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緑の魔法使い(NL)
余裕のある彼氏(1)
しおりを挟むルーチェが納品された商品を見た。
「ルーチェちゃん、これ、上の人が発注したやつね! 私もう上がりだから、あとお願いね!」
「あー、はい……」
ルーチェが中身を確認する。濃厚なアダルトコンテンツ。数種類のAV。スタッフ共用ノートを確認する。
(AVの売上を増やしたい……え、まじで言ってんの? オススメのAVの売り場を増やす。……えー? 何? オススメとかわかんないけど……)
「お疲れーっす! 俺、出勤しましたー!」
「んー……」
「どうした。ルーチェちゃん!」
「なんか、AVのオススメの棚作るよて、予定らしくて……」
「どれどれ。……おー。なかなか」
「そうなんですか?」
「どれも有名な女優さんじゃん」
「ふーん……」
「どれかサンプル版持って帰って見れば? 早送りでテキトーに良さそうなの選んでさ」
「……あ、そうだ!」
クレイジーが複雑な顔をした。
「俺っちが見るの?」
「うん! お願い!」
ルーチェの目がきらきらしている。
「一番ヌけたやつ教えて!」
(女の子がそんなこと言っちゃ駄目だっぴー)
いや、正直言ってAVを彼女公認で見ていいなんて、男にとってそんな幸せなことがあっていいのだろうかと問いたくなるところだが、それでも複雑なのだ。
(ルーチェともしたことないのに本人からこういうものを渡されるなんて)
まあ、仕事だもんね。アルバイトなのにサンプル版持って帰れるなんて信用すごいじゃん。ルーチェ。
というわけでクレイジーが部屋でAVを三種類見ることになった。これを見たら兄達にも回して、ルーチェに返す予定だ。もちろん手はきちんと洗ってディスクは綺麗な状態にしなければいけない。そこだけは徹底せねば。何せ、返却時にルーチェが触ることになるのだから。さあ、そうと決まったらAVタイムだ! クレイジーにとっても嬉しいAV。昨日も散々ヌかせていただきました。ルーチェが持ってきたAV。さあ、オススメのものを見つけ出すのだ!
(あーなるほどねー)
一本目。半勃起するが、それ以上にはならない。なんかぬるい。
二本目。有りがちテイスト。兄ちゃん達が好きそう。なかなか面白かった。
三本目。やばい。
(かなりヌケる……)
というか、
(女優の雰囲気がルーチェに似てて……)
『ほら、もっと足広げろよぉ!』
『あっ、あん!』
(やばい。ルーチェに見えてきた。いや、全然違うのはわかってるんだけど、背丈とか髪の長さとか同じくらいだから)
『やめてぇ! 恥ずかしいよぅ……!』
――恥ずかしいよ……。
『イクイクイクぅ! イっちゃうー!』
――クレイジー君……、イっちゃう……!
「……っ……!」
――クレイジーが汚れたティッシュを見た。
(……やべえ。これはまじで好みだわ。ダントツ一位。ルーチェに会う前なら二本目優勝だったけど、今は断然これ)
(……やー、……ルーチェとヤりてー……)
クレイジーが吐く息と共にうなだれた。
(*'ω'*)
「俺は断然これだな」
「俺はこれかなー」
「……俺、これ」
「俺これだったかなー。すげーヌけた。ありがとう。……つーかさ、ユアン三本目好きでしょ。なんか雰囲気ルーチーに似てたし」
(まー、平均点で言えば)
「5票中これ3票」
「これね! あいがとう!」
ルーチェがスマートフォンで写真を撮り、昼のアダルト担当者にチャットした。これです!! ありがとう! ルーチェちゃん! 明日やっとく!
「ありがとう。クレイジー君。すごくた、た、助かりました」
「やー、こっちこそ結構楽しかった。兄ちゃん達もなんだかんだ喜んでたし」
クレイジーの部屋でルーチェがお茶を飲んだ。クレイジーもお茶を口に入れるとルーチェが聞いてきた。
「ちなみにクレイジー君はどれだった?」
「ぶはっ!!!!」
「うわっ、大丈夫!?」
「げほっ! げほっ! 変なとこに! ははは! 変なとこ、げほげほっ! 入ったっぽい!」
「あー、よくあるよねー。あたしもよくむせるんだー」
「げほげほげほっ!」
「……大丈夫?」
心配になったルーチェが横に移動し、クレイジーの背中をさすった。クレイジーの咳が止まり、深呼吸する。
(はー……やべー……動揺しすぎだって……)
「……お茶飲む?」
「いや、今はいい……」
クレイジーの手がルーチェの腰を抱き、ぴたりとくっついた。はあ。ルーチェだ。落ち着く。すりすり。
「屋敷だとミランダ様もセーレムもいるから、どーしても見辛いんだよね。ありがとう」
「や、でも、基本AVって男が見ること多いだろうし、俺っちに任せたのは正解だと思うよ」
「うふふ。頼りになるね」
(いいにおーい。えっちしたーい)
クレイジーが下心を抱えながらルーチェと手を重ね合わせる。
(キスしたーい)
クレイジーがルーチェを見た。ルーチェと目があった。彼女も自分を見ていた。
「……」
クレイジーから近付いた。ルーチェは抵抗しない。瞼を閉じて、そのまま唇を重ね合わせる。ルーチェの匂いを感じて、クレイジーが唇を動かした。ルーチェの唇を啄むように動かせば、ルーチェもそれに合わせてくる。しかし息が続かない。一度唇を離し、再び目を合わせ、再び唇を重ねる。ルーチェの手と自分の手を重ね、今度は大人のキスをしてみる。舌をねじ込めば、ルーチェの口内に簡単に侵入できた。でもこれは信頼あってこそなのだとわかっている。自分は彼女の口の中に舌を入れることが許されてる。ルーチェが警戒せず心を許し、安心している。それを感じて、クレイジーが舌を絡ませる。互いを感じ合う。ルーチェの体が震えてきた。呼吸してないことに気付いて、クレイジーが唇を離した。
「ふはっ……」
「ルーチェっぴ、鼻で呼吸したら?」
「……鼻息当たるじゃん」
「俺っちも当たってるっしょ?」
「それはいいけど……あ、あたしは、やだ」
「別に気にしないよ」
「あたしがやなの」
「ふふっ。変なの」
またキスをする。胸が満たされる。
「ルーチェ」
「……クレイジー君……」
――ふと、ルーチェが気付いた。硬直する。その視線でクレイジーもきょとんとし、その先を辿ってみた。クレイジーのクレイジーな息子がはち切れんばかりに元気よく社会の窓を強烈にノックしていた。クレイジーがぞっと顔を青ざめる。血の気が引く。ルーチェはガン見している。わお。なんてクレイジーな状況だろう。
「ちょーーーーーーーっっっっっ!!!」
クレイジーが大慌てでベッドに潜った。
(今じゃない! 今じゃない!! 今じゃない!!!)
ルーチェがぽかんとしている。
(仕方ねえじゃん! 男だもん!! 好きな子とキスして抱きしめたら元気にもなるっつーの!! てか、うわぁあーーーーー見られたーーーー!!)
「……だ、大丈夫?」
「大丈夫!!」
ルーチェに嫌われたくない。
「ちょ、ちょっち待ってて! 俺っち! ちょっち体に緊急非常事態宣言が出ちゃった感じかも! てへぺろ!」
「……えっと」
「大丈夫! すぐ! 収まる! からね!」
(ふざけんなよ! ルーチェにキモいとか思われたらどうすんだよ! クソ! クソクソクソ!! 収まれ! 今すぐ収まれ! うごぁ! 収まれ収まれと思ってたらより立派になりやがった!! うわーーー! 最悪かよ! ちっくしょーーー!!)
「……クレイジー君、あの、勃っ……てるよね? それ」
「あはははははは! ルーチェっぴ! 女の子がそんなこと言っちゃいけないっぴよー!? てへぺろ!」
「あの、ミランダ様が言ってたから、わかるよ。その、せ、せ、せーり現象だから、仕方ないんでしょ?」
「えっ」
「大丈夫だよ。あたし達で言う生理みたいなもんだもんね」
(いや、全然違、あ、同じか……? や、もう、いや、わけわかんない……)
「大丈夫だよ。気にしてないよ」
子供をあやすように頭を撫でられる。
「大丈夫、大丈夫」
「……」
「AVのパッケージ見て、ぎゅんって来ちゃったんだよね。大丈夫だよ。恥ずかしくないよ。気にしてないよ」
(……や、ルーチェとキスしたから勃ったんだけど……)
「あ、なんか、その、あたし……出来ることある?」
「……やー……」
じゃあ、俺とセックスしよう?
(……)
クレイジーが黙る。だってルーチェはまだ未経験で、こんな状況で、ムードも何もないこんな間抜けたタイミングで手を出して嫌われたくない。
真剣にルーチェを愛してる。
愛してるからこそ、手が出せない。
こんなに恋に溺れたのは初めてで、どうしていいかわからない。
今までなら簡単に誘えた。好きって思ったらしよー? って誘えた。上手くいかなければ奇策をひらめき、言葉巧みに誘い込み、欲を満たした。最低と言われたこともあった。良かったと言われたこともあった。じゃあ今回は?
ルーチェの笑顔を見たら、本気で頭と口が動かなくなる。
(くそ……ムラムラする……)
「……大丈夫? 汗すごいけど……」
「……ルーチェっぴ」
「ん?」
「……ちょっとさ、……ちょっとだけ、……一緒に横になれたりしない?」
「……横になるの?」
「……うん」
「うん。いいよ」
「え、いいの?(勃ってるんだけど)」
「全然いいよ」
(……撫でてくる手が優しい……。まじ好き……)
クレイジーの頭を撫でてからルーチェがベッドに入ろうとして気が付いた。そうだ。カーディガンは脱いでおこう。羽織っていたカーディガンのボタンを外し、脱いで床に置いた。その姿を見て――ルーチェの脱ぐ姿に、クレイジーの心臓が高鳴った。
(あ、これやばいかも)
「お邪魔しまーす」
(あ)
ルーチェが狭いベッドに入ってきた。
(あ……)
体が密着する。
(あーーーーこれ……)
ルーチェが目の前にいて、体が密着して、クレイジーが自分の言葉に後悔と感謝の念を込めた。
(やばい。これ、AVより興奮する……)
「……大丈夫?」
「うん。へーき……。(やば……。見つめて来るルーチェめっちゃ可愛い……)ありがとう」
「ううん。こ、こんなことしか出来ないけど」
「……くっついていい?」
「うふふ。いいよ。はい、どうぞ」
両手を広げたルーチェにクレイジーが抱き着いた。ルーチェがクレイジーの背中を優しく撫でた。かなりムラムラしているが、優しい手に気持ちが落ち着いてくる。その一方、ルーチェが腿に当たるクレイジーな息子に、強く興味を惹かれる。
「……ね、それっていつか収まるの?」
「……ルーチェっぴ、気にしなくていいから」
「……ちょっと見てみても良い?」
「はぇ?」
思いもよらぬ言葉にクレイジーの脳内に沢山のハテナが浮かび上がる。ルーチェは早くパンツの外に抜け出したいと叫んでいるような膨らみを見てくる。
「や、み、見なくていいって!」
「大丈夫だよ。パパの見たことあるもん。もう記憶にないけど」
「ルーチェっぴ、俺っちといちゃいちゃしてよ? ね、ほら、俺っちと見つめ合おう? ほら、ちゅーしよ? ね? ちゅー」
(すごい盛り上がってる。男の子ってこうなるんだ)
ルーチェがそっと手を伸ばし――膨らみに触れた。その瞬間、クレイジーの息が止まる。
「わ、すごい。なんか硬い!」
クレイジーの手がぶるぶる震え始める。
「すごいね。ほ、ほ、本当に硬くなるんだね」
ルーチェが膨らみを布越しから撫で始めた。クレイジーの背中がビクッと揺れた。ルーチェの手が膨らみに向かってよしよしと撫でている。クレイジーは思う。やめてくれ。触るなら生で触って。あ、違う。イッちゃうから収まるまで待って。まじで。
「わー。すごーい」
ルーチェの無邪気な声。クレイジーの目がぐるぐる回り始める。ルーチェの小さな胸。ルーチェの匂い。ルーチェが目の前にいる。クレイジーが瞼を閉じた。余計にムラムラした。呼吸がどんどん浅くなっていくのを感じ取る。
(やばい。まじで、本気で、一緒に横になったの間違いだったかも、いや、ご褒美か、まじで、うわ、ちょっ……)
「……クレイジー君、大丈夫?」
「っ」
ルーチェの何もわからない純粋無垢な姿を見て、本能的に、理性の糸が切れてしまった。脳裏で、綺麗なこの子を自分の手で汚してしまいたいと欲が沸く。クレイジーが激しい鼓動の中、口を動かす。
「……大丈夫じゃ、ない……」
「……具合悪い?」
「ムラムラする」
「……えーと、お茶飲む?」
「ルーチェ」
クレイジーが真剣にルーチェを見つめて、言った。
「したいんだけど」
「……」
「……無理?」
「……あー……えっと、その」
「や、嫌なら、言って」
「あたし、あの、したことな……」
「知ってる」
「……あの、ごめん、あの、今日……」
「生理?」
「……毛の、処理、してなくて……」
「……ん?」
クレイジーが思わず聞き返した。毛の処理?
「脱毛、してないから、あそこの、毛が、も、も、森なの!」
「あ、気にしないから大丈夫」
「あたしが気にするから、きょ、今日は……!」
(いや、気にしないって。別に。毛くらい。いや、でも、恥ずかしがってるし、これ以上無理強いしたら良くないかも……)
「あの、す、素股、なら!」
「ああ、素股ね。そっかー……」
……。
「え? 素股?」
「うん! 素股ならいいよ!」
「意味わかって言ってる?」
「え、え、AVにあったの見た!」
「え、本当にわかって言ってる?」
「え? し、下着越しで擦るやつでしょ?」
「え、まじで言ってんの?」
「え、違う?」
「や、大体合ってるけど、え? できんの?」
「わかんないけど、素股ならい、い、いける気がする!」
「していいの?」
「していいというか……」
ルーチェが目をそらした。
「か、彼女、ですから……」
顔を赤くさせて、恥ずかしげに言うルーチェを見て、クレイジーは黙って唾を飲んだ。
「逆に、あの、脱毛、してなくて、あの、ごめんなさい……」
「や、そこは、別にいいんだけど……」
「毛がある女子は嫌だよね……。あの、安いところ探しておくから……」
「や、そこはまじ、そりゃ、ない方が楽だけど……俺もあるし……」
「今度はちゃんとしょ、処理、あの、しておくから……」
「……ルーチェ」
「ん」
「処理してなくてもいいって言っても恥ずかしい?」
「……うん」
「……でも、処理してたらいいの?」
「……別に、もう19だし、……そりゃ、経験はないから、ちょっと、不安はあるけど……ゴムしてたら大丈夫なんだよね?」
「それは、まあ、穴空いてなければ、普通なら、平気」
「じゃあ……大丈夫じゃない?」
「俺とエッチできるの?」
「……んー。……ちょっと怖いけど、……クレイジー君なら、大丈夫かなって」
「……」
「今日は……素股でいい?」
「……ん」
クレイジーが上からルーチェを抱きしめた。
「全然良い」
「じゃあ……あの、……予行練習的な?」
「わかった。予行練習」
「うん。予行練習……」
「……ルーチェ、まじ好き」
「……ん」
「まじで好き。本当に大好き。がちで……まじで愛してる」
「……ん、……うん」
「素股、ならいいのね?」
「……うん」
「大丈夫? 怖くない?」
「……ふふっ」
「え?」
「いや、クレイジー君だなあって思って」
「……嫌がることしたくないじゃん」
「……大丈夫だよ。か、か、彼女だもん」
「……彼ぴっぴはね、彼女っぴに嫌われたくないんだっぴー」
「うふふっ。……こんなあ、あたしが、あい、あい、相手でも、好きで……いてくれてるの、すごく嬉しい」
「……や、好きだよ。すごく」
クレイジーがルーチェと額を重ね合わせる。
「ルーチェと付き合ってから、もっと好きになった」
「……あ、あり……がとう……」
「……ルーチェは? ……俺のこと、そろそろ好きになった?」
「……ど、どうかな。まだ、わかんないけど、……でも、気持ちは、……そうだね、好き寄りに、なってるのかな……」
「……まじでしていいの?」
「くどいよ」
「だって」
ルーチェがそっとクレイジーの唇にキスをした。クレイジーが驚いて目を見開き、心臓を高鳴らせる。
「……大丈夫だよ。信じてるから」
「……ゴムだけ取りに行って良い?」
「……挿れないんだよね?」
「念のため」
クレイジーが立ち上がり、棚の二段目の引き出しを開ける。震える手でコンドームの袋を取り出し、開けておき、いつでも使える準備をしておく。チャックを下げ、パンツを脱ぎ捨て、再びベッドに入る。下着の中ではすでに勃起したそれが反り立っている。ルーチェが思わず目を泳がす。
「えっと……どうしたらいい?」
「……上乗った方が安全かも」
「……上、乗ればいい?」
「ん。……あと、……パンツ脱げる?」
「ん?」
「ズボンの方」
「あ、……そっか。そうだよね。……あの、下着は、つけてて大丈夫?」
「もちろん」
「あ、わかった……」
「「……」」
ルーチェがクレイジーに背を向けた。
「……ちょっとだけ、こっち見ないで……」
「……うん」
微かに耳が赤く染まっているのが見えて、抱きしめたくなるのをこらえ、クレイジーが目をそらした。ルーチェがパンツを脱ぐ音が生々しく聞こえる。クレイジーの勃起した熱がより元気になった気がした。ルーチェがパンツを畳んで置き、こんなことなら勝負下着を用意しておくんだったと、自分の女子力のなさに呆れつつ、服の裾で下を隠す。しかし、隠しきれてない。クレイジーは思った。天使か。
「じゃあ、あの、し、し、失礼します……」
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