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81 ワクワクの乗馬体験
しおりを挟む「じいちゃんとばあちゃん以外は全員集まってますね! ここで挨拶しちゃいましょう!」
ニカッと眩しい笑顔を振りまいて、マイヤーさんのご家族と牧場で働く従業員の方たちの紹介が始まった。
ざっと見渡しても、二十人以上と十頭以上はいるんですが……。
従業員の方たちは簡単な自己紹介だけを済ませ、すぐに担当の馬や牛、羊の世話をしに戻って行った。正直、全く覚えられない……。すみません……。
近くにいた馬や牛たちも、ぞろぞろと牧草地の方へ戻って行き、今はハワードさん一家と仔馬だけ。どの人もキビキビ動いていて軍隊みたい……。
「では改めてご紹介します。こちらが私の妻のアンナ、そして次男のローガンです」
「トーマスさん、お久し振りです。あなたたちは初めてね? 主人がお世話になってます。妻のアンナです」
ハワードさんが紹介してくれたのは奥さんのアンナさん。ブロンドの髪をお団子にしている優しそうな女性だ。
「どうも、次男のローガンです」
ローガンさんはがっしりした体系でぶっきらぼうなカンジに見えるけど、さっきから仔馬がズボンを引っ張ってるから、多分優しいんだと思う。
「紹介するよ。うちで一緒に暮らしてるユイトと弟のハルト、いま抱っこしているのが末っ子のユウマだ。今日はムリを言ってすまなかった。感謝してるよ」
「初めまして。トーマスさんの家でお世話になってるユイトです。今日は楽しみにしてました。よろしくお願いします」
「ぼくのおなまえは、ハルト、です! おねがい、します!」
「ゆぅくんでしゅ! おねがぃちまちゅ!」
「えっと、おとうとの、ユウマ、です!」
三人でペコリとお辞儀をすると、ハワードさんとアンナさんは微笑んでいて、ローガンさんは仔馬にズボンをベチャベチャにされながらよろしく、と挨拶してくれた。
マイヤーさんはうんうんと頷きながらずっと笑顔だ。
「今日はダニエルはいないんだな?」
トーマスさんがハワードさんに訊くと、ダニエルくんには店番を任せてるらしく、今日は一緒に遊べなくて残念がっていたみたい。
「じゃあ早速、作業用の服に着替えてもらおうかな。そのままだと汚れてしまうからね」
ハワードさんによると、このままだと泥で汚れたり、さっきのローガンさんみたいに馬たちに引っ張られて涎まみれになるらしい。
「皆さん、こちらについて来てくださいね」
「「はぁ~い!」」
「まぁ~! 可愛らしいですね! 昔が懐かしいです……。マイヤーたちも昔は小さくて可愛らしかったのに……」
「……母さん、恥ずかしいから止めてくれ……!」
「アハハ! ローガンは今も昔も可愛いぞ!」
「兄貴はマジで止めてくれ……!」
なんとなく、ローガンさんは苦労してそうなカンジがするな……。
奥さんのアンナさんが案内してくれたのは、牧場の敷地内に建てられた工場兼事務所。建物を入ってすぐの所に事務所はあり、そこで作業服を手渡された。これはオーバー……、オール? だったかな……? そんな服に似てる。
「きょうも、みんな、おそろい、です!」
「おちょろぃ! うれちぃねぇ!」
「そうだね。昨日もお揃いだったもんね」
ハルトとユウマが着ている作業服は、マイヤーさんとローガンさんのお古らしく、わざわざこの日のために出してくれたそうだ。
「ボクが昔着ていた服だから、もしかしたらハルトくんもそれを着ていたら大きくなるかもしれないね?」
「……! おっきく……? ぼく、おっきく、なります……!」
マイヤーさんが適当な事を言いだしたから、ハルトの目がキラキラしだした……。トーマスさんも要らない事を言うなと表情で丸わかりだ。
「じゃあ、ユウマが着てんのはオレのだから、ユウマもデカくなるかもな?」
「ほんちょ……? ゆぅくんも……、おっきくなれりゅ?」
「えっ……、いや、たぶんだけどな?」
「やったぁ~! ゆぅくんうれち!」
「う……」
ローガンさんは自分で言ったのに、純粋に喜ぶユウマを見て良心を痛めているみたい。
ここからは、仕事が入ったハワードさんの代わりに、マイヤーさんとローガンさんが案内してくれるそうで、ハワードさんとアンナさんは申し訳ないと言って何度も謝っていた。
お願いしたのはこちらだから、とトーマスさんも謝りだし、埒が明かないとローガンさんが皆を事務所から連れ出してくれて助かった。
工場に続く廊下はすごく涼しくて、ここでもあの魔核が使われてたりするのかも? ここであの美味しいチーズや牛乳が作られているんだなぁ~!
ハワードさん一家の住居と、従業員用の寮は厩舎のすぐ近くにあって、何かあったらすぐ対応出来る様に交代制で勤務しているみたい。
従業員さんは寮に住む人以外にも、近くの村に住んでる人や、短時間だけ手伝いに来てくれている人もいるんだって。
「さぁ、ここからは可愛い子供の牛さんたちがいるからね! 手をきちんと洗ってミルクをあげるよ! 分かったかな?」
「「はぁ~い!」」
「うん! いい返事だ! では行ってみよう!」
案内するマイヤーさんの後を、ハルトとユウマ、トーマスさんが付いていく。
「……マイヤーさんって、いつもあんなカンジなんですか?」
「そうだぞ。朝から晩まであのテンションだ」
「それは凄いですね……」
「ある意味尊敬するだろ」
僕とローガンさんはヒソヒソと話しているが、先頭のマイヤーさんに聞こえているぞ! と振り向かれ、二人でビクッとしてしまった。あんな遠くにいるのに……。
「うしさん、とっても、かわいいです……!」
「ちゅごぃねぇ……! いっぱぃのんでゆねぇ……!」
「いっぱい飲んで大きく育つといいな」
「「うん!」」
仔牛にミルクをやると、ごきゅごきゅと一生懸命吸い付いてくる姿がすごく可愛い……!
両手でミルクをあげるハルトも、トーマスさんに支えられながらミルクを上げているユウマも、感動している様で僕も嬉しくなってしまう。
ミルクを飲んで満足した様で、仔牛は僕たちの手をぺろぺろと舐めだした。
それにはハルトとユウマもかわいいかわいいと大はしゃぎ。
仔牛の方が飽きるまで、皆でずっとそこにいた。
「よし! 次はお馬さんの所へ行って乗馬体験だ!」
「「やったぁ~!」」
「今から乗せてくれるお馬さんは、皆とっても優しいが、決してお馬さんの後ろに立ったりしない様に! お馬さんがビックリして、どちらも怪我をしてしまうかもしれない! それと、嫌がっているのに無理やり乗ろうとすると、お馬さんが暴れて落ちてしまうかもしれない……! そこは気を付けてくれるかな?」
「「はぁ~い!」」
「うん! いい返事だ! では行ってみよう!」
なんだか本当にガイドのお兄さんみたいになってきてる……。
マイヤーさんの後ろを皆で付いていくと、厩舎ではなく乗馬専用に作られた様な整えられた場所に着いた。
そこには従業員の人が手綱を握り、三頭の馬が待っていた。
「この子たちはとっても穏やかで優しい性格をしているから、乗馬をするならピッタリだと思う! 乗る際にはもちろん、ボクとローガンが馬の手綱を握っているから安心してほしい!」
そう言って僕たちの前に、手綱を引かれて馬が一頭ずつ並ぶ。
どの馬も、毛並みが綺麗ですごく優しい目をしていた。
「さぁ、皆! 心の準備はいいかな?」
「「はぁ~い!」」
「よし! ではまず、乗せてくれるお馬さんにご挨拶だ!」
一番手はハルト。まずは乗せてくれる栗毛の馬にご挨拶。
「おうまさん、きょうは、のせて、くれますか?」
そう言ってハルトが撫でると、その馬は耳をピンと立て、ハルトの顔に自分の鼻を近付けて匂いを嗅いでいる様だった。
「ハルトくん、この子のお鼻の辺りを撫でてごらん? 喜ぶから」
「おはな、なでても、いいですか?」
すると馬は低く嘶き、早く撫でろと催促している様に見える。ハルトがゆっくり撫で始めると、気持ちよさそうに目を閉じた。
「よし! 大丈夫みたいだ! 早速乗ってみようか!」
「はい!」
初めての乗馬で、ハルトはすごく緊張しているハズだ。
見守っている僕たちでさえ、こんなに緊張するんだから……!
すると、まるでハルトが乗りやすい様に馬がゆっくりと体高を低くし、じっとしている。ハルトは馬の背を撫でてゆっくりと跨った。体制を整えると、ゆっくりと身体を起こし、カッポカッポと歩み始めた。
「うわぁ~! ぼく、おうまさん、のってます!」
「はるくんちゅごぉ~ぃ!」
「ハルト! カッコいいよ!」
「これはオリビアにも見せたかったなぁ! 凄いぞ、ハルト!」
「やったぁ~! おうまさん、たかいです! すご~い!」
マイヤーさんが手綱を引きながら、ハルトが落ちない様にしっかりと腰を支えてくれていた。
しばらく辺りを一周して戻ってくると、ハルトはすごくはしゃいで乗せてくれた馬にありがとうと優しく体を撫でていた。
「よし! ユウマくんもやってみようか! ユウマくんはトーマスさんと一緒の方がいいかな?」
「じぃじといっちょ! ゆぅくん、じょうじゅにできりゅかなぁ?」
「この子も優しいから大丈夫! ご挨拶してごらん」
「ん! おぅましゃん、ゆぅくんものしぇてくれましゅか?」
ユウマが白毛の馬を小さな手でそっと撫でると、この馬も同じ様に鼻をユウマに近付け匂いを嗅いでいる。
そしてゆっくりと体高を下ろし、まるでユウマが乗りやすい様に、自ら体を近付けている様だった。ユウマを乗せると、白毛の馬はゆっくりと立ち上がり、今度はトーマスさんの方に近付いた様に見える。
「驚いたな……! ここの馬は、皆こんなに賢いのか?」
「いや……! 優しい子ばかりですが、ボクも驚いてます!」
「じぃじ~! はやくぅ~!」
ユウマがそう言うと、馬がブルルと小さく嘶いた。
まるで早くしろと言っているみたいだ。
「ハハ! 悪い悪い! 少し重いが我慢してくれよ?」
トーマスさんは何でもない様にヒョイと馬に飛び乗った。
ユウマも僕とハルトもそれにはビックリ! だってすごくカッコいい!!
「さ、ユウマ。お馬さんに乗っておじいちゃんとお散歩だな」
「うん! おぅましゃんおねがぃね!」
ユウマが優しく撫でると、また低く嘶き、ゆっくりと歩きだす。ユウマもトーマスさんもとっても嬉しそう。
次は僕の番だけど、上手く乗れるか心配になってきた……。
「ユイトの番だけど大丈夫か?」
不安が顔に出ていたのか、ローガンさんが心配してくれている。でも、ローガンさんの足元には、まださっきの仔馬がいるので少し笑ってしまった。
「おにぃちゃん、おうまさん、やさしいです! だいじょぶ、です!」
「うん、ありがとう! お兄ちゃんも緊張するけどやってみるよ!」
僕の前にいるのは鹿毛の艶々したキレイな子。
この子はさっきからずっと、僕の方を見つめている様な気がする……。
僕が決心してよろしくね、と撫でようとしたとき、僕たちの後ろから大きな嘶きが聞こえてきた。
ビックリして皆が一斉に振り返ると、
そこには以前に出会った、あの黒い毛並みの大きな馬が立っていた。
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