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104 バージルさんは自由人

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「おぉ~! これは凄いな……!」
「ふふ、今日は頑張っちゃいました! さ、皆さん。お好きなお席にどうぞ! あ、ライアンくんはこっちで僕たちと一緒に座ろうね」
「は、はい……!」
「らいあんくん、こっちです!」
「ゆぅくんといっちょ! しゅわろ!」

 今日は四名掛けのテーブル席を一列に繋げ、全員で料理を囲めるように配置を変えてみた。
 一人一人の席にグラスとお皿を置き、好きなものを自分で取れるように料理を大皿に盛り付け、大人は大人同士、子供は子供同士で楽しく話せたらいいなと思って席も固めている。

 トーマスさんに聞いたところによると、ライアンくんは食が細いらしく……。
 ちゃんと食べれるか心配していたみたいだから、大皿なら気にしないで食べれるかなと思ったんだけど……。

「とっても美味しそうです……! これはユイトさんが作ったんですか……?」

 心配だったライアンくんも目の前の料理に興味津々みたい。
 ちょっと一安心……!

「これはねぇ、オリビアさんと僕と一緒に、ハルトとユウマもお手伝いして作ったんだよ」
「ぼくとゆぅくん、このみーとぼーる、つくりました!」
「えぇ!? これをですか? とっても美味しそう!」
「こえもねぇ、はるくんといっちょにまきまきちたの!」
「このベーコンで巻いてる串焼きですか? これも美味しそうです!」
「ライアンくん、食べたいのあったら取り分けるからね。あ、後で一緒にやりたいことがあるから楽しみにしててね?」
「やりたいこと……、ですか?」
「あとの、おたのしみ、です!」
「おちゃのちみ! ね!」
「……はい!」

 僕たちの会話を大人たちがにこにこと見守る中、一人だけムスッとした表情の人が……。
 ライアンくんのお世話係って聞いたけど……。
 僕と同じ年くらいだと思うんだけど、ちょっと近寄りにくそうだ……。
 隣の人はにこにこしてて、優しそうなんだけどな……。

「さぁ、皆! 席に座ったわね? 今日はご馳走だから、遠慮しないでたくさん食べてちょうだいね!」
「よ~し! では、友との再会に、カンパーイ!」
「「「「「カンパーイ!」」」」」

 ライアンくんのお父さんのバージルさんはお酒を一口飲むと、目の前にドンと盛られた鶏の唐揚げフライドチキンに興味があったようで、大きな口をガバッと開けて一口で頬張った。
 味はどうかな、と僕が横目でチラリと観察していると、目を見開いてうまい! と叫んだ。
 よかった~! 唐揚げはね、万国共通で美味しいと思うんだ!
 他の人たちも美味しいと言って、たくさん食べてくれてるみたいで安心した。 

「ユイトさん、これは何ですか?」
「ん? これはねぇ、牛肉と豚肉を混ぜて焼いてるんだよ。柔らかくて美味しいから、トーマスさんも大好きなんだ」
「おじぃちゃん、いっつも、おかわりしてます!」
「じぃじねぇ、おぃちぃっていっちゅもゆってるよ!」

 ライアンくんの隣でハルトとユウマも、もぐもぐと美味しそうに料理を頬張っている。
 ユウマはここでもとうもろこしマイスがお気に入りなんだな……。

「そうなんですか……! 私も食べてみたいです!」
「うん。もし食べれなくても、僕が食べるからムリしなくていいからね?」

 僕がそう言いながらハンバーグを取り分けたお皿を手渡すと、ライアンくんはビックリした顔で僕を見つめていた。

「え……、そんな事、できません……!」
「今日は気にせずに色々食べてみて、いろんな味を楽しもう? 気に入った料理があればそれをお替りすればいいし」

 ね? と僕が言うと、ライアンくんは頬をほんのり赤くさせ、今日はいっぱい食べます! と張り切っていた。

「ライアンで……、様! 先に私が味見しますので、その後にお召し上がりください!」

 ライアンくんがハンバーグを食べようと切り分けていると、お世話係のフレッドさんが僕を睨みながら強めの口調で言ってくる。
 隣に座るサイラスさんが少し呆れた表情を浮かべていた。
 向こうに座っている大人も、チラチラとこちらを気にしているみたい。
 お酒を飲む手が止まっているような……。

 そうか、お世話係って毒見とかもするんだな……。フレッドさん、凄いなぁ……。
 ならフレッドさんにも色々食べてもらわなくちゃ!
 ライアンくんが食べられないからね!
 僕は急いで料理を一口ずつ取り分けると、向かいに座るフレッドさんにお皿を手渡した。

「フレッドさん、これとこれもお願いしていいですか? これは熱いので気を付けてくださいね? あ、これは自信作なんです! とろとろになるまで煮込んでるので美味しいと思います! どうぞ!」

 僕が味見の感想をドキドキしながら待っていると、いきなり笑い声が響いてきた。

「ハハハ! フレッド! ここではそんな事は気にするな! お前もたまには肩の力を抜いて楽しみなさい! 料理はどれも絶品だぞ?」

 バージルさんがお酒を片手に上機嫌でフレッドさんに話しかけると、周りの大人たちもそうだぞ、と頷きながら日頃のフレッドさんの献身ぶりを褒めだした。
 それを聞いたフレッドさんは、見る見るうちに赤くなっていく。
 だけどとっても嬉しそうだ。

「さ、フレッドさん。食べてみてください!」

 僕が再度勧めると、フォークを手に取り、真っ赤な顔でハンバーグを頬張った。
 どうかな、と僕がソワソワしていると、カッと目を見開いた。

「なんですかコレは! とても美味しいです!」

 フレッドさんの大声に周りは皆ポカンとしている。
 それに気付いたのか、フレッドさんはまた茹でダコの様に赤くなっていった。

「ふふ、気に入ってもらえましたか? フレッドさんオススメなら、ライアンくんも安心だね?」
「……! はい! 私もいただきます!」
「どうぞ、召し上がれ」

 ハンバーグをパクっと口に頬張ると、ライアンくんはパアッと花が飛ぶように目を瞬かせた。

「ハンバーグ! とっても美味しいです!」

 ライアンくんも気に入ってくれたみたい。
 バージルさんもトーマスさんも、皆にこにことその光景を見守っていた。

「ユイトさん、これは盛り付けも美しいし、味も素晴らしいですね。このチーズはどこから手に入れたんですか?」

 そう言って興味深げにモッツァレラチーズを眺めるのはイーサンさん。
 ちょっと名前が言いにくいけど、髪を後ろに撫でつけて渋い大人ってカンジ!
 憧れちゃうなぁ。

「このチーズはハワードさんっていう方の牧場で作っているんです。この店でも新メニューに使わせてもらってるんですよ! お客様にも人気なんです!」
「牧場か……。トーマスの話していた牧場も、こちらと同じですか?」
「あぁ、あのデカい馬がいるところだ」
「ほぅ……。ライアン様も行きたがっていた所ですね……。これは予定に組み込みましょうか……」
「本当ですか!? イーサン! 私、その馬に会ってみたいのです!」

 興奮気味に立ち上がったライアンくんに、今度はこっちがビックリ。

「馬って、サンプソンの事ですか?」
「サンプソンと言うのですか? 普通の馬よりも大きいと聞いて、興味があるのです!」
「さんぷそん、とっても、やさしいです!」
「しゃんぷしょん、にぃにのこと、だぃちゅきなの!」
「「ねぇ~!」」

 ハルトとユウマもサンプソンの事、気に入ってたからなぁ。
 僕もまた会いたくなっちゃった。

「なら、ユイトくんたちも一緒に行こうじゃないか!」
「「「「えっ?」」」」

 バージルさんの発言に驚いたのは、僕とトーマスさん、オリビアさんにイーサンさん。

「なんだ? 何か問題でも……?」
「いえ……。ただ、そちらの都合もあるでしょう? お店をされていますし……、ねぇ……?」
「そうね……、一応定休日はあるけど…。今度の休みは、ユイトくんの楽しみにしてる行商市があるのよ~」

 イーサンさんもオリビアさんも、お互いに申し訳なさそうに頷きあっている。
 こんなに大所帯の予定を組むのも、イーサンさん大変そうだしなぁ……。

「行商市か……。なにを買うんだ?」

 バージルさんが僕をまっすぐに見つめながら訊いてきた。
 目力が凄くてちょっと緊張しちゃうな。

「あ、この前知り合いの方に、僕の探してた調味料を買ったのがその行商市だと聞いたので! このフライドチキンもステーキソースも、その調味料があったから作れたんです! もしかしたら他にもあるかもしれないので、一緒に連れて行ってもらうんです!」

 すっごく楽しみで! と僕が言うと、バージルさんはふむ、と顎を擦りながら一考している。
 そしてうんと頷き、僕を見た。

「その行商市、私たちも一緒に行こう!」
「「「「「は?」」」」」

 突然の一緒に行く宣言に、皆ポカンとしている。

「こんなに美味い料理の秘密を探るのは楽しそうだ! イーサン、予定を入れておいてくれ!」

 ガハハ! と笑いながらお酒を飲むバージルさん。
 その隣で呆れてものも言えなくなっているイーサンさんに、僕は少しだけ同情してしまった……。

 自由奔放って、バージルさんみたいな人の事を言うんだろうな……。

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