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十二章:おとぎ話の悪役令嬢は罪滅ぼしに忙しい

莨第?譎る俣 孤独悩みの中で

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 孤独な闇の中で、あたしの意識だけが残っている。

 熱も冷たさも感じない。
 風がなければ空気もない。
 まるで海の底のように暗闇が続いている。

 唯一、わかることがある。

 あたしはこの闇の中、闇の奥、闇の底へと沈んでいるということ。

 落ちているのだ。
 真っ逆さまに。

 ゆっくりと、じわじわと。いつまでも。延々と。


(՞ټ՞


 孤独な闇の中、あたしは悟る。
 ここをどこだかあたしは知っている。

 ここは生と死の狭間。
 世界が壊れた後の世界。

 あたしが残っているのはそのためだ。

 生の世界は存在しない。
 でもあたしは生きている。
 だから死の世界にはいけない。

 あたしはここを漂い、さまよい、落ちていくだけ。

 皮肉なものね。生に執着していたら、こんなことになった。
 メニーめ、最後の最後で、あたしをざまあする気だったってわけ?
 はいはい。ざまあ。ざまあ。クソ女め。

 今なら、アルテの気持ちがよくわかる。あの呪われた城にいた人々も、こんな状態だったに違いない。
 足掻きたいけど足掻けない。
 落ち続けるしかない。

 ドロシーなら今のあたしを見て、こう言うでしょうね。
 ざまあみろ。
 相変わらず嫌な奴。ふん。


(՞ټ՞


 孤独な闇の中、星でもあればクレアと眺めて楽しむこともできただろう。
 だけど、それはできない。
 だってクレアは、あたしの目の前で刺された。

 懐かしい顔だったわ。

 あたしをかばった時の貴女、死んだ時と全く同じ顔をしていた。
 結局運命は変わらなかった。
 リオンの言う通り、彼女は刃物で刺される運命を持っていた。

 生きてるかもしれないなんて、そんな淡い希望は抱かない。
 抱いた分、いざ、彼女の死体を見たら、あたしは絶望の地面に落とされることになる。

 おとぎ話であれば、作られた物語であれば、きっと様々な奮闘の末、待ち受ける運命を回避し、幸せになることもできただろう。

 しかし、現実は違う。

 現実はことごとくあたし達を切り裂いて、ズタズタにして、なおかつそれでも生きるのか、あたし達に問う。

 夢なんてない。
 希望なんてない。
 抱いた夢は現実が打ち砕く。

 辛く苦しいことが次々に起こって、ようやく幸せを掴んだと思ったら、それを待っていたかのようにまた切り裂いて――。

 あたしたちは運命には逆らえなかった。
 ええ。そうよ。

 今度こそ、間違いなく彼女は――。

 あたしは、見ることしかできなかった。
 彼女を助けることはできなかった。
 クレアだけじゃない。
 ソフィアも。リトルルビィも。リオンも。そして、メニーはあたしをここへ突き飛ばして、一人残って、あの女は――。

 なんて哀れな女なのかしら。

 あたしを生かすために自分を犠牲にするなんて。
 だから嫌いなのよ。お前なんて。

 お前が死んだら――あたしは誰を恨めばいいのよ。

 あたしの中に渦巻く憎しみを、誰のせいにしたらいいのよ。

 もう、誰も憎めず、あたしは自分の中で自問自答するしかなくなる。


(՞ټ՞


 孤独悩みの果てに思い出す。

 レッドに謝らないと。
 リトルルビィを守ることができなかった。

 二人はちゃんと天国で会えたかしら。

 ソフィアはご両親に会えたかしら。

 クレアはリオンと再会して、ふざけて笑ってそう。
 なんだ、貴様も死んだのかって。

 メニーは、ドロシーが迎えに行ってることだろう。

 あたしを一人置いて、みんな、楽園へと行ったのだろう。


(՞ټ՞


 孤独な闇の中で考える。

 あたしは生に執着していた。
 生きることこそ目標であり、あたしの全てだった。
 だけど、こうして闇が永遠と続いて、誰もいなくて、何もないんじゃ、生きてても仕方ないのではないだろうか。

 あたしはどうしてそこまで生に執着していたのだろう。
 答えは簡単だ。

 あたしは幸せになりたかったのだ。

 好きな人に囲まれて、愛されて、愛して、仕事をして、好きなことをして、笑って、日々を過ごしたかっただけ。

 パパと過ごした日々を思い出す。
 ばあばと過ごした日々を思い出す。
 島を駆けていたばかりの頃を思い出す。
 ママとアメリとメニーと食卓を囲んだことを思い出す。
 思い出して、ただ、ひたすら、その記憶を忘れないようにあたしは抱き締める。
 大切な家族との思い出を、時を止めたようにそのシーンを抱きしめて、放さない。
 放してしまったら、寂しくなるじゃない。
 だからあたしは思い出す。
 記憶の一つ一つを。


(՞ټ՞


 レッド、
 最後まであたしを守ってくれてありがとう。

 貴方は最後まで、あたしの救世主だった。
 でもやっぱり、あたしは貴方の救世主にはなれなかった。

 あんなに小さかったのに、あんなに大きくなるなんて。
 でもね、どんなに大きくなっても、あたしにとってレッドは、いつまでも可愛いレッドのままなのよ。

 手だって握るし、頭だって撫でたくなるの。
 だって、あんた、すごく喜んでたじゃない。

 あーあ、あんなに良い男になるなら、もっと優しくしとくべきだった。
 そしたらあんた、ちょっとくらいあたしのこと、女として見てくれたかもしれないのに。

 勿体ないことしたわね。全く。

 ふふっ。

 ……救世主になれなくて、ごめんなさい。


(՞ټ՞


 お兄ちゃん、
 って、もっと言っておけばよかった?

 あのね、あたしが言ったって、何も萌えないのよ。可愛くないのよ。

 メニーみたいに可愛い声だったらきゅんとくるんじゃない?
 まだ純粋だった頃のリトルルビィに言われたらぎゅん! ってくるんじゃない?
 ソフィアに言われたら勃起もの。
 クレアに言われたらにやけが止まらなくなる。

 ね、リオン。あたしよ?
 あたしの声で、お兄ちゃん。

 お前ね、頭おかしいのよ。
 病気持ちなのよ。
 だからちゃんと治療しなさいって言ってたのよ。

 いっつもあたしに会う度にニヤニヤして、せっかく整えた頭を撫でようとしてきて、うざくてたまらない。
 お前そんなんじゃなかったでしょ。
 きりっとしたかっこいい王子様だったじゃない。

 いや、でもね、まあ、正直……あたしは今のあんたの方が、あんたらしくて嫌いじゃないの。

 あの頃のお前を見たらびっくりするわよ。目の下にクマがあって、どんよりしてて、いっつも眠そうにしてて。なのに、今のあんたは目を輝かせて、ミックスマックスだミックスマックスだ、ミックスマックスだって、本当にうるさくて。

 敵わない。

 お兄ちゃん。

 もっと呼んでいればよかった。


(՞ټ՞


 ねえ、ソフィア。
 すごいわよね。
 あたし、元々あんたのファンだったのよ。

 ほら、あたし、昔は相当な馬鹿で、のろまで、立ち向かえないくせに、口答えなんか出来ない弱虫だったのに、妙に「正義」というものに憧れをもっていたの。

 多分、屋敷にいた、使えない義妹のせいね。
 お前が貧乏人を助ける正義の怪盗だと聞いた時、とても胸が熱くなったの。あの頃は、新聞を欠かさず見て、お前の記事を切って、壁に貼っていたわ。お前の写真を見てはうっとりして、キスまでした。

 ああ、バカバカ。本当に恥ずかしい。
 お前がまさか、顔も心も綺麗な美人だとも知らずに。
 本当に恥ずかしい。
 後悔しかない。

 お前なんかに関わらなきゃよかった。
 そしたらお前はあたしに恋をすることもなかった。
 あたしを庇う事もなかった。
 あたしを助ける事もなかった。

 こんな場所で目を潰されることもなかった。

 痛かったでしょうね。

 だから言ったのよ。早く恋人作れって。
 お前ね、自分が思ってるよりも綺麗な心を持ってるのよ。
 貴族に騙されたくせに、まだ人を信じようとしてる。
 キッドの側にいながら、まだ人を好きでいる。
 だから人が寄ってくる。
 お前の魅力的な笑顔と、心に魅了されて。

 目じゃないのよ。
 呪いの副作用じゃないのよ。

 お前は魅力的なのよ。
 だから男女問わず、みんなお前に惚れるのよ。

 ああ、ムカつく。

 あんな女がこの世にいるなんて。
 外見も中身も良いなんて、あたしはどこで勝てばいいのよ。
 最低。

 お前なんか大嫌い。

 だから早く幸せになりなさい。
 お前は、幸せになる権利がある。
 絶対幸せになれたのに。

 何度も願ったのに、やっぱり、あたしの願いは叶わなかった。


(՞ټ՞


 可愛い可愛いあたしのルビィ。
 荒んだあたしの心に現れた小さな天使。

 テリーテリーと犬のように呼んできて、あたしの顔を見たらびっくりするくらい喜んで、跳ね飛んで、抱っこしてと両手を広げた可愛いルビィ。

 いつの間にやら大きくなって、あたしの身長を抜かして、気が付いたら、耳にピアスが空いていて、とんでもない反抗期が来て、あたしにまで口答えする始末。

 ああ、成長とは悲しきものなり。
 赤が好きなのは変わらないけど、昔大好きだったリボンはどこに行ったの?
 昔のあんたの部屋は、それはそれは可愛かったわ。
 ベッドも小さくて、テーブルも小さくて、全部がミニマムサイズで、まるで小人の家にやってきたようだった。
 クッキーを届けに行ったら笑顔で迎えてくれたのに、今は無表情で見下ろしてくるじゃない。

 部屋にはロックバンドのレコードが保管されていて、小さかったベッドは大きくなっていて、カーテンがボロボロになっていて、ロックバンドのなんかメイクが濃いだけの男のポスターが貼られていて、ギターがかっこよく飾られていて、違うのよ!!

 あんたはね、もっとふわふわ~ってしてて!
 もっとふきゅ~って感じで!
 違うの! あたしの理想のリトルルビィじゃないの!!

 だからね、まさかこんなにたくましくなるとは思ってなかったのよ。
 強かったわ。確かにあんたは強かった。
 でもね、チワワが、シベリアンハスキーになったら、あんた、驚くでしょ?
 あんたはね、そういう成長を遂げたの。もう、あたしは、びっくりよ。お手上げよ。

 メニーと一緒にふわふわ~って育っていくかと思ったら、番犬になるなんて、誰が予想がつく?

 本当、強くなったわよね。
 心も、体も。

 違和感のあった義手は、生まれた時からあったんじゃないかって思うほど馴染んでいて、何度もあたしを守ってくれた。

 あんたの良いところよね。
 恩を必ず返すところ。

 クレアが大好きだったのね。
 だからクレアが刺されたのを見て、真っ先に飛び込んだのよね。

 かっこよかったわよ。リトルルビィ。

 あんたは間違いなく、人を守る、優秀な騎士よ。


(՞ټ՞


 ……。

 メニー。

 ……。

 メニーね。

 ……。

 本当、――イラつく女だったわ。

 いつも優しくて、温かくて、あたしが欲しいと思うものを全部持ってる、嫌な女だったわ。

 世界で一番よ。間違いなくトップ。

 大嫌い。

 ……。

 今だけ、昔を思い出す。
 今だけ、あたしは昔になる。
 今だけ、あたしは正直になる。

 大好きだった。

 メニーと出会った時、妹が出来た時、確かにあたしの世界は変わった。
 白黒の世界は彩られ、花は舞い、心は踊る。
 手を繋いで、笑えば反応する。
 手を繋いで、優しくすれば反応する。
 もっと優しくして、愛して、可愛がれば、あの子がとても嬉しそうに笑うから。
 髪を結んであげただけで、幸せそうに笑うから。

 時を戻せるならば、
 あたしがメニーを憎む前に戻れるならば、
 この記憶を持ったまま戻れるならば、

 メニーの父親が死んだあの日、あたしはメニーの手を掴んで、ベックスの屋敷から出ていく事だろう。

 ママがメニーを嫌いなら会わせなければいい。
 縁を切ったって構わない。
 カドリング島に行き、サリアも連れて、三人で暮らす。

 屋敷じゃなくて、狭い小屋みたいな家を用意するの。
 メニーはどちらかというと、そっちの方が暮らしやすいと思う。

 それでいい。

 あの子が幸せならば、それでいい。
 あの子が灰を被らず笑顔でいてくれるなら、それでいい。

 だが、そんな現実は来ない。
 あたしはあいつを憎んでる。
 あいつのために家を用意して一緒に暮らすなんてとんでもない。
 あり得ない。
 だからこそ、思う。

 もっと環境が違ったら、
 もっとあたしが強ければ、
 もっと側にいられたら、



 あの子を失わずに済んだのに。



 メニー。

 あたしの妹。

 たった一人の妹。

 守れなかった最愛の人。

 血の繋がりはないけれど、それでも家族だった。

 メニー。

 心から憎んでる。
 心から愛してる。


(՞ټ՞


 あたしのクリスタル。

 クレア。

 愛してる。

 血にまみれた貴女も美しかった。

 あたしの運命の人。

 あたしのたった一つの宝石。

 クリスタル。

 もういない、あたしの想い人。

 庇ってくれてありがとう。

 貴女も、ちゃんとあたしを愛してくれていたのね。

 貴女が刺された瞬間、あたしはとても愛を感じたわ。

 だって、こんなにあたしを愛してくれる人なんて、誰もいなかったの。
 こんなに大切にされたことなんてなかった。

 貴女だけだった。

 しつこく愛をくれて、
 執拗に愛をくれて、
 嫌になるほど愛をくれて、
 本当、うんざり!

 でも本当は嬉しかった。

 あたし、面倒くさい女でしょ? ごめんあそばせ。こういうところが、あたしの魅力的なところなの。おほほほ。

 ……。

 ああ……。

 あたしの涙を、もう拭ってはくれないのね。

 助けられなくてごめんなさい。
 守れなくてごめんなさい。

 貴女が刺されるのを、黙って見ていることしか出来なくてごめんなさい。

 だけどね、あたし、それでも愛してるの。

 クレア。

 クレア。クレア。クレア。クレア。

 あたしが、愛されたいと、愛したいと願った人。

 愛してる。クレア。
 あたしのクリスタル。

 ああ、触れたい。抱きしめたい。

 クレア。寂しいの。
 クレア。会いたいの。
 クレア。守ってよ。

 いつもみたく、ボディーガードしてよ。

 ねえ、助けてよ。

 あたしを助けに来てよ。



 ――誰も来ない――。



(՞ټ՞



 孤独な闇の中で、
 孤独悩みの中で、

 あたしは膝を抱えて、ただひたすら落ちていく。
 誰も居ない闇の中で、

 ただひたすら、
 孤独、
 闇、
 孤独、
 悩み、
 溺れて、
 沈んで、
 落ちて、
 落ちて、
 落ちて、
 落ちて、


 アリス、


 気持ちが分かった。




 あたしもいきたい。



 楽になりたい。























「だーめ」

















 後ろから、囁かれた。


「ロザリっちには、まだ早いよ」


 彼女はあたしを抱きしめたまま、笑った。


「もう少ししたら、また冒険に行こうね」
「もう少しって、いつ?」
「もう少し」
「あたしもう疲れた」
「そうよね。ロザリっちはずっと走ってるもんね」
「どうしてあたしばかりが走らなければいけないの?」
「それはね、ロザリっちが走らなければいけないから、ロザリっちは走ってるんだよ」
「もう走りたくない。止まりたい」
「よしよし」
「もう眠りたいわ」
「駄目」
「クレアに会いたい」
「惚気どうも」
「疲れたの。だって、もう十分落ちたじゃない。ねえ、落ちたら後は上がるだけって言った奴はどこの誰? あたしがぶん殴ってやるわ。見てみなさいよ。ここまで落ちても、まだ底が見えないの。上を見てごらんなさい。全く光が見えない。ここは闇の中。あたしは落ちるだけ。上がる? どうやって上がるのよ。梯子はどこにもない。じゃあ何? あんたが上から手を差し伸べてくれるの? 差し伸べてごらんなさいよ! あたしを引っ張り出してごらんなさいよ! 嘘つき! 出来ないくせに余計なこと言わないでよ!!」
「よしよし」
「まだ落ちてるのよ。どんどん落ちてるのよ。ねえ、上げてよ! あたしを抱きかかえて、上に上げてよ! まだ落ちてるの! まだ底が見えないの! あたしは一人で落ちてるの! もう嫌よ! もう嫌なのよ!!」

 下へ落ちるあたしの涙が上へと上がる。

「クレアに会わせて……。抱きしめさせて……。愛してると言わせて……。もう耐えられない……。愛することを知ってしまったの……。嬉しくて、胸が温かくなって、幸せだなって思うことを、あたしはね、知ってしまったの。だから余計に辛いのよ。苦しいのよ! 何よ! あたしばかりが悪いの!? ママとアメリが、メニーを虐めたんじゃない! 止められなかったあたしばかりを責めるのは、お門違いよ!!」
「深呼吸して。ロザリっち」
「アルテ……」

 彼女の腕を抱きしめる。

「寂しい……辛い……苦しい……痛い……痛い……痛い……!」
「わかるよ。愛を知って、幸せだなって日々を知って、ずっと続くと思っていたのに、突然失って、全ての責任が自分に圧し掛かるの」
「痛い、痛い……痛い……!」
「そうなの。痛くて、重くて、苦しくて、溺れてしまいそうになる」

 アルテの手が、あたしの両眼を隠した。

「特別に教えてあげる。ふひひ。そんな時はね、こうして目を閉じるの。そうすれば音だけが聞こえるようになる」

 ――あたしの耳にはアルテの声が聞こえる。

「耳をすませてごらん」

 ――糸車の音が聞こえる。

「とてもいい音色」

 ――草が擦れる音が聞こえる。

「そろそろかな?」

 ――竜巻の音が聞こえる。

「さあ、到着」

 ――あたしの足が、地面に触れた。びくっとして、そっと、足を下ろす。

「振り向いちゃ駄目だよ。お化けがいるから」

 あたしはその手を握りしめた。

「大丈夫。信じて前に進んで」
「進んだら、どうなるの?」
「ロザリっちは、まだやらなきゃいけないことがあるみたい。だから、進むしかないの」
「ねえ、こうしない? あたしが振り返ったら、お化けがあたしを襲って、あの世へ連れていくと思うの。そこで、二人で七不思議に行くのよ」
「つまんなそ。絶対嫌だね。わては断るよ」
「……意地悪」
「わてが背中を押してあげる。だからいくらでも足を止めていいよ。その度に、わてが何度でも、ロザリっちの背中を叩くから。お尻の方が良い?」
「背中でお願い」
「ふひひ!」
「この先に進めばいいの?」
「そう。真っすぐ」
「何も見えないわ」
「大丈夫。銀の靴が導くから」
「この靴なんなの?」
「わたくしが生きていた頃から伝わる魔法の靴。さあさ」

 ターリアが、あたしの背中を叩いた。

「行って。真っすぐ」

 あたしの足が動き出した。振り返らずに、真っすぐ進む。

「そう。それでいいの」

 あたしのボロボロの足が、前に進んでいく。

「もうひと踏ん張り。……頑張って。テリー」







 闇が――光が――あたしを包んだ。




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