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六章:高い塔のブルーローズ(前編)
第17話 かくれんぼ
しおりを挟むメニーを迎えに部屋に戻る。扉を開けると、メニーが本を片手にベッドで眠っていた。
(……読もうとして力尽きたわね)
顔を覗いてみる。少しだけしんどそうだ。額に触れてみる。熱はなさそうだ。
(……)
あたしはメニーの手からそっと本を取り、本棚に歩いていく。
(なんであたしがこいつの後処理をしなきゃいけないのよ……)
手が滑った。あっ、やっば。本が地面に落ちる。
「あー、もう……」
むしゃくしゃしながら身を屈ませ、本を拾って本棚にしまう。そして、メニーに近付き、その肩を叩いた。
「メニー、起きて」
「……すぴー」
いらっ。
あたしはメニーの肩を強く叩いた。
「メニーちゃーん」
「すぴー……」
「メニー」
「んん……」
「メニーメニーメニーメニーメニー」
「……」
メニーが息を吸って、吐いた。
「すやぁ」
あたしの火山が噴火した。
「この寝ぼけすけさん! もー。起きてちょうだい」
――このクソ女! 起きろっつったらさっさと起きんかい! お前のせいであたしの人生にタイムロスが起きてるのよ! お前のせいでね! たかが昨日、塔の掃除しただけじゃない! そのしんどそうな顔は演技ですか!? じゃあさっさと宮殿に戻って部屋で寝ろ! 動け! あたしは王子様じゃないからてめぇをおぶることも出来ないの! ほら早く! お姫様! 寝たいならてめえが動け!! さっさと起きろ!!
とととととととん! と肩を叩いていると、メニーが眉をひそめた。
「……ん……」
「メニー、起きて」
「……。……お姉ちゃん……」
ふにゃりと笑みを見せる。けっ! てめえは寝起きまで可愛いお顔なのね! むかつく! くたばれ!!
「もういいの?」
「ええ。マールス宮殿に戻りましょう」
「……ふああ……」
メニーが大きな欠伸をして、立ち上がると、ふらりとふらついた。
「あっ」
「っ!」
あたしの腕が伸びた。倒れかけたメニーを抱きしめて受け止める。
(あっぶないわね……!)
てめえ、勝手に転ぶんじゃないわよ! 怪我してもあたしのせいじゃないんだからね!
だが、しかし、あたしの選択は間違えていなかったようだ。抱き止めたメニーがあたしを抱きしめ返す。
「ごめん、お姉ちゃん……」
「大丈夫!」
にこりと笑顔。
「それよりも、あたしの可愛いメニー! 怪我はない!?」
「……大丈夫」
「そう! よかったー!」
大丈夫なら、さっさと離れんかい!!!
「……」
メニーの手に力が入る。しがみつくように、あたしの制服を掴んだ。
「お姉ちゃんの匂い」
「え?」
「久しぶりに嗅いだ気がする」
メニーが微笑む。
「いい匂い」
「……アメリの方が良い匂いするわよ」
「お姉様って香水選ぶの上手だよね」
メニーが顔をあたしの肩にすりつけた。
「お姉ちゃんは、香水つけてないのに、すごく良い匂いする」
「うふふ! ありがとう! メニー!」
(何? 自分の方が良い匂いするからって自慢したいわけ? お前は全てを兼ね備えているけどね、説得力というものがないのよ。さっさと離れろ。イライラするわね……)
メニーの肩に触れる。
「ほら、もう離れて」
「もうちょっと」
「メニー」
「だって、久しぶりだから」
くすくすと可愛らしく笑う声が耳に響く。
「お姉ちゃんと、こうやってするの」
メニーが戯れてあたしを抱きしめる。あたしからしたら勘弁してほしい。ああ、声に出そう。おい、早く離れろ。
「もー! メニーったら! 疲れてるんだから、戻りましょう? 今日はお部屋で休んでいいから! ね?」
「お姉ちゃんは?」
「あたしは働くわよ! ニクスも頑張ってるもの!」
「帰ろうよ」
メニーが呟いて、あたしの手が止まった。
「帰ろう?」
メニーがあたしを抱きしめ続ける。
「ここにいたって、何もいいことないよ。キッドさんだって帰ってきてないし」
メニーの手が強い。
「クレア姫様? あの人、信用できるの?」
メニーの頭が離れていく。
「お姉ちゃん」
天使のような顔で、メニーがあたしを見つめた。
「私、お姉ちゃんが王族の人達に良いように使われてるんじゃないかって、心配なの」
両手を握りしめられる。
「屋敷なら、みんながお姉ちゃんを守れる。私だって」
メニーが微笑んだ。
「全力でお姉ちゃんを守るから」
手を、力強く、握られる。
「帰ろうよ」
「メニー」
あたしは、その青い目を見つめる。
「帰るなら、あんただけ帰りなさい」
メニーが黙った。
「これから門が閉鎖されるんですって。行き来出来るのは、エメラルド城とマールス宮殿だけになる。わかる? もう帰れなくなるの。でも、今ならまだ間に合うわ」
クレアの気が変わらないうちに。
「あんたはここにいるべきじゃない」
「お姉ちゃんは?」
「ニクスがいるし、結婚破棄の件もまだ解決してないのよ」
「帰ろうよ」
「いいえ」
あたしはもう決めている。
「あたしは、ここに残るわ」
「……もう。お姉ちゃんは、言ったら聞かないんだから」
メニーがにこりとした。
「じゃあ、私も残る」
「メニー、真面目に言ってるのよ」
「どうして私だけを帰らせようとするの?」
「……」
「ねえ」
「……」
「……また何か、変なことが起きてるの?」
「……」
「……私も残る」
「あのね」
「残るから」
――頑固娘が。
(……後悔しても知らないわよ)
「メニー、最後のチャンスよ。本当にいいのね?」
「残る」
「……そう。なら……」
あたしはメニーの手を解いた。
「マールス宮殿に戻るわよ」
「うん」
「いいのね」
「うん」
「…… わかった」
あたしは扉を開けた。
「行くわよ」
「うん」
メニーがあたしの後ろについてきて、あたし達は部屋から出た。メニーは笑顔だ。あたしは前を見た。戻らないと、ニクスが待ってる。
メニーは、笑顔だ。
(*'ω'*)
大聖堂の扉が開いていた。あたしは黙って中に入る。カラフルな絵が描かれた窓が並んでいる。
キング様が国を生んだ絵。
その息子が引き継いだ絵。
またその息子が引き継いだ絵。
国を築いてきた王様達が描かれた窓。
急に背中が温かくなった。というのも、そこには背中をくっつけるドロシーがいるから、当然だ。
「出て行かなくて良かったの?」
ドロシーが訊いてきた。
「せっかく、家に帰れるチャンスだったのに」
「家に帰ったって、何も解決なんてしない」
「そりゃそうだ。でも、ここにいたって、君に何が出来る? 余計なことにメニーを巻き込むだけだ」
「ニクスを置いて帰れって言うの? ここにはニクスもいるのよ」
「じゃあ頼めばいい。ニクスも一緒に帰してって」
「ドロシー」
「ん?」
「リオンは、呪われてるの?」
「ラプンツェルの取り方を間違えたんだ」
「……どういうこと?」
「ラプンツェルってのはね、花じゃない。蜜なんだ。毒すら消してしまう、本当に、栄養たっぷりの蜜。でもね、花に触れる時、茎に触れてはいけない。花の部分だけを取る。回せば簡単に取れるんだ。茎は猛毒。手袋をしてたって無駄さ。浸透して、肌に伝わって、全身麻痺、脳にダメージが与えられる」
「解毒は?」
「ラプンツェルの毒は時期に治る。リオンが動けないのは一時的なものだ。しばらくしたら、けろっとして、やあ、ニコラ、お兄ちゃんだぞって笑顔で言ってくるよ。それまでは夢の中だろうね」
「意識はあるの?」
「ない」
「……そう」
「ねえ、テリー。不思議だと思わない? キッドは消えて、スノウ王妃は毒から生き延びて、城は閉鎖される。一度目の世界でも、同じようなことがあったね」
「……」
「そうだね。君をかばったキッドが死んで、スノウ王妃は気を病んで自殺をして、悲しみのあまり、ゴーテル陛下は城を閉鎖した。唯一外とコミュニケーションを取っていたリオンは、動くことが出来なくなった」
「……」
「まるで誰かが邪魔だから眠っていてくれとリオンに毒を入れ込んだようにも見える。そして、リオンが動けない間に、変わってしまった歴史を元通りにしてしまおうっていう動きにも見える」
「……」
「オズは軌道修正した歴史をさらに軌道修正するつもりなのかもしれない。いいかい。テリー。君のやってることは、オズにとって邪魔でしかないんだ。だって彼女はこの世界が、人間が、憎くて堪らないから」
「……どうしてオズは、そんなことをするの。あたしに恨みでもあるの?」
「人間が彼女を怒らせたからさ」
「何をしたの?」
「過去の事情は、君に関係のないことさ」
「この状況でまだそんなことを言える?」
「スノウ王妃に毒を盛った犯人、まだ見つかってないみたいだね」
「……」
あたしは眉をひそめて、ゆっくりと振り返った。緑の眼と目が合う。
「……オズの仕業?」
「その可能性があるという話だ。今回は中毒者には何も関係ないかもしれない。国と国の陰謀だったりとか」
「でも、じゃあ、どうしてわざわざ兵士だけじゃなくて、キッドとリオンがラプンツェルを取りに行ったの? 何か心当たりがあるからじゃないの? それに、ジャックがあたしに気をつけろって言ってた」
目の前にいる。
「ドロシー、キッドがどこにいるかわからない?」
「……キッドは特に水晶にモヤがかかるんだ。何かに邪魔されてるようにね」
「……」
「あの舞踏会で、スノウ王妃がどうやって毒を盛られたのか、調べた方がいいかもね。何かわかるかも」
「……そうね」
あの日、スノウ様はゴーテル様と一緒に歩いてた。離れることなく、腕を組んで。
(いや)
離れた時がある。
(ニクスと対戦した時)
いや、それはない。あのゲーム機に毒がついていたら、ニクスだって毒に侵されてる。
(……もう一度、舞踏会会場に行くべきかも……)
親指の爪を噛む。
(くそ……。これで全部終わると思ったのに……)
上手くいかない。問題が解決したら、また問題。スノウ様が助かったらリオンが意識不明。キッドは帰ってこない。あいつ、何やってるのよ。
(役立たずども……)
「ぐぬぬ……。あたしはいつになったら結婚破棄出来るのよ……。キッドの奴……。帰ってきたら覚えてなさい……!」
「誰かいるのか?」
声に驚いて、びくっと肩を揺らして、慌てて振り向く。ドロシーはどこにもいない。中を覗いて来たのは、驚く人ではない。コネッドだ。あたしを見て、そばかすだらけの頬が緩んだ。
「あんら! ロザリー!」
「コネッド」
「なんだ。おめえさん、ここで何やってるんだ? それにしても昨日はお疲れ様だったな。塔の掃除、どうだった? 大変だったべさ」
大聖堂に入ってきたコネッドが辺りを見回した。
「掃除してたのか?」
「窓が開いてたのよ」
やっぱり、あたしは正直者にはなれないわね。嘘つきなあたしにコネッドが笑顔を浮かべた。
「ああ、そうか。閉めてくれてありがとうな」
コネッドがまた周りを見た。
「……それで、ニクスは?」
「え?」
「一緒じゃねえの?」
あたしは首を振る。
「……」
コネッドが一瞬黙った。
「……そっか!」
また笑う。
「メニーは?」
「今日は休ませるわ。疲れてるみたいなの」
「そうか」
コネッドが息を吸った。
「メニーは、いるんだな?」
「……」
あたしは笑みを浮かべ、肩をすくませた。
「何? ニクスがロザリー人形にでも隠された?」
コネッドが笑みを見せたまま黙った。あたしも黙った。コネッドが目を泳がせた。――あたしは口角を下げた。
「……ニクスはどこ?」
「……」
「……コネッド」
「……朝食の時間に、部屋から出てこなくてさ。オラ、迎えに行ったんだ。だけど、その、ロザリーは塔だと思ったけど、……えっと」
「ニクスは?」
「それが、……ロザリー」
「いないの?」
「あのな、……落ち着け」
「……」
「ロザリー、……実はな、昨日、おめえさん達がいない間、マールス宮殿がちょっと騒ぎになってたんだ。……マーガレット様がどこにもいなくてさ」
「……」
「それで、朝から晩まで使用人みんなで捜したんだ。ロゼッタ様はスノウ様の様子を見にエメラルド城に行ってたから、戻ってくるまでに見つければ問題ないと思って。でも、どこにもいなくて。……でさ、オラとニクスとアナトラで心当たりあるところ探し回ってさ、でも、見つけられなくて……」
「……」
「それで、兵士達にあとは任せて、オラ達は一度休んで、また早朝から捜そうって話になったんだけど、朝、起きたら……」
「……」
「ロザリー、……お前達、短期雇用だったろ? だから」
コネッドの肩が震えている。
「……大丈夫だと思ったんだ……」
「……」
「……だ、大丈夫! なんとかなるべさ!」
コネッドが怯えたような笑みを浮かべた。
「こんだけ広いんだ! ニクスったら、どこかで迷子になってるに違いねえさ! そうだろ!?」
だから大聖堂を覗いたのであろうコネッドが、一歩下がった。
「オラ、リリアヌ様のところ行って来るな!」
コネッドが胸を押さえた。
「……ニクスのこと、言わねえと……」
俯いて、大聖堂から出て行った。
「……」
残されたあたしは黙る。風が吹く。あたしは大聖堂から出ていった。使用人達の廊下に向かって走る。狭い廊下を進む。アナトラとすれ違った。
「あれ、ロザリー?」
ゴールドとラメールの横を通り過ぎた。
「おや、ロザリー、かけっこか?」
「こら! 廊下を走るんじゃない!」
食堂ではトロの話し声が聞こえる。
「ロップイ! 素敵な新メニューができたよ! うふふ!」
扉を開けた。
あたしの部屋には、空っぽのベッドが二つ。一つはあたしの。もう一つはニクスの。
「ニクス」
部屋にはいない。
「ニクス!」
ニクスはいない。
「ニクス!?」
見回すが、ニクスはいない。
「ドロシー!」
あたしのベッドに座るドロシーが水晶玉を覗いている。
「ねえ、いるでしょう? どこ? あたし、迎えに行くわ!」
ドロシーが眉をひそめた。
「ねえ、あの子、どこにいるの!?」
ドロシーがあたしを見た。
「ねえ!」
「……わからない」
ドロシーが表情を曇らせた。
「水晶に映らない」
「そんなわけない! ちゃんと探してないのよ! あんたが大事なのはいつだってメニーでしょ!」
「僕だって探してる! 落ち着いてよ!」
「役立たず!」
あたしはマールス宮殿の地図を机の上に広げた。
「もういい。あたしが探しに行く。きっとどこかの掃除をして、迷子になってるんだわ。広い宮殿だもの。ニクスは庶民だから、こういうところ慣れてないのよ。あたしが行くわ」
「テリー」
「ニクスはあたしが助けたわ。だから、あの子はこれからも生きていくの。もう死んだりしない。あたしを置いて行ったりしない」
「テリー」
「いなくなったりしない」
「テリー」
「ニクスの死は終わった。もう大丈夫なはずでしょう?」
地図を握り締める。
「なのに、この胸騒ぎは何なのよ……」
嫌な予感がする。
「スノウ様は助かったじゃない……!」
この胸騒ぎはなんだ。
「サリアならこう言うわ。ロザリー人形なんてそんなものは存在しない。そんなのは都市伝説だ。これは誰か犯人がいて、この事件にも犯人がいる。あたしのニクスを奪った誰かがいるのよ」
許さない。
「あたしの邪魔ばかりしやがって……」
オズ。
「お前か」
ニクスをあたしから奪ったのはお前か。
(許さない)
あたしのニクスを返して。
あたしのニクスを返して。
あたしのニクスを返せ。
このまま終わってたまるものか。
「……君ってさ、やったことにはへらへらしてるくせに、自分がやられたら怒るよね」
「……どういう意味よ」
「君だって奪ったじゃないか」
「奪った? あたしが?」
「そうだよ」
「いつ」
「昔」
「誰から何を奪ったって?」
「スノウ様からキッドの命を奪ったじゃないか」
その言葉を聞いて、思わず、笑いが零れた。
「はあ?」
くすくす、笑い声が出る。
「殺したのは中毒者でしょう?」
ドロシーが立つ。
「あたしは関係ないじゃない」
ドロシーがあたしを見る。
「何よ。あたしが転ばなければキッドは死ななかった?」
「ああ」
「かばったのはあいつよ」
「かばわれる行動をしなければキッドは死ななかった」
「あいつが勝手にやったのよ」
「そしてキッドは死んだ。キッドが死んだことに胸を痛めたスノウ様が、今日、死ぬはずだった」
「そうよ。あたしはスノウ様を助けたのよ。いいメイドじゃない。従順で堅物真面目で勇敢だわ」
「その死がニクスに戻ってきた」
あたしから言葉が奪われた。
「そう考えるのが妥当じゃないか?」
ドロシーがあたしに近付く。
「これは過去の罪に対する罰だ。君はやっぱり、やったことからは逃げられない」
一度目のあたしが笑う。
罪から逃げようとしていた二度目の世界のあたしをあざ笑う。
ざまあみろ。
「どんなに世界が変わったって」
どんなに一度目を捨てたって、
「それは残り続ける」
あたしのやったことは残ってる。『あたし』が残ってる限り。
「払拭することはできない」
なかったことにはできない。ならば、
「やることは一つしかない」
死んで転生してみる? 異世界に飛んでみる? 本の中に飛んでみる? いやいや、おとぎ話じゃあるまいし、そんなこと出来たら、あたしは一目散に逃げたでしょうね。だって、一度目の世界は、あまりにもあたしには酷すぎた。それでも生きた。生き続けた。生き耐えた。でも息絶えた。それがあたしの人生だった。それを踏み台にして、二度目で幸せになろうなんて。
そんなの、許されない。
「君は、罪を償い続けるんだ」
そのために僕は提案しただろう?
「さあ、テリー」
元気にいってみよう。
「今回の罪滅ぼし活動の始まり、始まり~!」
クラッカーが鳴り、ラッパが鳴り、拍手が起きる。ステージに立つのはあたし。司会者はドロシー。観客席にはお客様でどっさり。
「さあ、今回のミッションはお決まりかな? 君の罪に対する罰を軽くするためには、君は一体どうすればいいのかな? ああ、完全に払拭しようだなんて考えないことだね。罪を犯した者には償う義務がある。なぜかって? それが世界のルールだからさ。その世界を壊してしまうきっかけになった大事件を起こしてしまったのは紛れもなく君だ。さあ、その罰にさらわれたのは君の大事なニクス・サルジュ・ネージュお姫様。君はどうする? どうやってニクス姫を助け出す? 三年前、ニクスが君を守ったように、君もニクスを守らなきゃ。さあ、今こそ、罪を償う時! 今回のミッションはー!?」
ドラムロールが叩かれ、シンバルが鳴った。ライトがあたしに当たる。足につけたニクスとの友情で結ばれたアンクレットが光る。今こそ発表の時。今回のミッションはこちらです。
「『毒を盛った犯人を見つける』」
そして、
「『ニクスを見つけだす』」
ドロシーが星の杖をくるんと回した。
「復唱!」
「愛し愛する、さすれば、君は救われる」
「皆様、彼女に盛大な拍手を!」
観客席から拍手が沸き起こった。
(*'ω'*)(*'ω'*)(*'ω'*)(*'ω'*)(*'ω'*)(*'ω'*)
あたしは親指の爪をぐっと噛んだ。
「くそが!」
「情報を整理しよう。テリー。事件というものには、必ず手掛かりがある。この事件が本当にオズの仕業であるならば、中毒者がどこかにいるはずだ」
「この宮殿で起きてることなら、クレアから聞いたわ。ロザリー人形が動いているんですって」
「……何それ?」
「ロザリーという使用人が現れた時、ロザリー人形は動き出す。ロザリーと幸せに暮らすために、周りの人達を殺していく。この宮殿に伝わっている噂話よ」
ニクスの言う通りだわ。こんなのは子供騙しよ。
「ロザリー人形なんていない。誰かが誰かを一日一人、どこかへ隠してるんだわ。かくれんぼして遊んでるのよ」
いいわよ。罪という仮面をつけたあたしが鬼よ。
「速やかにこのかくれんぼを終わらせてやろうじゃない」
マールス宮殿は今日も誰かがいなくなる。
小さな影がくすくす笑う。
誰かが、塔で、くすくす笑ってる。
ハニー、ぎゅってして。
外では、青い薔薇が咲き乱れていた。
第六章:高い塔のブルーローズ(前編) END
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