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28 ハルトのおねがい

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「……ねぇねぇ、おにぃちゃん……」

 夕食後、トーマスさんたちにおやすみと言って別れ、兄弟用のベッドで寝ていると、ハルトがこそこそと話しかけてきた。

「ん~……? ハルトぉ、どうしたの~……? トイレ~……?」

 ユウマはぐっすり寝入っている。僕は半分寝かかっていたので少しボーっとしているが、弟のトイレのために起きなければ……。

「ん~ん、ちがぅの。おてつだぃね? おばぁちゃんのも、つくりたぃの」
「オリビアさんの……?」
「うん。おばぁちゃんにも、おれぃ、したぃです」

 当日、トーマスさんにハルトとユウマも作りました~! ってビックリさせる作戦だったんだけど、ハルトはオリビアさんもビックリさせたいらしい。
 そうだな、お世話になってるから何か作って渡すのもいいかも。
 でも、オリビアさんはいつも一緒だから隠れて作るのはムリだなぁ…。

「おばぁちゃんの、つくれる?」
「ん~……、そうだなぁ……」

 誰かに協力してもらって、オリビアさんを引き留めてもらえば……。いや、そんなに上手くはいかないか……。誰に頼む? 僕たち三人が家に残って、オリビアさんが出かけてもおかしくない理由……。

んん~~~、わかんない……!

「ハルトぉ~、お兄ちゃんが考えてみるから、今日はもう寝よぉ~……?」
「おれぃ、できる?」
「うん、一緒にオリビアさんにお礼しよう? でも、当日まで内緒だからね?」
「うん! おにぃちゃん、ありがと!」
「ハルトは優しいなぁ……。ほら、もう遅いからおやすみ……」
「はぁ~ぃ。おやすみなさぃ」

 なんて良い子に育ったんだろう……、僕は猛烈に感動している……。
 でもこれは責任重大だ。それに何を作ろうか? オリビアさんも喜んで、ハルトとユウマも手伝える料理……。何が好きだったっけ? 苦手なものは?

んん~~~、わかんない……!!





*****

 ……いつの間にか、窓の外は白んで朝になっていた。
 結局、考え過ぎて少ししか寝れなかったな……。でも、おかげでちょっといいものを思いついた……! ような気がする……。


「おはようございます。トーマスさん、オリビアさん」
「あぁ、おはよう。ユイト」
「おはよう、ユイトくん」

 今日のトーマスさんの予定は、ギルドに行って指名依頼の細かい確認と、お肉屋さんに頼まれたお肉(豚の魔物と鳥の魔物)の納品依頼。
 魔物のお肉は、家畜とはまた違って美味しいから人気があるんだって。
 お肉はいろんな村で必要だから、冒険者の人に依頼して納品してもらってるらしい。魔物って大きいよね……? どうやって運んでるんだろう?

 僕は朝から買い出しに。冒険者の人たちが来るのが明後日だから、今日と明日に分けて足りない食材を買いに行く。どれくらい食べるか分からないから多めに買っておこう。
 その間、オリビアさんはハルトとユウマと家でお留守番。僕が帰ってきたら、昨日言ってたミートパイを教えてもらうんだ。楽しみ!


 朝食を軽く食べて、トーマスさんと一緒に家を出る。

「トーマスさん、魔物って大きいですよね? どうやって運んでるんですか?」
「魔物か? そうだな、家畜用ではなく魔物だからユイトの背丈は越すんじゃないか? オレは昔を手に入れたから運が良かったんだ。かなり経つが、今でも現役だよ」

 そう言って、トーマスさんがポンと腰に巻いた毛皮の腰布? を叩く。普通の毛皮だけど……? それでどうやって……? それが顔に出ていたのか、トーマスさんが笑いながら教えてくれた。

「これは“魔法鞄マジックバッグ”と言って、中身は見た目の何倍も物が入れられる便利な物なんだ。狩った獲物なんかはコレに入れて持ち運ぶようにしてる」
「これ鞄なんですか? おしゃれな毛皮を巻いてるのかと思ってました!」

 言われないと全く分からなかった! トーマスさんの持つコレは、山に登る人がゴツゴツした岩でも、濡れていたり、雪の積もったりしてる場所なんかでも座れるように巻いてる“尻当て”に見せかけた魔法の鞄だった。
 本来はダンジョンのドロップ品か、王都の高級な魔道具のお店くらいにしか売ってないらしく……。普通に持ってると狙われやすいから、裁縫の得意なオリビアさんに頼んでカモフラージュしてるんだって!
 だから内緒にしてくれとお願いされた。
 絶対言わないよ! トーマスさんが狙われたらこわいもん!

 それよりも……。オリビアさんって裁縫が得意なのか……。
 いいことを聞いたぞ……。ふふふ……!



「じゃあな、ユイト。気を付けて」
「はい! トーマスさんも気を付けて! いってらっしゃい!」

 トーマスさんと別れ、僕は村の店通りへ。
 今日は野菜とお肉、牛乳に卵と、たくさん買うから二往復くらいする予定。最初のお店は野菜を中心に売ってるジョージさんのお店へ。

「ユイトくん、いらっしゃい! 今日は収穫したての茄子エッグプラント南瓜キュルビスがオススメだよ!」
「美味しそうですね! 今日はたくさん買う予定なので、オススメの野菜、ジョージさんのお任せでお願いします!」
「はいよ! 任せときな~!」

 楽しそうに野菜を選んでくれてるジョージさんに、目的のものを聞いてみることにする。

「ジョージさん、この辺りで裁縫が苦手で困ってる人っていますか?」
「裁縫~? どうした急に?」
「実はですね……」

 ジョージさんに一通り事情を説明すると、やっぱり坊主たちはいい子だなぁ~、と涙ぐんでいた。この事はもちろん内緒にすると約束してくれた。

「それなら肉屋のエリザに聞くのが一番手っ取り早いだろうよ!」
「あ~、やっぱそうですかね~」

 エリザさんはお話し好きの女性だが、今回のことがトーマスさんとオリビアさんにバレては困るため、正直悩んでいた……。

「あ~……。心配なのも分かるが、エリザは驚かせることが好きだからな! ちゃんと我慢すると思うぞ?」

 たぶんな? そう苦笑いしながらジョージさんは頑張れと言って見送ってくれた。やっぱりエリザさんに聞くのが一番早いか~……、時間もないしな~……。


「よし! 行くか!」


 僕は覚悟を決めて、エリザさんのいるお肉屋さんへと向かった。
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