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トライヴス国王

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 《キングマウンテンクラブ》を討伐してから数日後。    
 サンプトゥン国を招いての会談がトライヴス国の荘厳な石造りの王城で行われていた。

 サンプトゥン国とトライヴス国は大陸内で2大大国と呼ばれており、気候や土地の資源、軍事力までもが同程度の両国は争うことなく友好関係を築いているが、他国同様に常に互いの情勢を探り合い、いつでも隙をつけるよう算段を立てている。

 トライヴス国とサンプトゥン国が戦争にならない1番の理由は距離がありすぎることだ。
 途中で休憩をとるにしても主要都市に辿り着くまでにいくつか危険な場所を通らなければならず、進軍させるにはデメリットのほうが多い。
 
 笑顔の裏で腹の探り合いをしつつも、和やかな雰囲気で形式的な話し合いが進んでいた。
 会合は残すところあと2日。午前中の話し合いが終わり、会談に使っている部屋を出たところで、神妙な顔つきの近衛兵がトライヴス国国王のジョナサンのもとに駆け寄ってきた。

 ジョナサンは耳打ちされた内容に事態の深刻さを察し、トライヴス国の王族にのみ伝わる隠し通路を通って騎士の宿舎に向かった。


「国王陛下、このようなお姿で報告に来たことをお許しください」


 宿舎の1室で待っていたのは、先に向かうように伝えた自分の近衛兵2人と、息子のクリスの近衛兵だった。ボロボロの格好に険しく刻まれた眉間の皺をみて、瞬時に最悪の事態が過ぎる。
 
 
「構わん。それよりもどうした。クリスになにかあったのか」

「クリス様はご無事です。お手紙を預かっておりますので、どうぞお読みください」


 無事だと聞いて安心はしたものの、人目につかないようにして近衛兵1人に伝達を任せるとは、あまり良い状況には思えない。
 気を引き締めて手紙に書かれたクリスの字に目を走らせたジョナサンは、読み終わる頃にはそれを持つ手を震わせていた。


「……何者かが裏で糸を引いている。《キングマウンテンクラブ》の討伐作戦会議に出席した大臣に変な動きがないか調べるのだ。念の為に門の見張りを強化しろ。関係者は1人も外に出すな」


 地を這うような静かな怒りを滲ませた声に、国王付きの近衛兵は神妙な顔で短く返事をした。
 

「おまえはここで隠れていなさい。クリスの元へは私の兵をだそう。よい働きをしてくれたな」


「身に余るお言葉、光栄の極みにございます」


 国王直々の労いに深く頭を下げた近衛兵の肩を労いを込めてたたき、ジョナサンは近衛兵を連れて部屋を出た。


「おのれ……。《キングマウンテンクラブ》を使って我が国を落とすつもりだったな」


 吐き捨てるようにジョナサンは呟く。
 大勢での進軍は現実的ではない。が、《キングマウンテンクラブ》をうまく誘導することさえできれば、少数でも国に大ダメージを与えられるだろう。
 クリスからの報告には、例年よりも強力な《キングマウンテンクラブ》だったと書いてあった。

 進軍中の部隊の人員削減も、自らが指示した覚えも報告された覚えもない。

 サンプトゥンの来訪で警備は王城周辺に集中しているため討伐隊が全滅していたのならば《キングマウンテンクラブ》を途中で止められる者はおらず、モンスターは破壊の限りを尽くしただろう。
 移動の速い《キングマウンテンクラブ》がこちらに向かってきたとなれば、途中で報告が入ったとしても戦闘準備は間に合わず、王都は混乱の渦に巻き込まれたまま崩壊していたに違いない。

 サンプトゥン国の仕業とは断定できないが、もし自国がサンプトゥン国ならば、会談とエリアボス討伐が重なったこのタイミングが攻めどきと判断する。このタイミングも重なるよう仕向けられたことなのだろう。忌々しいことこの上ない。

 この作戦は実行するまでに時間を要したはずだ。トライヴス国の要人の助けもなければ成功は見込めないため、人選からなにまで情報を漏らさないように進めるのは相当骨が折れたことだろう。

 しかし、作戦の要の《キングマウンテンクラブ》は何者かの助力のおかげで倒された。綿密にたてられただろう今回の作戦は失敗に終わったのだ。


「これほど大掛かりな作戦がよもや失敗するとは思うまい。必ず証拠を掴むのだ」


 国王ジョナサンの目は怒りと復讐心に燃えていた。

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