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六章:高い塔のブルーローズ(後編)

第7話 天使の導きのままに(3)

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 壁の向こうにあるのは、長い階段。そして、エレベーターだった。そこから、広大な大都市が広がっているのが見えた。

 家が並び、公園があり、店まである。畑もあり、動物も住んでいる。ここはまるで、もう一つの城下町。ただ、青空がないだけ。

「エレベーターで行こう。あたくしは少し疲れた」
「賛成」

 あたしとクレアがエレベーターに乗り、ボタンを押した。エレベーターが大都市へ向かって下りていく。エレベーターから夜景のような景色が見える。

(……これがドロシーの言ってた地下)

 ドロシーも、景色をじっと眺めている。

「魔法使い達が住んでいたところらしいぞ」

 膝を抱えて眺めるクレアが言った。

「天使どもがあたくしに地図を植え付けた時、まさかと思った。お爺様から聞いたことがある。その昔、魔法使い達は迫害され、全滅したと言われているが、そう言わないと当時の王が納得しなかったからだと。キング様はここを作り、魔法使い達を匿った。厳重に壁を作り、仕掛けを作り、絶対に人間に気づかれないようにした。それがこの町らしい」

 建物に明かりがついている。

「暗い町なのに、なぜだろうな。どうしてか、安心する。とても不思議だ」

 エレベーターが下りていく。

「……さっきのおじいちゃんの言っていた自然破壊の件。確かにわが国でも森林破壊が行われている。しかしそれはもう国会で議論され、森を守る政策をすることも決まっている。切られた木を掘り種を撒き、何年もかけて木を蘇らせる。場所も決まっている。その場所では動物達が自然の生活を出来るように、なるべく人は近づかせないようにもしている。実行されてまだ四年だ。あの老人はここで働きながら、何を見てきたのだろうな」
「……」
「飴は人間を壊す。欲望を満たす。あのおじいちゃん、相当な動物好きらしいけど、本当はそれを口実に王族に攻撃したかっただけではないか? あたくしはそんな気がするんだ。ヤジを飛ばすのと同じように、政策が気に食わないから動物や自然破壊を理由にし、自分は正しいと思い上がって攻撃を仕掛ける。そして関係のない人までもを恐怖に陥れる。正々堂々向き会うあたくしと、陰湿なヤジ飛ばしのおじいちゃん。お前はどちらが正しいと思う?」
「関係のない人を恐怖に陥れないのなら、あたしを巻き込まないで」
「将来王族になるかもしれないお前が、関係ないと?」
「関係ないわ。ならないもの」
「お前の島の工事の時も、きちんと見張っておけ。よけいな森林破壊は法律違反だ」
「……自分の遺産を傷つけるばかなまねは、ベックス家の人間はしないのよ」

 エレベーターが止まった。扉が開かれる。クレアとあたしも出ていく。上を見上げれば、届きそうもないほど遠くの天井。ランプが光る町。外を出歩く者はいない。その時、ドロシーがぴくりと動き、あたしの腕から抜け出した。

「にゃー!」
「うわっ、何?」

 ドロシーが走り出す。あたしがドロシーを追いかけた。

「ちょっと、どこに行くのよ!」

 ドロシーが走る。あたしはその背中を追いかける。ドロシーが角を曲がった。人が歩いてきた。あたしとその人がぶつかった。

「ひゃっ!」
「ごめんなさい!」
「何よ。急に。びっくりした」

 その人が帰り血だらけのクレアを見て、悲鳴をあげた。

「ぴぎゃーーーー!!」

 ドロシーがすたこら走っていき、角を曲がり、ランプに囲まれた明るい建物の階段を登り、扉に爪を当てた。

「にゃー!」

 あたしもドロシーを追いかけて、建物に近づく。すると、扉が静かに開いた。ドロシーが声を張り上げる。

「にゃー!」
「うわっ」
 
 扉の隙間からドロシーが入っていった。扉を開けた人物がぽかんとして入っていったドロシーを見た。

「ドロシー? なんでここに……」

 黒い瞳がはっとして、あたしに振り向いた。
 あたしは目を見開いた。
 黒い瞳があたしを見て、同じく、目を見開いた。

「……テリー?」

 何も変わらないニクスが立っていた。

「テリー!」

 ニクスが慌てて階段を駆け下り、あたしの元へ走ってくる。

「どうして君がここに!」
「……ニクス……」
「まさか、君もっ!」
「ニクス!」

 あたしはニクスの手を握り締めた。

「もう大丈夫!」
「え?」
「迎えに来たわ!」
「……まさか」
「そうよ。出られるのよ!」

 手に力を込める。

「応援がすぐに来る! みんな、出られるのよ! ニクスが手掛かりを残してくれたから、みんなが助かるの!」
「……これは驚いた」

 なにやら、エレベーターのほうが賑やかになってきた。

「応援が来るの?」
「ええ。たくさんね」
「エレベーターの上に、開かない扉があったんだけど……」
「そこから入ってきたの」
「なるほど、ということは」
「ええ」
「本当に出られるんだ?」
「ええ」
「君があたしを追ってきたから」
「苦労したんだから。よくも意味のわからない日記なんか残してくれたわね」
「あ、見たの? あたしの日記。酷いな。プライバシーの侵害だよ。テリーってば」
「何が、プライバシーの侵害よ」

 視界がぶれてきた。

「ニクスはばかよ」

 手があたたかい。

「お人好しもいいところよ」

 見てないところで、みんなを守ってる。

「別に、心配なんてしてなかったけど」

 顔が熱くなる。

「ニクスがいなくなって、たかが一週間程度だし」

 雨が降ってくる。

「なんとも、なかったけど……」
「ごめんね」

 ニクスの手があたしの頬に触れた。

「心配かけてごめんね。テリー」
「……」
「怖かったし、不安だったよね。ごめんね?」
「……」
「でもテリーならわかると思ったんだ。あたしが解けなかった謎も、テリーにならわかると思ったから」

 日記に残しておこう。ブルーローズ。

「ここには、色んな人が連れてこられてる。議員も、貴族も、使用人も。マーガレット様もいるんだよ。ロゼッタ様もね」

 でもベッドで寝込んでるの。気分が悪いって。

「ここに連れてこられてからは、あたしなりに、どういう場所なのかを調べないとと思って、色々な本を読んだんだけど」

 ニクスが肩をすくませた。

「この地下都市にある本、すべて、誰にも読めない字なんだ。多分、昔の本なんじゃないかな。だから、みんな、動物を飼育して育てたり、畑を作ったりして暇を潰してるみたいで」

 だから、約一週間、生活に困ることはなかったよ。

「……だから」

 ニクスがあたしの頬をつねった。

「泣かないで? テリー」
「……泣いて……ない……。……花粉症よ……」
「ああ、そうだね。ブルーローズに囲まれて、花粉が飛んだんだろうね」

 ニクスがふふっと笑って、あたしを優しく抱きしめた。あたたかい。

「来てくれてありがとう。信じてた」
「……」
「テリーはあたしのヒーローだね。いつだって助けに来てくれる」

 ニクスがあたしの涙にそっとキスをした。

「今回もまた来てくれた」
「……ちゅうどく、しゃが、かかわって、たから、仕方なくよ……」
「信じてた」
「……」
「怪我はない?」
「……うん」

 あたしはニクスの肩に顔を埋めた。

「ニクスは?」
「ないよ。すごく健康」
「……あ、そう……」
「……お願い。泣かないで。テリー。テリーが泣いてるなんて、あたし、とても耐えられないんだ」

 ニクスがあたしの頭を優しくなでた。あ、気持ちいい。落ち着く。

(ニクス……)

「怖かったよね。本当にごめんね。側にいてあげられなくて」

 ニクスが耳元で囁いた。

「今夜は一緒に寝ようね?」
「……うん」
「キスする?」
「……ニクス、……目閉じて?」
「ごほん」

 咳払いが聞こえて、あたしとニクスが振り向いた。クレアが腕を組んでじっとあたし達を見ていた。ニクスがあたしを離して、お辞儀をした。

「これはクレア姫様、ご無沙汰しております」
「ニクス、貴殿の残した手がかり、大いに役に立った。感謝する」
「光栄です」

 ニクスが頭を上げた。

「姫様、この地下都市は、長い間いればいるほど、人によって体調が悪くなるようです。一年ほど前から居る者は、全員寝込んでおり、今にも死にそうでございます。その方々を優先に上へ運んでいただけませんか」
「わかった。そうしよう。その者達はどこにいる」
「……案内するのは構わないのですが……」

 返り血だらけのクレアにニクスが眉を下げた。

「クレア姫様は、大丈夫ですか……?」
「案ずるな。これは返り血だ」
「……あはは……、そうですか。……でも、着替えたほうが良さそうですね……」
「行った先で着替えよう。今は案内してくれ」
「ええ。わかりました」

 ニクスがあたしに振り向いた。

「テリー、せっかくだからメニーに会っておいで。結構前にエレベーターの前に倒れてるのを発見して、家で看病してたんだ。もう元気だから、話せると思うよ」

 ニクスが微笑む。

「すごく不安そうだから、安心させてあげて」

(……不安そうね)

 どうせ可愛子ぶってるだけでしょ。

「ええ、そうする。ありがとう。ニクス」

 手を握る。

「戻ってくる?」
「ここにいて。必ず戻ってくるから」
「……わかった」
「ごっほん!」

 クレアがまた咳払いをした。何よ。今日はタンでも喉に引っかかる日なわけ? ニクスが苦笑しながらあたしから離れた。

「クレア姫様、こちらです」
「結構」

 ニクスとクレアが暗い道を歩いていく。あたしはニクスの背中を見つめ、ニクスが生きている事実を知り、――息を吐いた。

(さて)

 裁判の時間よ。


 罪滅ぼし活動ミッション、姉妹会議をする。


 扉を開けると、木造の明るい部屋が広がっていた。二階建てのようだ。上にも繋がる階段がある。つけられていない暖炉の前で座るメニーが、ドロシーをぎゅっと抱きしめていた。

「ドロシー、よしよし、ほら、おいで」
「にゃー!」
「怪我はない?」
「ぺろぺろ」
「わっ、ドロシー! うふふ!」

 あたしは扉をノックした。メニーの肩がびくっと揺れ、慌てて振り返った。あたしと目が合う。

(……ああ)

 こんな時でも、あんたの青い目はとても美しいわね。

「お姉ちゃん」

 メニーが立ち上がった。

「どうして、ここに」
「迎えに来た」

 あたしは扉を閉めて中に入った。

「もう少しで兵士と騎士が押し寄せるわ。体調の悪い人から優先で救出活動を行う」
「……そっか。……よかった」
「……」
「……もう少し、時間かかるかと思った。でも……」

 メニーがチラッとあたしを見て、微笑んだ。

「来てくれたんだ」
「……来ないはずないでしょう? あたしはメニーのお姉ちゃんなんだから」

 にこりと微笑んで、メニーに近づく。世界で一番メニーを抱きしめる。

「無事でよかったわ。メニー。あたしがどれだけ心配したことか」

 ――無事だったのね。くたばってればよかったのに。

「メニーが元気そうでよかった」
「……うん。……お姉ちゃんも……」

 メニーが瞼を閉じた。

「何もなくてよかった」
「すぐに助けが来るわ。でも、今言ったように、救出する優先順位があるから、まだしばらく時間があるのよ」

 あたしはソファーにメニーを誘う。

「ちょっとお話しない? メニー」
「お話? いいよ。……お茶のむ?」
「……お茶あるの?」
「うん。これがすごく美味しいの」

 メニーがお茶を淹れ、正面に座ったあたしが飲んでみた。

(……あら)

「まろやか……」
「でも、味わったことがない味なんだよね……」
「不思議だわ」
「不思議なんだよね」

 あたしとメニーが同時にお茶を飲んだ。

「それで……どんなお話しする?」
「昨晩」
「……ああ」
「……帰らなくて悪かったわ」
「……ううん。それはいいの。クレア姫様でしょう? お仕事なら、しょうがないよ」
「……聞いてもいい? あんた、昨日の夜、あたしといたそうね」
「……」

 メニーが眉を下げた。

「お姉ちゃんと?」
「ええ」
「お姉ちゃん、部屋に帰ってこなかったから、一緒にいるはずないでしょ」
「……」

 あたしは眉をひそめた。

「コネッドが言ってたのよ」
「コネッドさん?」
「あんたとあたしが一緒にいたのを見たって。それも夜」
「……あー、わかった。それ」

 メニーが納得して頷いた。

「お姉ちゃんの影を見つけたの」
「影?」
「お姉ちゃんが帰ってきたのかなって思ったら、急に廊下をくるくる回り始めて、お姉ちゃん、鬼ごっこでもしてるのかなって思って追いかけたら」
「下水道に落とされた?」  
「もー、びっくりしたんだから! でも、あれ、お姉ちゃんじゃないんでしょ?」
「ええ」
「だよね。うん。そうだと思った。ここに来てから、あれはきっと幻覚だったんだなって思ったもん」
「……」
「でも、お姉ちゃんが来てくれてよかった。ここに来てから、どうなっちゃうんだろうって、不安だったの。キッドさんもいないし。本当によかった」
「……ええ。びっくりしたわ。朝早く部屋に戻ったら、あんたいないんだもの」
「ニクスちゃんが色々面倒見てくれたの。ニクスちゃんも、無事で良かった」
「ねえ、メニー」
「ん?」
「今からとあることを訊くわ。答えたくないなら、答えなくていい」
「え、なに? 怖いよ」
「怖くないわ。簡単な質問よ」
「お姉ちゃんが珍しいね。何?」
「メニー」

 あたしはカップをソーサーの上に置いた。

「魔力を持ってるって本当?」

 ――部屋が静まり返った。

 あたしはメニーを見て、メニーがあたしを見る。さっきまで笑っていた顔が、急に真顔になった。そして、またメニーが口角を上げた。

「……誰が言ってたの? そんなこと」
「クレア姫様」
「クレア姫様が言ったの?」
「メニー、クレアにはね、魔力があるの。だからゴーテル様とスノウ様が、ずっとクレアを隠していたんですって。誰にも気付かれないように。傷つけられないように」

 メニーを見る。

「あんたは、どうなの? 持ってるの?」
「クレア姫様の話、コネッドさんから聞いたよ。呪われたお姫様で、お姉ちゃんが気に入って意地悪してるって。今は仲良しなんだね。それなら良かった」
「メニー」
「お菓子食べる?」

 メニーが立ち上がった。

「お姉ちゃん、魔法が使えたらお菓子だって簡単に簡単に取り出せちゃうよ」
「……ってことは、持ってないの?」
「これ、ニクスちゃんが持ってきてくれたの。長く住んでるメイドさんが作ってくれたんだって」
「メニー、真剣に聞いてるのよ」
「お茶のおかわりいる?」
「メニー」
「はい、どうぞ」

 メニーがクッキーの詰め合わせを皿に詰めて置いた。
 メニーがまた座った。
 メニーがお茶を飲んだ。
 メニーがお茶を置いた。
 メニーが深呼吸した。
 メニーが目を開けた。
 メニーの青い目があたしを見た。

「魔力があるとかないとか、そんなに大事なこと?」

 メニーが首を傾げた。

「私は、そうは思わない」

 メニーが瞬きした瞬間、あたしの髪の毛が解けた。はっとして肩を揺らすと、あたしの髪の毛がふわりと揺れた。もちろん後ろには誰もいない。なのに、勝手に髪の毛が結ばれていく。可愛い二つ結び。

「お姉ちゃん、二つ結び似合うね」
「……」
「思ったことがあるの。この町の本が読めない理由、本当は、ここは魔法使いさん達がいたところなんじゃないかって。だから、人間には読めない文字でも読めたんじゃないかなって」

 メニーがお茶を飲んだ。

「魔法使いさんって、つまり、魔力を持った人間のことを差してたんだよね。魔力で何でも出来る。絵を描くことも、毒リンゴを作ることも、空を飛ぶことも。だから、それに恐れた王様が、魔法使い達を迫害した。虐殺して、全滅させた。その政策を『魔女狩り』と呼んだ。当時、魔力のない人までも巻き込まれて、大変だったって、一緒に習ったよね」
「……」
「それと、クロシェ先生が言ってた。たまに人間の中でも、魔力を持った人間が生まれてきてしまう。今でもそれが続いているんじゃないか。だから、魔法使いは全滅してない。同じ人間だから」

 メニーが手をふわりと動かした。クッキーの皿がふわりと浮かんだ。

「物心ついた時にね、出来るようになったの。私、なんだろうと思って。お父さんに見せたの。そしたらお父さんね、すごく怒ったの」

 ――メニー、これは誰にも見せてはいけないよ。いいかい。絶対だ。お父さんと約束してくれ。お願いだ。その力はもう使ってはいけない。絶対だ!

「でも、それは、私を守るためだったんだよね」

 ――約束してくれ。

「約束したの。誰にも見せないって」

 浮かんでいたクッキーの皿がテーブルに置かれた。

「虐められちゃうから」

 メニーがあたしを見た。

「怖い?」

 不安定な瞳が、あたしを見つめる。

「私のこと、怖い?」

 あたしは手を伸ばした。そっと、クッキーの皿を持ち上げてみる。仕掛けはない。

「……」

 あたしは皿を置いた。腕と足を組み、大きく深呼吸をした。

「メニー」
「うん」
「うちで、その力を見せないで。ママとアメリがびっくりするから」
「わかってる」
「でも、気付かれないようになら使ってもいいわ。イタズラ目的はだめよ」
「……」
「クレアは塔に隠されてるけど、その力さえ見せなければ、誰だって普通に生活できる」

 ドロシーを見てみなさいよ。猫になってくつろいでるじゃない。

「魔力は役に立つわ。自分のためにも、人のためにも」

 ソフィアだって催眠を使う。
 リトルルビィなんて吸血鬼だ。
 リオンなんて影が動く。
 キッドなんて魔力がないのに魔力を持ってる並の天才だ。

「それを隠して生活しなきゃいけない方がどうかしてると思うけど、あたしが持ってたら、そうね。人に見せないっていうのはすごく理解できる。だから……」

 お茶を飲む。

「あたしの前では好きに使いなさい。あたしはもう見慣れて、驚きもしないから」

 メニーが黙ったまま目を丸くした。

(なるほどね。理解できた)

 美人は魔法使いなんだわ。だから美人なのよ。そういうからくりだったのね。

(魔法使いなら適うわけないじゃない。童話にだってあるわ。魔女の美しさに王子様が魅了されてしまうのよ。ふん。魔法使いなんて全員くたばりやがれ)

 あたしの頭の中に、新たなメモが生まれた。美人美男は、全員魔法使い。

(目の前にいる魔女は、その力でリオンを誘惑したんだわ)

 つまり、

(こいつに逆らってはいけない)

 これまで以上に、あたしはこの女に愛を見せなくてはいけない。本音はやはり、墓まで持っていったほうがよさそうだ。でないと、この魔女に何をされるのかわからない。

(メニー、お前は魔女よ。あたしの人生を呪った魔女。あたしはそう思うことで、お前を理解するわ)

 そして誓うわ。一生お前なんか、愛することはない。


 罪滅ぼし活動ミッション、姉妹会議をする。


(ミッションクリアが、この結果よ)

「メニー、魔力があったって、何も変わらないわ。あんたはあたしの最高の妹であり、ベックス家の三女よ」

 メニーに天使の笑みを浮かべる。

「これからだって、あたしはメニーが大好きよ。何も変わったりなんてしない」
「……怖くない?」
「怖いだなんて」

 あたしは立ち上がり、メニーの横に移動した。そして優しく、メニーを抱きしめた。メニーが驚いたように体を力ませた。

「ほら、あたたかい。痛くないし、呪われるわけでもない。何が怖いの?」
「……」
「メニーはあたしの」

 最低の魔女。

「最高の妹よ」

 その背中を優しくなでる。憎しみを持ってなでる

「愛してるわ。メニー」

 その背中を優しくなでる。呪われろと思ってなでる。

「無事でよかった」
「……お姉ちゃん」

 メニーがあたしを抱きしめ返した。

「私ね、今、すごくほっとしてるの」
「あら、どうして?」
「お姉ちゃんがお姉ちゃんだったから」

 メニーがあたしの肩に顔を埋めた。

「お姉ちゃん、好き」

 メニーが呟く。

「好き」

 メニーがあたしにしがみつく。

「テリーお姉ちゃん、ずっと愛してる」
「あたしもよ」

 愛することなんてない。

「あたしも、メニーをずっと愛してるわ」

 お前に愛なんて生まれない。
 生まれるのは、憎しみだけ。
 あたしの人生を呪う美しい魔女め。

 お前だけは許さない。

「昨日の夜の分も一緒にいましょうね。メニー」
「……うん」
「あんたもクッキー食べなさい」
「……もうちょっとこうしてたい」
「しょうがない子ね。いいわ」

 軽く爪を立てて、その頭を引っかくようになでる。

「メニー、いい子ね。大好きよ」

 お前には逆らわない。お前には愛を見せる。だけどそれは、お前に呪われないためよ。よくわかったわ。クレアはあたしの救世主だわ。あたしの人生が、これで呪われることがなくなった。これ以上酷い目に遭うことはないだろう。

(あたしがお前に愛を見せ続ける限り)

 あたしは幸せになれる。

(遠方の素敵な殿方と結婚しよう。そうすれば、こいつと関わりを絶てる)

 家に帰ったら旅行三昧よ。意地でも結婚相手を見つけるのよ。あたし、頑張るのよ。えいえいおー。



 メニーは、あたしを抱きしめる。顔を隠して、抱きしめて、どんな表情をしているのか、あたしにはわからない。


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