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サリア

【読者様リクエスト】サリア番外編をお願いします。

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(*'ω'*)テリー16歳以上。お好きな年齢設定でどうぞ。
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 アメリアヌは意地悪なお姉ちゃんだった。
 だから自分は妹ができた時、絶対優しいお姉ちゃんになってやると決めていた。

「ハロー、ベア」

 相方の黒いテディベアに挨拶する。

「可愛いリボンを結びましょうね」

 妹ができたらこうやって結んであげよう。
 優しいお姉ちゃんになろう。
 アメリアヌは意地悪だから。
 姉という権利を利用して、自分の宝物を横取りしてくるから。

(あたしはそんなお姉ちゃんにはならない)

 というか、

(あたしがお姉ちゃんだったらよかったのに)

 あたしは絶対にアメリのものじゃなくて、自分のもので勝負するのに。

(アメリじゃなくて、優しいお姉ちゃんが欲しかったわ)

 夜空を見上げると、星が輝いている。

「お願いします。アメリアヌ様。妹だけじゃなくて、優しいお姉ちゃんも下さい」

 テリーが目を瞑って祈ると、流れ星が一瞬流れていった。


(*'ω'*)


 今日もベックス家の朝が始まる。

「サリアーーーーーー!!」

 自分を呼ぶ悲鳴が聞こえてドアを開けると、足を押さえて地面に座り込むテリーがいた。

「おはようございます。テリー。……足など押さえて、いかがいたしましたか?」
「小指をぶつけたわ!」

 テリーが手をどけた。足の小指は少々青くなっていた。

「痛いわ!」
「ベッドに座ってください」
「絶対骨折れた! あたしの健気な小指が椅子の足にぶつかったことによって、ポッキリ折れたのよ! まるでアルバイト三日目のモチベーションのように!」

 このままでは良くないので、サリアがタオルを持ってきて、テリーの足の小指を冷やした。しかし、テリーは涙目で経過を報告するだけ。

「痛いわ! サリア! ジンジンするの! 小指が悲鳴を上げて、主のあたしに痛いと唸ってくるわ!」
「そのうち引きますから」
「こんなのってないわ! 酷い! どうして朝からあたしがこんな目に!」
「嫌なら寝る前に家具の位置を戻してください。どうせメニー様とお喋りしてて、そのままにしてしまったのでしょう?」
「……寝られないっていうから……」

 テリーが舌打ちした。

「寝る前に、夜の会話をしてあげたのよ。ちゃんと部屋まで送っていってあげたんだから」
「まあ、それはお優しい」
「そうよ。あたしは優しいの。喋り疲れたがそのまま眠ったからって、悪いことは何もしてないわ」
「じゃあ足元をちゃんと見ることですね。怪我をしないように」

 テリーの足にテーピングが巻かれた。

「明日になれば治ります」
「治ってなかったら?」
「その時は……また私が手当しましょう」

 その日一日、テリーの足はテーピングで固定されたままだったが、お陰で痛みをあまり感じることなく過ごすことができた。ダンスのレッスンがなかったことが幸いだった。

 寝る前に、ベッドでテリーが自分の足を見た。

「……」

 ——翌日も、いつもの朝が始まった。

「サリアーーーーーー!!」

 サリアが部屋へ訪れると、テリーが手の小指を押さえていた。

「おはようございます。テリー」
「涼しい顔で挨拶しないで! おはよう!」
「今朝は手ですか?」

 サリアがテリーの手を優しく持つ。そして、足用に持ってきていたタオルで、手の小指を冷やした。

「足の小指はどうですか?」
「足はもう痛くない」
「なら今度は手ですね」

 テリーの左手がテーピングで固定された。

「明日には治ります」
「治ってなかったら?」
「その時は……」

 サリアが言いかけて、ふと、口を止めた。テリーの瞳を見て、言葉を止める。

「……」
「……サリア?」

 3、2、1。

「今夜は私と寝ましょうか」
「は?」

 サリアの提案から、どうしてか——テリーの部屋で、サリアと寝ることになった。ネグリジェ姿のサリアがテリーの部屋を見回す。

(家具の配置はこれでよし)

 足も手もぶつかることはない。——普通にしていれば。

「さあ、テリー、もう寝る時間ですので、お眠りください」
「……サリアはどこで寝るの?」
「ソファーで」

 サリアが手で指し示したのを見て、テリーが隣を叩いた。

「ベッドで寝れば良いじゃない」
「お嬢様と一緒のベッドでは寝られません。メイドですから」
「あたしが許可すれば良いんでしょ」

 テリーがシーツをめくった。

「……来てよ」
「……そう言われたら、断れませんね」

 ——二人でベッドに入り、向き合って横になる。手は触れるか、触れないかの微妙な位置にあり、触れようと思えば簡単に触れられるが、簡単にできることではないのは互いにわかっている。

 所詮はお嬢様と、メイド。
 だからこそ、引っかかるのだ。

「ねえ、テリー」

 サリアが優しい声をかけてきたので、テリーもサリアを見つめた。

「ん」
「この二日間で、私、気になることができたんです」
「気になること?」
「ええ。私の大好きな謎が発生しているようです」
「……まさかそれって……」

 テリーが突然起き上がった。

「心 霊 現 象 !?」
「違います」
「怪 奇 現 象 !?」
「そういったものは確かに存在すると思いますが、あまり信じていません。物事には必ず動かしてる犯人がいるわけですから」
「……それならいいわ」
「あら、今椅子が動きましたね」
「ひゃわーーーー!!」

 テリーがサリアの胸に飛びつき、ブルブルブルブル! と体を震わせた。

「地 縛 霊 現 象 !?」
「冗談です」
「……寝る前にやめてよ」
「お伺いしたいんです。テリー」

 サリアがテリーを抱きしめながら——見つめた。

「今日怪我をしたのは、わざとですか?」

 ——テリーが黙った。サリアはニコッと笑った。テリーがむすっとして——目を逸らした。

「タンスに手が当たったのよ」
「わざと、ですか?」
「……手が当たったの」
「YESかNOか」
「手があた……」
「わざとですか? YESかNOか」
「……あたし、ねむーい」

 テリーが目を瞑り、寝る体制に入ると——サリアがテリーの脇腹をくすぐり始めた。

「ぎゃはははは! サリア! 待って! それ駄目!!」

 こちょこちょこちょこちょこちょ。

「待って……ちょ……本当に……まっ……」
「テリー」

 テリーが固まった。サリアの声が低くなった。

「YESか、NOか」
「……………………YES……かも……しれない……」
「よろしい」

 乱れたシーツの皺を伸ばし、布越しからテリーのお腹の上に手を置く。

「自傷行為だなんて、奥様がなんて仰るか」
「明日はしないわよ」
「本当に?」
「痛いのは嫌いだもの」
「それならどうしてやったの?」
「……それは」

 テリーが黙ってしまった。サリアは考える。最近のテリーの様子を思い出す。しかし、違う。最近じゃないのだ。サリアはもっと前のことを思い出す。そのまたもっと前、もっともっと、もっと前のことを思い出す。

 ——ママァー! アメリがお人形さん壊しちゃったー!!

 3、2、※

「……」

 謎が蔓延る。喉に出かかっている気がするが、上手く解けない。脳内では膨大な情報から答えを探し、表ではただひたすら自分を見つめ続けるサリアに、テリーが重たい口を開いた。

「優しいお姉ちゃんって、どんな感じか気になったの」
「おね」

 サリアがきょとんとした。

「……お姉ちゃん、ですか?」
「……昔のアメリ、今よりもずっと意地悪だったの。人のもの盗んでは自分のものにしたがるし。我儘だし。姉っていう権利を使いまくって妹を見下すし」

 だから祈ったことがあるの。

「優しいお姉ちゃんを下さいって」

 ちらっと、テリーがサリアを見た。目が合った。だから、テリーが目を逸らした。

「ちょっとした実験だったの。……ごめんなさい。試すようなことして」
「……」
「もう寝ましょう。お休みなさ……」

 テリーが目を見開いた。笑顔のサリアに——優しく、抱き寄せられたのだ。

「呼んでみます?」
「……何が?」
「私を」

 サリアが微笑んだ。

「お姉ちゃん、と」
「……おほほ! サリアったら!」

 テリーが笑い飛ばした。

「ほんの冗談よ! 間に受けないで!」

 サリアが優しく優しくテリーを撫でた。誰よりも大切に、温かい手で撫で、触れ、心すら温めてくれる。

「……」

 テリーがサリアの胸に顔を埋めて、小さい声で言った。

「……今夜のことは、忘れてくれる?」
「テリー、これは夢のひとときですよ。忘れても覚えていても、これは夢の出来事です」
「……」

 とても小さな声で、呟いた。

「……お姉ちゃん……」
「……なーに? テリー」

 サリアの手が、優しく、暖かく、テリーを包んだ。


(*'ω'*)


 翌日、テリーは無傷で朝を迎えた。いつも通りに着替えて、いつも通りに朝食を食べ、勉強をする。一方サリアも、いつも通りに業務をこなす。

「サリアさーん! お洗濯物が片付きましたー!」
「モニカ、廊下は走らないと……」

 廊下でモニカとテリーがぶつかった。

「ひゃん!」
「ゴッド・ファザー!!」
「まあ、大変」

 サリアが駆け寄り、跪く。

「テリーお嬢様、お怪我は?」
「平気よ。モニカは?」
「大丈夫です! 申し訳ございません! テリーお嬢様!」
「よく言いつけておきます」
「元気があって良いことじゃない。……あ、いたっ」

 テリーの膝の皮が剥かれ、血が流れていた。モニカが顔面蒼白になった。

「大変! テリーお嬢様のお膝から、血が!」
(あー、皮が剥けたのね。運がないわ。ヒリヒリする。部屋で絆創膏でも貼って……)

 ふと、テリーが顔を上げた。……サリアと目が合った。にこりと笑みを浮かべるサリアを見て……テリーが手を差し出した。

「サリア、手当して」
「かしこまりました。テリー」

 その手を握り、ゆっくりと、テリーを立たせるのだった。






【読者リクエスト】サリア番外編をお願いします。 END
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