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甘やかを泳ぐ

聖女と甘やかな聖獣たち

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 私の叫びは青空に吸い込まれていき、ノワルの黒い瞳に覗き込まれた。

「花恋様、かわいい。きっと登龍門の守り人にも聞こえてると思うよ」
「うう、ノワルが意地悪……」

 くすくす揶揄うように言うノワルをじとりと見つめる。

「ふふっ、ごめんね。今日会えて本当によかった。これでも焦ってたんだよ。泣き虫な花恋様が泣かないように頑張ってたからね」
「うう、ノワル、ごめんなさい……っ! 泣いたら会えないって認めちゃうみたいで、たっくんに鯉のぼり返したことを後悔しちゃいそうで……っ」
「花恋様を不安にさせて本当にごめんね」

 首を横に振る。ノワル達が登龍門を昇ってくれたから、戻って来れた。言葉にしようと思うのに、止まったはずの涙がまたあふれてきて、すう、と頬を伝う。すらりとしたロズの指が伸びてきて、優しくぬぐう。

「ロズもごめんなさい……っ! 会いたかった、寂しかった……っ」
「カレン様は仕方ないですね」
「うん……っ、ロズ達がいないと駄目だってわかってたけど、すごくわかった……」
「聖女と聖獣なんですから、当たり前ですよ。離れるなんて有り得ませんから」

 こくこくと首を縦に動かす。離れたくない。もう二度と離れるのは嫌だ。
 ぐりぐりとくるんくるんの青い髪が押し付けられた。下を向けばラピスの青い瞳と見つめ合う。

「ラピスもごめんね……っ! 一緒にいる約束したのにごめんなさい」
「かれんさまーいいよなのー!」

 ラピスの笑顔に涙腺が決壊した。なんで一年も泣かないでいられたのかもわからない。次から次に涙が頬を伝っていく。そんな私を優しく見つめる三人にぎゅっと抱きついた。

「みんなにずっとずっと会いたかった……っ! やっぱりみんなと一緒がいいよ……っ」
「花恋様、会いたかった」
「カレン様、会いたかったです」
「かれんさまー、あいたかったのー!」

 みんなに抱きついているとノワルの声が落ちてくる。

「花恋様はこれからどうしたい?」
「みんなとずっと一緒にいたい」

 愛おしくて大好きな三人ともう離れたくなくて即答するとらノワルに頭をぽんぽん撫でられる。日だまりみたいな匂いが懐かしくて、嬉しくて、もっと抱きつく。

「花恋様、かわいい」
「だって、もう離れたくないから」
「ふふっ、落ち着けるところに行こう。花恋様、ちゃんと捕まっててね、行くよ」 
「えっ、どこへ……?」


 ──パチン


 私の質問はノワルの指を鳴らす音に遮られ、あっという間に景色が一変した。

「花恋様、着いたよ」
「……えっ?」
 
 異世界でずっと使っていた鯉のぼりのテントの部屋に移動していて、鯉のぼりの口みたいに大きくぽかんと開いてしまう。
 ノワルに案内された玄関には扉が二つあった。今までは一つだったから不思議に思ってノワルに視線を向ける。

「鯉のぼりテントに扉を二つ付けたんだ。右の扉はこの世界、左の扉は異世界に繋げておいたよ」
「ふえっ?」

 びっくりして変な声が漏れた。えっ、扉ひとつで行き来できるなんて驚きすぎる。

「俺たち、登龍門を二回昇ってるし、異界を三回越えてるから神獣に近い存在になったんだよね。大体のことはできると思うよ」
「……っ? そ、そうなんだ?」
「うん、そうなんだ。花恋様は、家族や友達もいるし、大学にも通いたいでしょう? 俺たちもたつや様の鯉のぼりになるしね」
「あっ、うん、そうだね……」
「花恋様の大切な人や物は俺たちも大切にしたい。ただ、日本は重婚は禁止だし、みんなで外でいちゃいちゃできないのは困るから異世界でしようね」

 さらりと言われた言葉に心臓が跳ねた。外でいちゃいちゃなんてハードルが高すぎる。

「花恋様、聖女と聖獣が仲睦まじいのは当たり前だよ」
「鯉の姿のカレン様も素敵でしたし、今度は龍に変身もしてみましょうか?」
「たっくさんーかれんさまとーいちゃいちゃするなのー!」
「ひゃ、ひゃあああ……っ!」

 沢山の甘い誘いに恥ずかしくて嬉しくて、でもやっぱり恥ずかしくて叫んでしまう。

「これからも一緒に過ごそうね」
「いつまでも一緒ですよ」
「いつでもいっしょなのー」

 三人の言葉が嬉しくて、目の前にいることが愛おしくて。

「うん……っ! ずっと一緒にいてね」

 笑いながら返事をすれば、ラピスがにっこり笑ってくれる。ロズの指がするりと頬を撫でて、ノワルの唇が耳に寄せられた。

「花恋様、鯉のぼりテントは沢山の魔力がないと働かないんだよね。魔力を補充しないと扉が開かないかも?」
「ええっ?!」
「今からみんな・・・で交わる?」
「ひゃあっ! いきなりそんなの無理だよ……っ!」

 ノワルは綺麗な瞳を細めて、喉の奥でくつくつと笑い声を漏らす。

「花恋様、それなら一日三回のキスがいいかな?」
「っ! うん……っ!」

 やわらかな瞳に見つめられ、甘やかな予感に目をつむった。


 これからもずっと甘やかな聖獣たちは、聖女の私がとろけるようにキスをするから──






 おしまい
 
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みんなの感想(10件)

柚木ゆず
2021.07.06 柚木ゆず

本日、最新話を拝読しました。

以前から、書かせていただいているのですが。
好きな世界(作品)、です……!

文字数が少ないわけではないのに、あっという間でして。
その理由はやはり、引き込まれているから。夢中になっているから。

ずっと。いつも。
素敵な世界、です……っ。

楠 結衣
2021.07.08 楠 結衣

柚木ゆずさま

感想をありがとうございます!
アルファさんの中では文字数が多いなあ、と思っていたので『あっという間』というお言葉が嬉しいです。

素敵な世界という励ましのお言葉、また続きを頑張って書くぞ!という気持ちになりました。
本当にありがとうございます(*´꒳`*)

解除
柚木ゆず
2021.03.25 柚木ゆず

本日は最新話と、中盤にあるお話を4話、楽しませていただきました。

どのお話も、好きなのですが。その中でも特に好きな部分を覗かせていただいて、にやにやとしておりました……っ。

今も、あの頃も。
ずっとずっと、この作品が大好きです……っ。

楠 結衣
2021.05.04 楠 結衣

柚木ゆずさま、感想をありがとうございます♪

何度も繰り返し読んでいただき、本当に嬉しいです……!
鯉のぼりのおはなし、煮詰まっていましたが少しだけ書けましたので子供の日に投稿する予定です。

ゆっくり更新ですが完結まで頑張りたいと思います……!
あたたかな感想は宝物です(*´꒳`*)本当にありがとうございます♪

解除
柚木ゆず
2021.03.13 柚木ゆず

本日最新話を拝読し、初めから5話ほど読み返しをさせていただきました。

作者様が創られる世界は、何度も触れても、本当に面白いので。二回でも三回でも楽しむことができますし、ついつい読み返したくなるんですよね……っ。

ですので、ご無理はなさらないでくださいね。
読者としては、連載を続けてくださっているだけで、嬉しいので。ごゆっくり、自分のペースでお過ごしくださいませ。

楠 結衣
2021.03.17 楠 結衣

柚木ゆずさま

最新話まで読んで下さり、ありがとうございます♪
本当に嬉しいお言葉を沢山かけてくださり、ありがとうございます……(*´꒳`*)

ゆっくりにはなりますが完結目指して、泳いで行こうと思っています!
応援のお言葉、本当に本当にありがとうございます♪

解除

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