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52 じぃじとおでかけ
しおりを挟むオレは今、とても気分がいい。
現在、可愛いハルトとユウマを膝に乗せ、乗合馬車に揺られている最中だ。
馬車と言っても椅子などない。二人を固い板の上に座らせる事なんて出来ないだろう? だからオレの膝の上が一番安全だ。
出会った日にカーターの荷馬車には乗ったが、数人の乗客と村の外に行くのは楽しいらしく、ゆっくり流れる景色を見ながら機嫌良さそうにはしゃいでいる。
「おじぃちゃん、あれは、なんですか?」
「ん? あれはな、野菜を収穫してるんだよ」
「あそこ、ぱすてく、いっぱい、あります!」
「あぁ~! ぱちゅてく~!」
ハルトが指差す方には、数日前に皆で食べた西瓜がごろごろと並べられていた。
「パステクも、あそこでお仕事してる人たちが育てたんだよ」
「ぱすてく、とっても、おいしいです!」
「おぃちぃねぇ、ゆぅくんぱちゅてくちゅき!」
「また帰りに買って行こうか」
「「やったぁ~!」」
この二人はとても可愛い。
天の使いかと思ったこともあったが、間違いはなさそうだ。
今もパステクを収穫している男性たちに、こんにちはと手を振っている。あちらもとても楽しそうに手を振り返してくれた。
そんなオレを見て、御者のブライスが目を丸くして何度もこちらを振り返る。
前を見ろ、前を。
周りの乗客もハルトとユウマの余りの可愛らしさにやられてしまったようだ。口が開いたままだが、喉が渇かないのか心配だ。
「ゆぅくんねぇ、いまからじぃじとはるくんと、おでかけなの」
いいでちょ? と隣の乗客に話しかけている。
そんなユウマに楽しそうでいいねぇ、と屈強な体つきのこの男が目尻を下げて答えている姿はとても珍しい。
「まさかトーマスさんに、こんな可愛い孫がいたなんてなぁ……。何かの間違いかと思ったよ」
「おじさん、おじぃちゃんの、おともだち、ですか?」
「いや、お友達では……」
「おともらち? ちあぅの?」
「そうなんだ、お友達なんだよ。な、ドリュー?」
「お、おう……。そうなんだよ。な、トーマスさん!」
なぜか引き攣った表情を見せるドリュー。
具合でも悪いのかもしれない。心配だ。
*****
乗合馬車を降り、目的地の冒険者ギルドまでは歩かなければならない。大人の足ではものの数分で着くのだが、なんせ二人はまだ幼い。少し休憩しつつギルドに向かうとしよう。
ドリューは気にしていた様だが、別に依頼を受けに行く訳ではない。俺たちはのんびり行くから気にするなと先に行かせた。
「あら! トーマスさん! なぁに、そんなに可愛い子たち連れて! あ、もしかしてエリザが言ってた子たちかしら?」
声を掛けてきたのはこの街で宿屋を営むイライザ。
あの肉屋のエリザの姉だ。姉妹揃って話好きなんだ、これが。
「あぁ、オレとオリビアで世話をしている子たちだ。可愛いだろう?」
「こんにちは! ぼくのおなまえは、ハルト、です」
「ゆぅくん!」
「おとうとの、ユウマ、です」
「こんにちは! おばさんの名前はイライザよ! 今日はおじいちゃんとお出掛けなの?」
「しょうなの! いぃでちょ!」
「おでかけ、たのしい、です!」
「あらあら! いぃわねぇ~!」
イライザは二人の目線に合わせてしゃがみ、話をしてくれている。あの姉妹はこういうところがあるから憎めないのだ。
イライザに別れを告げ、ハルトと手を繋ぎ、ユウマは左手に抱っこで道を歩く。
道すがら視線を集めているなと感じつつ、目的地へ向かう。
……はずだったが、ユウマが美味しそうと言ったので、今はカットフルーツの屋台の横で丸椅子に座り梨と葡萄を食べている。
「ん~! あまくって、おいしい、です!」
「おぃちぃねぇ! ゆぅくん、これちゅき!」
「そうかそうか……! ゆっくり食べなさい」
この調子ではいつギルドに着くか分からないが、二人が嬉しそうなのでオレは満足だ。
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