上 下
74 / 81

ワイバーン

しおりを挟む
 荷台を蹴るように飛び立ったオニキスの背にしっかりとしがみつき、アンジェリカは全員に速度上昇の魔法をかけた。
 

「アンジェリカ! 気をつけろよ!」


 ウォルターの大きな声を背で聞きながら意識をワイバーンへと向ける。
 素早さはオニキスよりもワイバーンのほうが勝るため、攻撃力の高い大技は当てづらい。
 ワイバーンの群れが橋を渡るウォルター達に突撃をしないように誘導できればいいのだが。

 そう思いながら自分に補助魔法をかけて距離を詰めていくと、ワイバーンの背に何者かが乗っているのが見えた。

 人がワイバーンに乗ってる! 格好からしてサンプトゥンの騎士!

 脳裏にモーリーンの顔が浮かぶ。
 アンジェリカを王城から出したのは、サンプトゥン国の領土の外で仕留めるためか。

 それなら狙いはわたしのはず。このまま橋から離れて距離をとれば……!


 オニキスを操りさらに上空へと急上昇する。交戦しても周囲に被害が及ばない辺りを目指して飛ぶが、ワイバーンの群れは進路を変えない。

 なんで?! ……まさか、この期に乗じて次期国王となるクリス殿下を殺すつもり!?

 迷っている暇はない。橋という逃げ場のない場所にワイバーン乗ったサンプトゥンの騎士が来ている時点で相手側に殺意があることは明確だ。


「急いで戻って!」


 アンジェリカの指示にオニキスが猛スピードで引き返す。


「ホーリーアロー!」


 真上から攻撃魔法を浴びせるが、それは魔法障壁によって弾かれた。

 魔道士もいる! やばい、みんなが狙い撃ちされる!

 ワイバーンの群れの中でチカリと光が瞬き、アンジェリカ達のほうに向かって火の玉が飛んでくる。
 それをくるりと回避しながらさらに飛行の邪魔をしようと呪文を唱えようとして、一瞬だけ橋の方へと視線を向けたアンジェリカは思わず2度見した。

 ウォルター達が向かう先の対岸に数十人の騎士が身を隠しているのが見えたのだ。しかもその手に握られているのは弓。


「ホーリーアロー!!」


 考えるよりも先に呪文を唱えていた。
 距離があるため攻撃に気がついた騎士たちは素早く回避をする。
 今のアンジェリカの攻撃で進路の先に敵がいることがウォルター達に伝わったはずだ。クリスが連れてきている騎士の中には魔道士もいる。交戦は回避できないだろうが橋を渡りきるまでの対策はとれるだろう。

 安心したのも束の間、急にオニキスがぐるんと回避行動をとった。ワイバーンに乗る魔道士がアンジェリカに攻撃を仕掛けてきている。一瞬でも気が抜けない。

 対人戦はモンスターとの戦いとは違い非常に頭を使う。さらに人との実践経験がないアンジェリカは、人殺しの烙印を背負う覚悟ができていない。

 そんなことを言っている場合じゃないのはわかってる。でも……!

 ワイバーンからウォルター達を守るために橋へと近づくと魔法攻撃で接近の邪魔をされこちらも負けじと攻撃魔法を放つが、ワイバーンに乗る人間を殺めてしまわないかハラハラとしてしまう。

 その甘さが隙を作る。
 魔道士の攻撃魔法が橋に直撃した。
 馬から降りて待ち構えていた敵兵と交戦していたウォルター達がその揺れで動きが止まる。


「っ!」


 そちらに気を取られた瞬間、アンジェリカを目掛けて魔法攻撃が放たれた。
 魔法防御力上昇の支援魔法のおかげでダメージは少ないが、その勢いでオニキスの背から吹き飛んだ。
 

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

前世持ち公爵令嬢のワクワク領地改革! 私、イイ事思いついちゃったぁ~!

Akila
ファンタジー
旧題:前世持ち貧乏公爵令嬢のワクワク領地改革!私、イイ事思いついちゃったぁ〜! 【第2章スタート】【第1章完結約30万字】 王都から馬車で約10日かかる、東北の超田舎街「ロンテーヌ公爵領」。 主人公の公爵令嬢ジェシカ(14歳)は両親の死をきっかけに『異なる世界の記憶』が頭に流れ込む。 それは、54歳主婦の記憶だった。 その前世?の記憶を頼りに、自分の生活をより便利にするため、みんなを巻き込んであーでもないこーでもないと思いつきを次々と形にしていく。はずが。。。 異なる世界の記憶=前世の知識はどこまで通じるのか?知識チート?なのか、はたまたただの雑学なのか。 領地改革とちょっとラブと、友情と、涙と。。。『脱☆貧乏』をスローガンに奮闘する貧乏公爵令嬢のお話です。             1章「ロンテーヌ兄妹」 妹のジェシカが前世あるある知識チートをして領地経営に奮闘します! 2章「魔法使いとストッカー」 ジェシカは貴族学校へ。癖のある?仲間と学校生活を満喫します。乞うご期待。←イマココ  恐らく長編作になるかと思いますが、最後までよろしくお願いします。  <<おいおい、何番煎じだよ!ってごもっとも。しかし、暖かく見守って下さると嬉しいです。>>

姉に代わって立派に息子を育てます! 前日譚

mio
恋愛
ウェルカ・ティー・バーセリクは侯爵家の二女であるが、母亡き後に侯爵家に嫁いできた義母、転がり込んできた義妹に姉と共に邪魔者扱いされていた。 王家へと嫁ぐ姉について王都に移住したウェルカは侯爵家から離れて、実母の実家へと身を寄せることになった。姉が嫁ぐ中、学園に通いながらウェルカは自分の才能を伸ばしていく。 数年後、多少の問題を抱えつつ姉は懐妊。しかし、出産と同時にその命は尽きてしまう。そして残された息子をウェルカは姉に代わって育てる決意をした。そのためにはなんとしても王宮での地位を確立しなければ! 自分でも考えていたよりだいぶ話数が伸びてしまったため、こちらを姉が子を産むまでの前日譚として本編は別に作っていきたいと思います。申し訳ございません。

高校デビューを果たした幼馴染みが俺を裏切り、親友に全てを奪われるまで

みっちゃん
恋愛
小さい頃、僕は虐められていた幼馴染みの女の子、サユが好きだった 勇気を持って助けるとサユは僕に懐くようになり、次第に仲が良くなっていった 中学生になったある日、 サユから俺は告白される、俺は勿論OKした、その日から俺達は恋人同士になったんだ しかし高校生になり彼女が所謂高校生デビューをはたしてから、俺の大切な人は変わっていき そして 俺は彼女が陽キャグループのリーダーとホテルに向かうの見てしまった、しかも俺といるよりも随分と嬉しそうに… そんな絶望の中、元いじめっ子のチサトが俺に話しかけてくる そして俺はチサトと共にサユを忘れ立ち直る為に前を向く

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

転生したら避けてきた攻略対象にすでにロックオンされていました

みなみ抄花
恋愛
睦見 香桜(むつみ かお)は今年で19歳。 日本で普通に生まれ日本で育った少し田舎の町の娘であったが、都内の大学に無事合格し春からは学生寮で新生活がスタートするはず、だった。 引越しの前日、生まれ育った町を離れることに、少し名残惜しさを感じた香桜は、子どもの頃によく遊んだ川まで一人で歩いていた。 そこで子犬が溺れているのが目に入り、助けるためいきなり川に飛び込んでしまう。 香桜は必死の力で子犬を岸にあげるも、そこで力尽きてしまい……

ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!

沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。 それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。 失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。 アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。 帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。 そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。 再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。 なんと、皇子は三つ子だった! アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。 しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。 アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。 一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。

至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます

下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。

転生悪役令嬢、物語の動きに逆らっていたら運命の番発見!?

下菊みこと
恋愛
世界でも獣人族と人族が手を取り合って暮らす国、アルヴィア王国。その筆頭公爵家に生まれたのが主人公、エリアーヌ・ビジュー・デルフィーヌだった。わがまま放題に育っていた彼女は、しかしある日突然原因不明の頭痛に見舞われ数日間寝込み、ようやく落ち着いた時には別人のように良い子になっていた。 エリアーヌは、前世の記憶を思い出したのである。その記憶が正しければ、この世界はエリアーヌのやり込んでいた乙女ゲームの世界。そして、エリアーヌは人族の平民出身である聖女…つまりヒロインを虐めて、規律の厳しい問題児だらけの修道院に送られる悪役令嬢だった! なんとか方向を変えようと、あれやこれやと動いている間に獣人族である彼女は、運命の番を発見!?そして、孤児だった人族の番を連れて帰りなんやかんやとお世話することに。 果たしてエリアーヌは運命の番を幸せに出来るのか。 そしてエリアーヌ自身の明日はどっちだ!? 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...