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悪い報せ

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 その頃のサンプトゥン国では、王子との挙式を2ヶ月後に控えたモーリーンがアンジェリカが生き長らえているという知らせを耳にしていた。

 それはモーリーンにとっては我を忘れるほどに悪い知らせだった。

 父親が王城に出向いたときに耳に挟んだらしい。帰ってくるなり書斎に呼ばれたモーリーンは、その話の内容に呆然とするしかなかった。
 

「どうやらアンジェリカ・デイヴィスが生きているらしい。それも、白魔導士として活躍しているそうだ」

 
 白魔導士? 何かの冗談だろう。アンジェリカは魔力を持たない。人違いではないのか。

 
「我が国の兵士が直接確認したそうだ。右手の甲にはしっかりと焼印もあったらしい」
 

 どうしてサンプトゥン国の兵士はトライヴスでアンジェリカを見つけたのだろう。偶然とは思えない、彼女に用はないはずなのだから。
 

「トライヴスも狙うほどだ、サンプトゥンも当然欲しがるだろう」


 それは一体どういうことなの? 欲しがるとは、どういう意味で?
 

 いや、聞きたくない。お願いだから嘘だと言って。“今更見つけたからといって、あの女に用などはない”と言ってください、エリック様。


 バクバクと跳ねる心臓が痛い。冷や汗を浮かべながら一縷の望みに縋る思いでモーリーンは王城へ急ぐ。

 
「申し訳ございません、本日殿下は会議のため――モーリーン嬢?!」

 
 いつものように立ち塞がる従者を無視してエリックの執務室へ急ぐ。


「モーリーン嬢、お待ちください!」

 
 執務室の前に立つ騎士を押し退けてドアを開けようとするが、邪魔をされて開くことができない。ならばと、モーリーンは声を張り上げた。
 

「エリック様! いらっしゃるのでしょう?! ここを開けてください!」
 

 モーリーンのただならぬ様子に、何事かと怪訝な顔をしながらエリックは部屋から出てきた。

 
「どうしたんだモーリーン。今日は会議できみとは話せないよ。従者にそう言われただろう?」


 窘めるような言い方だが、その目には苛立ちの色が含まれている。
 それに気がついてチクリと胸に走った痛みをぐっと堪えつつ、モーリーンは声を絞り出した。
 

「あの女が生きているというのは本当ですか」

「なに?」

「アンジェリカのことです!」
 

 思わず上がった大きな声に、エリックはぎょっとして目を丸くした。

 
「なぜきみがそれを……いや、そもそもこの話はきみとは関係ないよ」

「関係ならありますわ! わたくしは彼女に殺されそうになったのですよ! あの事件をお忘れですか?!」
 

 モーリーンの必至の形相に王子は一瞬押し黙るが、呆れるように深いため息をついた。

 
「忘れるなんてとんでもない。もちろん覚えているよ、あれは酷い事件だったもんね」
 

 そう言ったエリックは、じっと覗き込むようにモーリーンの目を見つめた。その含みのある言い方と見透かすような目にぎくりとするが、エリックはそれ以上はなにも言わなかった。

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