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序章~エロ作家の副業~
発端編
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私は自分が何屋なのだか分からないなと苦笑してしまうことがある。
最近は特にその度が高まっている気がしてならない。
私こと一一一一は、自称物書き。
チラシの裏に書き散らしたようなエロ三文小説を電子書籍などで売ったり、Web媒体にガジェット系の雑文を提供したりして日銭を稼いでいるに過ぎない人間である。
ところが最近はそんな「本業」よりもサブの仕事が忙しくなっており、おまけに収入額で言うなら断然そちらのほうが多いのだから、どっちが「本業」だか分かったものではない。
サブ仕事――と言いつつ実質の「本業」――は、もぐりの除霊師みたいなことだ。
実話怪談系の文章を書くネタ集めとして、知人からその類の話を蒐集したりするうちに「お祓い」じみた真似をも頼まれ、それが妙に効くとの評判が立って人伝てに依頼が入るようになってきたのである。
私は根っからの怖いもの好きで、おまけに霊感もかなり強い。
常人には見えないものが見えてしまうのは幼少期から当たり前の体質で、友人からはキモがられていたくらいだ。
実際かなりキモいことに私はそれら霊的なものにムラムラしてしまう特殊性癖すら持ち合わせ成長してきた。
心霊・怪奇現象などに接することは、私にとって快楽でさえあるのだ。
思えば私の除霊師もどき一発目は、二年ほど前の夏に受けた相談から始まったあの件だった。
私はあるライトエロ系の書下し文庫に関する打ち合せで、江戸川区某所にて編集者と話していた。
編集者の名は佐々田。私と同年の三十二歳だ。
落ち着いた雰囲気の喫茶店内、いい年をした男二人が鼻息荒く童貞卒業がどうとかハーレムだの痴女教師だのと小説の展開について話し込んでいる情景は、後から客観的に考えるとかなり異様だったことだろう。
挿絵を担当してくれる「ころnyan」という絵師さんのサンプル画を見せて貰い、私はご機嫌だった。
流行りの画風ではあるが無名の絵師さんで、佐々田がネット経由で声をかけ初めて商業デビューということになるらしい。
可愛らしい絵柄ながらも肉感の描き方が扇情的で、どんないやらしいシーンを描いて貰おうかとこちらのモチベーションまで上がってくる絵師さんと言えた。
小説の話がひと区切りついたところで、佐々田は身を乗り出して思わせぶりな笑みを浮かべた。
「ちょっと、一一先生に耳寄りなお話がありまして……」
佐々田は、私が怪奇話に目がないことを熟知しており、わざわざ私のためにアンテナを張り巡らしてくれている有り難い情報提供者でもある。
「この絵師さん、先日ヤバげな霊を拾ってしまったみたいなことを言ってましてね」
「なんですって!?」
私は、小説の打ち合わせが前座でしかなかったような心持ちになり、大好物に喰いついた。
「なんでも冗談半分で友達と心霊スポットに突撃したとか。それ以来、身の周りでおかしなことが続いて精神的に参ってるようで……僕はすかさず一一先生のことを熱弁しましたよ! イラスト提供して貰う案件の作家さんが、そっち方面の話にも詳しいから相談してみたらどうかって」
「佐々田さんもなかなか鬼畜ですね。私に出来るのは話を聞いてネタとしてストックすることだけなのに。頼れる相談相手みたいに紹介するなんて……」
「でも、お祓いしてくれる神社とか能力者なんかの当てがあるんじゃないですか?」
「そういう斡旋かぁ。確かにやたらとそっち方面は知識豊富になっているし、紹介くらいなら出来ないこともないでしょうね」
「ほらほら、やっぱり。上手くネタだけ引き出して、後はプロに委ねて、コンビ組む絵師さんにも感謝されての一石二鳥ですよ」
実に計算高い佐々田なのである。
「あっ、違った。一石三鳥と言ったほうが正しいでしょう」
「三鳥?」
「いやあ、この『ころnyan』って絵師さん、若い女の子なんですよ。僕はメールと電話でしかやりとりしてないんで、ご面相までは分かりませんけど、ひょっとしたら……ね?」
佐々田はニヤニヤと下卑た笑いを向けた。
この男、三十過ぎて独身の私を案じて、やたらと色恋話を持ちかけてくるお節介な面もあるのだ。
彼自身は大学時代にデキ婚しており、二男三女に加え今現在も嫁さんが六人目を身籠っているというラブラブ家庭の持ち主である。
「もしも一先生のお眼鏡に叶うエロ可愛い子だったら、仲介役の僕は先生に恩を売れたことになる。こりゃ一石四鳥ですね」
「マジモンの霊障持ちと会わせて貰うだけで十分な恩義に思いますよ」
正直言って、私は絵師の女子に対する期待はしていなかった。
なにしろ私は、生身の女性より霊的体験や怪奇現象にフル勃起する変態性欲の持ち主なのだから。
最近は特にその度が高まっている気がしてならない。
私こと一一一一は、自称物書き。
チラシの裏に書き散らしたようなエロ三文小説を電子書籍などで売ったり、Web媒体にガジェット系の雑文を提供したりして日銭を稼いでいるに過ぎない人間である。
ところが最近はそんな「本業」よりもサブの仕事が忙しくなっており、おまけに収入額で言うなら断然そちらのほうが多いのだから、どっちが「本業」だか分かったものではない。
サブ仕事――と言いつつ実質の「本業」――は、もぐりの除霊師みたいなことだ。
実話怪談系の文章を書くネタ集めとして、知人からその類の話を蒐集したりするうちに「お祓い」じみた真似をも頼まれ、それが妙に効くとの評判が立って人伝てに依頼が入るようになってきたのである。
私は根っからの怖いもの好きで、おまけに霊感もかなり強い。
常人には見えないものが見えてしまうのは幼少期から当たり前の体質で、友人からはキモがられていたくらいだ。
実際かなりキモいことに私はそれら霊的なものにムラムラしてしまう特殊性癖すら持ち合わせ成長してきた。
心霊・怪奇現象などに接することは、私にとって快楽でさえあるのだ。
思えば私の除霊師もどき一発目は、二年ほど前の夏に受けた相談から始まったあの件だった。
私はあるライトエロ系の書下し文庫に関する打ち合せで、江戸川区某所にて編集者と話していた。
編集者の名は佐々田。私と同年の三十二歳だ。
落ち着いた雰囲気の喫茶店内、いい年をした男二人が鼻息荒く童貞卒業がどうとかハーレムだの痴女教師だのと小説の展開について話し込んでいる情景は、後から客観的に考えるとかなり異様だったことだろう。
挿絵を担当してくれる「ころnyan」という絵師さんのサンプル画を見せて貰い、私はご機嫌だった。
流行りの画風ではあるが無名の絵師さんで、佐々田がネット経由で声をかけ初めて商業デビューということになるらしい。
可愛らしい絵柄ながらも肉感の描き方が扇情的で、どんないやらしいシーンを描いて貰おうかとこちらのモチベーションまで上がってくる絵師さんと言えた。
小説の話がひと区切りついたところで、佐々田は身を乗り出して思わせぶりな笑みを浮かべた。
「ちょっと、一一先生に耳寄りなお話がありまして……」
佐々田は、私が怪奇話に目がないことを熟知しており、わざわざ私のためにアンテナを張り巡らしてくれている有り難い情報提供者でもある。
「この絵師さん、先日ヤバげな霊を拾ってしまったみたいなことを言ってましてね」
「なんですって!?」
私は、小説の打ち合わせが前座でしかなかったような心持ちになり、大好物に喰いついた。
「なんでも冗談半分で友達と心霊スポットに突撃したとか。それ以来、身の周りでおかしなことが続いて精神的に参ってるようで……僕はすかさず一一先生のことを熱弁しましたよ! イラスト提供して貰う案件の作家さんが、そっち方面の話にも詳しいから相談してみたらどうかって」
「佐々田さんもなかなか鬼畜ですね。私に出来るのは話を聞いてネタとしてストックすることだけなのに。頼れる相談相手みたいに紹介するなんて……」
「でも、お祓いしてくれる神社とか能力者なんかの当てがあるんじゃないですか?」
「そういう斡旋かぁ。確かにやたらとそっち方面は知識豊富になっているし、紹介くらいなら出来ないこともないでしょうね」
「ほらほら、やっぱり。上手くネタだけ引き出して、後はプロに委ねて、コンビ組む絵師さんにも感謝されての一石二鳥ですよ」
実に計算高い佐々田なのである。
「あっ、違った。一石三鳥と言ったほうが正しいでしょう」
「三鳥?」
「いやあ、この『ころnyan』って絵師さん、若い女の子なんですよ。僕はメールと電話でしかやりとりしてないんで、ご面相までは分かりませんけど、ひょっとしたら……ね?」
佐々田はニヤニヤと下卑た笑いを向けた。
この男、三十過ぎて独身の私を案じて、やたらと色恋話を持ちかけてくるお節介な面もあるのだ。
彼自身は大学時代にデキ婚しており、二男三女に加え今現在も嫁さんが六人目を身籠っているというラブラブ家庭の持ち主である。
「もしも一先生のお眼鏡に叶うエロ可愛い子だったら、仲介役の僕は先生に恩を売れたことになる。こりゃ一石四鳥ですね」
「マジモンの霊障持ちと会わせて貰うだけで十分な恩義に思いますよ」
正直言って、私は絵師の女子に対する期待はしていなかった。
なにしろ私は、生身の女性より霊的体験や怪奇現象にフル勃起する変態性欲の持ち主なのだから。
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