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◇
ハルジオン辺境に来てから穏やかな日々が続いた。
アーサー様は一緒にいく先々で、俺の大切な婚約者だと紹介してくださるので、恥ずかしいのに胸の奥がくすぐったい。
「シャーロットは、食べ物はなにが好きだ?」
「食べられる物ならなんでも好きそうですけど、そうですね……焼き菓子が好きです」
「そうか!」
返事をした翌日に大量の焼き菓子を贈ってくださって、目を丸くしながらメイドの皆さんとお茶をしたこともある。
それから、メイド達と仲良くなって、アーサー様の好きなサンドイッチを差入れした。とても喜んでくれて、赤獅子というより懐っこい犬のようで、かわいいと思ってしまう。
「シャーロットは、好きな色はあるか?」
「自然な優しい色が好きですが──今は、赤色、が好きです」
「そうか!」
返事をした数日後に赤色の宝石や髪留めが箱いっぱいに贈られて、高価すぎる贈り物に震えてしまった。お返ししようと思ったのに、メイドの皆さんにいい笑顔で飾り立てられてしまう。アーサー様に会いに行ったら、真っ赤な顔で似合ってると言われて、私も赤色の宝石くらい真っ赤に染まってしまった。
お礼にアーサー様が好きな翡翠色で刺繍を刺したハンカチを差し上げたら、額に入れて飾ろうとするので全力でお止めした。
真夜中に目が覚めた。
複数の駆けるような足音。衣擦れや慌てたような話し声。気になってベッドから下り、カーテンを開ける。
「……もしかして、魔物?」
騎士達が松明たいまつを持っているのを見て、言葉が漏れた。その時、控えめにノックされて扉を開ける。
「シャーロット、起こしてしまってすまない。魔物が森から現れた。今から討伐に向かう」
「……っ!」
「すぐに戻ってくる。少しの間、留守にするが専属侍女としてハンナをつける。ハンナは、護衛もできるから安心してほしい」
「アーサー様の大切なシャーロット様の身の安全は、わたくしにお任せてください」
ハンナが得意げに胸を張った。
「アーサー様はシャーロット様に夢中ですからね。シャーロット様の専属侍女の座をかけた争いは壮絶でした。まあ、私が勝ちましたけど」
びっくりしてアーサーに視線を移すと、アーサー様が片手で顔を覆っていた。
「ハンナ、勝手に色々話すことは禁止だ……」
「それは無理です。今日からシャーロット様がわたくしの主ですので、求められれば話をします」
「あー、わかった。とりあえず、一度下がれ。シャーロットと話したい」
片手でハンナを追い払ったアーサー様と向き合う。頬に熱が篭っているのが、薄明かりで見えていないことを願った。
「ハンナに言われてしまったが、俺の気持ちはシャーロットにある。帰ってきたら、シャーロットを更にとことん甘やかすつもりだ。だから、覚悟しておいて?」
亜麻色の髪を一房掬われて、唇を落とされる。その色っぽい仕草に私の心臓が煩いくらいに音を立てていくのを感じていると、まっすぐな視線を向けられて顔が一段と熱くなった。
「……アーサー様、ご武運をお祈りしております。お戻りになられるのを、お待ちしています」
アーサー様と辺境騎士団は、夜明け前に出陣した。
ハルジオン辺境に来てから穏やかな日々が続いた。
アーサー様は一緒にいく先々で、俺の大切な婚約者だと紹介してくださるので、恥ずかしいのに胸の奥がくすぐったい。
「シャーロットは、食べ物はなにが好きだ?」
「食べられる物ならなんでも好きそうですけど、そうですね……焼き菓子が好きです」
「そうか!」
返事をした翌日に大量の焼き菓子を贈ってくださって、目を丸くしながらメイドの皆さんとお茶をしたこともある。
それから、メイド達と仲良くなって、アーサー様の好きなサンドイッチを差入れした。とても喜んでくれて、赤獅子というより懐っこい犬のようで、かわいいと思ってしまう。
「シャーロットは、好きな色はあるか?」
「自然な優しい色が好きですが──今は、赤色、が好きです」
「そうか!」
返事をした数日後に赤色の宝石や髪留めが箱いっぱいに贈られて、高価すぎる贈り物に震えてしまった。お返ししようと思ったのに、メイドの皆さんにいい笑顔で飾り立てられてしまう。アーサー様に会いに行ったら、真っ赤な顔で似合ってると言われて、私も赤色の宝石くらい真っ赤に染まってしまった。
お礼にアーサー様が好きな翡翠色で刺繍を刺したハンカチを差し上げたら、額に入れて飾ろうとするので全力でお止めした。
真夜中に目が覚めた。
複数の駆けるような足音。衣擦れや慌てたような話し声。気になってベッドから下り、カーテンを開ける。
「……もしかして、魔物?」
騎士達が松明たいまつを持っているのを見て、言葉が漏れた。その時、控えめにノックされて扉を開ける。
「シャーロット、起こしてしまってすまない。魔物が森から現れた。今から討伐に向かう」
「……っ!」
「すぐに戻ってくる。少しの間、留守にするが専属侍女としてハンナをつける。ハンナは、護衛もできるから安心してほしい」
「アーサー様の大切なシャーロット様の身の安全は、わたくしにお任せてください」
ハンナが得意げに胸を張った。
「アーサー様はシャーロット様に夢中ですからね。シャーロット様の専属侍女の座をかけた争いは壮絶でした。まあ、私が勝ちましたけど」
びっくりしてアーサーに視線を移すと、アーサー様が片手で顔を覆っていた。
「ハンナ、勝手に色々話すことは禁止だ……」
「それは無理です。今日からシャーロット様がわたくしの主ですので、求められれば話をします」
「あー、わかった。とりあえず、一度下がれ。シャーロットと話したい」
片手でハンナを追い払ったアーサー様と向き合う。頬に熱が篭っているのが、薄明かりで見えていないことを願った。
「ハンナに言われてしまったが、俺の気持ちはシャーロットにある。帰ってきたら、シャーロットを更にとことん甘やかすつもりだ。だから、覚悟しておいて?」
亜麻色の髪を一房掬われて、唇を落とされる。その色っぽい仕草に私の心臓が煩いくらいに音を立てていくのを感じていると、まっすぐな視線を向けられて顔が一段と熱くなった。
「……アーサー様、ご武運をお祈りしております。お戻りになられるのを、お待ちしています」
アーサー様と辺境騎士団は、夜明け前に出陣した。
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