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しおりを挟む朦朧としてきた身体を必死に動かしても、ハウエル様の腕から逃げられない。
「ふふっ。傷物になってしまえば、ハルジオン辺境伯のところにいられないでしょう?」
かすみ始める視界でも、ゾッとするくらい愉しそうに笑うイザベラを見て、本気で私をアーサー様から引き離そうとするのを感じ取る。嫌だ、絶対に嫌だと思うのに、身体を密着させて肌を確かめるように動かすハウエル様の掌の感触が気持ち悪い。
それなのに、なにもできない自分が情けなくて、悔しくて、イザベラを睨みつける。
「やあだ、睨むなんて怖い。ハウエル様を特別に貸して差し上げるんだから、ならず者にしないことを感謝して欲しいくらいだわ。んふふ、素敵な夜を過ごしてくださいね……お義姉様」
ああ、また奪われる……。
アーサー様や辺境の人達と関わって、居場所ができたと思ったのに。またイザベラに全部奪われて、追い込まれていく。惨めで悔しくて涙がせり上がってきた。でも、この二人に泣いているところを見せたくない、嫌だ。
いやだ、助けて、アーサー様────!
「シャーロット!」
アーサー様の声が聞こえたと思った瞬間、ハウエル様は地面に転がっていた。
「遅くなってすまない。もう、大丈夫だ」
アーサー様の腕にすっぽり抱きしめられる。
大好きな人の体温と匂い、助かったのだと安心したら涙が止まらなくない。何度も大丈夫だと声をかけられ、背中を優しく撫でられた。
失神したハウエル様とイザベラは、お城の騎士に連れていかれる。イザベラがなにか叫んでいたけれど、私は恐怖と安堵、それから薬の作用の影響もあって、アーサー様の腕の中で気を失ってしまった。
私が気絶してしまった後。
王城で騒ぎを起こしたイザベラは、特に厳しいとされる北の大地の修道院で一生を過ごすことが決まった。ハウエル様は、実家のバートン伯爵家から勘当され、貴族籍を抜かれ平民として炭鉱に強制労働に送られた。
アーサー様とレオン様の進言で、マローラ子爵家で作っていた回復薬は、私の作った回復薬にイザベラが細工し、性能が変わらないまま色だけ変えていたことが証明された。
他にもイザベラが私にしていた仕打ちが伝わった結果。
イザベラは小説に出てくる悪役令嬢のようだと噂になり、マローラ子爵家の回復薬は、『悪役令嬢の回復薬』と呼ばれるようになったらしい。
只でさえ魔物が減って回復薬の需要は下がってきていたのに、まったく売れなくなったという。
マローラ子爵家は貴族社会で爪弾きにされ、お父様とお継母様は喧嘩が絶えないらしい。お父様から私宛てに支援を求める手紙が届いているらしいが、私の手に届く前にアーサー様が燃やしてしまっているので詳しくはわからない。
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