195 / 592
五章:おかしの国のハイ・ジャック(前編)
第20話 10月15日(7)
しおりを挟む( ˘ω˘ )
「こんにちは。テリー。部屋の掃除に来ました」
入ってきたメニーを無視して、ヴァイオリンを弾くあたしがいた。
「失礼いたします」
メニーが扉を閉めた。
「窓開けていい?」
「やめて」
あたしはヴァイオリンを弾いている。
「でも、換気しないと」
「そのまま、やればいいでしょう」
あたしはヴァイオリンを弾いている。
「空気が悪いと、楽器も音が変わっちゃうよ」
「うるさい」
あたしはヴァイオリンを弾いている。
「お姉様」
メニーが言った。
「私、あの曲が聴きたい」
あたしは手を止めて、譜面の楽譜を無視して、弾く曲を変えた。
ド、はドーナッツのド。
レ、はレチェ・フリータ。
ミ、はミンスパイのミ。
ファ、はファッジのファ。
ソ、はソルベのソ。
ラ、はラスクのラ。
シ、はシャルロット。
さあ、復唱しましょ。
「ありがとう」
あたしはまた練習に戻った。
「お姉様」
メニーが言った。
「私、童謡が聴きたい」
あたしは手を止めて、練習する曲を無視して、弾く曲を変えた。
ポケットの中にはクッキーが一つ。
ポケットを叩くとクッキーが二つ。
もうひとつ叩くとクッキーが三つ。
叩いてみるたびクッキーが増える。
皆で食べよう魔法のクッキー。
皆で食べようおかしなクッキー。
「ありがとう」
あたしは手を止めたまま、待つ。
「うふふ」
メニーが笑った。
「お姉様」
メニーが言った。
「私、あれも聴きたい」
あたしは腕を動かした。
おとぎ話の王女でも 昔はとても食べられない
チョコアイスクリーム ミルクアイスクリーム
わたしは王女ではないけれど
簡単にアイスを召し上がる
スプーンですくって ひやひやひや
舌にのせると とろとろりん
忘れられない 甘いアイスクリーム
「ありがとう」
メニーがあたしを見つめた。
「お姉様」
メニーが言った。
「どこかで、演奏しないの?」
あたしは練習に戻った。
「せっかく良い音色なのに」
あたしは腕を動かした。
「私、お姉様のヴァイオリン、好きだよ」
あたしは譜面の曲を弾いた。
「なんていうか、どこか、聴き入ってしまう音をしてるから、ずっと聴いていたくなるの」
あたしは譜面の曲を弾く。
「どこかで、演奏したら?」
あたしは譜面の曲を弾く。
「もったいないよ」
あたしは譜面の曲を弾く。
「こんなに良い音色なのに」
あたしは譜面の曲を弾く。
「誰かに聴いてもらおうよ」
あたしは譜面の曲を弾く。
「教会とかどう?」
あたしは譜面の曲を弾く。
「お姉様のヴァイオリンに、皆、きっと感動するよ」
あたしは譜面の曲を弾く。
「お姉様のヴァイオリン、素晴らしいもの。きっとする」
あたしは腕を止めた。
「外で弾いたら、また違うかも」
「部屋の中だけなんて、もったいないよ」
「お姉様」
「外で演奏してみれば?」
「きっと、誰かが感動する」
「ね? いいでしょう?」
「どこかで、演奏を」
「ね?」
「お姉様」
あたしは楽譜をメニーに投げつけた。
「いたっ」
あたしは本をメニーに投げつけた。
「いたい、お姉様」
あたしは教科書をメニーに投げつけた。
「お姉様」
あたしは教材をメニーに投げつけた。
「テリーお姉様」
「出て行って」
「テリー」
「でていけ!」
「テリー」
「でていけ!!」
あたしは大股で歩いて、部屋の扉を開けた。大声で叫ぶ。
「ママ! メニーがあたしの部屋の掃除をさぼってるわ! 何とかして!!」
あたしはメニーを睨んだ。
メニーがあたしを見た。
目が合った。
あたしはメニーを睨んだまま、廊下に出た。
「ママ! 早く来てよ!!」
あたしは怒鳴った。
「メニーが仕事をさぼってるわ!! ママ!!」
あたしは走り出した。
愛しい目で見つめてくるメニーから、あたしは逃げた。
0
お気に入りに追加
361
あなたにおすすめの小説
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった
白藍まこと
恋愛
主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。
クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。
明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。
しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。
そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。
三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。
※他サイトでも掲載中です。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる