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71 キースさんの秘密とパンケーキ

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「キース、美味しい~?」
「………(コクコク)」
「そうか! これも食べてみるかい? 美味しいよ」
「ルーナ、キースを餌付けするな」
「失礼だねぇ、食べてるからいいじゃないか」
「え? あっ、こら! そんなに食べて大丈夫なのか? え? 美味しいって?」
「………(コクコク)」

 あのローブを被ったキースさんって人は、あれからずっとモリーさんとルーナさんが大量に注文したものを少しずつ分けてもらって食べている。
 隣に座るアーチーさんは、何だかキースさんのお兄さんみたいだなぁ……。いや、お父さんみたい?
 けど、食べてる間もずっとフードを被っていて暑くないのかな?


「キースがそこまで食べるなんて珍しいですね」
「食べるって言ってもちょこっとずつだけどな~! うまいからお替りしたくなんの、わかる!」

 隣のテーブル席でキースさんの様子を窺っているのは、ちょっと見た目は怖そうだけど、とっても優しい口調のブラントさん。
 ずっとにこにこして元気なのはビリーさん。僕より年上かな? 今は落ち着いたけど、この人もさっきからずっとビフカツサンドをお替りしてた。

「あら、ありがとう! ビリーくんはもうお替り大丈夫なの?」
「はい! おれも食う方だけど、こいつらとは違うっていうか~」
「そう言ってオマエも結構食ってるけどな?」
「そうです。ジュリアンと同じくらい食べてるじゃないですか」
「いや、パーティん中ではオレが一番少ない方なんだけど?」

 ジュリアンさんとコーディさんは相変わらずの様です。
 他のお客様も何組か入店したけど、やっぱりお昼休憩なのか、食べたらすぐに帰ってしまう。もっと手軽に食べれるものがあったら人気出るかな~?
 そんな事を考えながら調理していると、トーマスさんが入ってきた。後ろからはぴょこぴょことハルトとユウマが続く。

「おぉ、もう帰ってきたんだな。お疲れ様」

 トーマスさんが来た途端、コーディさんは目をキラキラさせている。尻尾がバシバシ当たってジュリアンさんは迷惑そう。

「トーマスさん、アーチーたちがハルトとユウマの事、見たいって言ってましたよ」
「ほぅ? 可愛いこの子たちに会いたいって?」
「あ、はい! 可愛くていい子たちって噂だったもので……」
「………(コクコク)」

 アーチーさんとキースさんがちょっと焦った様子だけど、トーマスさんは二人を可愛いと言われ機嫌が良さそう。すると、隣の席のビリーさんたちがひょっこりと顔を覗かせた。

「へぇ~! めっちゃ可愛いですね! こんにちは! おれビリーっつうの! よろしくな!」
「本当ですね、とても可愛らしいです。こんにちは、私はブラントと言います。以後お見知りおきを」

 お二人に挨拶をされ、ハルトとユウマがビリーさんたちの席の前まで手を繋いで歩いていく。

「びりーさん、ぶらんとさん、こんにちは! ぼくのおなまえは、ハルト、です」
「ぼく、ゆぅくん!」
「おとうとの、ユウマ、です」

 ぺこり

「「「かわいぃ……」」」


「二人とも瞬殺かよ……」
「末恐ろしいですね、流石です……」

 ぺこりとお辞儀をした二人に、ビリーさんとブラントさんはかわいいと呟き、そのまま繁々と見つめていた。そしてなぜかオリビアさんも可愛いと呟き、二人を見つめている。調理に疲れて現実逃避なのかもしれない……。

「ほら、こっちのお兄さんたちにも挨拶しよう」
「「はぁーい!」」

 そして、とことことアーチーさんたちの席まで移動し、ハルトとユウマが二人を視界に捉えると、そのまま席にしがみつき奥に座るキースさんを見つめ始めた。
 この様子に、トーマスさんもアーチーさんたちも驚いた様で焦っている。

「おにぃさん、おめめ、とっても、きれいです!」
「きれぇねぇ~! きらきらちてりゅの!」

 とても興奮した様子で、ハルトとユウマはキースさんを見つめている。キースさんはフードをぎゅっと目深に被り、奥で体を小さくしている。
 ……もしかしたら、顔を見られたくなかったのかもしれない。

「ハルト! ユウマ! お客様に失礼な事しちゃだめだよ?」

 僕がキッチンから注意すると、二人はテーブルから手を離し、しゅんと落ち込んでしまった。
 あ、しまった! ちょっと言い方がきつかったかな……?
 急いで二人の下へ行き、ごめんね、怒ってないよと弁解したがちょっと遅かったみたい。またしょんぼりしてしまった……。トーマスさんもアーチーさんも慌てている。

「え~っと、私の名前はアーチーだ。ハルトくん、ユウマくん、よろしくね」

 アーチーさんが気を使って自己紹介してくれたけど、二人は小さい声で挨拶してまたしょんぼり……。
 困ったな、今日はなかなか機嫌が直らないみたいだ。


「……ぼくの目、……怖く、ない?」


 耳に届くか届かないかの小さな声で呟いたのは……、キースさん?
 周りの人たちが皆息を呑み、驚いた様子で見つめている。ハルトとユウマもパッと顔を上げて、また席に近づいた。

「こわく、ないです! おにぃさん、おめめ、ほうせき、みたいです!」
「きれぇなの! おにぃしゃんおめめ、ゆぅくんちゅき!」

 二人が大きな声でそう言うと、キースさんがゆっくりとフードを取った。

 その瞳は夕焼けみたいに真っ赤で、いつか見た、海に沈む夕日の様にキラキラと光を反射して、息を呑む様な、とても綺麗な色だった。

「きれい……」

 僕が思わず声を漏らすと、キースさんはありがとうとふんわり微笑んだ。
 ハルトとユウマはまるで、ぼくたちが言ったとおりでしょ? と言う様に胸を張っていて、思わず皆で笑ってしまった。





*****

「キース、すまんな。オレの配慮が足りなかった……」
「……いえ。ぼくも、嬉しかったので……」

 キースさんは魔族と人間の所謂ハーフというもので、忌み子として幼い頃から周りに避けられていたらしい。
 そんな周囲の状況に耐えかねた両親が住んでいた村を捨て、普通の人間として過ごそうとしていたがこの赤い眼のせいでまた周囲から避けられていたという。
 そのせいでずっとフードを被ったままだったんだな……。

「眼が赤いと、何かあるんですか?」

 ふと疑問に思い質問すると、赤い眼は魔族にしか現れないそうで、膨大な魔力を使い人々を苦しめるという言い伝えが、各地に残っていると教えてくれた。

 実際はそんな事はないんだけど、酷い事をする魔族も昔は存在したらしい。
 そんな昔の事を、今生きている人たちに言っても……。


(人間だって、酷い事をする人はいるのに……)


 僕はハルトとユウマの頭を撫でながら、そんな事を考えていた。




 僕はオリビアさんに許可を貰い、お詫びとしてキースさんにパンケーキを作っている。他にお客様もいないので特別だ。

「少し待っていてくださいね」
「うん、ありがとう」

 材料は小麦粉、卵、牛乳、ベーキングパウダーに砂糖を使う。
 卵黄と卵白に分け、卵黄には小麦粉とベーキングパウダー、牛乳を入れて混ぜておく。卵白は角が立つまで泡立てて、メレンゲが出来たら先程の卵黄と一緒に混ぜ、フライパンで焼いていく。
 焦げない様に気を付けながらじっくり焼くと、店内に甘~い匂いが立ち込めてきた。そろそろかな、とひっくり返すと、美味しそうな焼き目が付いている。

 皆さん興味津々のようで、カウンター席から覗き込む様に僕の手元を目で追っている。そう見られると緊張するんだけどな。

 トッピングにフルーツサンド用のホイップと、バナナにオレンジオランジュを散りばめたら完成。バターの溶ける匂いがすっごく美味しそう!


「どうぞ、まだ熱いので気を付けてください」
「わぁ! ありがとう! いただきます!」

 キースさんはナイフで小さく切り分けて、パクリと一口頬張った。

「んん~~! おぃひぃ!」

 今まで小さな声でぽそぽそと喋っていたキースさんの大きな声に、一番ビックリしたのはアーチーさんたち同じパーティの三人だ。

「キースが……!」
「嬉しそうでなによりですね……」
「キースがでっけぇ声出すくらい、うまいのか?」

 少し感慨深そうに優しく目を細めるアーチーさんとブラントさん。
 それよりもビリーさんはパンケーキに興味がある様でソワソワしてる。

「ビリー、食べてみる? ……はい」
「やった! ありがと!」

 全身で嬉しいと表現するビリーさんに、にっこり微笑むキースさん。切り分けたパンケーキを大きく開けた口でパクリと頬張る。

「うっま───っ!!!」

 大声で叫んだビリーさんに、アーチーさんたちは耳を塞いで迷惑そう。キースさんだけが終始にこにこしていた。



「はい、皆さんもどうぞ。これはお替りが無いので、すみません……」

 オリビアさんが皆にも作っていいわよ、と言ってくれたのでハルトとユウマも加えて大騒ぎ。その間にコーディさんはちゃっかりトーマスさんの席の近くに陣取っていた。
 一緒にいただきますをして一斉に食べ始めたけど、大家族のお母さんってこんな感じなのかな?

「やったぁ~! すっごくいい匂い~! ん~、美味しぃ~!」
「ふわふわしてる! すっげぇ! あっま!」
「ハルトくん、ユウマくん、パンケーキ美味しいですね?」
「はぃ! とっても、おぃしいです!」
「ぶらしゃんも、おぃち?」
「フフッ……。はい、とっても美味しいです」

 ユウマはブラントさんの名前がちゃんと言えないので、許可を貰いブラさんと呼んでいる。ダリウスさんとビリーさんは笑わない様に肩が揺れているけど、ブラントさん本人も嬉しそうなので……、いいのかな?

 あと、フードを取るまで僕はずっとキースさんを女性だと勘違いしていたんだよね……。これはもう言わないで秘密にしておこう……。

「ユイトくん……」

 そう心の中で謝っていると、キースさんが僕に申し訳なさそうに話しかけてきた。

「どうしました?」
「このぱんけーき? って、従魔に食べさせても、いいかなぁ?」

 じゅうま? 確か、魔物? だったよね。キースさん魔物使いテイマーだったのか。

「少しお砂糖が入ってるんで……、どうだろう? どんな子ですか?」
「お店の外にいるんだけど……。見てみる?」
「えっ、いいんですか? 僕見た事ないので楽しみです!」
「にぃに、ゆぅくんもいくぅ!」
「ぼくも、いきたいです!」
「ふふ、……じゃあ、みんなで行こ?」
「「わぁーい!」」

 従魔ってどんなのかな? 大きいのかな? 怖そうだったらどうしよう……、でも楽しみ!

 キースさんの後ろを、僕と手を繋いだハルト、トーマスさんに抱っこされたユウマと一緒についていくと、そこには僕の目線位大きくて、尻尾を音が聞こえるくらいブンブンと振り回す……、



「「「わんちゃんだぁっ!!!」」」


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