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93 弟子入り志願?

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「じゃあ今日は、お昼からメイソンさんのお宅で稽古を?」

 お腹も満たされ、僕たちはメイソンさんと一緒にソファーでのんびり寛いでいる。
 話題は、いまハルトが夢中になっているある物についてだ。

「あぁ。急に来たから驚いたが、結構面白かったぞ?」
「ハルトがなかなか筋がいいんだ」

 先日、警備兵のアイザックさんがくれたのは子供用の木製の短剣で、その日はハルトとユウマも大興奮。
 寝る時間なのになかなか寝なくて大変だった。ちゃんと寝たら朝から稽古をしてあげよう、とトーマスさんが言ってくれたおかげでやっとベッドに入ったんだけど、翌朝は早くからトーマスさんを起こしに行ってまた大変。
 昨日はブレンダさんが稽古をつけてくれると約束していたけど、まさか今日はメイソンさんまで巻き込んで稽古するとは思わなかったな……。

「はるくんねぇ、しゅごかったの!」
「ぼく、けんのしゅぎょう、もっとします!」

 そう言って、貰った短剣をビシッと構えてポーズを決めるハルト。
 うん、なかなか様になっていると思う。兄の贔屓目とかじゃないけど。

「ユウマちゃんはどうだった? 楽しかったかしら?」

 いつもならハルトがすると言ったらゆぅくんも! と言いそうだけど、今回は初日だけだったなぁ。だけど剣は大事そうに抱えているし……。

「ん~、たのちかったけど、ゆぅくんねぇ、けん、ちゅくりたぃの」
「え? 剣を? 修行とかじゃなくて、作る方?」
「ん! めぃしょんしゃんのおぅち、たのちかったの! ゆぅくんも、ちゅくりたぃなぁ~!」

 メイソンさんの家って鍛冶屋だから……、作るってもしかして、武器の事……?
 意外過ぎて、僕もオリビアさんも頭が追い付かないんだけど……。

「確かに、ユウマは剣を振るより、メイソンの工房にいる方が楽しそうだったな」
「そう言えば、うちの若いのにもずっと付いて回ってたなぁ。危ないからヒヤヒヤしたが……」

 メイソンさんのお店の裏には工房があるらしく、お弟子さんも何人かいて、いつも武器の製造や修理を担っているそうだ。
 ユウマがちょろちょろと付いて回るから、最後にはメイソンさんに抱えられてお弟子さんの鍛冶仕事を後ろで見学していたらしい。
 そのお弟子さん、緊張しただろうな……。ごめんなさい……。

 ユウマはメイソンさんの膝に座って、工房の事を思い出しているみたい。楽しそうに短剣を抱えて体を揺らしている。

「でもユウマ、武器を作るなら、勉強とか弟子入りとかしないといけないんじゃないの?」
「でしぃ?」
「一人だと何も分からないから、教えてくれる先生がいるって事だよ」

 そう言うと、ユウマはん~、と考えて、閃いた様に後ろを振り向いた。

「めぃしょんしゃん、ゆぅくんもでしに、してくらさぃ!」

 まるでいいアイデアだ! とばかりにフンフン言いながら、抱えてくれているメイソンさんに弟子入りを志願しだした。
 メイソンさんも突然の事に目を丸くしているが、しばらくするとユウマを抱えて笑い出した。

「ハハハ! こんなに早く弟子入りしたら、トーマスとオリビアさんが寂しがるぞ?」

 そう言いながらも顔はすごく嬉しそう。

「そうだぞ、ユウマ? そんなに早く決めなくてもいいだろう?」
「おばあちゃんもまだユウマちゃんと遊びたいわ? ね? いいでしょう?」

 トーマスさんもオリビアさんも、本気か演技か分からないが、三歳のユウマにはまだ早いと思っているみたい。
 僕もまだ、将来の事はユウマが大きくなってからでもいいと思ってるんだけどなぁ。
 その雰囲気を感じてか、ユウマがしょんぼりと俯いてしまった。落ち込むユウマに、メイソンさんもトーマスさんたちもオロオロしているが、ハルトだけが短剣で真剣に素振りをしている。
 ちょっと剣道っぽいかな……?


 ……ん? なんだかユウマがウォーミングアップを始めた気がする……。
 僕の勘がそう言っている気がした。


「ん~、でもゆぅくん……、めぃしょんしゃんのでしに、なりたぃの……」


 ……だめぇ?


 ユウマの必殺おねだりが出たな……。
 頭をこてんと傾げながら、お願いしてくるユウマはとっても可愛い。
 あれをすると、トーマスさんとオリビアさんは大抵の事は言う事を聞いてしまうんだ。僕も気を引き締めないと……。


「んん……っ! そうだな……。トーマスとオリビアさんの了承があれば、オレのところは何も問題はない……、ハズだ……!」

 メイソンさんが堕ちた様だ。
 しかも、トーマスさんとオリビアさんに任せようとしてる……。
 大人ってズルい……!

「なに……!? メイソン、卑怯だぞ……!」
「すまん、トーマス……! 勘弁してくれ……!」

 トーマスさんも憤りを隠せない様子だ……。

「ん~、じぃじ……、……だめぇ?」
「んん……っ! そうだな、オリビアが良ければ、おじいちゃんもいいだろう……」

 トーマスさんも堕ちた様だ。
 しかも、オリビアさんに任せようとしてる……。
 大人って……!

「ちょっと、トーマス!? メイソンさん!? ズルいわよ!?」
「「すまん……」」

 最後はオリビアさんだ……。

「ん~、ばぁばも……、やっぱり、……だめぇ?」
「んん……っ! そうね、今は約束だけして、ユウマちゃんがもう少し大きくなったら弟子入りでどうかしら……?」

 ね? ユイトくん!

 オリビアさんも堕ちてしまった……。
 しかも、最後は僕に振るなんて……。
 大人って……!

「にぃに~……、」

 僕の服の裾を握りしめ、目をウルウルさせながら見上げるユウマは、小動物の様でとっても可愛らしい……。

「んん……っ! もう少し大きくなって、メイソンさんの言う事をちゃんと聞くならいいよ」

 僕も人の事は言えなかった……。


「やったぁ~! ゆぅくん、めぃしょんしゃんのでし! うれち!」


 ユウマはぴょん! とメイソンさんの膝から飛び降り、剣を大事そうに抱え、くねくねと変な踊りを踊っている。
 皆の顔が緩んでいるけど、今は気にしないでおこう……。

 その後ろでは、ハルトが真剣な顔で素振りを続けていた……。

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