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「あわわわ、すみません!!!」

 廊下で転んだら、抱えていた資料を全部落としてしまった。ひええ、よりによって氷の副騎士団長と呼ばれるアルバート様に向かってばら撒くなんて。さあ、と血の気が引いていく。

「はあ、随分と派手に落としましたね。これでは一歩も歩けないのですが」

「ひっ、あの、今すぐ片付けますので……っ」

 呆れた声色と眼鏡をなおす仕草に心臓が縮こまった。冷ややかな眼差しに、慌てて散乱した用紙を拾い始める。とにかくアルバート様が通れる道ができればそれでいい。早く拾って帰ってもらおう。

「どうぞ」

「へっ?」

 ぬっと視界に現れた紙の束にまぬけな声が漏れた。驚いて顔をあげるとアルバート様と目が合った。

「要らないのですか?」

「い、要ります。拾っていただいて、ありがとうございます……」

 受け取った時にアルバート様と手が触れる。しまったと思った時には遅かった。


(驚かせてしまっただろうか? リリアン嬢の肩が震えて小動物みたいでかわいいですね。実家で飼っていたハムスターを思い出します。怯えさせないように遠くから見るだけで我慢していたのに、リリアン嬢から近づいてきたのですから仕方ありません。はあ、近くで見ると可愛さと癒しが融合しています。ああ、見上げる表情もかわいい。髪を耳にかけているのは珍しいですね。うむ、耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうですね……いや寧ろ齧りたい……)


「……っ、ひゃあ」


 ちょっと待って、アルバート様の心の声が思っていたものと違いすぎて、ちょっと待ってほしい。わたしは触った人の心の声が聞こえてしまう体質で、絶対呆れていると思って身構えていたのに。

 えええ、今、絶対アルバート様、耳舐めたいって齧りたいって言ったよね?! 絶対言った!!

(声もかわいい。リリアン嬢は小さいから、このままポケットにしまって連れて帰ってしまいたい……) 


「っ、あわわわ、あの、あ、ありがとうございました──っ!」


 脳が処理しきれなくなったわたしは、書類を奪うように受け取り、ものすごい速さで残りを集めて逃げるように自室に戻った。
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