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9 兄弟たちの再会

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 今日はユイトが我が家に帰ってくる日だ。
 昨日話は出来たが、まだ様子を見ようということになり、ユイトはそのまま診療所に泊まる形となった。
 兄が目を覚ましたと伝えれば、ハルトとユウマの二人はその元気は一体どこから来るのだというくらいに喜びはしゃいでいた。
 オリビアも今日はなぜか、いつもより上品な服を着ている気がする……。

「おじぃちゃん、はやく! おむかぇ、いこっ!」
「じぃじぃ~! はやくぅ~!」
「ちょっと待ってくれ。いま行くから」
「ふふっ、二人とも朝から待ち遠しかったものねぇ~?」
「はぃっ! おにぃちゃん、げんき、うれしぃ、です!」
「ゆぅくんも! うれちぃ!」

 きゃあきゃあと家の前ではしゃぎ回る二人に笑いながらも、オリビアは二人の服装を直してる。
 オリビアは足が悪いため、家で料理を作って待っているという。本当はたくさん食べさせてやりたいが、ユイトの体調が万全になったら改めてご馳走を作ると張り切っている。
 オリビアの作るミートパイは絶品だからな。オレも楽しみだ。



「今日は悪いな、カーター。わざわざ付き合ってもらって」
「いえいえ! ユイトくん、目を覚ましたと聞いて安心しました!」

 万が一、途中でユイトの体調が悪くなった場合のためにカーターには付いてきてもらうことにした。ハルトとユウマのことを連れて帰ってもらうためだ。
 二人とも、カーターのことは馬車に乗せてくれた優しいおじさんだと思っている。
 おじさんと言われ、カーターは少しショックを受けていたが……。

「店があるのにすまないな。助かるよ」
「トーマスさんと私の仲じゃないですか~! 店番は父たちがやってくれてますので、安心してください!」

 気にしないでください、と笑顔で言い切るカーターは、本当に良いやつだなと思う。
 オリビアにカーターの家の分もミートパイを焼いてもらおう。
 そう考えながら歩いていると、ハルトとユウマが道行く人たちに挨拶していた。皆ニコニコと挨拶を返してくれる。おしゃべり好きなエリザから伝わっているのだろう。昨日のうちに、近所に住む者は大方顔見知りになっていた。
 うん、今日もうちの子は可愛い。





*****





「おにぃちゃん! おむかぇ、きたよー!」
「にぃに~!」

 診察中のカーティスとの挨拶もそこそこに、二人はパタパタとユイトの病室に向かっていた。

「こ~ら、ハルト? ユウマ? 走ったら危ないだろ? 僕以外にも寝ている人がいるんだから、大人しくしないとダメだよ?」
「うぅ、ごめんなさぃ……」
「ごめんなちゃぃ……」
「ふふっ! ハルト、ユウマ、会いたかったよ!」
「ぼくもっ!」
「ゆぅくんも~!」

 ユイトにぎゅうっと抱きしめられて、二人はきゃっきゃと大喜びだ。
 周りにいる見習いや患者たちも、どこか微笑ましいものを見ているように雰囲気が和らいだ気がする。

「あれ~? なんだかここだけ、別世界のような気がするよ……」

 そう言ってまた、くたびれた様子のカーティスが病室に入ってきた。

「カーティス、今回は世話になった。感謝するよ」
「カーティス先生、ありがとうございました」
「はい。次は来なくてもいいように、ちゃんと食べてよく動いてたくさん寝てくださ~い!」
「はい! 気を付けます!」
「せんせ、ありがと、ござぃました!」
「しぇんしぇ、ありぁとござぃまちた!」
「はぁ~~~っっ!! 今日もかわいいねぇ~~~!!!」

 助手のコナーや見習いたちが白い目で見守る中、カーティスは思う存分ハルトとユウマを撫でて満足したらしく、颯爽と仕事に戻っていった。

「ユイトさん。次からはムリのないように、ちゃんと食べてくださいね?」
「はい、気を付けます。コナーさん、お世話になりました」
「君たちも、お兄さんがちゃんと食べてるか見張っててね?」
「はぃ! ちゃんと、みます!」
「ゆぅくんも! みりゅよ!」
「おぉ! これは頼もしい! お願いしますね!」

 そう言ってコナーはハルトとユウマに食事の監視係を頼んだようで、二人は頼られたせいかフンスフンスと鼻を膨らませ興奮していた。
 子供をその気にさせるのがうまいな……。見習わねばならない。




 挨拶を終え、カーティスの診療所を出たところでハッとユイトが青ざめた。
 どこか気分でも悪くなったのかと心配したが、治療の代金を払っていないという。昨日のうちに支払ったというと、今度は働いて返すと慌てている。必要ないと言っても納得せず、結局ユイトが働いて、少しずつだが返していくということになった。
 まぁ、一緒に暮らすんだから、そんなに急がずのんびりでいいと頭を撫でると、ユイトは照れたようにはにかんだ。


「トーマスさ~ん……! おチビちゃん、寝ちゃいましたよ~……!」

 ユウマは兄に会えると朝早くからはしゃいでいたせいか、カーターの腕の中でぐっすりと寝ていた。
 ユイトと手を繋ぐハルトも、歩きながら少し眠そうだ。

「ユイト、ハルトも寝そうだ。ハルト、抱っこしてやろう、こっちへおいで」
「んぅ~、だっこ……」
「ほら、家に着いたら教えるから寝てていいぞ」
「はぁぃ……」

 むにゃむにゃと言いながら、ハルトもオレに寄り掛かりすぐに寝てしまった。
 それを見て、カーターはユウマを起こさないように小声でユイトに話しかける。

「トーマスさんがちゃんとおじいちゃんしてますね……! これは村の皆、ビックリしますよ……!」
「え? そうなんですか?」
「はい……! トーマスさんは元々Aランクの冒険者ですから……! 組んでたパーティーの人達もそうですが、昔はすっごくオーラがあって近寄りがたくて……! 怖いけど、皆の憧れでした……! あっ、いまでもすっごく強いですよ! よくギルドの依頼で魔物とか倒してますからね……!」

 この村の高級な魔物の肉は、大体トーマスさんが狩ってきます! 
 そう言ってヒソヒソ話していると、先を歩くトーマスが振り返り、カーターの額を指で軽くコツンと叩く。

「こら、無駄話は終わりだ。オリビアが待っているから早く帰るぞ」
「わわっ、すみません……!」

 そんなやり取りをしていると、ユイトがキラキラした目でトーマスを見ていた。
 横で見ていたカーターはその目を知っている。なんせ昔の自分や友人たちもそうだったからだ。

「トーマスさんって、冒険者、なんですか……?」
「ん? ……あぁ、言ってなかったがそうだよ。今はBランクに下がってしまったが……」
「……す、スゴイ……っ! 冒険者だなんて……っ! カッコいいですっ!!」
「おいおい、ユイト……! 声が大きい!」

 興奮しきりに自分を褒めるユイトに、トーマスも満更でもなく耳が赤くなっている。
 ……が、ユイトの声で寝ていた二人は案の定起きてしまった。起きてすぐは愚図っていたが、トーマスが冒険者だと知るや否や、幼子二人もおじぃちゃん、すごぉい! かっこいぃ! と興奮気味だ。
 トーマスの顔は、嬉しいのか照れているのか、見事に真っ赤になっている。


( あのトーマスさんが……! オモシロい……! )


 そしてこの出来事も、カーターがエリザにポロっと話したせいで明日には村中に知られることとなるのだった。


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