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十二章:おとぎ話の悪役令嬢は罪滅ぼしに忙しい

第9話 前奏

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 猫を追いかけていくと、やがて花畑についた。
 しかし、この花には見覚えがあった。クレアの住む塔の側にある、毒の花だ。睡眠効果があり、ずっと眠っていると、やがて死に至る。

 猫がその花畑を通っていった。あたしは顔をしかめる。

「ここ通らないと駄目?」
「他に道はなさそうだけど」
「リトルルビィとレッドで、手分けしてあたし達を運べない? この花危険なのよ?」
「じゃあテリー、私抱えるから……」
「待て」

 レッドがリトルルビィを止め、コウモリとなって飛んでみた。すると、そのレッドが飛んだ高さまで花畑が伸びた。

 あたし達は微妙な顔をした。レッドがゆっくりと地面に下りてきて、あたしの横に着地した。

「だと思いました」
「オズの奴、どうしてもここを通らせたいみたいだな」

 レッドとリトルルビィが呆れた目をし、ソフィアが笛を構えた。

「これは駄目かな?」

 魔法の笛を吹くと、その魔力が花畑を通り、左右に分けて、一つの道を作った。リオンが瞳を輝かせた。

「すごい! これはミックスマックのアニメに出ていた悪役、ジョン・メケイタットが初登場した時のシーンで、きっとオズはミックスマックスを見ているに違いない! 僕とオズは話が合いそうだ!」
「お兄ちゃん、お願い。黙って」

 しかし、ソフィアが笛から口を離すと、花畑は元に戻った。

「くすす。吹いてる間だけらしいね。リクエスト曲ある?」
「ミランダの唄」
「ルーチェの唄」
「僕はアンジェの唄がいいと思う!」
「闇には闇を。ジュリアの唄で行きましょう」
「それでは」

 ソフィアが闇の唄を吹き始めた。花畑が再び左右に分かれ、道を開ける。あたし達がその道を進み始めた。ソフィアを真ん中に歩かせ、前後左右で彼女を守る形をとる。猫は花畑の向こうで待っている。

(何もなさそうだけど……)

 あたしは周囲を見回す。

(本当に何もない?)

 あたしはここを知らない。だが、記憶が見覚えがあるようだ。

(あん?)

 突然、あたしの頭の中で、記憶が騒ぎ出した。



 ――俺様、あのね、

 ふかふかした毛に顔を隠し、再び顔を覗かせ、蝶々のような小さな声で、ぼそりと自己紹介をした。

「……キング。……きゃっ!」




 ――ソフィアを狙って飛びだしてきた。

 レッドが身構えた。リトルルビィが飛びだした。リオンの影が揺れた。その前に、あたしが読み上げた。

「オズの魔法使いに会いに行こう。オズは誰だい。魔法使いさ。偉大な魔法使いオズ。オズは何でも出来るよ。呪いをかけることも。人を助けることも。オズの魔法使いに会いに行こう。弱虫を連れて会いに行こう」

 キングライオンの幻覚が現れ、飛び込んできた青いライオンを威嚇した。青いライオンは涙を流しながら、あたし達が進む道へ着地し、通せんぼをした。

「ドロシー……よくもオズを封印してくれたね……。あの時ちゃんと噛みちぎって殺していれば、俺様……こんな姿にならなくて済んだのに……」

 泣き虫ライオンは涙を流しながらあたしを見つめる。

「俺様が不幸になるのはみんなのせいだ……。俺様が弱虫なのはみんなのせいだ……絶対許さないから……」

 泣き虫ライオンの前に、キングライオンの幻覚が立つ。

「なんだよ。お前。かっこいいと思ってるの?」

 泣き虫ライオンが大鳴きした。

「死ねよ!!!」
「今よ!」

 ライオン同士の争いが始まった。キングライオンの幻覚が泣き虫ライオンを花畑に押し倒した隙にリトルルビィとソフィアを先に行かせ、リオンが走り、レッドが走ろうとして、あたしに振り返る。

「テリーさん!」

 キングライオンが泣き虫ライオンを押さえつけ、あたしを見た。強気な笑みを浮かべる。あたしは頷き、レッドの横について走った。花が揺れる。花粉が飛べば、睡眠効果がある。一瞬ふらっとしたが、レッドに背中を押された。

 ソフィアとリトルルビィが花畑を潜り抜けようとしたが、直前のところでネズミの大群が現れた。

「っ」
「チュー!!」

 ソフィアは笛を奏で、リトルルビィがソフィアの前に出た。ネズミがリトルルビィに噛みつこうと飛びだした瞬間――メニーが手を叩いた。全て破裂する。ネズミの血がリトルルビィに飛び掛かった。クレアが花畑に火をつけた。花達が悲鳴をあげた。

「早く来い!」

 ソフィアが花畑を抜け、リトルルビィが抜け、リオンが抜けて、レッドとあたしが同時に抜け出した。ソフィアが笛を口から離すと、花畑が元に戻り、キングライオンの幻覚は消え、泣き虫ライオンが燃えていく。

「うわぁああああああん!!!」

 泣き虫ライオンが火の中消えていった。燃えていく花の花粉を吸ったらしく、あたしの視界がぐらりと揺れた。

「テリーさん」
「ん……平気……」
「レッド、退け」

 クレアが容赦なくあたしの頬を叩いた。

「いった!!」
「おはよう。ダーリン。キスして。ちゅう」
「駄目駄目。ああ、こんなところさっさと離れましょう」
「そうだぜ! 全く! こんなところなんか、いない方がいい!」

 ――全員がレッドの足元にいるルンペルシュティルツヒェンを見下ろした。

「……あんた、まだいたの?」
「無事だったのか」
「聞いてくれよ! あの王子様! 俺様をおとりに使うんだ! 敵が現れたら俺様をぽいっとして、俺様が逃げてる最中に敵をやっつける。その後助けて、繰り返しだ! どうなってるんだ! 契約のせいで逃げられないし! 主様、下手したら、トゥエリーよりも質が悪い! こんなの! 奴隷時代に逆戻りだ!」
「でしょうね」
「まあ、クレアならそれくらい」
「くすす。婚約者をおとりに使うくらいですものね」
「まあまあ、みんな」

 メニーがみんなを止めた。

「そんなことよりも」
「そんなことってなんだ!? てめえだよ! てめえが一番質が悪いんだよ! この顔だけ美人の性悪女!」
「私の親友になんてこと言いやがる!」
「ふぎゃっ!」
(ルンペルシュティルツヒェン。……わかってるじゃない……!)
「顔なじみは、全員合流出来たみたいだね」
「そうそう。さっき話してたんだ。あんだけ軍がいたのに、これだけしか合流できなかったんだなって」
「だが、きっと闇の中でみんな戦ってくれている。あとは精神、自分自身との戦いだ。皆勝利することをあたくしは信じている」

 クレアが振り返ると、茶色い猫はエメラルド城の前にいて、そのまま、中へ入っていった。

「行こう。最後の時だ」

 緑色の門が開かれた。中毒者にされた住人が全員、道を囲んだ。とても静かだ。呼吸をする音しか聞こえない。あたし達はクレアを先頭に道に進んだ。門に入れば、中毒者にされた使用人が全員並んでいた。猫が廊下を進む。あたし達も廊下を進んだ。その先に、とても大きい扉があった。

 中毒者が両扉を左右に開けた。猫はその扉に入らず、その場で昼寝をしだした。クレアが歩いた。その先へ進んだ。



 哀れな天使は、パイプオルガンを弾いていた。




 それは素晴らしい演奏だった。汚れた手で弾いているとは思えないほど、美しく、メロディラインを弾いていた。それはとても神聖なものである。
 人間が、彼女を穢したのだ。だから彼女は永遠に治らない怪我をした。

「素晴らしい音だろう?」
「わらわが作ったものだ」
「皆の心を清めるために」
「だが所詮は作り物」
「こんなもので心は洗われない」
「人間の汚さは底知れない」
「一度、全てを壊さなければ、作り直せない」
「作り直すなんて御免だ」
「二度と、御免だ」

 演奏の手が止まった。

「ようこそ」

 ステンドグラスの窓ガラスが、日にあたって輝くのと同時に、天使が振り返った。

「我こそはオズ。偉大にして恐ろしい支配者である」

 紫の瞳が、やけに神々しく光り輝いている。

「よう! オズ! 久しぶりだな!」

 ルンペルシュティルツヒェンがオズに駆け寄った。

「お前、よくも俺様の土地を奪ってくれたな! あの暗闇なんとかし……」

 オズがルンペルシュティルツヒェンを蹴り飛ばした。

「あん! オイ! 何しやがる!」
「ルンペル、失礼なことをするものじゃない。彼女は世界の王なのだから」

 キッドが身分をわきまえ、礼儀正しくお辞儀した。

「ご機嫌よう。陛下。わたくしは、キッド・ロバーツ・イル・ジ・オースティン・サミュエル・クレア・ウィリアム。又は、クレア・ロバーツ・イル・ジ・オースティン・サミュエル・キッド・ウィリアム。貴方を昔封印した、キング陛下の子孫にあたります」
「ふむ。それで、わらわに何の用だ?」
「貴方と交渉しに来ました」
「交渉」
「この闇を払ってください。生活がしづらいので」
「今の地下生活で十分ではないか」
「美しい青空を、貴女が独占するのは卑怯です。わたくしもぜひ拝みたい」
「貴様が結界を貼っている範囲では拝める。十分ではないか」
「不服がなければクレームを言いに来たりなどしません」
「全ては因果応報。人間達が世界を汚した結果。このように捉えられないか?」
「貴女は、世界がどうなろうがどうでもいいはずだ。だって、貴女はこの世界を終わらせたいのだから」
「その通り」
「だけどわたくしは終わらせたくありません。愛しい人と結婚式をあげたいし、子供も産みたい。王として君臨し、民達から人気を勝ち取り、ちやほやされて、他国から「え~その国に住んでるの? いいな~!」って言われるような物凄く良い国にしたい。そのためには、まずは民が必要。他国が必要。世界が必要。終わらせるわけにはいかないのです」
「愚かな。実に自分勝手な野望だ」
「その言葉、そっくりそのままお返ししましょう」
「わらわの言葉を返すというのか?」
「貴女はただ家に帰りたいだけではありませんか! だったら、世界を放って帰ればいい! わたくしに任せてもらえれば!」
「神が、家に、帰れると思うか?」
「貴女は神じゃない。所詮は天使だ」
「いいや。わらわは神だ。わらわこそ神なのだ」

 オズが片足で地面を踏んだ。

「交渉はここまでだ。救世主。世界は終わる。終焉の時だ」
「大量虐殺。罪は大きいですね。大罪を背負って、汚れた天使がお家に帰れますか?」
「罪人はお前達だ」

 オズが再びパイプオルガンの前についた。

「全員、地獄に堕ちるがいい」

 鍵盤を押すと、ルンペルシュティルツヒェンが扉の向こうに飛ばされた。ルンペルシュティルツヒェンが悲鳴をあげて地面に転がると、大きな扉は固く閉ざされた。

 クレアが銃を握った。メニーが両手を握りしめた。リトルルビィが拳を固めた。ソフィアが笛を構えた。リオンが剣を構えた。レッドがコウモリになった。あたしは杖を構えた。

(大丈夫。あたしの中にはドロシーがいる)

 杖が温かい。

(でしょ? ドロシー)
「さあ、始めよう」

 オズが呟いた。

「死刑の時だ」

 ――ばらばらに鍵盤を押し、不協和音を流したと同時に、13色の土人形が笑いながら現れた。

 水。黒。毒。土。黄。桃。金。灰。赤。青。白。緑。紫。

 ……どこかで皿が割れる音が聞こえた気がした。

 13体の土人形が地面に溶け、あたし達の前に水色の土人形が現れた。湖の女神によく似た土人形は、口から大量の水を吹き出してきた。みんなは上手く避けたが、あたしは当たって壁まで飛ばされた。それを見たメニーが土人形に話してみた。

「ねえ、わたし、今とっても暇だから、貴女の武勇伝を聞かせてくれない?」
「え!? わたくしの武勇伝を聞きたいの!? いいわよ! まずは第一章から聞かせてあげる! あのね!」

 すごく嬉しそうに早口でメニーに湖の女神伝説を離している隙に、リオンの影が動いた。ジャックが水色の土人形を悪夢に引きずり込む。


( ˘ω˘ )


「それでね! あれでね! これでね! こうでね! あれ、ここどこ?」

 ジャックは湖に囲まれる土人形を見ながら、傘を差した。今日はゲリラ豪雨らしいから、

「雷ガ落チルカモ」
「雷?」

 湖に雷が落ちた。電流が土人形に流れた。

「ぎゃああああああああああ!!」

 土人形が感電し、溶けていった。


(*'ω'*)


 水色の土人形が溶けたので、今度は黒色の土人形が現れた。彼女は暖炉が大好きで、あたし達を火で燃やす丸太にさせたがっているようだ。

 そこへ小さなリトルルビィが現れた。青い顔をしていたので、黒色の土人形は訊いてみた。

「お前は、どうしてそんなに青い顔をしているんだい?」
「見たものがとても怖くって。おばさんの家の階段で、真っ黒な人を見たのよ」
「それは、炭を焼く男さ」
「それから、緑の男も見たわ」
「それは、狩人だよ」
「その後に、血みたいに真っ赤な男に会ったわ」
「それは、獣を殺す男だよ」
「ああ、怖かったわ。トルーデおばさん。家の窓から見たら、貴女ではなくて、本当にそう思うんだけど、頭が火で燃えている悪魔が見えたの」
「ほおー! じゃあお前はちゃんとした衣装の魔女を見たんだね! 私はお前みたいな娘をずっと待っていたんだ。もう長い間お前が必要だったんだ。さて、お前に光を貰おうかね」

 手を伸ばした瞬間、リトルルビィがその手を掴んだ。土人形が目を丸くすると、目の前にいたのはなんてこと。小さな女の子ではなく、絶対不良だったであろう、赤い目の女騎士であった。

「だったら私はてめえの血をいただこうかね」

 リトルルビィが首に噛みつくと、黒色の土人形が悲鳴を上げた。彼女の中に渦巻いていた黒色の血が吸い取られていき、恐怖に震えながら溶けていった。
 リトルルビィが呪われた血を大量に吐き出し、唇を拭った。

「チッ。まずっ」

 黒色の土人形が溶けたので、今度は毒色の土人形が現れた。彼女は自作の毒をあたし達にかけることで発表したがっているようだ。

「そーれ!」

 レッドが毒を浴びた。しかし、レッドは毒に効かなかった。

「そーれ!」

 レッドが毒浴びをした。髪をすくいあげ、毒で濡れた服を脱いでみたら結構いい体をしていたので、写真家が現れて、レッドの写真を撮り始めた。

「私の毒! すごい効力なのに! こんなの酷い!」

 ぷんぷん怒った毒の土人形を、後ろから、あたしが杖で殴った。

「ふぎゃん!」

 倒れた土人形を下敷きにレッドが倒れた。レッドの体についた毒が付着し、土人形に毒が回った。

「ぎゃああああ! 苦しいいいい! 最高ぉおおお!!」

 毒の土人形が自らの毒により、溶けていった。

「レッド、大丈夫?」
「テリーさん! 触らないでください!」
「えっ……」
「あ、違います! 毒が、付着してるので! ……シャワーはどこだろう……」

 毒色の土人形が溶けたので、今度は土色の土人形が現れた。彼は小さいが、魔法のヴァイオリンの持っているので、とても厄介な相手になりそうだったので、演奏される前に全員で踏み潰した。

「いだだだだだ! 俺様だけ酷くない!?」

 あたしはその隙に魔法のヴァイオリンを奪った。

「やめろ! この泥棒!」

 あたしは魔法のヴァイオリンを弾き、土の土人形を足を躍らせた。

「うわあ! やめろって! やめろってば!!」

 ソフィアが黄金の目を光らせると、土人形が目を瞬かせた。目の前に、主である巨人のジャックがいたからだ。

「うわあ! 主様! ごめんなさい! ごめんなさい!! 金を盗んだこと反省してます! 本当! まじまじ!」

 ジャックが土人形を踏み潰した。

「ぎゃーーーーーーー!!」

 ソフィアが軽く踏み潰しただけだが、土の土人形にとっては大層なショックだったので、体ごと溶けてしまった。

「ぶるる! なんか寒気がしたぜ」
「にゃあ」

 扉の裏で、ルンペルシュティルツヒェンが体を震わせた。

 土色の土人形が溶けたので、今度は黄色の土人形が現れた。彼は陽気なピエロのようにステップを踏み、ナイフを片手に、あたし達にめがけて振り動かして来た。

 クレアが銃を撃った。しかし土人形は軽々と避けた。リトルルビィが突っ込んだ。しかし土人形は軽々と避けた。ソフィアが黄金の目を使った。しかし瞼を閉じて軽々と避けた。ジャックが悪夢への手を伸ばした。しかし、「そんなことしちゃいけないよ。め!」と言い、軽々と避けた。レッドがコウモリとなって視界を遮ったが、お手玉のように丸くされ、両手で転がされ、壁に投げられた。あたしが文字を読み上げる前に近づいてきて、ナイフを振り落とそうとした。

 そこへメニーが手を叩いた。土人形の顔が破壊された。顔が無くなったから、視界が真っ暗になり、残った足を大きく動かし、高速でナイフを振り動かした。しかしメニーが更に手を叩き、残った足を破壊した。それでも残された腕を大きく振り動かし、ナイフで誰かを切り刻もうとしたが、キャラが被ったことに憤慨したジャックがレオの体を動かし、土人形の心臓を剣で切り裂いた。

 心臓が切り裂かれたので、土人形が動かなくなり、ナイフと一緒に溶けていった。

「キャラ被ルカラヤメテ。切リ裂キ魔ハ、オイラダケデ間ニ合ッテルカラサ!」

 黄色の土人形が溶けたので、今度は桃色の土人形が現れた。彼女は美しい花となり、花びらを地面に散らせた。

 13枚の花弁は、斧を持つ憤慨した魔女の姿となってあたし達に襲い掛かって来た。

「「首を落としてやる!」」

 ソフィアが銃を撃ってみたが、魔女達には効かないようだ。リオンが剣で斬ってみたが、やっぱり無傷のままだった。本体をどうにかしないといけないが、花に近づこうとすれば魔女達が斧を振り回して邪魔をした。

 あたしは頭の中に集中し、扉の裏で猫と戯れている無能のルンペルシュティルツヒェンに呼びかけた。

「ねえ、ヴァイオリンが必要みたい。貸してくれない? 今度はちゃんと返すから」
「早く扉開けろよ。まだオズに言いたい文句が山ほどあるんだ」
「早くして」
「けっ。ちゃんと返せよ? それ大事なんだから」

 瞼を上げると、あたしはヴァイオリンを握っていた。ドンキー先生の教えを思い出しながら、ブレーメンという町に届くように、あたしはナイチンゲールのワルツを演奏した。

 魔法のヴァイオリンの効果によって、魔女達の足が踊り出した。そして、手には斧を持っているものだから、踊っている自分達の肌を傷つけ始めた。

「痛い!」
「刺さっちまった!」
「そっち行っておくれ!」
「うぎゃあ! 何するんだい!」
「ぎゃあ! 心臓に刺さったよ!」

 リトルルビィがクレアを抱えて高く飛んだ。クレアが狙いを定めて、花の中心を撃った。そこは花の心臓部だったらしい。心拍停止で、花が枯れてしまった。枯れてしまったのだから、そこから生まれた魔女達も血だらけになりながら溶けていった。

「はい返却。ありがとう」
「あ、戻ってきた! くぅ~! 俺様のヴァイオリンちゃん!」

 ルンペルシュティルツヒェンが、大切にヴァイオリンを抱きしめた。




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