君の気持ちに背を向けて

君への後悔

入学式、就活色々と忙しくなる春。
春になると、ふと思い出す。
この出来事は僕はずっと忘れないだろう。

高校二年の春。高校生活が始まって一年が経ち友達が出来てからの新学期。
新たなクラスになり、知らない人も沢山いる。その中でただ一人話した事はないがみんなから人気の東條咲良。
頭もいいし、性格もいい。おまけに可愛いときた。
僕にとっては遠い存在だ。
僕には平凡で普通の友達で十分そう思い特に気にしてなかった。
そんなある日。
「カサッ。何だろう。」
そう思い、靴箱に入っていた手紙を見た。
「神崎颯馬君へ。
　　急に手紙を出してすみません。
　少し話したい事があるので校舎裏に来てください。待ってます。
　　　　　　　　　　　　　 東條咲良　　」
そう書かれた手紙が入っていた。
生意気だよと叩かれるのか。それとも僕を辱めようとしているのか。そう思いながら、僕は校舎裏へ向かった。
僕の予想通り、彼女はいない。
「あの、手紙を本気にしたのかー笑」
「ブスが調子乗ってんじゃねーよ」
と、みんなから笑われるに違いない。
もう帰ろうと思った瞬間。
「遅れてごめんなさい！先生に手伝い頼まれて…。」
彼女は息を切らしながらこちらに向かってきた。
「ゴホンッ。急に呼び出してすみません。話したい事があったので」
「話したいことって？」
僕は少し疑う目で彼女を見た。
「えーと。神崎くん。好きです！」
その思いも寄らない言葉に僕は頭が追いつかなかった。
(好き…？何が？僕が？)
ふと、我に返った。
彼女はみんなから好かれて、人気者だ。そんな彼女が僕なんか好きなわけが無い。罰ゲームかなにかだ。
「神崎くん…？」
「罰ゲームならやめてくれない？」
僕は彼女を睨み、キツイ言葉を放った。
「罰ゲームなんかじゃないです。」
「じゃあ、なんで僕？」
僕は彼女に問いかけた。
「覚えてませんか…？
入学式の時に一人でいる私に声をかけてくれてくれた事…。そして、入学式の場所まで案内してくれて緊張している私に笑顔で笑いかけてくれたこと。その時からです。」
(入学式…？あぁ。あれは東條さんだったのか。入学式に一人でいる女の子に確かに声をかけた。だが、そんな事で？やはり僕は信じれない)
「ごめんだけど。信じれない。」
そう言い、僕は彼女を残して帰った。

でも、次の日もまたその次の日も話しかけたり手伝ったり、またお弁当も作ってきたり…。色々してきたが、そう簡単に信じれない。
何故かって？僕は前にこういう事があったからだ。告白された事が嬉しくてすぐ受け入れて、騙された。次の日からはみんなからの笑いもの。
そんなのはもうなりたくない。
だから、何回も何回も突き放した。
でも彼女はどんなにきつく言っても優しくしてくれた。
彼女は笑顔で僕を支え、そして尽くしてくれた。そんな彼女を見ていると、今までの行動がとても酷いことをしたと思うようになった。
そして、彼女の告白は嘘ではない。本当かもと思うようになってきた。
僕は今までの事を後悔し、彼女の気持ちに背を向けず本当の気持ちを彼女に伝えよう。そう思った。

次の日、彼女は学校を休んだ。
何故だろう。そう不思議に思い先生が深刻そうな顔で扉を開けた。
「東條が、昨日事故で亡くなった。」
そう聞かされた。
原因は飲酒運転で信号無視のトラックが突っ込んできたそうだ。
後悔した。いつも突き放し、きつくした彼女。ごめん…ごめん…
でももう遅かった。彼女はもう居ない。いつも優しく僕の傍にいた彼女はもう居ないんだ。
僕は彼女の言葉を信じなかった。自分のトラウマで最後まで彼女の気持ちに背を向けた。
もう少し早く、気持ちを伝えていれば未来は違ったかもしれない。
どんだけ今後悔してももう彼女は戻ってこない。この気持ちはずっと忘れない。



これからもずっと…。

僕は今会社員だ。

「神崎さーん！新入社員入りました！」
「ほら。神崎さんに、挨拶して！」
僕は目を疑った。
「はじめまして！神崎さん。新入社員として入りました！西條です！よろしくお願いします！」
彼女の声、喋り方。そしてこの笑顔。忘れるはずがない。彼女だ。
僕は涙が零れた。今度こそは後悔がないように。そう思い僕は彼女に挨拶をした。



「はじめまして！神崎です。」