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17 甘い匂いと僕だけの秘密
しおりを挟むオリビアさんの衝撃の事実を聞き、まだどこか頭が追い付かない状態の僕だったが、ふと外を見ると西日が照っている。
お店が開店するまでは、僕が皆の食事を練習がてら作ることになっていたので、ここで気合を入れ直す。
お昼がじゃが芋メインのメニューばかりだったので、夜は少し軽めにしましょうとトマトと大豆、ひよこ豆、あとは鶏肉?のスープ、とうもろこしとアスパラガスのバター炒めの二品になった。
お昼に余ったオニオンも、今回みじん切りにして使用する。
スープはにんにくを先に炒めるんだけど、ハルトとユウマがいるから今回は使わないでいいらしい。
鍋にオリーブ油を引き、オニオンと鶏肉を炒め、トマトとソーヤ、チックピー、そこに牛乳を入れてひと煮立ち。
煮立ったら弱火にして、とろみがついたらほんの少~しだけ塩を振って味を調整。
皿に盛り、パセリをかけて完成!
美味しそうに出来たけど、鶏肉だと思っていたのは鳥の魔物の肉だった……。
バター炒めはアスパラゴを下茹でし斜め切り、マイスは皮を剥いてかるく水洗いし、ケガをしないように気を付けながら包丁で実を削ぎ落とす。
あとはすごく簡単。バターを熱して、マイスとアスパラゴを炒めるだけ。
これも絶対に弟たちが喜ぶ味だ。アスパラゴは僕の知ってるアスパラガスと違って、倍くらい大きくて太い。今日使ったのは緑色だけど、春に収穫される白いアスパラゴっていうのもあって、それもすごく美味しいそうだ。
オリビアさんがまた来年の春に一緒に食べようと言ってくれた。
店内に、美味しそうなバターの甘くて香ばしい匂いが充満してる。
この匂いを嗅ぐと、誰でもお腹が空くと思う……。
しばらくは練習がてらお店で食べることになったので、人数分の食器と弟たち用の牛乳をテーブルにセッティング。
トーマスさんには、この量だと物足りないかもしれないのでパンも添えておいた。
「いぃにお~ぃ!」
「おなか、すきました!」
ほら。匂いを嗅ぎつけて、ハルトとユウマがパタパタとやって来た。後ろから遅れてトーマスさんもやって来る。
皆が席に着いたのを確認して、
「お待たせしました! どうぞ、お召し上がりください!」
「「「「いただきます(まちゅ)!」」」」
ハルトとユウマが、小さなスプーンでパクリと頬張る。
「んん~! おにぃちゃん、これ、おぃしー!」
「ゆぅくんも! これちゅき!」
なんかお昼も聞いたセリフだな、と笑いながら、ハルトのほっぺについた食べかすを拭ってやる。
ハルトとユウマは想像通り、マイスとアスパラゴのバター炒めがたいそう気に入ったようだ。また食べたいと早速おねだり。まだ食べてる途中なのにと、つい笑ってしまった。
ユウマはトーマスさんにコップを支えてもらいながら、こくこくと牛乳を美味しそうに飲んでいる。ぷはぁ~っと息を吐くユウマの口元には、薄っすらと白いひげが出来ていて、それを見て皆で笑い、ユウマも皆が笑顔なのでご機嫌でトーマスさん用に添えたパンを食べている。
あ、と注意しようと思ったけど、オリビアさんがお替り用にパンを追加してくれ、トーマスさんも笑っていたので何も言わずにおいた。
この人たちはきっと、良い人過ぎるんだと思う。
たった数日しか過ごしていないのに、もう本当のおじいちゃんとおばあちゃんみたいで、つい僕たちは甘えてしまう。
はやく役に立てるようになりたいな、と思いつつ……。
心の隅で、もう少しだけこの優しいお二人に甘えていたいなと考えてしまうのは、誰にも言えない僕だけの秘密だ。
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