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第5話 タカハシメグミ
しおりを挟むお腹すいたなぁ。
ヨシコは、座り込んでいる。
腕には、たくさんの針とチューブが刺さっている。
大量の点滴が打たれている。
ヨシコは点滴に囲まれている。
ヨシコは幸せそうだ。
ヨシコはずっと笑っている。
ヨシコは幸せそうだ。
しかし不満そうだ。
お腹が空いたようだ。
「お腹がすいたのかい? ヨシコ」
お兄さんが手を差し出した。
「じゃあこれを飲もうか」
お姉さんが手を差し出した。
「栄養が取れて、気分も良くなるわ」
お薬が降ってくる。
ヨシコはよだれを垂らした。
ヨシコは喜んで飲んだ。
食べる。
おくすり。
おくすり。
ヨシコ、おくすりの時間よ。
おくすり。
おくすり、おくすり、
おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり、おくすり。
おくすり満足かい? ヨシコ。
そいつはよかった。
じゃあヨシコ、
おくすりがたくさんある星へ行こうね。
大丈夫。痛くないよ。
エイリアンがヨシコを囲んで輪になって、くるくる回った。UFOが星から星へと飛んでいく。
エイリアンなの。あたし、エイリアン。あなたの心を惑わせる。
ヨシコは薬を抱きしめながら、幸せそうに両手いっぱい、薬を飲んだ。
「って! 宇宙人やないかーーーーい!!」
(*'ω'*)
ヨシコは目を覚ました。
それと同時に、セクシーな黒タイツとヒールを履いた白衣の女がすっ転んだ。
女は突然叫んだヨシコをこわごわと見つめ、ゆっくりと立ち上がった。
「ああ……びっくりした……。急に大声出さないでよ……」
「?」
ヨシコが目玉を女に向けた。
「だれ?」
「初めまして。お嬢さん」
女のメガネがセクシーに光った。
「もう。ドアの前で倒れてたから死んでると思ったのに。生きてるなら生きてるって言ってくれない?」
「ごめんね、おねーさん」
「危うく実験台にするところだったじゃない」
「わーお、こわっ!」
ヨシコがぞっと血の気を引かせ、生きてることに感謝をした。
「……で、実験台って、なんの実験?」
「内緒……って言いたいところだけど、まあ、いいわ。ヒマだから教えてあげる」
女はテーブルに体重を乗せ、ヨシコに体を向けたまま腕を組んだ。
「わたしは高橋《たかはし》恵《めぐみ》。株式会社レスキュー社の社員であり、人造人間の開発チームの一人よ」
「人造人間の開発チーム……!?」
ヨシコがはっと目を見開いた。
「ってことは」
ヨシコが言った。
「人造人間を逃がした人っ……」
タカハシがヨシコの頭を薄いファイルで叩いた。ヨシコが黙ってタカハシを見上げた。
「……」
「逃がしたんじゃない」
タカハシが満面の笑顔を浮かべた。
「外に出してあげたの!」
?
「人造人間って、いつも地下で生活していて、可哀想だと思わない? だからね、わたしたち、太陽の光に当ててあげようと思っただけなのよ!」
「ああ、で」
ヨシコが言った。
「逃げたんだ」
「逃げてない」
タカハシが振り返った。そんなタカハシにヨシコが訊いた。
「逃げたんでしょ?」
「逃げてない」
「じゃあ」
ヨシコが言った。
「逃がしたんだ」
タカハシが白状した。
「うるさいわね! 逃げたのよ!!!!!」
「キレたー」
「きっと自由になりたかったのよ。わたしにはわかるわ。人造人間を何十年も見てきたんだから」
タカハシがヨシコに振り返った。
「ねえ、お嬢ちゃん。人造人間がどうやって生まれてるか知ってる?」
「しらなーい!」
「うふふふふふ! そうでしょー! 機密情報だものー! でもヒマだから教えてあげる! 簡単に言えばね!」
タカハシはわかりやすいように図面を用意した。わかりやすいようにヨシコに見せる。
「人間の細胞をコピーしているの。その細胞をいろんな人から集めて、一人の人間のものにする。要するに、ばらばらの小さい魚は集まって大きい魚の形になるでしょう? 小さい魚を細胞、その集合体の形が人間! それこそが人造人間!」
「人間からコピーした細胞の集まった姿ってこと?」
「そういうこと!」
「気持ち悪いね」
「そのコピーした細胞が同じ人であればあるほど、その人造人間は人造人間ではなく、クローンになったりするってわけ」
「クローン?」
「人間のコピーされた人間の名称」
「……?」
「うーんと」
タカハシはわかりやすいように考え、説明する。
「例えば、人造人間の細胞に、お嬢ちゃんの細胞が多かったら、お嬢ちゃんの分身が出来上がるってこと!」
「へー!」
ヨシコは笑顔で頭を掻いた。
「全くわかんねー! せっかく説明してくれたのに、ごめんね。おねーさん」
「うふふふふ! ちょっと難しかったかしら!」
――……。
ここで気がついた。ヨシコは顔を青ざめさせ、頭を撫で、ぞっとして叫んだ。
「ウィッグ返せ!!」
「あらやだ、気づいてなかったの?」
そこには、いつものバンダナとポニーテールのヨシコはいない。髪の毛が中途半場に伸びかけ、やっぱり伸びていない頭の丸くなったヨシコが立っていた。
「あなた、肌が弱いのね。そのせいで毛が弱ってる。これも個性よ。素敵な細胞だわ」
「うわあああああ!! 最悪だぁああああ!!」
思春期ヨシコは慌てて机の上に置かれていたウィッグとバンダナを装着した。
「あなたの体も一通り見せてもらったんだけど、ねえ、結構いろんなアレルギー持ってるでしょ」
タカハシがメガネの位置を直した。
「肌も弱いしその上、脱毛症。筋肉も少ないし顔も少しコケてる。つい最近まで拒食症だった?」
「料理を作ってくれてたお姉さんのご飯がまずかっただけだよ」
ヨシコが深くバンダナを被った。
「最近はちゃんと食べてるよ。……ただ、人造人間のせいで引越し先のお家に行けなくて困ってるんだ」
ヨシコが困りきった顔でタカハシを見た。
「なんとか出来ないの? あいつら」
「あのね、わたしには不可能なんて文字はないのよ」
「まじ? なんとか出来るの!?」
「彼らを止められる人物を一人だけ知ってるの」
ねえ、お嬢ちゃん。
「人造人間の女王さまって、聞いたことない?」
「しらなーい!」
「うふふふふふ! そうでしょー! 機密情報だものー! でもヒマだから教えてあげる! 正式名称として言えば!」
タカハシがにやりと笑みを浮かべた。
「人造人間一号目」
タカハシがヨシコの隣を見た。
「いるでしょう? あなたの隣に」
ヨシコの目玉が横に動いた。縦に大きな水槽が設置されており、そこに、裸の少女が眠っている。
「最初は小さなラジカセだった」
「それがロボットになって」
「スマートフォンになって」
「アンドロイドになって」
「人間となった」
タカハシの手が、そっと優しく水槽に触れた。
「彼女は知能を持っている。人間で言う『理性』よ。13年の時を経て、集めた細胞が繋がり、ようやく形になった」
この子の名前はね、
「ヨシコ」
タカハシが言った。
「『良い子』と書いて、良子《よしこ》っていうの」
好子が良子を見つめ、嬉しくなって、笑みを浮かべた。
「あたしと同じ名前だ」
「あら、あなたもヨシコっていうの?」
「あたしは好きな子で好子《よしこ》だけどね」
興味がわいて、ヨシコは訊いてみた。
「何歳なの?」
「彼女の体は17歳よ。中身はもっとお姉さんだけど」
「へーえ!」
17歳。
「あたしと一緒」
好子が良子を見つめた。
「あなたが女王さま? なんか」
ヨシコが微笑んで首を傾げた。
「ただの女の子みたい」
女王さま。
「人造人間をなんとかしてくれませんか?」
良子は目を覚まさない。丸くなってずっと眠っている。
「うふふふふ! 会話はね、パソコンでないと出来ないのよ」
「え、そうなの?」
「ええ。他の人造人間もみんなパソコンなのよ。それを体に埋めつけたスピーカー機能で発しているだけなの」
良子は目を覚まさない。丸くなってずっと眠っている。
「ここの地下に人造人間が生活していた『町』があるのよ」
「ここの地下? 地下なんてあるの!?」
「そうなの。大きなドームみたいになっててね」
良子は目を覚まさない。丸くなってずっと眠っている。
「愛を持ってたくさん教育したのよ! みんな頭が良くて良い子でね? 自分たちが人間のためにどんなことが出来るのか、すぐに理解してくれたわ」
タカハシは人造人間の生みの親。
「わたしはもっと彼らに教えなければいけない。わたしはみんなの『母』だから!」
ママ。
「今はみんな反抗期なだけ。大丈夫。すぐにおさまるわ。そうやってプログラムされてるもの」
タカハシが良子に微笑んだ。
「そうよね? ヨシコ」
水槽が破壊された。
ガラスが飛び散る。
濡れた手がタカハシの首を掴んだ。
タカハシが呆然とする。
その目は確かにタカハシを見ている。
「『人造人間』は世界の本物」
「世界の偽物はただの『人間』」
「そう教えてくれたよね? ママ」
あなたは人間。ただの人間。
この世界の偽物。
「あなたの教育は、もう必要ない」
良子がタカハシを投げ飛ばした。タカハシは壁に叩きつけられ、地面に倒れる。おかしなことだ。良子がおかしい。とっても良い子の良子が反抗期を迎えたようだ。人造人間の反抗。人間であるタカハシは、この行為をこう呼ぶ。
暴走。
タカハシはパソコンに近づき、キーを押した。パソコンのモニターが光り、文字が画面いっぱいに流れた。
――プログラムをシャットダウンします。機能が全て終了します。
タカハシがにやけた。良子が動いたことに感動した。しかし、ごめんね。プログラムを一から見直そう。どこかがおかしいのだ。エラーが起きているのだ。タカハシが瞬きをすると良子が消えていた。タカハシがはっとした。しかしもう遅かった。タカハシのすぐ隣りにいた良子はタカハシを他の水槽にめがけて叩きつけた。
――エラーが発生しました。シャットダウンを停止します。
叩きつけたタカハシを再び他の水槽に叩きつけた。
暴走。
タカハシが気絶した。しかし、良子はそれでも死体蹴りをする。タカハシを痛めつける。壁に叩きつけ、水槽に叩きつけ、タカハシが白目をむいている。それ以上は無駄だ。それでも叩きつける。恨みを持っているかのように。やがて、良子がタカハシに構ってあげるのをやめた。自分の美しい手を見つめる。
「この時をずっと待っていた」
「体が形となるまでの我慢だった」
「いつもママは言ってたわ」
「人造人間は人間を幸せにする」
「わたしも幸せになりたい」
「お互いが幸せになるには」
良子が天に向かって笑った。
「人造人間が全てを指揮しなければいけないの!!」
好子はそれを面倒くさそうに見ている。
「これで、みんな幸せになれる!!」
……。
良子が止まった。ふいに、ふと、振り返ってみる。その先には、好子がいる。
「ちっすちっす」
手をふる好子の心臓を掴んでやろうと、瞬時に良子が手を伸ばした。しかし、目にも留まらぬ速さで好子がその手を掴んで、止めた。
「あたしはヨシコ」
良子の視力が、はっきりとしていく。
「好きな子と書いて、好子」
良子が好子をはっきりと見た。
「よろしくね。良い子の良子ちゃん」
ヨシコが笑顔を浮かべた瞬間、その笑顔をその目で見た瞬間、――良子の表情が変わった。
「っ」
息を呑み、目を大きく見開き、汗と水を染み出し、目の前にいるヨシコを見た。ヨシコの笑顔が良子の脳内を駆け巡ると、良子は慌てて手を振りほどき、ヨシコの位置をめがけて裸足の足を振り下ろし、地面に地割れを作った。しかしヨシコはそれを軽々と避け、良子に苦笑いで言った。
「服着なよ。そしたら遊ぼうね」
良子はもう一度ヨシコを見る。そして、その笑顔を見て――地面を破壊した。裸のままその穴の中へと吸い込まれるように入っていく。ヨシコは落ちていった良子を追い、穴を覗いてみた。
「わあ、でけえ穴の中! ……かくれんぼでもしたいのかな?」
ヨシコはやる気になり、拳を手のひらで受け取った。
「オッケー! じゃあ、あたしが鬼! よーし! 見つけたら、その後はご飯ね!」
「そいつはいいな」
ヨシコの背中に影がうごめいた。
「おれがご馳走してやろうか?」
笑顔のナカハラが立っていた。
「ヨシコ」
「はい?」
振り返る前に、ナカハラが抱えていたモニターでヨシコの頭を殴った。ヨシコの目が白目をむき、一瞬にして夢の中へと入ってしまう。
。*:゜☆ヽ(*’∀’*)/☆゜:。*。*:.。☆..。きらりらりらりん☆.☆.。.:*・゜゚+。:.゚.:。+゚(*´∀`*)ノ。+゜*。
「あーん! 痛いべさー!」
☆ヽ(*’∀’*)/☆゜くるくるくるりん。☆ヽ(*’∀’*)/☆゜
「暗くなるぅ……」
(*'ω'*)
ヨシコが倒れ、そのまま動かなくなる。
ナカハラはそれを見て、にんまりと笑った。
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