Yummy brain

石狩なべ

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第2話 カヤマリョウスケ

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 お腹すいたなぁ。













「ヨシコ、起きて」
「新しい家に行くぞ。ヨシコ」
「うん。今起きるよ」

 ヨシコが寝ぼけながらも微笑んだ。

「おはよう。お兄さん、お姉さん」



 ヨシコは目を覚ました。


「……」

 ヨシコはどこかの家の中にいた。この家の住人は、もうどこかに逃げた後らしく、一夜をここで過ごした。今日は、その次の日の朝だ。とてもさわやかな朝であった。
 ヨシコは一人呟いた。

「……いないん……だっけ……な……」

 そう言って、また黙る。

「……」

 そして、ため息を吐いた。

「……はあ」

 それと同時に、お腹も唸り声を出す。それを聞いて、ヨシコがうなだれた。

「……お腹すいたなあ……」


(*'ω'*)


 荒れた上野区で、両手が刃となった人造人間が高笑いした。

「ぶははははははっ! 愚かな人間たちめ!! おれに見つかってしまうとは運がなかったな!! 切るためだけに作られた人間、切り裂きピープルさまにな!!」

 人間たちは逃げ出す。しかし、刃で出来た両腕にどんどん斬られていき、悲鳴があがるたびに、別の人造人間が人間たちを捕らえていく。

「残りの奴らもこのおれが刻んでやるぜ! げはははははは!!」
「きゃーーーー!!」
「だれか助けてぇー!!」
「無駄無駄無駄ぁ!! げはははは」

 その時だった。

「はははっ」

 突然、笑い続ける切り裂きピープルに爆弾が投げられ、その場で大爆発をした。人間たちは悲鳴を上げ、転がり、ふらつきながらも急いで逃げ出した。そして、目の前に現れたトラック数台を見て、歓声をあげた。

「日本軍だ!!」
「日本軍が救助に来たぞ!!」
「わたしたち、助かったんだわ!!」
「ああ、神さま! 仏さま! おれ、もう二度とネットで死ねとか言いません!」

 一人の男がトラックから下り、叫んだ。

「これより、ミッションを開始! 繰り返す! これよりミッションを開始する!」

 大量の日本軍がトラックから下り、煙で包まれたその場所をめがけて銃を構える。

「地域に残る住民を全員保護。並びに、人造人間全てを破壊せよ」

 失敗は許されない。

「指揮は自分」

 男が凛々しく立ち止まった。

「香山《かやま》良介《りょうすけ》がとる。繰り返す!」

 カヤマが煙の先を睨んだ。

「ミッション開始だ!」
「やってくれるじゃねえか! 所詮は自衛隊の進化系のくせによ!!」

 煙の向こうから人造人間、切り裂きピープルが空高く飛んできた。人々にめがけて下り、また切り刻んでいく。人々が悲鳴を上げ、またばらばらに逃げていく。

「犬猿関係のアメリカ軍とともに片付けてくれるわ!!」

 切り裂きピープルの脚の筋肉がむくむくと育ち、立派な筋肉質の足となり、日本軍に向かって走ってきた。軍人たちは銃を撃った。しかし、全く効かない。にやりと笑い、切り裂きピープルは軍人たちを腕で振り飛ばした。

「うおっ!」
「ぐわっ!」
「おいおい! カヤマさんよお! あんた、大切なことを忘れているんじゃねえのかい!?」
「?」

 カヤマが怪訝な顔で切り裂きピープルを見た。

「人造人間はっ!」

 とつぜん、カヤマの横から同じ顔の切り裂きピープルが飛びついてきた。

「一人じゃねえってこっ」

 しかし、カヤマが腰につけていた銃を取り出し、目にも見えない速さで構えた。切り裂きピープルの目が点になった。

「えっ」

 銃が発砲された。その場に倒れた人造人間を見て、カヤマがにやりと笑う。

「殺気を出しすぎだ。馬鹿者。おれが訓練してやろうか?」

 まだ終わっていない。カヤマの周囲にはいつの間にか様々な人造人間が立っており、腕を伸ばし、カヤマを取り押さえようとにやけている。しかしそれら全てをカヤマは一人で片付けた。カヤマに襲いかかろうとした人造人間は、全員カヤマに襲う前に地面に倒れ、そのまま楽園へと旅立った。日本軍は勢いをつけて銃を撃っていく。

「撃て撃て撃て! 撃ちまくれ!!」
「住民を保護しろ!」
「大丈夫ですか!? さあ、こちらへ!」
「げへへへへ! そうはさせるかよ!!」
「人造人間だ!!」
「撃て!!」
「「うおおおおおおおおおおおおお!!!」」

 激しい銃声が上野の街に響き、動物園にいた動物たちも恐ろしくなって逃げ出した。パンダは笹を食べてのんびりとその場に残った。あら可愛い。
 そこを影が通る。下駄の音が鳴る。ゆらりゆらりと歩いていき、道から道へと進み、裏路地を通りながら、……そこでようやく音に気がつく。

「……う、なに? なんか声がする……?」

 げっそりしたヨシコが顔をのぞかせた。

「はあ。お腹すいた……」

 そこでは激しい戦いが行われている。しかし、その光景は子どもが理解するにはまだ早い。

(音につられてこっち来たけど……なにあれ……?)

「映画の撮影かな……?」
「人間の声!!」

 切り裂きピープルの目がぎょろりと動いた。

「人間の声がする!!」
「?」

 切り裂きピープルが振り返った方向に気づいたカヤマがはっとした。

「まずい」

 急遽、指示を出す。

「作戦変更! その子どもを救助しろ!!」
「?」

 なにもわからないヨシコがちらりと目を日本軍に向けると、切り裂きピープルが笑いだした。

「させないよーーーーーん!!」

 切り裂きピープルがヨシコに向かって筋肉に包まれた立派な足で走り込み、刃の両手を振り付けた。

「切り裂きピープルに見つかったら、切り裂かれる運命なのだ!!」

 即座にカヤマが銃を構えた。

 ――間に合わないか!?

「覚悟ちろおおおおおおおお!!」

 刃が振り下ろされるその瞬間――ヨシコの口が、ぼそりとなにか喋った――のを見た途端、切り裂きピープルの腕が止まった。

「っ」

 ぞくりと悪寒が走り、切り裂きピープルは一瞬のうちにヨシコから離れた。カヤマが引き金を引こうとした指を止め、眉をひそませた。

(どうした? 子どもから離れたぞ?)
(なんだ……? どうしたんだ、おれ……?)

 切り裂きピープルは大量の冷や汗を額から流し、ごくりとつばを飲んだ。

(相手はただの子どもじゃないか。切り裂けば済む話だ。なのに……)



「朝からカニだなんて、贅沢だなぁ♡」



 ――って言われているように感じる!!

(いいや、そんなわけない。あるわけがない! 見てみろ! おれ! 相手は人間の、ただの子どもじゃないか! あの目を見ろ!!)

 その目は、美味しそうなものを見る目つきであった。口からは、よだれがたれている。純粋そのものの目玉は、絶対に獲物を逃さんとばかりに、見つめたまま視界から外そうとしない。

 ――いや、そんなわけない!!

 なせだろう。切り裂きピープルの体が震え始める。さっきまであんなに笑っていたのに。

「お、おおお……!」

 切り裂きピープルが、勢いだというように、ヨシコに向かって再び走り出した。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 ――第二形態、発動。

 切り裂きピープルが進化し、その姿を最強のものへと変えた。日本軍は切り裂きピープルを囲い、銃を構えた。カヤマが指示を出す。

「撃てーーーーーーーーーー!!!」

 ――あの人造人間、一体、何をするつもりだ!?

「撃て!! あの少女を守るんだ!!」

 日本軍兵は、指示通りに、ヨシコを守るために発砲する。銃弾が切り裂きピープルの肌の中に埋まっていき、穴だらけになっていくが、この程度、人造人間からすると大したことではない。

 ――さあ、ぶっ殺してやるぜ。可愛いお嬢ちゃん。

 砂ホコリが舞う中、くるりと切り裂きピープルが振り返ると、


 そこには、よだれを垂らして自分に向かって口を大きく開けたヨシコの姿があった。


 攻撃が終わる。
 煙が晴れた。
 軍兵が無線機で報告する。

「カヤマ隊長、報告します」

 その場には、頭に穴が空いた切り裂きピープルが倒れており、もう動かない。

「少女の無事が確認できました!!」
「えーん、えーん」
「みんな、よくやった!」

 カヤマが無線機で皆を称えた。

「あとは救助だ。頼んだぞ」
「イエッサー!」
「えーん、えーん」

 ヨシコは泣き声をあげながら思った。

 ああ、満腹。満たされた。とってもとっても満足で、

「あたし、すごく幸せ」

 ふふっ。

「君、大丈夫かい!?」

 年寄りの軍兵が走ってきた。

「怪我はないかい?」
「ん? ああ、ちっすちっす。平気っす」
「返り血だらけじゃないか……。怖かっただろう。名前は?」
「あたしですか?」

 バンダナが揺れる。

「あたしはヨシコ」

 素敵な笑顔を浮かべて。

「好きな子と書いて、好子《よしこ》です!」
「ヨシコちゃん、よく頑張ったね」
「もう大丈夫だからな」
「うっす! うーーーーっす!」
「ここは危ないから、おじさんたちと避難しよう」

 親切そうな軍兵がヨシコに手を差し出した。

「おじさんの手に掴まっ」

 その瞬間、ビルが爆発した。人々が目を見開く。

「ビルが爆発したぞーーー!」
「逃げろーーーー!」

 隣のビルも崩れた。

「倒れるぞぉーーーーー!」

 瓦礫が飛んできたのを見て、軍兵がヨシコをつきとばした。

「危ない!」
「わぎゃっ!」

 瓦礫に巻き込まれた軍兵がぺっちゃんこになり、見るも無惨な姿となった。それに驚いたヨシコが目を丸くする。

「わっ、……わーーーーー!」

 じんわりと涙が溢れ出て、親切だったおじさんに駆け寄ろうとする。

「おじさーん!」

 しかし、それは出来なかった。ヨシコの肩を、カヤマが掴んだのだ。

「っ」
「来い!!」

 何かが起きている。逃げなければいけない。カヤマがヨシコの肩を抱えた。

 ヨシコが振り返った。カヤマを見た。カヤマの声を聞いた。その直後――ヨシコがぱっと笑顔になった。

「『お兄さん』!?」

 カヤマがきょとんとした。

「生きてたんだね!?」

 ヨシコが喜びの声をあげたと同時に、瓦礫が地面に落ち、人々をぺっちゃんこに潰した。


 それを上から傍観する者がいる。


「いち、に、さん」

 笑う。

「あはは。結構死んだな」

 にやつく。

「いや、かなり? たくさん? 大勢?」

 その目はとても楽しそうだ。

「人造人間が殺さないから、おれが殺しちまった」

 黒髪の殺人鬼は、にやつきながら街を見下ろした。

「で、誰がこの爆発から生き残ってしまったかな?」

 それを見つけて、

「また殺して」

 くくっ、

「ふひひひひひひひひひひひひ!!」

 男は、楽しそうに笑う。



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