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73 弟たちの可愛いおねだり

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「ユイトくん、なんだかツヤツヤしてるわね」
「え? つやつや、ですか?」

 営業時間も終了し、現在、明日のイドリスさんたちの予約に向けて仕込みの真っ最中です。ハルトとユウマもお昼寝に行き、トーマスさんもカウンター席で少し休憩中。
 オリビアさんも昨日に引き続き、二つの大鍋にソースを多めに作ってかき混ぜながら、隣でじゃが芋パタータを蒸かしています。
 予約以外に普通のお客様も来店するから、僕はパスタ生地をいつもの三倍近く用意してるんだけど……、大丈夫だよね……?

「アドルフに触れて、よっぽど楽しかったんだろう」
「そうねぇ、楽しそうに走ってきたものね?」
「う……。すみません、勝手な事しちゃって……」

 キースさんの従魔・アドルフが可愛すぎて、たぶん興奮しちゃったんだろうな。営業中なのに外に見に行くし、アドルフ用のパンケーキまで作っちゃったし……。
 一応オリビアさんには確認を取っていたけど、すっごく反省してる。
 申し訳なさ過ぎて、顔があまり見れません……。

「あら、私はユイトくんの子供らしいところが見れて、ちょっと安心しちゃったわ! いっつも私たちに気を使っているでしょう? やっぱりまだ子供なのねぇ~ってダリウスくんたちと皆で話してたのよ?」
「そうだなぁ、オレもあんなユイトは初めて見たからな。ハルトとユウマと同じはしゃぎ方で面白かったな。やっぱり兄弟だと思ったよ」

 同じはしゃぎ方……。二人と一緒に、可愛いって騒いでたしなぁ……。実際、お腹見せてくれたり尻尾フリフリしてすっごく可愛かったんだけど。

「うぅ~……、なんか、恥ずかしいです……」
「ふふ! いいじゃない! 明日を乗り切ればお休みよ? またハルトちゃんとユウマちゃんといっぱい遊んでらっしゃい」
「そうだな。ハワードの牧場も楽しいと思うぞ?」
「はい! 楽しみです! 服はこのままでいいんですよね?」
「あぁ。作業服を貸してくれるそうだから、その上から着ればいい。昼もご馳走してくれるそうだからな」

 牧場でご飯かぁ~! ハワードさんの家は大家族って言ってたから、会うのも楽しみだな~!


 そんな事を思いながら生地を捏ねていると、トーマスさんの氷の入ったグラスがカランと音を立てた。

「なぁ、オリビアは本当に来ないのか?」
「えぇ、牧場までだと足も心配だし。私は家でのんびりしておくわ」
「疲れたらオレが抱えてもいいんだぞ?」
「ちょっとそれは……! 恥ずかしいから遠慮するわ……!」
「そうか? 残念だな」
「もう! からかってるでしょう!」
「いや、本当に思ってるよ」
「もう、やぁね……!」


 ………いま絶対、僕のこと忘れてる気がするんだよね……。

 トーマスさんとオリビアさんは、時々こういう雰囲気になるから、僕たちが来る前はもっと一緒にいたんだろうな、と思う。
 いまはハルトとユウマに付きっきりだし……。
 二人の記念日とか知れたら、お祝いしてみたいな。



「そろそろメイソンの店に行ってくるよ。好物と苦手なものだったな?」

 静かに席を立ち、トーマスさんが僕に確認を取る。

「はい、よろしくお願いします!」
「じゃあ、行ってくる」
「いってらっしゃい!」
「あ、メイソンさんに来るの楽しみにしてるって、伝えておいて!」
「あぁ、わかったよ」

 ……わかったよ、と後ろを振り返らずに片手を上げて去って行くとか……。
 カッコ良すぎて僕には全く似合わないだろうな……。
 ちょっとやってみたいけど。……ほんのちょっとだけね!

 トーマスさんが出ていったのを確認し、オリビアさんが僕の傍に近づいてくる。

「ねぇ、ユイトくん。あの作戦……、どうなったかしら?」
「はい。これなら満足してもらえるんではないかと……!」
「ありがとう……! 私、頑張るわ!」





*****

 手のかかる仕込みを何とか終え、また明日、残りの作業を行う事にした。ハルトとユウマも起きてきて、カウンター席でアドルフのことや、絵本のこと、いろんな話を二人でしながら僕たちの片付け作業を眺めている。
 夕食はハルトのリクエストでパタータとベーコンのグラタン。以前にお詫びで作ったときに、大皿の料理を皆で取り分けながら食べるのが気に入ったらしい。
 もうほんとに、僕の弟って可愛い。


「にぃに、あちたおっきぃおぃちゃん、くるでちょ?」
「おっきぃおぃちゃん……? イドリスさんかな? うん、来るねぇ」

 夕食のグラタンを作っていると、不意にユウマが訊ねてきた。
 あの時、おっきぃおぃちゃんは、たくさんいたからね。明日来るのはイドリスさんだから間違いないと思う。

「ゆぅくんもねぇ、いらっちゃぃましぇ、ちたぃの」
「いらっしゃいませ? 挨拶って事かな? 大丈夫だよ?」

 来てくれてありがとうって事かな? ハルトとユウマは頑張って、冒険者ギルドでお店の宣伝してくれたもんね。

「んーん。ゆぅくんね、にぃにみちゃぃにちたぃの」
「僕みたいに?」
「ん。えぷおんちゅけてね、いらっちゃぃましぇ、……だめぇ?」

 頭をこてんと傾げながら、上目遣いでお願いしてくるユウマはとっても可愛い。
 後ろの方でオリビアさんのグゥッて唸り声が聞こえた気がするけど、たぶん大丈夫。いつものだと思う。

「はるくんもねぇ、ちたぃってゆってたの。ねっ!」
「ぼくも、いらっしゃいませ、したいです……」


「「……だめぇ?」」


「「グゥッ……」」


 可愛すぎて二人同時は反則だな、と思いつつオリビアさんを振り返ると、唇を噛み締めながら両手でマル、と伝えてきた。了解です……。

「二人とも、忙しくなったらお部屋戻れる? それならしても大丈夫だよ」
「しても、いいの?」
「ほんちょ?」

 OKを貰えると思っていなかったのか、二人は顔を見合わせて驚いた様子。

「うん。忙しくなってぶつかったりしたら危ないからね? それでもいい?」
「うん! だいじょうぶ、です!」
「ゆぅくんも! だいじょぶ!」
「では明日、よろしくお願いします!」
「「やったぁ~~!」」


 満面の笑みではしゃぐ二人に、オリビアさんはエプロンを作らなきゃと張り切っていた。

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