30 / 383
28 ハルトのおねがい
しおりを挟む「……ねぇねぇ、おにぃちゃん……」
夕食後、トーマスさんたちにおやすみと言って別れ、兄弟用のベッドで寝ていると、ハルトがこそこそと話しかけてきた。
「ん~……? ハルトぉ、どうしたの~……? トイレ~……?」
ユウマはぐっすり寝入っている。僕は半分寝かかっていたので少しボーっとしているが、弟のトイレのために起きなければ……。
「ん~ん、ちがぅの。おてつだぃね? おばぁちゃんのも、つくりたぃの」
「オリビアさんの……?」
「うん。おばぁちゃんにも、おれぃ、したぃです」
当日、トーマスさんにハルトとユウマも作りました~! ってビックリさせる作戦だったんだけど、ハルトはオリビアさんもビックリさせたいらしい。
そうだな、お世話になってるから何か作って渡すのもいいかも。
でも、オリビアさんはいつも一緒だから隠れて作るのはムリだなぁ…。
「おばぁちゃんの、つくれる?」
「ん~……、そうだなぁ……」
誰かに協力してもらって、オリビアさんを引き留めてもらえば……。いや、そんなに上手くはいかないか……。誰に頼む? 僕たち三人が家に残って、オリビアさんが出かけてもおかしくない理由……。
んん~~~、わかんない……!
「ハルトぉ~、お兄ちゃんが考えてみるから、今日はもう寝よぉ~……?」
「おれぃ、できる?」
「うん、一緒にオリビアさんにお礼しよう? でも、当日まで内緒だからね?」
「うん! おにぃちゃん、ありがと!」
「ハルトは優しいなぁ……。ほら、もう遅いからおやすみ……」
「はぁ~ぃ。おやすみなさぃ」
なんて良い子に育ったんだろう……、僕は猛烈に感動している……。
でもこれは責任重大だ。それに何を作ろうか? オリビアさんも喜んで、ハルトとユウマも手伝える料理……。何が好きだったっけ? 苦手なものは?
んん~~~、わかんない……!!
*****
……いつの間にか、窓の外は白んで朝になっていた。
結局、考え過ぎて少ししか寝れなかったな……。でも、おかげでちょっといいものを思いついた……! ような気がする……。
「おはようございます。トーマスさん、オリビアさん」
「あぁ、おはよう。ユイト」
「おはよう、ユイトくん」
今日のトーマスさんの予定は、ギルドに行って指名依頼の細かい確認と、お肉屋さんに頼まれたお肉(豚の魔物と鳥の魔物)の納品依頼。
魔物のお肉は、家畜とはまた違って美味しいから人気があるんだって。
お肉はいろんな村で必要だから、冒険者の人に依頼して納品してもらってるらしい。魔物って大きいよね……? どうやって運んでるんだろう?
僕は朝から買い出しに。冒険者の人たちが来るのが明後日だから、今日と明日に分けて足りない食材を買いに行く。どれくらい食べるか分からないから多めに買っておこう。
その間、オリビアさんはハルトとユウマと家でお留守番。僕が帰ってきたら、昨日言ってたミートパイを教えてもらうんだ。楽しみ!
朝食を軽く食べて、トーマスさんと一緒に家を出る。
「トーマスさん、魔物って大きいですよね? どうやって運んでるんですか?」
「魔物か? そうだな、家畜用ではなく魔物だからユイトの背丈は越すんじゃないか? オレは昔コレを手に入れたから運が良かったんだ。かなり経つが、今でも現役だよ」
そう言って、トーマスさんがポンと腰に巻いた毛皮の腰布? を叩く。普通の毛皮だけど……? それでどうやって……? それが顔に出ていたのか、トーマスさんが笑いながら教えてくれた。
「これは“魔法鞄”と言って、中身は見た目の何倍も物が入れられる便利な物なんだ。狩った獲物なんかはコレに入れて持ち運ぶようにしてる」
「これ鞄なんですか? おしゃれな毛皮を巻いてるのかと思ってました!」
言われないと全く分からなかった! トーマスさんの持つコレは、山に登る人がゴツゴツした岩でも、濡れていたり、雪の積もったりしてる場所なんかでも座れるように巻いてる“尻当て”に見せかけた魔法の鞄だった。
本来はダンジョンのドロップ品か、王都の高級な魔道具のお店くらいにしか売ってないらしく……。普通に持ってると狙われやすいから、裁縫の得意なオリビアさんに頼んでカモフラージュしてるんだって!
だから内緒にしてくれとお願いされた。
絶対言わないよ! トーマスさんが狙われたらこわいもん!
それよりも……。オリビアさんって裁縫が得意なのか……。
いいことを聞いたぞ……。ふふふ……!
「じゃあな、ユイト。気を付けて」
「はい! トーマスさんも気を付けて! いってらっしゃい!」
トーマスさんと別れ、僕は村の店通りへ。
今日は野菜とお肉、牛乳に卵と、たくさん買うから二往復くらいする予定。最初のお店は野菜を中心に売ってるジョージさんのお店へ。
「ユイトくん、いらっしゃい! 今日は収穫したての茄子と南瓜がオススメだよ!」
「美味しそうですね! 今日はたくさん買う予定なので、オススメの野菜、ジョージさんのお任せでお願いします!」
「はいよ! 任せときな~!」
楽しそうに野菜を選んでくれてるジョージさんに、目的のものを聞いてみることにする。
「ジョージさん、この辺りで裁縫が苦手で困ってる人っていますか?」
「裁縫~? どうした急に?」
「実はですね……」
ジョージさんに一通り事情を説明すると、やっぱり坊主たちはいい子だなぁ~、と涙ぐんでいた。この事はもちろん内緒にすると約束してくれた。
「それなら肉屋のエリザに聞くのが一番手っ取り早いだろうよ!」
「あ~、やっぱそうですかね~」
エリザさんはお話し好きの女性だが、今回のことがトーマスさんとオリビアさんにバレては困るため、正直悩んでいた……。
「あ~……。心配なのも分かるが、エリザは驚かせることが好きだからな! ちゃんと我慢すると思うぞ?」
たぶんな? そう苦笑いしながらジョージさんは頑張れと言って見送ってくれた。やっぱりエリザさんに聞くのが一番早いか~……、時間もないしな~……。
「よし! 行くか!」
僕は覚悟を決めて、エリザさんのいるお肉屋さんへと向かった。
応援ありがとうございます!
137
お気に入りに追加
5,077
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる