僕にベッタリだったけど、今はハルトもユウマもしっかりしてきて愚図る事はほとんどない。
 だから少しだけなら大丈夫かも、なんて思ってしまう。

「あぁ、そんなに遅くまでは出掛けない。ちゃんと約束するから」
「はい……。じゃあ、今日聞いてみます……。あ、ダメだったらどうしよう……」
「その時はオレがまたメシ食いに来るからいいよ! 明後日、店に来るから、その時に返事聞かせてくれ」
「分かりました……。あの、そろそろ手を……」
「え? あぁ! …ごめん! 強く握りすぎた!」

 ずっと握られていたせいか、手にアレクさんの手の型が残り、ジンジンと少し熱く感じる。

「じゃあ、また明後日」
「はい、また……!」

 後ろ姿を見送っていると、アレクさんがチラリとこちらに振り返る。
 僕が手を振ると、アレクさんは何度も手を振り返してくれた。

 貰ったネックレスを無意識に撫で、僕はアレクさんの姿が見えなくなるまで、そこに立っていた。
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