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トライヴス城
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あれよあれよという間に馬車に押し込まれて連れて来られたのはトライヴス国の王城だった。
トライヴス城の城壁は地中深くから採れる硬い岩盤を使っている。高く積み上げられた黒い岩石は近寄り難い威圧感を見る者に与えるが、木々に囲まれた道を抜けた先に見えてくる黄色味がかった白い壁の王城は、城壁とは対極的な印象を受ける。
城に着くなり謁見の間に通されたところを考えると、この件はかなりの重要度であることが伺えた。
ここまでアンジェリカを連れてきた2人の騎士が離れていき、アンジェリカは緊張しながらその場に膝をついた。
「其方が我が国の討伐部隊を救ってくれた白魔導士か」
玉座にいるのはトライヴスの国王、ジョナサン・ハーダウェイ・トライヴスだ。厳しい顔つきの通り厳格な王として有名だ。ニコリともせず、じっとアンジェリカを見つめている。
ここに来る前、馬車を待つ間の時間でなぜブラックドラゴンを相棒に持つ白魔導士が探されていたのかを街の兵士に聞いた。数日前にセイクリッドミアの近くの森で《キングマウンテンクラブ》の討伐にあたった討伐部隊を救った白魔道士に、国王自らが直々に感謝を述べたいからだという。
「い、いえ……救っただなんて大袈裟です。わたしは支援をしただけですので」
「ふむ……。そなた、顔を見せよ」
「! 失礼致しましたっ」
王に謁見するのだというのにフードを被ったままだったとアンジェリカは慌ててフードをおろした。
その顔を見て、王の斜め後ろに立っていた男が大股気味に近づいてきた。
アンジェリカの前に立ったのはこの国の王子であるクリスだ。パッと濃紺色の目を輝かせてクリスは微笑んだ。
「やっぱりそうだ。アンジェリカ・デイヴィス嬢ですよね?」
キラキラとした笑顔に、え、とアンジェリカは目を瞬かせた。
「覚えていませんか、5年前にサンプトゥン城でお茶会に誘っていただいたのですが」
記憶をたどると、確かにそのような記憶が残っている。魂が移る前の記憶を探るのは、他人の日記を読むような感じがして少しだけ抵抗がある。
「クリス殿下。……ええ、覚えています」
アンジェリカの言葉にクリスは嬉しそうに破顔した。
「良かった、覚えていてくれた」
ほっとしたように口元を綻ばせ、クリスはジョナサンがいる方へと振り返る。
「国王陛下、こちらはサンプトゥンのアンジェリカ・デイヴィス伯爵嬢です」
「いえ、その・・・」
そう紹介されたが、アンジェリカは唇を噛んで俯いた。アンジェリカはもう、クリスの知る“アンジェリカ・デイヴィス”ではないのだ。
けれども黙っていることなどできない。ぎゅ、と拳を握りしめて意を決したように顔を上げる。
「失礼ながら国王陛下、わたくしは確かにアンジェリカです。けれども、今は家督を名乗る資格も彼の国を語る資格もありません。国外追放を言い渡された罪深い身であります」
そう言って、焼印が刻まれた右手の甲を見せる。
「それは」
そばでそれを見たクリスは目を見張った。
トライヴス城の城壁は地中深くから採れる硬い岩盤を使っている。高く積み上げられた黒い岩石は近寄り難い威圧感を見る者に与えるが、木々に囲まれた道を抜けた先に見えてくる黄色味がかった白い壁の王城は、城壁とは対極的な印象を受ける。
城に着くなり謁見の間に通されたところを考えると、この件はかなりの重要度であることが伺えた。
ここまでアンジェリカを連れてきた2人の騎士が離れていき、アンジェリカは緊張しながらその場に膝をついた。
「其方が我が国の討伐部隊を救ってくれた白魔導士か」
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王に謁見するのだというのにフードを被ったままだったとアンジェリカは慌ててフードをおろした。
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「やっぱりそうだ。アンジェリカ・デイヴィス嬢ですよね?」
キラキラとした笑顔に、え、とアンジェリカは目を瞬かせた。
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記憶をたどると、確かにそのような記憶が残っている。魂が移る前の記憶を探るのは、他人の日記を読むような感じがして少しだけ抵抗がある。
「クリス殿下。……ええ、覚えています」
アンジェリカの言葉にクリスは嬉しそうに破顔した。
「良かった、覚えていてくれた」
ほっとしたように口元を綻ばせ、クリスはジョナサンがいる方へと振り返る。
「国王陛下、こちらはサンプトゥンのアンジェリカ・デイヴィス伯爵嬢です」
「いえ、その・・・」
そう紹介されたが、アンジェリカは唇を噛んで俯いた。アンジェリカはもう、クリスの知る“アンジェリカ・デイヴィス”ではないのだ。
けれども黙っていることなどできない。ぎゅ、と拳を握りしめて意を決したように顔を上げる。
「失礼ながら国王陛下、わたくしは確かにアンジェリカです。けれども、今は家督を名乗る資格も彼の国を語る資格もありません。国外追放を言い渡された罪深い身であります」
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