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67 トーマスの特製ピザ

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「おじぃちゃん、ずぅ~っと、へんです!」
「ねぇ~、じぃじ~! なんでぇ~?」

 トーマスさんがこんなに隠し事できないとは、オリビアさんも僕も思いませんでした……。


 夕飯の準備も整い、ダイニングで休憩していると、ハルトとユウマがお昼寝から起きてきた。僕とオリビアさんはごく普通に話してたんだけど、トーマスさんがずっとソワソワしてる。
 ハルトとユウマが近寄っただけで笑うのはいつも通りなんだけど、笑顔がぎこちないというか、引き攣っているというか……。

「おじぃちゃん、どうしたの?」
「じぃじ、おにゃかいたぃの?」
「いや、なんでもないよ。心配してくれてありがとう」
「「ほんとぅ~?」」

 二人がおかしいと思うくらいにはおかしいです。

「トーマスって、こんなに分かりやすかったかしら……?」

 長年連れ添ったオリビアさんも困惑気味の様子……。

「嘘が吐けないとかですかね?」
「えぇ~? 嘘なら得意のハズよ? 冒険者だけどそれなりの立場にあるから、近寄ってくる人も多かったし……」
「えぇ~、ちょっと怖いんですけど……」
「あら、昔の話よ~? いまは大丈夫! ん~、ユイトくんたちに弱いのかしらね?」
「僕たちですか?」
「ふふ、昔から優しかったけど、トーマスが裏庭で水遊びしたり牧場に行きたいなんて、昔の知り合いは誰も信じないと思うわ」

 トーマスさんは出会った時から優しいから、僕にはそっちの方が信じられない。

「そうなんですか? なんか僕の中では子供にあまいのが当たり前になってるんですけど……」
「あら! それはいいわね! なんだかそう言われると嬉しいわ!」
「オリビアさんもその中に含まれてますからね?」
「私も? ふふ、ユイトくんたちが特別なのよ?」
「そうなんですか? 普段から優しいけど、僕たちにはもっとあまいって事ですね?」
「そうなるわね~!」


「オリビア~! ユイト~! 助けてくれ~!」


 そう言って二人で笑っているとトーマスさんからSOSが。
 ハルトとユウマはまた熱がないか、トーマスさんのおでこを測っているみたい。心配されるほど変なのか……。
 オリビアさんが助けに行ったみたいだけど、二人はご飯の間もず~っとトーマスさんを見つめていた。





*****

「おはようございます! さぁ、パパっとやっちゃいましょう!」
「おはよう……、朝から元気だな…。昨日は参ったよ」

 珍しくトーマスさんは眠そうだ。まだ明け方だしね。
 昨日のハルトとユウマの怪しむ様子を見て、仕込みの時間にオリビアさんに見てもらう事は危険だなと判断し、まだ二人がぐっすり眠っているうちにピザを盛り付ける事にした。

 ピザ生地も、オリビアさんが作ってくれたトマトソースも準備万端。
 あとは野菜や茹で卵、ベーコンをトッピングすれば、ハワードさんが持ってきたモッツァレラをのせて焼くだけ。
 準備をしたら目も覚めたのか、トーマスさんもやる気十分だ。

「……トーマスさん、今回は子供用にかわいくしてみますか?」
「かわいく?」

 ちょっといい事を思いついた。

「はい! ハルトとユウマがもっと喜ぶ様に、ここを……、こんな感じに……」
「おぉ……! そんな風にも出来るのか……!」
「ここを、こうしたら……」
「おぉ……! これはいいな……!」

 どうせなら見た目も楽しい方がいいかなと思って提案したんだけど、どうやらトーマスさんにも好感触のようだ。
 二人とも喜んでくれるだろうか、と不安気だけど。
 大丈夫です! 絶対喜びます! 自信もってください……!



「よし! 出来た! ……どうだろうか?」
「これは僕でも嬉しいと思います……! はやく二人に見せたいですね!」
「あぁ、だけどこんなに大変だとは思わなかったよ。ユイト、いつもありがとう」
「え? 僕ですか?」

 急にお礼を言われてびっくりしてしまった。

「そうだよ。オレもオリビアも、ユイトの料理が大好きだからな」
「ふふ、急に褒められると照れちゃいますね」
「そうか? なら皆で、毎日言おうか」
「恥ずかしいから、それはやめてください……」
「ハハ! でもいつも思っているからな、それは分かっていてくれ」
「うぅ……。恥ずかしいけど、ありがとうございます……」

 トーマスさんは笑ってるけど、そうやって改めて言われると、嬉しいけどソワソワしてなんだか照れ臭い。
 でも、そう言ってもらえるとまた頑張ろうって思えちゃうんだよな。


 トーマスさんはハルトとユウマの分を盛り付けるのに神経を使ってしまったと言って、またひと眠りすると寝室に戻ってしまった。
 皆で試食する用の普通のピザの盛り付けは僕が担当したけど、そのうちの一枚がトーマスさんの琴線に触れた様で、これはオレが食べたい、と言って念を押されてしまった。
 今度はちゃんと取っておくので、心配しないでください……。





*****

「こんにちは~! モッツァレラ、持ってきたよ」
「おじゃましまーす!」

 開店前の仕込み中、ハワードさんがモッツァレラを持ってきてくれた。
 今日は息子のダニエルくんも一緒だ。もし配達を頼む事になったら、今後はダニエルくんが担当してくれるそう。
 ハワードさんからモッツァレラを受け取り、早速ピザを焼いていく。

「トーマスたち呼んでくるから、少し待っててくれる?」
「はい。大丈夫ですよ」
「うわぁ~! すっごく美味しそうな匂いする!」
「昨日父さんが食べたパスタも美味しかったぞ」
「えぇ~! ズルい!」

 仲の良い親子の会話が聞こえてくる。少しだけ、羨ましく思ってしまう。
 店内にチーズの焼けるいい匂いが充満したところでトーマスさんたちがやって来た。ハルトとユウマはこちらを覗こうとぴょんぴょんと跳ねている。

「にぃに! このにおぃなぁに~?」
「すっごく、いいにおい、です!」
「あ、もうすぐ出来るから座って待っててね~」
「「はぁ~い!」」

 ハルトとユウマも美味しそうな匂いに素直に席に着く。
 その横でトーマスさんがずっとソワソワしていて、つい笑ってしまった。

 オーブンを開けると、チーズもとろりと溶けていい匂い。
 トーマスさんが二人のために作った特製ピザも、美味しそうに焼きあがった。
 そしてハワードさんとダニエルくんに断り、先にハルトとユウマの席にピザを運んで行く。トーマスさんは若干緊張している様子かな?

「はい、お待たせしました! ハルトとユウマ専用の特製ピザでーす!」
「「うわぁあああ~~~!! すごぉ~~~ぃ!!」」

 二人の前に並べたのは、生地を小さく切り分け猫の顔にし、耳はとうもろこしマイス、目と鼻はオリーブでトッピングした猫のピザ。
 生地を星型にし、ベーコン、オニオン、ピーマンペペローネ、トマトを角切りにし、ユウマの好きなマイスをたっぷりトッピングした星のピザ。
 そして丸く形成し、ブロッコリーブロッコリ、ベーコン、茹で卵、マイス、ハルトの好きなじゃが芋パタータを粗く刻み、上にお手製マヨネーズをかけたピザの三種類。

 どれもハルトとユウマが手で持ちやすい様に、小さく作られている。
 チーズの溶ける匂いも相まって、すっごく美味しそう!

「おにぃちゃん! たべてもいーい?」
「ゆぅくんもたべちゃぃ!」
「ふふ、ちゃんと作ってくれた人に、いただきますと、ありがとうって言ってからね?」
「おにぃちゃん、ちがうの?」
「うん。作ってくれたのはねぇ」
「オレだよ」
「「「「 えぇ~~~~!?」」」」

 僕が両手でトーマスさんを示すと、トーマスさんが自分だと右手を挙げた。
 それにはハルトとユウマ、ハワードさんとダニエルくんまでびっくりしていた。

「おじぃちゃん! すごぉーい!」
「じぃじちゅごぃねぇ~!」
「ほら、二人とも、食べてみておくれ」
「「いただきまーす(ちゅ)!」」


「「おぃしぃ~~~っ!!」」


 二人はこのピザの美味しさに大喜びで、席でずっとはしゃいでいる。
 この様子に、見守っていたオリビアさんもにっこり。

「気に入ってくれたかい?」
「「うん!」」

 ハルトとユウマに絶賛されて、トーマスさんは耳まで赤くなっている。
 それを見ていたハワードさんとダニエルくんは、さっきからずっと、口がポカンと開いたままだ。

「おじぃちゃん、とっても、おいしいです! ありがと、ございます!」
「じぃじのぴじゃ、ゆぅくんまたたべちゃぃ! ありぁと!」
「本当かい? おじいちゃんも嬉しいよ、ありがとう」

 トーマスさんは二人をぎゅうっと抱きしめてとっても嬉しそう。
 ハルトもユウマも嬉しいに決まってる。

 だって、二人の大好きなトーマスさんが作ってくれたんだからね。
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