【完結】婚約者を義妹に奪われて、野蛮と評判の赤獅子辺境伯に嫁がされました

楠結衣

文字の大きさ
上 下
10 / 12

10

しおりを挟む


 朦朧としてきた身体を必死に動かしても、ハウエル様の腕から逃げられない。





「ふふっ。傷物になってしまえば、ハルジオン辺境伯のところにいられないでしょう?」


 かすみ始める視界でも、ゾッとするくらい愉しそうに笑うイザベラを見て、本気で私をアーサー様から引き離そうとするのを感じ取る。嫌だ、絶対に嫌だと思うのに、身体を密着させて肌を確かめるように動かすハウエル様の掌の感触が気持ち悪い。

 それなのに、なにもできない自分が情けなくて、悔しくて、イザベラを睨みつける。



「やあだ、睨むなんて怖い。ハウエル様を特別に貸して差し上げるんだから、ならず者にしないことを感謝して欲しいくらいだわ。んふふ、素敵な夜を過ごしてくださいね……お義姉様」



 ああ、また奪われる……。


 アーサー様や辺境の人達と関わって、居場所ができたと思ったのに。またイザベラに全部奪われて、追い込まれていく。惨めで悔しくて涙がせり上がってきた。でも、この二人に泣いているところを見せたくない、嫌だ。




 いやだ、助けて、アーサー様────!




「シャーロット!」




 アーサー様の声が聞こえたと思った瞬間、ハウエル様は地面に転がっていた。



「遅くなってすまない。もう、大丈夫だ」



 アーサー様の腕にすっぽり抱きしめられる。

 大好きな人の体温と匂い、助かったのだと安心したら涙が止まらなくない。何度も大丈夫だと声をかけられ、背中を優しく撫でられた。

 失神したハウエル様とイザベラは、お城の騎士に連れていかれる。イザベラがなにか叫んでいたけれど、私は恐怖と安堵、それから薬の作用の影響もあって、アーサー様の腕の中で気を失ってしまった。





 私が気絶してしまった後。

 王城で騒ぎを起こしたイザベラは、特に厳しいとされる北の大地の修道院で一生を過ごすことが決まった。ハウエル様は、実家のバートン伯爵家から勘当され、貴族籍を抜かれ平民として炭鉱に強制労働に送られた。


 アーサー様とレオン様の進言で、マローラ子爵家で作っていた回復薬は、私の作った回復薬にイザベラが細工し、性能が変わらないまま色だけ変えていたことが証明された。

 他にもイザベラが私にしていた仕打ちが伝わった結果。
 イザベラは小説に出てくる悪役令嬢のようだと噂になり、マローラ子爵家の回復薬は、『悪役令嬢の回復薬』と呼ばれるようになったらしい。

 只でさえ魔物が減って回復薬の需要は下がってきていたのに、まったく売れなくなったという。


 マローラ子爵家は貴族社会で爪弾きにされ、お父様とお継母様は喧嘩が絶えないらしい。お父様から私宛てに支援を求める手紙が届いているらしいが、私の手に届く前にアーサー様が燃やしてしまっているので詳しくはわからない。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

婚約破棄の慰謝料を払ってもらいましょうか。その身体で!

石河 翠
恋愛
ある日突然、前世の記憶を思い出した公爵令嬢ミリア。自分はラストでざまぁされる悪役令嬢ではないかと推測する彼女。なぜなら彼女には、黒豚令嬢というとんでもないあだ名がつけられていたからだ。 実際、婚約者の王太子は周囲の令嬢たちと仲睦まじい。 どうせ断罪されるなら、美しく散りたい。そのためにはダイエットと断捨離が必要だ! 息巻いた彼女は仲良しの侍女と結託して自分磨きにいそしむが婚約者の塩対応は変わらない。 王太子の誕生日を祝う夜会で、彼女は婚約破棄を求めるが……。 思い切りが良すぎて明後日の方向に突っ走るヒロインと、そんな彼女の暴走に振り回される苦労性のヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:29284163)をお借りしています。

ヒロイン不在だから悪役令嬢からお飾りの王妃になるのを決めたのに、誓いの場で登場とか聞いてないのですが!?

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
ヒロインがいない。 もう一度言おう。ヒロインがいない!! 乙女ゲーム《夢見と夜明け前の乙女》のヒロインのキャロル・ガードナーがいないのだ。その結果、王太子ブルーノ・フロレンス・フォード・ゴルウィンとの婚約は継続され、今日私は彼の婚約者から妻になるはずが……。まさかの式の最中に突撃。 ※ざまぁ展開あり

婚約者に好きな人がいると言われました

みみぢあん
恋愛
子爵家令嬢のアンリエッタは、婚約者のエミールに『好きな人がいる』と告白された。 アンリエッタが婚約者エミールに抗議すると… アンリエッタの幼馴染みバラスター公爵家のイザークとの関係を疑われ、逆に責められる。 疑いをはらそうと説明しても、信じようとしない婚約者に怒りを感じ、『幼馴染みのイザークが婚約者なら良かったのに』と、口をすべらせてしまう。 そこからさらにこじれ… アンリエッタと婚約者の問題は、幼馴染みのイザークまで巻き込むさわぎとなり―――――― 🌸お話につごうの良い、ゆるゆる設定です。どうかご容赦を(・´з`・)

氷の公爵の婚姻試験

恋愛
ある日、若き氷の公爵レオンハルトからある宣言がなされた――「私のことを最もよく知る女性を、妻となるべき者として迎える。その出自、身分その他一切を問わない。」。公爵家の一員となる一世一代のチャンスに王国中が沸き、そして「公爵レオンハルトを最もよく知る女性」の選抜試験が行われた。

私達、政略結婚ですから。

恋愛
オルヒデーエは、来月ザイデルバスト王子との結婚を控えていた。しかし2年前に王宮に来て以来、王子とはろくに会わず話もしない。一方で1年前現れたレディ・トゥルペは、王子に指輪を贈られ、二人きりで会ってもいる。王子に自分達の関係性を問いただすも「政略結婚だが」と知らん顔、レディ・トゥルペも、オルヒデーエに向かって「政略結婚ですから」としたり顔。半年前からは、レディ・トゥルペに数々の嫌がらせをしたという噂まで流れていた。 それが罪状として読み上げられる中、オルヒデーエは王子との数少ない思い出を振り返り、その処断を待つ。

やんちゃな公爵令嬢の駆け引き~不倫現場を目撃して~

岡暁舟
恋愛
 名門公爵家の出身トスカーナと婚約することになった令嬢のエリザベート・キンダリーは、ある日トスカーナの不倫現場を目撃してしまう。怒り狂ったキンダリーはトスカーナに復讐をする?

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

あなたを愛するつもりはない、と言われたので自由にしたら旦那様が嬉しそうです

あなはにす
恋愛
「あなたを愛するつもりはない」 伯爵令嬢のセリアは、結婚適齢期。家族から、縁談を次から次へと用意されるが、家族のメガネに合わず家族が破談にするような日々を送っている。そんな中で、ずっと続けているピアノ教室で、かつて慕ってくれていたノウェに出会う。ノウェはセリアの変化を感じ取ると、何か考えたようなそぶりをして去っていき、次の日には親から公爵位のノウェから縁談が入ったと言われる。縁談はとんとん拍子で決まるがノウェには「あなたを愛するつもりはない」と言われる。自分が認められる手段であった結婚がうまくいかない中でセリアは自由に過ごすようになっていく。ノウェはそれを喜んでいるようで……?

処理中です...