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メニー

ドレスの代償

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(大運動会の続きです。CP上、キッドとテリーは婚約解消してる前提です(*'ω'*))

 ――――――――――――――――――――










(ああ……、疲れた……)

 テリーが体操着のままベッドの上にダイブする。

(お腹すいた……。ステーキ……。ステーキが食べたい……)

 テリーがうとうとと瞼を動かす。

(夕飯いつかしら……)

 瞼が重くなっていく。

(待つ間、少し休もう……)

 瞼が下りれば深呼吸。整った呼吸を繰り返す。テリーが眠る。すやすやと眠りだす。
 その中で、トントンと扉がノックされた。

「テリーお姉ちゃん」

 扉が開く。メニーがひょこりと顔を覗かせた。

「……あ、寝てる」

 すやすや眠るテリーがいるベッドまで近づく。

「おねーちゃーん」

 声をひそめて呼んでみる。テリーが起きる気配はない。

「ご飯が出来たよー」

 声をひそめて言ってみる。テリーが起きる気配はない。

「……んー」

 メニーは考える。

(疲れてるだろうし、起こすのは可哀想な気がする)

 メニーが眉をひそめる。

(でも起こさなかったらお母様にどやされるし、お姉ちゃんもなんで起こさなかったのよって文句言ってきそう……)

 メニーが唸る。

「うーん!」

 よし、こういう時は、ドロシーに相談だ!

「いでよ! ドロシー!」

 ドロシーは現れない。

「あれ?」

 メニーが辺りを見回す。

「あれー? ドロシー?」

 ドロシーの気配はない。

(……キッチンかも)

 ドロシーは諦め、メニーはテリーに手を伸ばすことにした。肩をとんとんと軽く叩く。

「お姉ちゃん、ご飯できたって」
「んん……」

 テリーが身じろぎ、寝返った。

「……あと五分……」
「はい、過ぎた。お姉ちゃん、起きて」
「んん……」

 テリーは起きない。身じろいで、唸って、再び夢の中。

「くかー……」
「お姉ちゃんってば」
「ぐうー……」
「おねーちゃーん」

 メニーがテリーを呼ぶ。肩を揺らす。何とかテリーを起こそうとメニーが頑張る一方で、テリーの夢では、メニーは高笑いをしていた。

「おーっほっほっほっほっほっ! テリーのことを死刑にしてやるー!」
「ぎゃーーーーー!!」
「どう? テリー? 逆さづりにされる気分はー!」
「メニーーーーーー!!!」

 テリーが必死にもがく中、メニーが運動会の優勝カップを握り締めた。

「優勝は私、メニーだー!」
「なぁぁああああにぃぃぃいいい!!?」

 リトルルビィが、ニクスが、キッドが、ソフィアが、リオンが、メニーに拍手をする。

「おめでとう! メニー!」
「さすが皆のプリンセスだね!」
「くくっ。テリーとは大違い。彼女こそプリンセスだ」
「くすす。とても輝いてるよ。メニー」
「僕のハニー!」

 リオンがテリーを踏んづけて、手を差し出す。

「ぎゅふ!」
「さあ、ハニー! ニコラなんて放って、僕と一緒にランデブーに出かけよう!」
「リオンてめぇぇえええええ!!」
「きゃ! 素敵!」

 メニーがテリーを踏んづけた。

「ふぎゃ!」
「愛してるわ! ダーリン!」
「運動会の優勝カップが似合ってるよ! ハニー!」
「さあ、私をお城まで連れて行って!」
「君のためならどこにだって! さあ、行こう!」

 ふみふみふみふみ。

「てめえら! このあたしを踏んづけるなんて! 許さない! この、馬鹿夫婦! この! この、この、この……!!」

 テリーが睨みつけた。

「メニー!!!」




 メニーがきょとんとした。

「……お姉ちゃん?」
「……めにー……むにゃむにゃ……」
「お姉ちゃん? もしかして、私の夢見てるの?」

 メニーが顔を近づける。

「お姉ちゃん、起きて。私、ここだよ」
「メニー……てめえだけは許さない……」
「お姉ちゃんってば、何言ってるの。……まさか、喧嘩した時の夢? ああ、もう……」

 メニーがうんざりげに眉を下げた。

「お姉ちゃん、起きてよ」
「この……」

 テリーがメニーの手を掴んだ。

「ん?」

 引っ張られる。

「ひゃ!?」

 ぼふん、とメニーがベッドにダイブした。慌てて起き上がる。

「ちょ、お姉ちゃん!?」

 ――おーほっほっほっほーーーお。テリーのばーか!
 ――何をををををををを!!!

「お前のドレスなんて……こうしてくれるー……」
「お姉ちゃん、いだだだだ! 何!? 何!? お姉ちゃんってば!」

 メニーの上にテリーが覆いかぶさる。慌てて肩をとんとん叩くと、テリーの手がメニーの胸元を掴んだ。

「えっ」

 びりーーーーー!!

「きゃーーーーーー!!!!」

 メニーが悲鳴をあげた。
 ドレスの胸元がテリーによって破られ、はだけた。

「お、おねーちゃーーーん!!」
「ドレスなんて……こうしてくれるー……」

 びりーーー!!

「お姉ちゃん! 寝ぼけてるでしょ! 起きて! おねえちゃ…」

 はっ!

「目を瞑ったまま、ドレスを破いてるだと……!?」
「ぐー……」
「お姉ちゃん! 起きて! お姉ちゃん!!」
「メニー……」

 びりびりびりーーー!

「きゃーーー! やめてーーー!!」

 メニーが逃げようとしても、テリーがメニーを離さない。
 夢の中では、メニーとテリーは格闘している。

「テリーはドレスも持ってないんだね! 可哀想! おーっほっほっほっほーお」
「馬鹿野郎! あたしが普段から体操着を着てると思ったら大間違いよ!」
「『てりぃ』だって! ああ、なんてダサい体操着!」
「なにをーーーーーー! お前のドレスなんて!」

 テリーの目は開かない。

「こうしてくれるわー」

 びりーーーー!

「お姉ちゃん! もう、もう破くところがないよー!」
「ぐかー」
「助けてー! 誰かー!!」

 キャミソールとカボチャパンツ姿になったメニーがテリーの下でもがく。

「お姉ちゃん! 起きて! お姉ちゃん!」
「許すものかー」
「理不尽だ! 何この執念! ドレスに恨みでもあるの!?」
「メニー」
「うわぁーーーー! ご勘弁をーーー!!」

 伸びた手に、メニーがぎゅっと目を閉じる。体に手が巻き付いてくる。

(むぎゃ!?)

 ぎゅっと、抱きしめられる。

「……」

 テリーに抱きしめられている。

「……」

 メニーがそっと目を開けた。テリーはメニーを抱きしめたまま、眠っている。

「ぐかー……」

 夢の中では、メニーを羽交い絞めにして格闘している。
 現実では、メニーを抱きしめている。

「……もう……」

 メニーがため息混じりに言葉を吐いた。

「お姉ちゃん、妹のドレスを破くなんて貴族令嬢失格だよ」

 メニーの手がそっと、テリーを抱きしめ返す。

「お姉ちゃん、いい加減に起きてよ」
「むにゃー……」
「お姉ちゃんってば」
「くかー……」
「……もう……」

 メニーがもぞもぞと動くと、テリーの腕の力が強くなった。

(うぼっ!?)

 メニーを離さなさい。
 メニーがぐっと抜けようと力を入れてみる。

「お姉ちゃん……!」
「……にー……」
「え?」




「メニー……」






 メニーを抱きしめて離さない。
 メニーを離さないテリー。
 テリーがメニーを抱きしめる。
 メニーが硬直する。
 テリーがメニーの背中に頬をこすりつけた。

「……離さない……」

 テリーが呟いた。

「あたしの……もの……」



 その瞬間、

 メニーの目が、閉じられる。
 メニーの目が、しばらく閉じられる。



 目が、そっと開けられた。


「……」


 青い瞳がゆっくりと動く。自分の背中に乗っかるテリーに振り向く。

「……ぐー……」

 青い瞳が振り向き、そのまま、体ごとテリーに振り向いた。

「……」

 手が伸びた。テリーの体操着を掴み、そのまま、持ち上げる。

「……ぐー……」

 テリーの体操着が脱がされる。

「むにゃ……てめ……くー……」

 テリーのハーフパンツが脱がされる。

「……ふがー……」

 脱がした手が体操着をベッドの外へ投げた。

「……」

 キャミソールとかぼちゃパンツ姿になったテリーを抱きしめ返す。

「……」

 抱きしめて、横向きに、向かい合って寝転がる。

「……」

 肌と肌がくっつく。
 腕と腕がくっつく。
 足と足がくっつく。

「……」

 青い瞳がテリーから離れない。

「……」

 顔が近づく。

「……」

 唇が近づく。

「……」

 鼻がくっついた。

「……」

 止まる。

 青い瞳が、
 テリーを見つめる。
 テリーを見つめる。
 テリーを見つめる。
 テリーを見つめる。
 テリーを見つめる。
 テリーを見つめる。
 テリーを見つめる。
 見つめる。
 見つめる。
 見つめる。
 見つめる。
 見つめる。
 見つめる。
 見つめる。
 見つめる。
 見つめる。
 見つめる。
 見つめる。
 見つめる。

「ふふ」

 笑い声が漏れる。

「ふふふ」

 そっと、テリーの頬に手を添える。

「……」

 青い瞳がテリーを見つめる。
 口は開かない。
 青い瞳がテリーに手を伸ばす。
 指で優しくテリーを撫でる。

「……ん」

 テリーが眉をひそめる。青い瞳がくすりと笑った。

「……んん……」

 触れてみる。
 テリーが唸る。
 触れてみる。
 テリーがピクリと動いた。
 触れてみる。

「……うう?」
「しー」

 静かに、というように息を出すと、テリーが黙った。

「……ん」

 再び、夢の中。
 青い瞳が微笑んだ。

 もっと触れる。
 テリーが眠る。
 もっと触れる。
 テリーが肩を揺らした。
 もっと触れる。
 テリーが眉をひそめた。

 頬に唇をつけてみる。
 テリーは気持ちよさそうに眠る。
 だから触れる。

「……ん」

 触れる。

「……ん、どこ、触って……」

 触れる。

「ふふ、……くすぐったい……」

 触れる。

「ん……この……メニー……」

 触れる。

「てめ……よくも……」

 触れる。

「ん、くくっ……そこは、ふふ、だめ……」

 触れる。

「……あ……」

 唇を寄せる。

「ちゅ」

 青い瞳が、目を閉じることなく、テリーを見つめる。
 頬に唇をつければ、眠るテリーがいる。
 手を握れば、握られるテリーがいる。
 足を絡めれば、絡められるテリーがいる。

 青い瞳が、テリーを見つめる。

「離さないで」

 手を、握り締める。

「離したら、駄目」

 見つめる。

「私も、離さない」

 青い瞳が、囁く。

「絶対に、離さない」

 テリーを見つめる。









(*'ω'*)







 ――ゆさゆさ。

(……んん?)

 体を揺らされ、テリーが眉をひそめ、呻いた。

「あたしの……優勝カップは……渡さない……。これは……あたしのものよ……」
「テリー、起きてください」

(あ……サリアの声……)

 テリーがそっと目を覚ます。思った通り、サリアが目の前で自分の顔を覗き込んでいた。

(……夕食が出来たのね……)

 ふわあ、とテリーが大きな欠伸をする。

「今夜のご飯……何……?」
「あら、まだお腹空いてるんですか?」
「あたし……お腹はぺこぺこよ……。今日一日、運動会でずっと体動かしてたんだから…」
「でも、テリー、もう食事は済んだのでは?」
「何言ってるのよ……。あたし、寝てたのよ……。どうやって食事するのよ……」
「だって、どう見たってこれは」

 サリアが呟く。

「食後では?」
「あ?」

 テリーが振り向く。メニーのドレスがボロボロで、キャミソールとかぼちゃパンツ姿で眠っていた。

「……」

 頬を赤らめ、しんどそうに眠っていた。

「……」

 テリーが自分の手を見る。メニーのドレスの一部を握っていた。

「……」

 自分も体操着は着用しておらず、下着姿だ。

「……」

 テリーが眉をひそめ、ゆっくりと振り向く。
 サリアは真剣な顔で、テリーを見ていた。

「テリー」

 肩を、ぽんと叩かれる。

「いいですか。近親相姦はばれないようにしないと」
「誰が近親相姦だーーーーーーーー!!!」

 悲鳴のように叫び、テリーが慌ててメニーの肩を揺らす。

「メニー! 起きなさい! 一体何があったの!」
「うーん……テリーお姉ちゃんの……えっち……」
「まっ」

 サリアが口を押さえた。テリーが青ざめる。

「ちょ! ちが! サリア! これは誤解よ! メニー! 変なこと言うんじゃないの!」
「うーん……ドレス破くなんて……酷いよぉ……」
「まっ」

 サリアが眉を下げる。テリーの血の気がさーーーっと引いていく。

「メニー! 起きて! とりあえず、ドレスを着るのよ!」
「むにゃむにゃ」
「メニー様がこんな風になるまでお戯れを…。やりますね。テリー」
「サリア! わかってるくせに!」
「あら、何をですか?」

 サリアのにやにや笑う顔にテリーが顔を引き攣らせる。再びメニーの肩を揺する。

「ちょ! 本当に! メニー! 起きろ! 起きて! 起きて事情を話すのよ!」
「くかー」
「メニーーーーーーーーー!!!!」

 その夜、テリーの悲鳴が屋敷中に響き渡ったのだった。









 ドレスの代償 END
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